思い出さがしの旅に出かけてきました。
大学時代、私はとある店で一年間ほどアルバイトをしていました。みなさんあまりご存じないかもしれませんけれど。(そりゃあ知らないだろうよ) そこにひとりの女子学生があらたにアルバイトに来ました。私より二学年下だったでしょうか、仕事を教えたりしているうちにすこしずつ打ち解けてきました。どちらかと言えばどんくさいというか、てきぱきとやるほうではなかったんですけれど、それでもいつも熱心に取り組んでいる姿には好感がもてました。それにとても人なつっこいというか親しみやすい人柄で、はじめは女の子というだけである意味警戒していた私も、そのうちなかよくしゃべれるようになりました。…あの、あらかじめ言っておきますが、そんなみなさんが期待するような話はないですので。っていうか私にそんな話を期待するほうが酷ってなもんです。戻りますね。それで話をしていて知ったことなんですが、その人は隣県の実家を離れて下宿しているんですけれど、その実家が貧しいらしくて毎日の生活もギリギリだったそうです。いつも質素な暮らしで友だちと遊ぶこともなくて、たしかにおしゃれや化粧もあまり気をつかっていないように見えました。私もそのときはビンボー学生でしたけれど、それでもひととおりの生活はできていましたし、そんな事情をかかえた人がいまどきいるんだと思って。ひきこもり留年の自分のことはすっかり棚に上げて、応援したい気持ちでいっぱいになりました。ていうかそういう話に弱いですね私。そんな彼女が、ある日なにやら急用のため退学して実家に帰ることになってしまいました。学業半ばでその道を閉ざされてさぞ無念だったろうと思います。もちろんアルバイトもやめることになりました。最後の日、シフトに入っていなかった私とは別れのあいさつもありませんでした。次の日お店に行くと、店長から包みを渡されました。その子が私へのプレゼントを託していったそうです。開けるとビンづめのチョコクッキー。近所のお菓子屋さんで買ったそうですが、きれいに包装もされていて、おそらく高級な品だったでしょう。彼女の状況を考えればこれでも大きな出費だったと思います。それを、ただ何か月かいっしょに働いただけの私に買ってくれた。思いやりに気がついて胸が熱くなりました。家に帰って食べてみると、甘くておいしくて、それにあのいつも明るかった笑顔の記憶が重なって、もうなんて言っていいのやらわからない気持ちになりました。
さて長々と語ってしまいましたが、そんなことを不意にふと思い出したので、無性になつかしくなってきょう行ってきたんです。ええ、そのチョコクッキーのお店に。(そっちかよ!おまえ超バカだろ!) だってあの味が忘れられなかったんだもんー。<きみがどうして女に縁がないのかだいたい見えてきたよ …以上、私のなけなしの淡い思い出話でした。あの子元気にしているといいけれど。
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