[むかしのなぞ] 2004/11

2004/11/05

槍のように降り注ぐ棘を、両手いっぱいに受け止めよう。

通過点、と名づけることさえためらわれる。
波風立てることなく看過できれば、それでよかったのだけれど。
そう簡単には譲ってくれない、勢力があって。
ぼく自身も、そうやって行く手を阻まれることをどこかで望んでいた。
いつもは早足で歩いている日常の廊下。
時折ふと、窓の外の景色が気になって足を止めたくなる。
夕焼けが目にしみた。乾いた瞳に、恥ずかしいくらいに涙がにじむ。
そんな好機なのかもしれない。かこつけているだけかもしれないが。

これまでの経験で得たものはいくつもあるが。
果たして、それらに継続して愛情を注いでいるだろうか。
おざなりにされて埃をかぶっていやしないか。
誰かの厚意を無にしたり、知らずに傷つけてはいないか。
過敏なほど気にかけてみて、それでも温情に報いるには全然足りない。
いまだに多くの問題を抱え、多くの溝を掘り、多くの罠を掛けているから。
解き放たれることのない背徳を身ごもったまま良識を振りかざしつづける。
そんなぼくを照らす光に、いつ飲み込まれてしまってもいいように。

すべての痛みと粛清を、今日からの一歩に持ち越すために。

2004/11/09

真剣に思い悩めば悩むほど、その自分を鼻で笑ってしまう。

ありもしないものに焦がれて目をつむる。
まどろみの僅かな時間の間に、永遠の楽園を追求している。
夢の中では何でも叶うし、なりたい自分になれたから。
怖いもの知らずで、そしてやることなすこと上手くいく。
ちまちまと小賢しいシナリオなど練る必要もなく。
だって、目が覚めたら憂鬱な一日が始まるだけだから。
夢に呼ばれて。引き込まれるように身を漂わせる。
自分ではない自分になって、誰かではない誰かに会いに行く。

疲れきった体と心は、ただベッドのみを欲しがっている。
何も口に入らない。目を休ませたい。倒れ込んだら起き上がれない。
取るものとりあえず内的世界へと旅立つ。
どうして事実と対峙しないのだろう。逃げ回るような債務などないのに。
この贅沢なまでに垂れ流される時間の無駄遣いを、手放せずにいる。
どこに新天地など求められる余裕があろうか。
体たらくな日々だからこそ、せいぜい夢想に耽るのが相応なのだということ。
本当の自分磨きになど一切手をつけていやしない。

ある意味完全無欠の世界に、いつまでも堕ちていればいいさ。

2004/11/17

現実に与えられた環境下で妥協点を見出すとは、このことではなかったのか。

沈黙が怖い。
嫌味や悪口を言われるより、関心を持たれないことのほうが辛い。
無という状態は、文字通り何もないから。温度も言葉も、何も通わない。
自ら意思を発しなければ、それはもう人ではない。
いつどこで寸断されてもおかしくない危うい連絡網を、抱えている。
防災対策を怠ってはいないだろうか。不備はないだろうか。
いざという事態に対処するために日頃の努力が不可欠なのだと。
口をつぐみ耳を塞げば、いとも簡単に社会から消えてしまえるのだから。

厳戒態勢の中で牽制しあって、わかりあうことを知らない。
誰もが平気で心にもないことを並べる。本音と建前のバイリンガル。
煙のように嘘が蔓延し、粉塵を吸い込んだ腹は他人を疑うことを覚える。
相手の罠を見破るために自分も罠を仕掛ける。単純な不信の連鎖。
毒されて、冒されて、ありもしない潔癖な自分を守ろうとなどして。
ぼくは自分の周りの人たちを好きになれそうにない。
しかし、対話もなしに敵と決めつけて腹を立ててばかりでよいのか。
自分から口を開こうともしないのに。どこに理解に至る道があろうか。

