[むかしのなぞ] 2004/10

2004/10/01

如実なほど単細胞な自分。

もっと嫌われていると思っていた。
それ以上に、ぼくのほうがもっと嫌っていると思っていた。
判断材料が与えられないと、物事を悪くばかり考えてしまう。
邪推して、意見が合わないと決めつけて、噛みついてくると警戒して。
人付き合いの痛みを知らなければ、ここまで疑り深くならなかっただろうか。
そんな高尚ではない。傷つけられる前に先制攻撃を辞さなかっただけ。
信頼することは心の重荷になるから。敵なら気遣わなくてよいのだし。
だからぼくは誰の味方にもならない。信じない。それでいいのだと。

離れていればいるほど、そして、相手の顔が見えないほど。
裏切りに対する罪悪もまた薄い。嫌いになるなんて簡単なこと。
手に入れたものを自分の不徳で失って、それで嘆いてばかりいる。
向き合う機会が得られないというだけでフラストレーションが溜まる。
一目会えば、そんなわだかまった気持ちなんてすぐに解決するのに。
こまめにガス抜きをしないと、屈曲した感情ばかりが膨らむから。
ぼくは努力家じゃない。天性のものもない。自然体で来ただけ。
その最も純粋な動機として、きみといることを目標にしたいと思っている。

なんて、腹が減ったら冷めるような気持ちで。

2004/10/02

きっと今も眠りの中。

ぼくはどうやって自分を持ち直しているのだろう。
毎日毎日が、精神の自壊。ボロボロに崩れ落ちる。
寝て覚めて、どこかしらでリセットしているのだろうか。
組み立て直したと言っても、ただ石を積んだだけだから。
また簡単に倒れる。脆くて、攻撃もされ易い。
ダメージをいずこへ捨て。エネルギーをいずこから得て。
わからない。自分の体内にそんな生産的な機構があるとは思えない。
パッチワークが得意な手芸屋がいるだけではないのか。

忘れたい、と思っている時点でもう引き剥がせないのだろう。
心の側壁にこびりついてしまっているから。
覚えていたくもないようなことに、毎日ありふれて。毎日染まって。
それをどこかでコストしなければ、今日と同程度の明日は望めない。
来る日も来る日も、目の前の苦難から逃れるためにしか生きていない。
そして後悔を重ねて、ストレスを感じて、自己への課題を残す。
人生に疲れて立ち止まったら、本当に尽きてしまいそうだから。
それならば耐えよう。傷を負いながらでも、思考を抜き取ってでも。

そしてまた同じ失敗を繰り返すんだ。

2004/10/04

この口をついて出る言葉はみな虚勢と知ったときから。

体が強張る。
期待と不安が入り混じった、などという中途半端な緊張感ではない。
諦めの気持ち。失望と達観。明日のない今日。
胸躍るような通知音にもただ冷静でいられる。
ぼくの気持ちは、こんなにも冷めてしまった。
死刑よりも辛辣な宣告を毎日のように受けて、もう飽き飽きしている。
さっさと解放されてしまいたい。その執行をもって。
夢も希望もみんな断ち切って。

甘い文言は虚空に響き渡るのみ。
現実は、存外如実ではなく、残酷でさえない。
他人事のように伝播する他人の情報のみでしか計れない世界観。
信用や親愛が欠ければ地図なんて簡単に書き換わる。
それでもここまで絶望に飲まれなかった。
よくやった方だろうか。
もう息も続かない。口と鼻さえ塞げばそれで終いだ。
地獄と見まごうほどの日常を歩かされるくらいなら。

醜い本心を隠して無邪気を装うことを、いよいよ隠しきれなくなった。

2004/10/05

これほどまでに、疲弊するものか。

自分の嫌悪感や不満を論えるばかりの反撥も若気の至りだったけれど。
今だって、根底に流れている理屈はさして覆ってはいない。
不必要に叫びわめくことをしなくなっただけ、余計にたちが悪い。
言いたいことも表に出さず、感情を殺してむすっと構えるだけ。
篭もった空気が室内に充満するように心に溜まって濁していく。
汚れた粉塵は自律神経を冒す。憤怒や憎悪といった意識を捻出する。
誰かを恨まずにはいられなくなる。低湿な自分への責任転嫁として。
バーチャルな反乱分子との口論を幾度もシミュレートする。

