「あのさ、ひとつ聞いていいか?」
「なんだよ」
「テーゼとアンチテーゼが合体すると何になるんだっけ」
「は? 何の話?」
「だからー、テーゼとアンチテーゼ」
「ああ、弁証法の話ね。おまえ質問が唐突なんだよ」
「牙突ってやつだな」
「そういうのいいから。ってか自分で言うなよ」
「で、さっきのわかるか? 昔習っただろ」
「倫理だよな。なんか出てきた気はするんだけど」
「そうだろ。だったら思い出せよ。ほら早く」
「おまえがそんなこと言える立場かよ」
「それもそうでしたごめんなさい」
「やけに変わり身早いな。なんだ珍しい」
「手の平を返したようってやつだな」
「だから自分で言わなくていいっつうの」
「おまえさ、前から思ってたけどいちいち言うこときついよな」
「うっ…」
「母さんはあんたをこんな子に育てた覚えはないよ」
「いつからおまえの子になった」
「もう来月からお小遣いあげません!」
「いらねえよ」
「冷凍庫の中のプチゼリーも没収です!」
「それもいらねえよ…って、なんで俺んちがプチゼリー凍らせて食ってるって知ってんだよ」
「それもそうでしたごめんなさい」
「謝罪はいいから説明責任を果たせ」
「そういやテーゼの話だったよな」
「なんつう切り返しかただよ」
「アウフヘーベンはわかるんだよ」
「アウフヘーベン? ああ、なんか出てきたような気が」
「だろ? それは覚えてんだ」
「ちょっと待て。じゃあ答え知ってるのに俺に質問してきてんのか。なんて野郎だ」
「違う違う。俺が聞いてるのはアウフヘーベンじゃない」
「どういうことだよ」
「アウフヘーベンっていうのは、テーゼとアンチテーゼが合体するときの作用っていうか現象の名前なんだよたしか」
「そうだったっけ。言われてみればそうかもしれんな」
「でな、合体してできあがったほうのやつの名前を知りたいんだよ」
「…それは別のものなのか? 別の名前なんてついてるのか」
「あったと思うぞ。俺は信じる。自分の記憶を信じる!」
「むちゃくちゃ言うなあ」
「いいからきみはさっさとそれを思い出しなさい」
「だからそれが人にものを頼む…あっ、待てよ」
「なんだ」
「うん、あったかもしれん、名前」
「ほら見ろ。信じるものは救われる。神に感謝しなさい」
「いきなり気味悪いこと言うなよ」
「で、何だ? やっぱり何とかテーゼか。語尾」
「多分そうだ。テーゼとアンチテーゼが合わさったくらいだからな」
「そうだよな。俺もなんとなくそう思ってたんだ」
「だったらそれを先に言えばいいだろ」
「まあまあ。それで結局何なんだ?」
「そんなすぐ思い出せたら苦労しねえよ」
「そうだな。凡人の頭ではその程度だろうな」
「凡人以下のおまえに言われたくないけどな」
「うるせえ。こうなったら意地でも俺が先に思い出してやる」
「そうか。がんばれよ」
「うーん、テーゼテーゼ…リパーゼ?」
「なんだそれ」
「違うのか? じゃあペプチターゼか。それともデヒドロゲナーゼ?」
「それってぜんぶ酵素の名前じゃないのか」
「そうだっけかな。よくわかんねえや」
「ようするに口から出まかせなのな」
「当たって砕けろだ」
「それを言うなら数撃ちゃ当たるだと思うが」
「シロガネーゼとかもそれっぽいな」
「それっぽいけどそれだけだし」
「あと思いつくのって、コニーデ・トロイデ・アスピーデくらいか」
「それ火山の種類な。ていうかゼじゃなくなってきてるぞ」
「じゃあ何なんだよ。おまえもなんか言えよ」
「だから思い出せないって」
「そうか。きみには失望したよ」
「俺にはおまえが物知りだったことが意外だよ。でも単語と意味が結びついてないようじゃ全然だめだけどな」
……という脳内会話をひとりでくりひろげていたondです!<病院行っとけ?
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