[むかしのなぞ] 2005/07

2005/07/02

始まったばかり。そして終わったばかり。

雨降りの日。舗道の上に、何匹ものミミズが出没する。
水を得た魚。海王リヴァイアサンのように、勢いよく水たまりの中を泳ぎ回る。
彼らはどこから来たのか。土の見えないこの地上で。
そしてどこへ行くのか。土の見えない、この地上で。
どこからか迷って出てきて、そして帰る場所もわからなくなって。
行き場を失った者たち。翌朝には、何本もの細長いミイラが転がるだろう。
あまりにもみじめな顛末。見ていられるものではない。
だから。一匹一匹、形がなくなるまで丁寧に靴裏ですり潰した。

道を迷っている、という点では同じなのだろう。
それとも、さまよっているのか。行くあても帰る家もない放浪の旅。
なんだかんだ言って明日の蓄えなんてない。今日を食っているだけ。
そして時々、望まれない場所に姿を現す。
そればかりか、ここが自分の庭だという顔をして回遊する。
自分の立場や、種族の違いや、周囲の視線などお構いなしに。
煙たがられて、除け者にされて、やがて潰されるべき存在。
人間の生活する世界に登場してはいけなかったミミズたちのように。

先に立たない後悔が、いっこうに後を絶たない。
ちょっとした馴れ合いで、すべてを許されたような気になったのだろう。
哀れなものだ。せっかく築きかけた信頼が、またこれでパアになった。
簡単に仲良しになれるなどと考えないことだ。友達になれるなんて思わないことだ。
人間関係の難しさを人一倍わかっていたつもりで。高をくくっていた。
歓迎されない生き物として。ぼくは暗闇で土を食って生きていくべきだった。
もしくは無鉄砲にしゃしゃり出て、ミンチにされて側溝に蹴り捨てられるか。
あなた様の靴が汚れますからどうかそんなことはしないでください。

旅立ちを前にして目の前が真っ暗になった。

2005/07/04

ちょっとした言葉に、浮かれたり沈んだり。救われたり突き落とされたり。
いつまで思春期をやっているんだオレは。

2005/07/05

この小さなものは何だろう。

ちりちりちりちり。
しんしんと、よくない感情が積もっていく。籠もっていく。
言いたいことを黙っているとストレスが溜まるというけれど。
言いたいことを言えば自分の立場や経歴が脅かされるんだ。
そういうふうにできている。
弱者はのし上がれない。自分を弱者だと決めつけているやつは。
闘いを放棄した者は、それ以下の扱い。参加賞すらもらえない。
そんなつまらない話を、ぼくはいつからしなくなったのだろうかと。

繊細などではない。
もし仮にこの心が繊細だったならば、とっくに自殺しているはずだ。
悲しみや苦しみをありのままに受け入れれば堪えられそうもないから。
図太い神経があったから。過ちや罪を認めない、強欲な意固地が。
ただ生きているだけだとしても。
生体反応の針が微少に揺れていさえすれば労災認定されないのなら。
血管の中に空気を注入すると、人は死ぬんだって。そういう話。
どこまで即実的にそのようなことに向きあったのかも知らないのに。

たとえば性と愛を混同するように。
生きようとすることは、それだけで自分勝手な理屈を振りかざすこと。
とても浅ましいことなのだと。汚いことなのだと。人生に美の欠片もない。
誰かの言葉を借りたりして、持論に酔いしれる。飲酒運転、危険運転。
はじけるこのパワー。
力を行使することの恐ろしさを知ったときから。多くの人に仇なすことを。
放擲することも、またひとつの勇気。不法投棄という残件を発生させつつも。
人は綺麗になどなれない。他人の汚れも、自分の汚れも、もう浄化しえない。

誰もが心に抱える砂塵が、ぼくの中にも発見。

2005/07/09

無数の許しで世の中はできている。

心に暗雲が立ちこめる。抑えても押し殺しても、むくむくと。
服の上からでもはっきりわかるくらい膨れ上がっている。
どうしようもない人間だ。こんなことで興奮するなんて。
自分の手を器にしてそこに反吐をぶちまけるしかないくせに。
妄念こそが自分を失墜させ堕落させた最たる原因ではなかったのか。
いや、なかった、のではない。現在進行形で駆られているのだ。
起こりえない空想話を巡らせて没頭して、夢のような気持ちになる。
何も変わっていない。這い上がれていない。最低ランクの嫌悪から。