投げかけた言葉の数が、そのまま後悔の重さとなって帰途を引き延ばす。
どこがどう間違っているのか言い当てられないが、ぼくはおかしい。
何でもない事務的な用件だけの会話なのに、自らの違和感が拭えない。
話は噛み合っているか。意思の疎通は取れているのか。勘案に追われる。
ぼくは本当に、この社会の中で生きていけるのか。生きているのだろうか。
そんなことさえもわからなくなってただ怯えて、いっそう言葉をつぐむ。
喋れない。喋りたくない。明らかに無理をしているって自分でわかるのだから。
もっと無機質でドライな人間関係こそ安住を求めて行き着くべきところ。

誰もが当たり前にできることを、どうしてできないんだろうね。

2004/10/06

回避できるものならしたかった。

祭り上げられた。そう思うだけだった。
誰も咎めない。異論の声すら上がらない。
自由という名の無関心の蔓延にも思えた。
夢だと願いたくなる、夢のような一夜。
同時にそれは、実体的な意味以上にきつく精神を縛るだろう。
そこまでわかっていて、計算の上で操っている。何たる策士。
いや、一個人の造反などではない。異物を忌み嫌う集団心理。
はめられた。最後の退路も断たれてぼくは完全に管理された。

何かを捜し求めていたわけではない。
どちらかと言えば軽い失望感を胸に、最初で最後の旅に出た。
誰も本当のぼくを知らない。無論知られたくもない。
こんなに病んで、嫌味なほど卑屈で、他人を嘲て。
知られずにいるから、対外的なぼくという人間が成立する。
優等生でいられるし、面白くて寛容な友人でいられる。
だから、それらを守っていく義務がある。体面と、内面。
悪夢は心の殻に閉じ込めて。それらしく感激してみよう。

だってこんなもの、魔女裁判以下の茶番だ。

2004/10/07

狭量な痩せ枯れた心にも、一輪の花を咲かせる。

何も望まない日々が、次第に多くなってきている。
起伏を削がれ平坦に均されることから逃れようともしない。
溺れてはいけない無という世界が、すぐそこに迫っている。
自分には無縁のものと、高を括っていたのはなぜか。
のっぺりした日常から脱却しうる手立てなどあろうものか。
求めてはいた。たしかに、思い描く将来像は捉えていた。
どうしてそれに執着できない。追い続ける英気を養わない。
待つだけでは駄目だと、一年経ってもまだ思い知らない。

この感情は憐れみ。弱った動物にとりあえず餌をやる。
そんなものだとしても、それにすがっているのもまた事実で。
弱みや過ちには触れさせる。自分にとってどうということはない。
ただ、探られてはいけないこともあって。懐に隠していて。
どんなにその瞬間が愛しくても、絶対に委ねてはならないから。
せめて、推進力に換える動力機関が構築されるまでは。
たとえば、今日は真面目に机に向かおうと思える気持ち。
それでいい。それだけなんた、焦がれてやまないものは。

気紛れな気遣いで救われてみる、そんな小さな胸の花。

2004/10/08

きっと誰かがどこかで頭を痛めているであろう、その日に。

海に潜った日のことをふと思い出す。
目に見える景色はみな緑色だった。
海水は澄んで、あちこちにあぶくが浮いて、塩辛かった。
はっきりと再生できるのはそこまで。
いつのことか。誰と一緒に遊んだか。情報が抜けている。
幼い日の掠れた記憶を、あと何度ロードできるだろう。
思い出せなくなったら、同時に少年の自分も消えるのか。
未来に立つ今の自分はどうなるのだ。

過日のワームホールを応急処置的に埋めるように。
記憶があいまいなのをいいことに、嘘を挟み込んだ。
不都合な気まずい羞恥を、その上から塗り潰した。
美談まみれの日常を、適度に影を落とした過去を、捏ねた。
真実を教えられなければそのままで生きただろう。
知りもせずのうのうと平凡な幼年期を懐かしんだだろう。
みんな嘘だった。真実の張り手をくらって目が覚めた。
ぼくを連れて海に投身しようとしたのだそうだ。

自分にとって、最も身近な存在だったはずのものを。
どうしてか直視しようとしなかった。他人行儀だった。
表向きは馴れていても、本心を打ち明けはしなかった。
だから、諮れなかった。ぼくたちは引き返せなくなった。
後年になって事実を明かされても、悔恨が募るばかり。
もっと早く知るべきだったことが、あまりに多すぎて。
昼間のドラマのような憎悪と確執に満ちた家庭だった。
その事情を看過してきた鏡にも、等しく呪いが降る。