これまで地道に築いた価値観が全面的に崩されるのかと思うと気が重い。

2004/11/20

最大限の曲解と希望的観測を施しても、最もささやかな願いに到達しえない。

密室は疎外感と憎悪で満ちていた。何に対する嫉妬かもわからぬまま。
居場所がないということの息苦しさが、これほどまでに如実で痛々しくて。
弾き出されるように、すべてが石になるほどの寒い寒い夜へ。
これが主体性を伴った行動だなんて笑わせる。汚らしい金魚の糞ではないか。
何度裏切られても、こちらが先に折れたら望みは断たれると思ったから。
崩れ落ちるように。地に伏すように。どんな惨めな自分でも演じた。
心細さや一時の迷いに負けて、あれほど避けていた弱さを見せてしまう。
執拗に生魂を食らう腐乱した醜いゾンビのぼくが、みんな台なしにした。

あらためて、偏屈の鎧に身を隠すに至ったいきさつを顧みる。
現実と向き合わない。他者と向き合わない。想像だけで世界を創る。
だから、まともな受け答えすらできずに首を傾げられてばかりいて。
それなのに不釣り合いな夢なんか見るから。可笑しくて自嘲をもらす。
もっと世間から迫害を受けなければ、ぼくという人間は思い知らないのだ。
痩せ細って気力を失ってただ甘えるだけの情けない姿なんて見せられないと。
わかっていないから。同じような醜態ばかり。与える失望はいかほどか。
無数の眼光が睨みつける空に溶けて全身が凍りつくまで喉を涸らして泣く。

この気色悪い勘違い野郎に制裁を。閑寂の闇こそが歩むべき奈落と示せ。

けれどね。
このきもちがまったくのまちがいだなんて、おもいたくない。
たのしかったじかん、わらったかお、みんなほんものだから。
くるしくてもむくわれなくても、なくさずにいたいとねがう。
だいじなのは、それをつよいちからにかえていけること。
かなしみをまねいてばかりだったぼくを、いつかのりこえたい。
いままでのじかんがみんなむだになってもかまわないから。
たったひとつ。あともうすこしだけ、がまんができたら。

かさねたてのなかに、いろんなおもいをとじこめた。
きせつだけがいたずらにすぎて、またかたくとざされる。
ぼくは、いつでもふりまわされてばかりだったね。
やすまりもやすらぎもしない、ただとおくおもうまいにち。
きょう、そのこたえのひとつがでたのかもしれない。
たったひとこと。みをきられるほどつめたかった。
きたかぜにふかれてえだからおちそうなかれはのよう。
あっけないめざめ。

もう、がんばれないよ。

2004/11/23

72時間以内に呪いが降りかかる、そんな執行予告。

お偉い方の高尚な説教がみな安物のコピーと知ったときのようだ。
どこへ出かけても同じ新譜。恐怖の大王に席捲されたのかと。
その呪文は詠唱時間も要しない。瞬間的な信号が脳に注がれる。
だから耳をふさいでわめいても詮ない。心と体を冒していく。
こんなものに心揺れたなんて。感動していたなんて。馬鹿みたい。
意図的に作り出された。胸を打つ切なさも焦がれるほどの感傷も。
今まで軽んじてきたものに足元を掬われて。とんだ笑い者だ。
流行という名の支配からは逃れられないということなのか。

あの日の別れの気まずささえなかったら、と思うことがある。
からまった糸を振り解く煩わしさから、少しは解放されただろうに。
新しい世界を求める行動に、躊躇することもなかっただろうに。
どれもこれも後味が悪くて。苦渋の選択のつもりでいるから怪我をする。
結局ぼくは、自分という部族の仲間に引き入れようとしていただけ。
それは存在のすべてを貶める行為。変人への道連れのための好意。
己の偏屈さを思う。浅ましさを思う。出しゃばれる顔ではない。
いや。自分にはきっとそういう傷のつけかたしかできないのだろう。