こんな自分を捨てられないから、いつまでも駄目なんだ。
そう思う一方で、必要なものまで捨てすぎたのではないかと。
どんなに愚かでも、恥知らずでも、トラブルを起こそうとも。
自分を語るときには饒舌だったのに。
無謀や無遠慮と履き違えていたとしても、勇敢ではあったのに。
空回りや仇返しになろうとも、多少傷つくことがあっても。
誰かのために行動することが、あんなに嬉しかったのに。
面倒な関係や自己主張を捨て去った選択は、果たして正しかったのか。

思い出さないなんて嘘だ。後悔している何よりの証拠じゃないか。

ぼくは、他人を疑ってしまう。
完全に心を許せること、自分をさらけ出すことはないだろう。
信じられないのとは違うが、いずれ裏切るのではないかと身構える。
狭心で偏屈な自分には、悪意とは当然向けられる感情だから。
察知しようと過敏になる。手に入る情報すべてを分析して臨む。
ちょっとした言動や機微が、いちいち癇に障ってしかたなくなる。
協力的でないとか、反応が薄いとか、意見が合わないとか。
本当にそれしきのことで切ってしまう。もういいよ、と思ってしまう。

憎悪とはすべからく虚構で、論敵のゴーストを幻に見て。
すべて自分自身が生んだ反逆。疑惑を突きつけて煽って、破壊する。
こんなことばかり繰り返した。やがて本当に信用されなくなった。
それは構わない。自分の蒔いた種。地に落ちて土に潜れ。
それよりも。一方的に踏みにじった関係を取り返せるかどうか。
元の状態に還ること、時間を戻すことはできない。できなかった。
一から築き直すしかない。それでもいいと言うのなら、と願う。
ぼくが立っていられる足場が、許容範囲が残されているのならば。

そう考えて、結局、自分のいいほうに話を持っていこうとしているのだが。

2005/07/13

離れていても近くに感じられる、なんて思ったことなかったのに。

間違いなく対話の部類に入る、はずなのだけれど。
どうにも、言葉を受け答えしているという実感が湧かない。
それよりも反芻的な作用が大きい。
考えや意見を、言葉にして発する前によく咀嚼する。
推敲としての効果のみならず、より深く自分に向き合える。
疑問点をどこまでも掘り下げていって、率直な気持ちがすっと出る。
まるで自分自身と会話しているような感覚。
シミュレーションとも違う。答えはすべて自分の中にある。

ずっと、他人と言い合うこと、主張を闘わせることを避けてきた。
そんなことで神経をすり減らすのには懲りていたから。
だがその結果、今は思ったことも満足に言えずにいる。
論議の放棄。衝突を避けて譲歩するのが、ベースの処世術になっていた。
かと言って、他人の意見に納得しているのでもない。従いもしない。
集団からひとり隔離されたサテライトとして独自の生態系を営む。
人に囲まれているのに孤立。理解しあえない。手段を失念した。
自分以外の誰の言うことにも、耳を傾ける気がなくなってしまった。

ぼくの心の中に誰もいなくなった。本当に一時期そうだった。

そんなとき、ぽっと一石を投じるように問いかけられる質疑。
通信添削の課題が送り届けられたようだった。
もちろん、待機しているのは教師ではないし、採点もしない。
自分にとっての回答を自力で導き出す。それが原則だから。
十分な思考時間の中で、自分の世界に帰って心ゆくまで旅をする。
そんな機会を己に与えることを、長らく忘れていたと実感させられる。
これほど高級で高品位なひとり遊びの時間。
正面から向き合えば正直になれる。自分のとるべき行動が見えてくる。

