私は逃げる 私は子猫

2002/10/26

むかしのひび

おはようございます。
生きることのむずかしさ。かつて毎日歩いた通学路。未来へのほのかな希望を胸に課題に勤しんでいた日々。どんな困難もスランプも容易にジャンプできて。そして夜が明けるまで語りあったこと。そうして過ぎていった時間たちは、どこへ行ってしまうのでしょう。自分自身がはがれていく感覚。今の自分はもうあのときの自分とは質を異にするものになってしまいました。戻せません。毎日毎日、それはすでに過去と呼ぶに相応するものですが、なにがあんなに楽しかったのか、なにがそれほどに自分を奮い立たせていたのか、なぜがんばれていたのか、思い出せません。それは現在の私が過去という殻を脱ぎ捨てる行為なのか、それとも甘美な記憶から閉め出され遊離していく現象なのか、それすらも。心のいちばん大きな部分をえぐり取られて、そこからいのちの色が大量に吹き出していくように。きっと今まで経験したそれらと同じく、私はこのように陥れられていくのだと、殺害されていくのだと思いました。辛辣に、凄絶に、やさしい嘘で。実際に死ぬわけではありませんが、ただそれまで積み上げてきたものは修復されません。また一から新しい土台を組まなければなりません。その作業が面倒だと感じているわけではありませんが、でもなぜ、失わなければならないのか。もしそれが人生経験だとか成長ということばで表彰されるのであればそんなものを私は受け取りたくありません。きっと自分を見ることを放棄します。それでも日付は進んでいって、たとえそれが今の私の脳内と同様に空洞であっても、地面を踏みしめる感覚すら失われても。流れていきます。流されていきます。時間は待ってくれません。人ひとりの個人的な都合で止まったりはしてくれません。やがてスクロールする画面に押し潰されるか、奈落へ突き落とされるかのいずれかの結末が迎えるでしょう。生きることはそれを回避すること。次のランドマークへと飛び移って、迫り来る死期から逃げつづける行為。たとえば会社から仕事が与えられれば、それを完了させるまでは勤める理由ができますし、友人と会う約束をすればとりあえずその日までは自分は存在していなければなりませんから、それまで生命をつなぐことになるでしょう。そうやってちょっとずつちょっとずつ寿命を延ばす、そのくり返しで私たちはどうにか生きているのだと思います。これは生命体としてはかなり致命的な弱点かもしれませんが、人間はそうでなければならないと感じています。他人とのつながりの中で、ときには社会やしがらみに囲まれて、でもそうしなければ生きていけないのです。人はひとりでは生きられない、かつては安っぽいありふれたことばにしか思えませんでしたが今はその意味をかみしめています。生まれたときから私はひとりではなくて、人生のどの一瞬においてもひとりっきりになったことなどなくて。以前なにかのゲームに影響されて真の孤独をのぞんでいた私を今はつくづくバカだと思います。きっと私は恵まれすぎていました。しあわせで運がよくて、つねにすてきな人たちに囲まれて生きてきたから、人生のむずかしさをなにも知らずにここまで来てしまったのだと。悲しいことも理不尽なこともすくみ上がるような恐怖も人間関係においてはさほどなくて、曲の歌詞を聞いてもなんとなくいいなんてうなずける程度の世間知らずで、そんな温室育ちの私だからこんな歳になって苦しんでいるのでしょう。挫折や絶望を免れて、のうのうと生きることの甘い部分ばかりを見てきて、夢のような世界は所詮は夢の中のものでしかないことさえ、認識できなくて。蔑まれていることさえ狂言でしかなくて。すべてが思いどおりになるとまではいかなくても、努力すればほしいものが手に入る、そんな理路整然としたインタフェースを想起していた無知な私。そう。甘かったのです。私はなにを知ったのでしょう。知らなければならなかったのでしょう。人生はそういうものだと再定義することなのか。自分はしあわせになれない先天にあると悟ることなのか。つまらない夢をもって生きることを愚弄すべきなのか。どれも私にとってにわかには受け入れがたいものばかりですが。ですがやっとそれに気づいて自分の存在意義をいったんまっさらにして構築しはじめている段階にいます。今からでは取り繕えなくなってしまったものもありますし新規のカテゴライズなどもってのほかですがそれも今はわきまえたつもりになって。だれもがあたりまえに認めていることを、実践していることを、私はやっと知った、それだけのことです。そしてとりあえずまだ生きる意志が残っていますので。なんとか用事を作って、その日までは甘いお菓子と紅茶でしのいで、排泄物としての日記を書き留めて、そうやってちょっとずつ生きていくのだと思います。とりあえずのその日まで。あるいはまだ結論も出ていない状態では悔やんでも悔やみきれないという未練だけで長らえているだけなのかもしれませんが。

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