[むかしのなぞ] 2005/04

2005/04/01

叶うはずのない幻想にこそ、希望という言葉を当てはめるべきだ。

触れられないことが、表に出せないことがあったからではない。
語るべき事由など何もなかったのだと気づいたから。
この生きざまは虚無。感動を覚えることも与えることもしない。
パソコンのモニターに向かって表情を作っては歪める毎日。
そして同様に、自分を取り囲む状況にも起伏や褶曲は見られない。
誰とも言葉を交わさない日が、少しずつ当たりまえになりつつあって。
触れあう機会はいくらでもある。現に社会に身を置き働いてもいる。
それなのに。会話をしながらいつも全然別のことを考えている。

目に見えるものすべてが灰色に映るのは、色素に彩度を欠いているから。
光も、闇も、それぞれ半分も享受していやしない。
リスク回避に終始した、過去の自分の判断ミスが招いた愚かな結末。
自分を照らし出す要因も、自分に影を落とす要因も、いまだ掴めなくて。
この世のどこかに答えがあると信じていることが、そもそもの誤りなのか。
口を開くかわりにキーを叩いて、架空の政敵を論破した気になっている。
けなされることがそんなに辛かったのか。まともに反論もできないくせに。
自らの体に傷がつくことを過剰に怖れている。汚れることに臆病すぎる。

それもこれも、と、悶々とするわだかまりをぶつけられればいいのに。
説明を与えられないから、不安はかさむばかりだし、人を疑りもする。
声も姿も届かない。この隔絶をどうしたらよいのだろう。途方に暮れて過ごす。
道行く人がつまずいても誰も手を差し伸べない。そういうつながりなんだ、ぼくたちは。
だから、期待などしてはいけない。自分のズリネタを押しつけてはいけない。
世界に絶対悪が存在するとしたら、それはこの心が理性の呪縛を解いたときだ。
ぼくが飼っている愚かさを抑えこむために、さらに堅固で執拗な問答を並べる。
理論武装。ことごとく我が儘をはねのけられるほど確実性の高い罰を。

おまえはさ、バカなんだよ。
毎日のように、自分に言い聞かせている。自分というものをわからせている。
変に寝つきがいいから、朝起きたら反省なんて忘れる。だから何度でも植えつける。
逃げ道はどこまでも四方八方に延びている。しかし、心の行き場は塞がれたまま。
これでいいと甘んじるのではない。こうしなければ迂闊に自分を操縦できないから。
かろうじて許しを得ている関係の中で、最大限の譲歩と誠意を示さなければならない。
思い描く夢を現実に近づけたいだなんて、くだらない願望を画策したりしないように。
図に乗りすぎるんだ。出しゃばりすぎるんだ。とくに密室における行為に際しては。

凡庸な満足感を求めることが、凡庸ならざる者にとっていかに罪深いか。

2005/04/04

そろそろ、どんでん返しなんて起こりっこないってことに気づかないといけない。

解決の糸口も見つからないまま、沈黙だけが流れている。
行動や考えが理解に苦しむ、と言われてばかりきたぼくには、他人について苦慮できる余地がないのかもしれない。
この事態をどう説明したものか。どう収拾したものか。どうやってこの気持ちに区切りをつけたものか。
待ち焦がれて焦がれて、焦げついてしまったカレー鍋。肉も野菜も煮え切らずにアクだけを吐き出している。
本当は最悪に破滅的な状況を予見できているんだ。それなのに。
妄想がすべての悲観をひた隠しにする。都合の悪いことは頭を巡らせないようにして、明日を夢見ている。
今さらぼくのダメージなどどうでもよい。裁判費用は全額持ってもいいから、とにかく真実を導きたい。
それでも踏み切れないのでいるのは、まだ一縷の生存可能性を盲信する救いようのない可哀想な頭の持ち主だからだ。