人生の数多くの可能性を排除してきたのは、自分だった。
物の価値を考えずに闇雲に時間を潰したのは、自分だった。
何もする前から無意味だと決めつけてきたのは、自分だった。
将来から目を背け目先の課題から逃げているのは、自分だった。
性格の欠点をメッタ刺しにされているのに、快感すら覚えている。痛快。
封じ込めようとしていた自分。自分でも認識していなかった自分。
あの頃のように純粋に、セルフマイニングを楽しめている。
その感覚は同時に、他人の心を読み腹を探りあうスリルをも味わわせる。

わくわくしているんだ。人生最後の童心に遡上して。

2005/07/20

こういうことばかりしているから、また疎まれるんだ。

リロード、リロード、リロード。
リトライ、リトライ、リトライ。
閉域接続に留まりはしないパケットロスの嵐また嵐。
言葉はブラフまみれのウィルスとなり牙をむく。
データを溜め込めばパンクする。履歴を残せば未練が募る。
やがて処理能力を超過してシャットダウンを招くだろう。
電波まみれの体になっても、まだ正常な精神だと主張して。
心を支えているものがこんなものであっても、なお。

結局、誤解が深まり、また新たな誤解を生み、しただけだ。
声は届かない。発してもいないのだから伝わるはずがない。
そういうものだとどうして認めない。人と人とはそういうものだと。
わかりあおうとする。馴れ合おうとする。最も危険な思想。
ぼくが無実を騙るから。善悪の判断もつかないまま嬲るから。
簡単に許されようなどと汚いことを考えてはいけないという教示。
それはとても、傲慢なことだから。戒律の対極にあるものだから。
甘く見すぎているんだよ。人生のありとあらゆるものを。

誰の素行をも探ってはならない。自明の使命なのに。

2005/07/22

人生の中だるみという時期があるのだとすれば、今がそうなのかもしれない。

内部告発。
最も恐れていた理不尽すぎる二者択一を突きつけられた。
事実に目をつぶる誓約書に捺印させられるか、もしくは解職。
社会とはすべからくそういうふうに作られている。
自由な発言の機会も、意見交換の場も、みんな建前。若手の機嫌を取るだけ。
批判など禁句という素地が出来上がっていて、ルールは全部その上澄み。
自由にものが言えない。対立する意見は発言者もろとも消される。
そうやって、個を殺し続けて世の中というものはうまく立ち回っている。

予定調和。
自分の知識の総量が他者の真部分集合だと思い知らされたときの屈辱。
何一つとして勝ち目がない。そんな相手と食う飯のまずさ。
暴れ馬をたしなめるには当て馬を添わせればいい。考えたものだ。
こちらの息が詰まってばてるのを待つつもりなのだ。
丸め篭められていく。調律を乱さないように監視の目を光らせて黙らせる。
手を汚さずに病巣を摘出する、反乱を制圧する。それが集団悪。
革命軍を名乗って旗揚げたはずが、今じゃどいつも従順な犬に成り下がっている。

守秘義務。
要員を規則で縛る最後の手段。法的拘束措置。
たとえば業務、たとえば顧客、たとえば財政状況、たとえば社内恋愛。
お互いが出し抜かないようにするための努力目標的な協定としてのみの機能。
共通の秘密を暗号化キーとして、情報をひとくくりにする。
結合を密にして連帯感を持たせる。無論、逃亡防止のため。
誰も一人では逃げさせない。一人では死なせない。滅びるのなら全滅を課する。
最後には、個人負担の限度額を大きく超えて私財を喜捨させる。

冷静になど社会を観測できていない、と思い知らされるのもまた。

2005/07/25

世の中は日頃思っているよりもずっと危険なのだと。

睨まれている。萎縮を余儀なくされる窮屈な世界。
安堵を得られる場所など、あるのだろうか。
どこを歩いていても。
どこで眠っていても。
どの風景をカメラに収めても。
どの人と睦み合っても。
空から降ってくる攻撃を、もしくは隣に寄り添う者の背信を。
自分の生命や尊厳や財産や時間を、守れるだろうか。

世の中には自分しかいないのだと、つい思いがちになる。
たとえば電車内。他人の目を気にもしないあられもない行為の数々。
無関心になった。会釈ひとつしなくなった。人と人とも扱わなくなった。
実際にそういう世界に生きたことがなければ、その意味はわからないだろう。
あんなもの。弱虫ならば一秒だって生きていられるわけがない。
孤独など望んだことを即座に後悔することになるだろう。
生きながらの地獄を見てきたから。二度と陥るまいと必死になれる。
ひいては疑心暗鬼になること。疑って疑って先制攻撃をかけるのが道。