きっと誰かもどこかで眼光をたぎらせているのだろう。

2004/10/09

どうして誰も発狂しない。

普遍だったものが根底から揺らぐ昨今。
平常や通常という言葉が、次々と異常に置換される。
かつての大人たちが発言の群力を奪われていく。
理解しえないものに取って代わることが、世代交代。
何か大きな地盤が崩壊する音を錯覚する危機感。
意思や感情をもたない子が増殖の一途を辿る。
こんな現代の事物や先行きこそ驚愕と昏倒を催す。
どんな恐怖映像よりも、真に震え上がらせないか。

残酷な現実を、隠そうとして神の手が暗躍する。
報道は編集され、倫理と称した発信者の意図が被さる。
電波網を日夜飛び交うマジネタに現実感が伴わない。
ニュースという名の娯楽番組を見せられているのか。
なるほど、誰もがさじを投げたくなる問題児ばかりだから。
たとえば二十年後のこの国の存在は保証されているのか。
自分の将来がどうのこうの、などと耽るどころではない。
いくら悲観しても足りないほどの破滅的状況なのだと。

夢から醒めた途端、ゆとりを失ってあくせくする。
みな心を閉ざし、鬱憤を内に溜め、ときに弱者を殴る。
隣近所も見て見ぬ振りをするようになった。
面倒なことに関わりたくない。賢明な共同犯罪だ。
心はすさんでいく。喜怒哀楽を捨てて家畜のように。
何も思案せずに生きるのが一番楽なのは事実だが。
それは人間としての生を放棄するに等しくないか。
小さなことで悩んだり気に病むほうが、らしくていい。

そんなに自分のことだけで手一杯か。

2004/10/11

それだけのことで、気安く悪を名乗ったりしない。

つくづく自分は卑怯だと思う。
こんな間接手段でしか、懺悔したり告白したりできないのだから。
そして、懺悔と告白を同時に行うような馬鹿をする。
利己的な幻妄に囚われて、一切の行動をシナリオメイクする。
愚かなんだ。気が違っていると思われるんだ。なぜなら事実だから。
相手の目を見て会話をしないのと一緒だ。
自分が信用に足る人間かどうか、胸に手を当てて考えてみろ。
ただ利権にすがってその地位を留めているだけだろうが。

物事や他者の偏った一面しか見られない。視野が狭い。
月面はどちらが表面でどちらが裏面なのか。
地球人の視点という一存だけで片づけられるものではなかろうに。
知らずにいること、未確定事項の多さに驚く。
道案内もない海の上を迷わずどちらかへ進んでいる。
たとえその先に待つものが鬼ヶ島であろうと。
たとえ乳母を背負って山に捨てに行く悲しみの旅路であろうと。
迷わないことこそ美徳だと教えられているかぎりは。

忘れられないから悔いているんじゃない。
必要な段階だから。大人になるための痛み。
どこまで暗中模索してもこの先は闇ばかりだと、もうわかっているから。
慰めなどはいらない。同情してほしくない。
ただ、巻き添えをくった犠牲者たちを弔って。
そのために今生きて、繋がっているから。
砂上の楼閣になんてぼくは寄りかからない。
忘れてしまうことこそが最大の罪だから。

こんなものではない。蔑みの視線を招く遺稿の全容は。

2004/10/12

例外なく万人を敵に回すなら、いっそ本望と思おう。

こんなことでしか、自分に仇なす軍勢に抗えない。
これでもソフトランディングのつもりだったのに。
数々の過ち。消えることも清算されることもない。
恨みの炎で灰にしたあの手紙はもう元に戻らない。
それなのに今も平気な顔をしている。会っている。
睦まれるべくもない関係。結実などしないのだと。
人身事故の賠償も忘れて自分の人生を生きるなど。
認められないこと。ぼくのことを、どうか諦めて。

つまらない意地の張り合いなどすべきでなかった。
すべてを免れた理由。そしてすべてを憎んだ理由。
本当は初めからわかっていた。愚かさ故の全責任。
誇大広告の流暢な演説になど傾聴する価値はない。
本心のつたない一言にこそ真の重みがあったのに。
ただそれだけのことが、どうしても言えなかった。
素直な感情を顕すことのむず痒さになど、臆して。
勝ち気な態度を作って虚勢を張ってばかりだった。