足取りをトレースして居所を突き止めるのは不可能でも、自らがばら撒いた汚点について振り返ろうとする。
たしかに敵意を向けはしなかった。攻撃を意図しなかった。偽善であれ善であろうとしたかもしれない。
もっと別のところで忌み嫌われている。ネチネチした押しつけがましい好意や、上返事ばかりの無関心さや。
思い出をいつまでも大切にするような閉塞した人間性や。
そうした心証が、相手にとってどれほどおぞましいものであっただろうか。どれほどの畏怖を植えつけただろうか。
それをわかろうとしないかぎり、自分の毒性を、いかに他人に害をなし苦悩に陥れる存在かを省みることはないだろう。
ぼく自身もそうだった。思惑の及ばないことや、自力で対処できない事態に出会うたびに、口を縛って目を逸らしてきた。
石となって押し黙る。ああ、その仕返しを今、受けているのか。

明日は今日より良くなることは決してない。今日までの体制を崩さなければ。

2005/04/06

淋しいとか空しいとか面白くないとか、平然とつぶやくようになったぼくへ。

受け身の姿勢ばかりではいけない、ということくらいは。
それなのに、背を曲げて後ろ向きな世界を思い描くしかしない。
言葉や表情を封印する時間が長かったから、相応量のセットアップ期間も必要なのに。
絶対的に不足している。人と対面すること。
頭の中で受け答えの試演ばかり重ねていたって、何の実務経験にもなりはしない。
過ぎたことを後悔する暇があるなら頭を下げに行くべきだ。
ぼくは自分の問題について、回顧こそすれ対処の策はまるで講じていないのだから。
昨日のことも謝っていない。そして溝は深淵に至るばかり。

個を認めることと、認められること。双方の難しさ。
自分のことをわかってほしいと願うだけではただの顕示欲の固まりだから。
内装する世界はそれぞれ異なるから、摺り合わせるテクニックはまた別の話で。
別質な行動規範や損得勘定に出会ったとき、どれだけ頭を軟らかくできるかということ。
いくら自分の中での物事の捉えかたが一般的でないとしてもだ。
単純な単語ばかり反復する幼稚な文章表現だとしてもだ。
それでも折り合うことのほうが少ない。わかりあえないのが人の常。
そうだとしても、自分の基底をけなされたようで悔しかった。

情熱を傾けられる何か、を誰もが探している。
持ちうるすべてを投じてでも手に入れたいものがあるか。極めたい道があるか。
何者にも曲げられない信念を持っているだろうか。
はなはだ疑問である。何も持たず何も奪わない人生に慣れすぎてしまって。
確固たる自身を確立するのとはまた別の次元で、自己を忘却できる余暇も必須だから。
それは、特別なことをしようという決意に限定されない。
何も考えない日。義務を果たさない日。誰とも会わない日。あってもいい。
それも含めてポリシーだと言い張れるようになれば。

ぼくがどうしなきゃいけないかなんて、もう八割方わかっているくせに。

2005/04/10

今日まで受けてきた失意は、みんな被害妄想だったんだ。

立ち止まれなかった。
薄暗くなりかけた空気が顔を隠したから? まさか。
拒絶されることが怖かっただけだろう。
とっくにわかっている結果を、絶縁という現実を見るのが。
結局、逃げていたのはやはり自分のほうだった。
この距離をどうにもできない。ぼくのせいで。
なんと情けないのだろう、心にブレーキをかけられなくて。
欲望のブレーキにも、理性のブレーキにも。

物事を難しく考えすぎているだけなのだろうか。
しかし、あらゆる条件を取っ払って無償で笑うことはできない。
だから羨ましくなる。世の中が。憎いくらいに。
自分以外の人間はとても簡単に生きているように見えるから。
それでも。ぼくはあんなふうに無邪気に振る舞えない。
あれほど他人を疑わずに気さくに声をかけるなどできない。
あれほど自分を疑わずに思ったことを話すなどできない。
それを、枷だとも言い切れない。