自分は危険ではないだなんて言われて信じるわけがないだろう。

2005/07/27

引き止められる理由などひとつもなかった。ぼくには。

したことの後悔よりもしなかったことの後悔が、はたして重いのか。
とてもそうは思えない。過ちを繰り返してばかりのこの無神経を呪う。
大人になどなろうとすべきじゃなかった。ずっと幼稚なままでいるべきだったのに。
本当に何一つ知らなかった。誰もが経験する程度のことも、それ以上の行為も。
それなのに知ったかぶって。意地を張って他人と肩を並べようとなどして。
遅れるのが恐かった。なぜ思ったのだろう、そんなこと。風潮になど流されて。
そのとき悟った。さしたる主張も信念もなかったこと。ただ衝動でひた走る張りぼて。
ぼくは変人でも凡人でもなかった。たとえば男だとか女だとか、それ以前の問題。

人は誰もが、何かひとつこれというものを持っているのだと信じていた。
そして当然、自分の中にもあるものだと。くだらない。絵に描いた餅だった。
何もないと自覚した。意志などあっただろうか。光に誘われる昆虫も変わらない。
空っぽだとわかってからというもの、自分自身を投げ出したくなる自棄に駆られた。
何も考えていないことがショックだったのではない。
何も考えていないままあれやこれやとしてきてしまったことが無性に悔しくて。
自らの崩壊を覚悟すると、他人にまで気が回らなくなって。そして巻き添えにした。
危害を加えるだけ加えて、そして自らは死にきれなくて、最低の暴徒だ。

二つのどちらを追うかなんて迷っていたっけ。結局、どちらも壊したけれど。
しらみ潰しに続けているだけ。同じことを。これで最後だと何度も言い聞かせた後も。
色なんて関係ない。白くても黒くても、赤くても青くても、ただ仇なすだけの。
そういうものを保有してはいけない。破壊を招く兵器となるから。その気持ちは。
他人に強烈な感情を向けたとき。何かを得、何かを与えたいと願ったとき。
誰かを愛し求めたいと願うということの罪。その意味さえ知らない浅はかな陵虐。
毒蛇は自分の毒では死に至らないという。だったら牙を剥くな。自分の足でも噛んでろ。
足のついた蛇。いらないことばかりして自他を傷つけ、やがて奇怪な生き物になった。

この元から離れようとする判断は、何にも優先する正しい選択だから。

2005/07/31

きみと会っているのに、頭の中は違う人のことばかり考えている。

屈曲した週末。用事を作らないでいるとすぐこれだ。
だから、捕まりたくもないことにみすみす身体の自由を奪われている。
一方的に喋りたいだけ喋らせる関係。聞き上手なんて大層なものではない。こちらからの意見を持てないだけ。
それでも、なんだろう。雰囲気に酔っている自分がいて。
とくにこれと言って望んでいるわけではないのに、心のどこかでは待っていたような。
長いこと顔を見ずにいると、少しだけもの足りなくなる。そんな気分にさせる。
行動力。積極的に自分から動くこと。それは何物にも代えがたい誠意なのだと感じた。
そのフットワークの軽さを見習って、もっと人に会いに行けばいいのに。ぼくも。

自分たちはどこか似ている。
以前、誰かに言われて、ものすごく腹が立ったことを覚えている。
それは性格か、状況か、共通のグループに属する経緯のことを言っていたのか。
いずれにしたって同じこと。オレは違う、一緒にするな。とにかくそう思った。
あの頃は自分の特異性をまだ疑っていなかったから、共通項で括られるのを嫌っていた。
そんなこともあったのに。同じことを、人に言ってしまった。
運命めいた出会い。他人とは思えない感覚。一方がそう感じたとしても、それを押しつけられる他方はたまったものじゃない。
何もわかっていなかった。心の領域に踏み込まれれることを人一倍怖れていたはずなのに。

そこの線は、まあ切られて当然のことをしたのだとしても。

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