中途半端に味方がいたりするから、自分を貫けない。

2004/10/15

どうかしていた。ぼくがどうかしていた。

環境なり状況が、整いすぎている。
まるで台本に従っただけの過不足のない受け答え。
万事の現象に対して予測可能であるという飽和感。
先回りして、容易に訪れる結果が読みとれる。
そんな世の中が面白かろうはずもない。
今生きているところは、そういうところだ。
失敗に臆病になりすぎたぼくには、相応の墓場。
吉とも出ないし凶とも出ない。運気の起伏すらない。

片足を縛られたまま、ずるずるとたぐり寄せられた先には。
きっと夢も現もつかないような世界が待つのだろう。
淫靡な欲望。覆いようのない本能がむくむくともたげる。
溺れてしまうのも、ひょっとしたらいいのかもしれない。
このまま変わらない色の天井ばかり直上に見て過ごすよりは。
ただ、欲すればするほど得がたいことも事実で。
そういう警戒心にいつまでも抑制されたままでいることも。
結局は、現状を改めようと努める気などさらさらないのか。

そうでなけりゃ、あんな詭弁を謳えるわけがない。

2004/10/16

報告します。

まだ、これほどまでに自己嫌悪に陥られるなんて思ってもみなかった。
自分の中の憎たらしい腫瘍は何度もしらみ潰しにしてきたはずなのに。
不信感が募る。不安に襲われる。焦りに駆られる。懐疑の念を抱く。
勝手に敵を作って勝手に嫌いになって。お決まりの幻滅パターン。
あのとき確かに感じた言葉のぬくもりを、どうして裏打ちにするのか。
どんな出会いも胸騒ぎも非日常に点在するアミューズメントでしかない。
一人では出処進退も判断できない。別れを迫られても未練を引きずってばかりで。
そんなふうに一喜一憂している己の姿が、どうしようもなく滑稽に思えて。

ただひとつ心に残っていた癌。それを退治しなければ闘病は幕を閉じない。
つまりはラスボス。心の平和を乱す諸悪の根元。世界を闇夜で埋めようとする。
消さなければ。自分自身が立ち向かうしか術はない。解放されるためには。
なんて、不憫なものだ。ちょっと侵入してきたばかりにすっかり悪者扱い。
ぼくの内面がいかに黒ずんでいるかという、ひとつの具現性でもあろうかと思う。
もう誰かを恨みたくなんてない。ましてやそのために求めたりなどもしない。
それは当然のこと。当然のことだけれど、結果として導かれるのは破滅ばかり。
未然に防ぐには葬り去るしかない。この胸に巣食う揺らいだ気持ちもろとも。

ぼくらの破局は現在進行形。

2004/10/17

ただ生きたいと願う生存本能の是非は、ぼくに限っては否認されるべきだ。

口にしてはいけないことかもしれないが、自分の人生や命を軽んじてきた。
改善の兆しも見えない厭世観。見えない壁を産む人間不信。潰えれば潰えよ、と。
何かに煽動されてここに到達したのでは断じてないと、抗いたくはあるが。
それだけ、現在に至っても自分の生き方に不満を感じていて、不服を訴える。
触れ合えずにいると、それだけ情熱が蒸散していく気がして。それしきの求解。
問題はそんなことではない。ずっと論旨を取り違えたまま。課題は瓦礫の山となる。
ただ苦しみから逃れたいがために思ってもみない言葉を発してはすべてをふいにする。
ああ、目の前が真っ暗になる。その先に何も見えない。お先真っ暗だ。ああ、ああ。

口にしてはいけないことという先入観。
自分の中では解消できないままで。たまらなく許せなくなるから。
だから一日、また一日と、結論を先送りにして。
寿命が一日二日延びたと言われても、当然ながら実感を得ない。
それよりも、若さのみに与えられる濃密な感情を無駄にしている。
弱いから生き誤っているのだと、知って。
それでもいまだにここから出られずにいる。
いつかの将来、今日の日々を悔いるだろうとさえ伺窺できるのに。

死人より無様な人生を何もかも諦めて垂れ流すことになど安穏を委ねるな。

2004/10/19

ぼくがこのよからいなくなって、そのあとのこと。

もぬけの殻。
コミュニティからひとつの話題が消えた。
反体制を弾圧したその集団は、何事もなかったかのように雑談に興じている。
正義の名の下に粛正をいとわない。
消された者の存在や心の苦しみは、ログにも残されることなく。
アクセスを監視して人の出入りを見張って、独りほくそ笑む管理者。
住民が自由かつ安全に活動できる場所などインターネットのどこにもない。
すべての端末に血の雨が降る。