ちょっとしたことが気に障ってしかたない。
寛容なんてまったくの嘘。こんなに偏狭で他人を許せないやつも珍しい。
自分と異なる物差しを受け入れられなくて、いつも腹を立てている。
そんなに頑なで、誰と何をわかりあおうとしたのだろう。
誰に何をわかってもらおうとしたのだろう。
どもってばかりで自分の本心もろくに伝えられないくせに。
口を開いたかと思えばまた意味不明な妄言を並べるんだろ。
つけあがるにも程があるんだよ。

みすぼらしさを、自分で認識してもいる。
こんな生活を低密度だとか哀れだとか揶揄されて当然なのだろう。
どうしようもないこの気持ちを、毎日どうにかこうにか自分に鞭打って奮い立たせているだけだから。
表情も心もかすれていくばかりだ。
切りつけられたような痛みを、思い出すたび感じるのなら、いっそ。
人生はまだ捨てたものではない。
が、そう思える未来にするために、この時点で捨てなければならないものもたしかにあるのではないか。
そうすれば、この史上最悪の愚かさからも逃れられる。

すべてを終わらせるスイッチを、今宵。

2005/04/12

何も信じるものがなくたって、道はどこかに続いている。

あれからぼくは一命を取り留めた。
いや、そんな幸運なものではない。死にきれなかっただけだ。
最低限の生命維持だけを施されて、全身麻痺の状態は続いたまま。
身動きもとれず苦悩に悶絶するだけの期限が延長されただけのこと。
これ以上は、事態をどうしようもなくて。記憶をひとつまたひとつ見殺しにして。
それでも生きろと言うのか。何を目標にして、何に励めと言うのか。
片手もリボンもネットワークも、ふたつを繋ぐには至らない。
空気を通すチューブを。それだけを、鼻孔に突き刺して人工的に息をしている。

これまでの自分が笑っていられたのは、きっと余裕があったからだ。
他者や社会をこき下ろすに足るだけの余力を、自分の中に認めていたから。
優越感か。負けていないという自負。誰と何を競ったのか、今は忘却のかなた。
同じ土俵にも上げてもらえないから、戦う前から挫けているということだ。
這いつくばればいい。今まで世の中をなめてきたその傲慢を、穿て。
こんなことをしている時点で、十分に罰を背負っているのだから。
信頼に傷をつけているのだから。当然の結果が、もたらされなければいけない。
トラブルの元を作っているのは常に自分のほうだ。そして後悔しているんだ。

宇宙全体がどうなろうと知ったことではない、なんてとても言えない。
この世界の中に自分も生きているかぎりは、森羅万象は自分に関与してくるから。
だから悲観する。人類の行く末を。自分自身が存在しうる、近い将来のことも。
人生はそんなにつまらないだろうか。いいことなんてないのだろうか。
あったとしても、それを得るために数十年という果てしない苦行を貫く価値はあるだろうか。
ぼくは、他人と喜びを分かち合えば享楽を何倍にも増やせると思った。
だがそれは叶わない。だって考えてもみろ。おまえの話なんか誰が聞きたがるか。
相応しい自分のありようをわかっているのなら、不釣り合いな高望みなどできないはず。

時間が止まっていく感覚とは正反対に、無駄ばかりが流れるように漏出していく。

2005/04/17

今までこれほど明瞭な形で、自己の存在を脅かされたことがあるだろうか。

忘れかけていた真実に気づかされて、自分の醜さを知った。
やっとわかった。この身がどれほどの暗黒に染まってきたか。
神の儀式と称して、この手で兇々しい血契を刻んできたことを。
可憐に咲く花びらを散らしたことを。
あらゆる感覚が麻痺した、廃人も同然の狂った野心の仲裁で。
輝ける未来を心のどこかで願った無根拠の白楽天に騙されて。
過ちに気づかずにいられれば、果たして幸せだっただろうか。
どれだけ電話を無視しようと、脅威は振り落とせやしない。