これが確信犯なら復讐は成功だ。後遺症まで負わせたのだからもういいだろ。

2004/11/27

日常という拷問にあえいでいるのなら。

誰だって、積極的に死を選びたがりはしない。
生きることが辛いから。面倒なことばかりだから。
のめりこめるものを見出せない。何をしても楽しめない。
出口のないトンネルのよう。明るさも展望もない。
どうして世界はこうも窮屈になってしまったのだろう。
そして、ぼくがその悪夢に取って食われるなんて。
この生活に終わりは来るのか。考えても気が遠くなる。
何も手につかない日が、無気力な時間が、増えていく。

それでも、否応なしに朝日は突きつけられて。
この人生を生きなければならない。
どうしようもない現実。途方もない課題。
毎日の仕事とか生活費とか、そういった心配事ではなく。
もっと別の。自分には別の可能性もあるのではないかと。
今ここにいる自分は紛れもなく本物に違いない。
だが、全く未知の世界も憧れる。賭けてみたくなる。
万能を夢見た少年の心を腐らせてはならない。

いちいち自分で線を引きたがるからいけない。
これは今日でおしまいとか、明日から始めようとか。
改める気があるなら、思い立ったら実行すべきなのに。
変革なんて、宣言した瞬間に発効されるものではない。
時間が過ぎて振り返ったときに実感するものだ。
がむしゃらに自分の道を貫ける気概が、今あるだろうか。
その体に。その心に。その目その肩その腰に。
錆びついた四肢が軋む音など、耳に入れていられない。

抜け出す鍵はひとつじゃない。痛みを怖れるな。

2004/11/28

瑕。なのだと思った。

振り返れば振り返るだけ、過去への悔しさと憤りが滲むばかり。
すべてが稚拙だった。すべてを欲した。すべての我がままをぶつけた。
きっと回想すること自体はできても、懐かしかったなどと笑えやしない。
壊れてしまわなければならない理由はどこにもなかったのに。
そういうものだった。それくらいに、尊く愛しく、虐げた。
もう会えないのかと、それも罰だから仕方ないのかと、嘆いた日々。
だから、この数奇でありふれた巡り合わせに正直戸惑ってもいる。
これは与えられたチャンスなのか、それとも無明の泥沼なのか。

ぼくたちは、笑顔の裏で他人を妬み心で中傷している。
人は独りだと気づいているから。容易く信用を置きはしない。
見つめ合った瞳は翳る。触れ合うことを怖れ、警戒している。
だが、刺々しい態度を隠さないことを、かえって快く思う。
そのことに息苦しさは感じない。隔たったままで差し支えない。
卑しい傷の舐め合いの果てに辿り着いた境地だから。
言葉の上でいくら拒絶されようと、まなざしが語っている。
ぼくはこうして、再び姿を見せることを許されているのだと。

好きとか嫌いはいい。今ここで出会っているのだから。

2004/11/30

地獄でもいい。とにかくどこかに堕ちたい。

この語りようのない疎外感をどうしてくれよう。
偏狭な感覚がそう想起させるのではない。言葉通りの仲間外れ。
会話のボールが自分をわざわざ避けるようにポンポン飛び交う。
ただ一人内野に取り残されて。いつか攻撃の矢が放たれる。
それとも、この飼い殺しの状況に追い込んで嬲る愉快犯か。
冷笑が耳を突く。逃げ惑うようにもがき生きるぼくをあざける。
まともに相手にされないことを、これほど屈辱と思うなんて。
いっそひと思いに止めを刺せ。懇願も、届かない。

蔑まれたような気持ちでいると、視界のすべてが色を失う。
触れても口にしても、温かいものなどない。薄氷のよう。
打ち破るのに必要なのは自分の意志だと、わかっているのに。
まだ何に遠慮するのか。負け戦だとさじを投げているのか。
人生のあらゆる失墜を経て、何も求めないと決めたから。
わざわざ公言するまでもない。ぼくは臆病だ。
大切と思うほど距離を空けたがるなんて、常人の発想ではない。
惰欲や邪心を捨て去ることが真摯だなんて、現実離れにも程がある。

息尽きるなら、決して誰の目にも触れない場所で迎えたい。

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