けんか別れして、それからそのまま。
ひとつのグループから離れても、また別の居場所を見つければいいだけ。
得るのも捨てるのもこんなに簡単で。だから繋がりの重みを実感できない。
人間関係とはもっと複雑で煩雑で、また根気のいるものだ。
傷つき傷つけることの痛みを知って初めて感覚として目に見える。
そうしたリアルなせめぎ合いこそを、期待すべきだった。
些細なことに病んで。回線を切ってメールを棄ててホームページに蓋をして。
そのたびに失われた、数知れずの出会いの可能性があったことを。

おもいだしてしまったのなら、それでもいいから。

2004/10/21

この道が明日に続いているなんて思ったら大間違いだ。

養うものもなく。宿すものもなく。
抱え込んで独り占めしている蓄えになど一円の価値もない。
ただ痩せ細っていくばかりの運命。
期待が裏切られるたびに、こだまする声は空しくて。
こうして誰かに悪意を向けることでしか、自分を示せない。
自分の感情を現せない。
夜になったらただ眠るだけ。
沈痛な静寂に耳鳴りを覚えながら眠るだけ。

拒絶することで、正対することから逃げている。
知りたくない事実。なりたくない自分。障壁が多すぎる。
なぜ、他人に触られる感覚に、こうも身震いするのか。
なぜ、他人に触る行為に、こうも萎縮するのか。
この体はけがれているのか。この身は罪深いのか。
自分を汚いゴミと定義づけて世間から捨てられようとしているだけだ。
何からそれほどまでに目を逸らしているのだろう。
特別だと思える要因など、どこにもないのに。

陶酔していることに気がつかないから、道だと錯覚して歩いている。

2004/10/22

ぼくは過去のオレには到底敵わないだろう。

目が焼け焦げそうなほど赤い炎が注ぐ。
人々の怒声や憤懣を取り込んでなおも激しく吹き上がる。
人類が人類たりえた証。信憑と祭政統治の化身。
それを手に手にかざす者たち。
飲み込まれるのか。かぎろいに。神術に。月闇に。
体を持っていかれないように。魂を引っこ抜かれないように。
必死に堪えるばかり。生命力そのものがたぎっている。
われわれの原始はかような闘争にまみれていたのだと教え諭すように。

凍みきった夜空が頬の火照りを徐々に冷ます。
見上げれば、星の輝きがこんなにも違って見える。
自宅からそう遠くない場所なのに。
大きく吸い込むと鼻が悲鳴を上げるほど、痛いまでに澄んだ空気。
懐かしい感覚を、どこか新鮮な気持ちで受け入れられる。
この地に根ざした日々があったこと。
この地で焦がした思いがあったこと。
ぼくは本当に本当に、遠いところまで来てしまったのだと。

ひとつ実感したことがある。
この社会は不愉快なもので満ち溢れている。
自分も間違った人間だけれど、他の人間は別の次元で間違っている。
秩序を乱す不道徳な連中。駄々をこねる子供と変わらない。
街はこんな身勝手な言い分がひしめく集合体だから。近づきたくもない。
ぼくは自分の人生を歩むにあたって、そのことをずっと避けてきた。
うんざりする場面に遭遇したくなくて、関わりを断ちすぎた。
それではいけなかった。もっと雑菌に触れて耐性を鍛えなければ。

自分が常識だと思っていることは、他人には通用しない。
他人が常識だと思っていることが自分に通用しないのと同じように。
それをつまらない会話と見下していたのでは埒があかない。
わかりきったことだけれど。でも自分から折れるのは癪にさわる。
そんなふうにして平行線のいがみ合いを続けてきたから。
いまだ着地点を見出せないまま。力尽きるまで羽ばたくのみ。
いずれ地面に激突して、残骸はいつまでも燃えくすぶるだろう。
それを皆が囲んで祭りを始める。そういうものなのだ。

反骨心さえ失った今となっては、もう何にも牙向けやしない。

2004/10/26

平気なフリをしているのって、案外つらいもので。

当事者よりも周囲が仰々しく騒ぎ立てるのが世の常としても。
状勢を見誤っているのは自分のほうなのかと疑ってしまう。
自分だけが取り残される感覚。軽視するのは軽率なこと?
メディアが不必要に視聴者の不安を煽るせいだ。
ぼくだって心細い。なにも手をこまねいているわけではない。
だが、必要な情報収集はとうに済んでいる。もう不安はない。
決してポーカーフェイスではないが、平静を装うには事足りている。
それなのに、なぜ他人はぼくが落胆していると“期待”するのか。