人間関係をこじれさせたとか、仕事を放棄して逃げたとか。
ぼくが負っている全責任は、そんな可愛げのあるものでは決してない。
まったく別の部分で。重大な禁忌に触れた。触れてしまった。
たった一度だろうと、そんなことは関係がない。
だから他人を遠ざけたのだと思う。あまりにも見苦しいから。
とても人目に晒されるものではなかった。あの自暴自棄の蠢きは。
自分を滅ぼすに止まらない。きっと誰かに刃を振り下ろす。
そうなる前に、友人を捨てて相関図から孤立する必要があった。

如実すぎて気持ち悪い。その悪口が、転じて酔いを醒まさせた。

ワンパターンな自滅の王道。立ち向かう術を覚えず、逃げ惑うばかり。
どうしてこんなことになってしまったのか。元を質しもしない。
ただただわが身の不幸を嘆く。犯した罪には目をくれようともせず。
もっともらしい理由づけはしたくない。それを盾にしてしまうから。
胸を引き裂かれる思いだったぼくたちの離散を、美化してしまうから。
この一家は呪われている。きっと。
手を伸ばせば頼れる人はいるだろう。だが求めてはいけない。
過去を反省する。もう繰り返さない。だから、ぼくはひとりで消える。

明けない夜はないなんて、嘘。
目を開けなければ、永遠とも思える暗い陰湿な明日。
これまでの毎日はすべてが創作。贋物。現状とは異なる人生の夢想。
そうだろうか。逆だ。曖昧な甘い展望による庇護こそが能面。
現実をありのままに享受しなかったから、突然の宣告に絶望した。
遠い昔のことと思っていた盟約が、炎の呪縛となって四肢を焦がす。
どこまでも執拗につけ狙ってくるからこそ、死神たる所以なのだろう。
道連れにする気か。死ねと言うのか。生きていけるのだろうか。

よく考えてみれば、誰だって、今の生活が保障されているわけではないから。

2005/04/23

誰にも打ち明けられない凶行は、ぼくによって執行されていた。

こんなに人の名前を何度も呼んだのは、かなり久しいかもしれない。
胸が苦しくなる。居心地が悪くなる。洗いざらい投げ出したくなる。
ちくちくと繰り返し針で刺すような痛み。苦汁を滲ませる。
端から見たらただの会話。しかし疲弊した。気を失いそうになった。
自分の何もかもがみじめで、悔しくて、どうとも言えず不安で。
ここまで腹を割ったことこそが、長らく避けてきたことなのだろう。
それほどまでに苦痛を伴うのだ。だから背を向けていたのかもしれない。
人を信じることから。

すべての行いを恥じる。
ぼくが今まで、どれだけ馴れ馴れしく周りの人たちに接してきたか。
ふざけて冗談を言ったり、気楽なさまを見せたり、呑気に笑ったり。
なんと自分をわきまえていなかったのだろう。驕りがあったのだろう。
ぼくみたいな人間に、そんなことが認可されているとでも思ったのか。
何も解せない。何も築けない。何も絆せない。有益でなどあろうものか。
自分のことを蔑ろにして、半人前で、それでどうして顔向けできよう。
翳すことなく。諂うことなく。黒ずんだそぼしい隷者であればいい。

蛇口を捻れば湯水が溢れるのが当然と思っていた、緩慢な誤解。
失った時間は戻らないだろう。かけがえのないものであればこそ。
ぼくという存在もまた、シンクに落とし込まれて葬られようとしている。
構わないのかもしれない。生きていても、強迫観念に追われる日々。
借金の利息分しか払えずに元金を丸々引きずるような人生だから。
罪に手を染めたことを、言外することがそもそも罪になるとしたら。
もう救えない。それは誰にすがろうと同じこと。蝕まれている。
抗うのも容れるのも、これで最後。

自分を追い詰めた挙げ句に死を選んだ者の話を、とくと聞かされた。

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