ニュース映像から心懐かしい方言が聞こえてくるけれど。
それを、標準語のテロップがことごとく書き換える。
本当の情報、現地の生の声なんて、何も伝わってきやしない。
味も素っ気もない。画一性を求めすぎたしわ寄せが来ている。
こんなとき、ぼくのことをわかってくれる人たちの存在をありがたく思う。
たとえば家族のこと。限られた人にしか明かしていないから。
何も知らない人間が不躾に身内の安否を尋ねてくる。ただ不愉快なだけ。
何があっても、あるいは何もなくても、変わらずに接してほしいだけなのに。

これ以上心をえぐられないように。だんまり決めて身を守る。

2004/10/28

ある程度腹をくくって、ここに立地しているはずだった。

遠い現実。自分自身の身に今まさに降りかかっていることだと実感しえない。
いつからか錯覚に囚われている。
肉体と精神が、意識と実存が乖離した不自然な状態。
現在地とはまったく異なる場所に、思念が飛ばされたような気分に陥る。
いや、そこはこの世のどこかですらないのかもしれない。
取り残された自分のからだのほうが、別次元の異空間にあるのではないか。
そんな、どこか疎遠なものとして見ている。
たとえば自分のおかれている状況のことを。

とにかく戻ることが、正義であるかのような。
無力だとわかっていても。
力学上の変位こそが行動なのであって。
そういった危機感さえも、ただの焦燥。
何もできずにうろたえている自分が、もどかしいだけで。
自分が選択した覚悟とはそうしたものだったのだと、自覚しなければならない。
責任を負わなければならない。
今までしてきたこと、そして今していることは、とても残酷なことだから。

それならいっそ冷血に徹するべきか。

2004/10/30

どうして自分に間違いがあることを認められないのか。

現在の人格は、過去のすべての反省の上に成り立つものではない。
当然、心の中にしこりとして残ったままの事案もある。
一方的に非難もされただろうし、不条理にあえいだりもしただろう。
そんなものを受け入れようとばかり努めるから、息が詰まるんだ。
もちろん、顔を覆って嘆くほどの悩みではないのだけれど。
それでも自分に制約を課してばかりで。窮屈で飽き飽きする。
本当に逃げ出すべきは、これまで目を伏せてきた事実からではない。
自分という殻から。こんなわだかまったうつろな監獄から。

ただし。抜け出したところで、行き着く先はあるのだろうか。
荷物をまとめて住処を引き払っても、いずれ路頭に迷うだけ。
枝から枝へと転々と飛びまわれるほどの活発さもない。
元の家に帰りたくなることもあるだろう。
結局は、それを危惧している。
だから羽ばたけない。面倒がって物事を動かせないでいる。
現在の生活を維持することに精一杯で、外の世界に目もくれない。
くずみたいな薄れた幸せが自分にとっての許容量だなどと、決めつけている。

愚かさに気づこうとしなければ、いつまでたっても愚かなままなのに。

2004/10/31

何もこんなときに思い出さなくたっていいのに。

どちらが下僕であろうが、そんなことはどうでもよかった。
虐げられても、踏みつけられても、ぼくはそこに自分の存在を見出した。
安住の地を得られるのなら、と甘い考えでいたのかもしれない。
リードしているつもりがいつの間にか弄ばれていた、と知って。
他言を禁じた秘密の逢瀬。監視の目を逃れればこうも大胆になれる。
誘われるままに個室に入り、発奮して体内のすべてをぶちまけて、果てた。
こんなつもりではなかったと泣き真似しながら、心の中でほくそえんだ。
これでやっと主従の鎖から外されると。たとえこの胸を引き裂かれても。

第一印象は、聞き覚えのある名前だったということ。悪魔的愛嬌の持ち主。
自分と敵対する構図を廃絶する。ぼくも偏屈だが、さらに群を抜いていた。
その声が助けを求めていると気づかなければ、深入りすることもなかった。
しかし併せて、真の仮想現実というものの真髄にも到達しなかっただろう。
ひととおりの世界を体験してよかったものか、いまだ疑問が残りはするが。
失敗がいつかの糧になるなんて、敗者の負け惜しみにしか聞こえないから。
その命を犠牲にして邂逅の扉を開いたことを、刻みつけなければならない。
あといくつの命日を、ぼくの罪の証明として記憶に留めておけばよいのか。

自分を語ることをしなくなった最たる経緯なんて。

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