[むかしのなぞ] 2004/08

2004/08/01

紡げない言葉の代わりに。
無言で殴りかかるなんて間違っている。
明かせない過去を怖れて。
記憶の闇に葬るなんて間違っている。
素顔で勝負できないのに。
あえて裸になるなんて間違っている。
伝えられない声はなくて。
偽りの関係を装うなんて間違っている。

2004/08/03

いつまで経っても他人行儀。

話がかみ合わない。
目を合わせられない。
言葉は臆病さを増し。
関係は気まずくなる。
ぼくたちは違うものだから、心から打ち解けることはない。
自分の特異さや個の尊厳を、間違った方向に捉えてしまった。
特別に不器用ではないのに。逃げ口上ばかり探していた。
必死に走って振り払って、気がついたら迷った先は陸の孤島。

帰りたい。
今頃どうなっているだろうか。
帰りたくない。
安住の地ではなくなったから。
帰ればよかった。
今がこんなに息苦しいのなら。
帰らなければよかった。
最後の敗北を聞けないままで。

もう誰にも心を開けそうもない。

2004/08/04

ほら、こんなふうに駄目になっていくんだ。

許される誤りと許されない誤りがあるとすれば。
今回ぼくがしたことは後者には当たらないだろう。
そこには自己責任という条件があるから。
生じた不利益は自分に降りかかる。前科はついて回る。
信頼を失い、釈明の機会を失い、いずれは関係を失う。
公に裁かれなくとも、受ける罰は相応のものだから。
誰にも咎められないし蔑まれることもないだろう。
だがぼくは落ちていく。苦汁に飲まれて朽ちていく。

もちろん事情など知らない。
現在の笑顔の裏にどんな事件を隠しているかなんて。
それなのに波風を立ててしまう。神経を逆なでしてしまう。
言わなくてもいいことをわざわざ口にして憎しみを買うだけ。
初めから相手にされていなかった。頭数に入れられていなかった。
無視されるべき存在。顔を出してはならなかった存在。
そう思えてならない。
周りがみなぼくを邪魔者だと言っているように思えてならない。

もともと善人ぶったつもりはなかった。
勤勉でも特別何かができるわけでもないし、あるいは無粋でもない。
誤解されているのでなければ、ぼくが嘘をついている。
全身からみなぎるありのままの嘘。真意という名の蜃気楼。
結局、誰にも心を開いていない。信用していないということだ。
いずれはみな消えてしまうものだと思っている。
ぼくの前から消えてしまうものだと思っている。
だから。そんな無駄なものに労力は割けない。

一度だろうと何度だろうと、どのみち歴史は覆せない。
だから行動を監視されるのだし、疑惑の視線を向けられもする。
息も詰まるような囚われの立場。
だが、そんな関係にさえ卑屈なまでに媚びている自分がいる。
繋がれたままでもいい。見限られたままでもいい。
奴隷でも犬でもいいから飼われていたい。
意思なんてとっくにない。殻としての体と生存本能があるだけ。
面倒な心の苦しみなど感じなくていいように逃げ延びるだけ。

いっそ全部切ろう。今のうちに、いい形で終わろう。

2004/08/05

最近眠れないのは、暑苦しさのせいだけではない。

立ち向かうことへの弱さ。
人生の楽な道を選びたくなる。決断を避けたくなる。
無駄に時間を空転させているだけと知りながら。
問題は残留して、室内に溜め込んだゴミのように生活を圧迫する。
それでも耐える。こんなときだけ根気強い。
そのうち抱えていたものも忘れてしまう。
重要な課題など存在しなかったかのように時間だけが過ぎていく。
今立っている大地は、なおざりにしてきた数多くの潰えた未来の地層。

一人で生きることへの弱さ。
気づいていない。どんなに孤独か。どんなに沈鬱か。
誰の心も奪えないように、誰にも心を預けられない。
群れたいというつもりはないが、一方でどうしてか心細くなる。
こんなに欲しているのに、と言いつつ、大抵は無関心で。
こんなに会いたいのに、と言いつつ、自分からは動かないで。
他人を求めることを、短絡的に俗的な行為に結びつけるからいけない。
何もしない。何もさせない。ただ気配があればいい。

どうにも抗えない意志の弱さこそが、最たる悩みの種。

2004/08/06

目測を誤った先に待つのは奈落だけなのか。

自分の扱いや見せる方法を間違ってきたのかもしれない。
隠すために演じたのか。振る舞うために封じ込めたのか。
こうありたいと願う自分の姿からは遠ざかっていく毎日。
だから自分のどこかがいけないと思ったり。懐疑したり。
言葉で説明もせず、それなのにわかってほしいだなんて。
これは嘘の自分だとか、自分じゃないなんてごまかして。
自己表現が巧くない。だったらなおのこと小細工は無用。
いつから飾ることを美しいなどと思い始めたのだろうか。

みんなが笑顔だった。幼子のように甘えはしゃいでいた。
でもそれが自然な姿で。純粋さに溶けていきそうだった。
いつまでも迷走している自分よりも、ずっと出来ていた。
ぼくは今まで大人になったつもりでいたのかもしれない。
感情を抑え、羽目を外さず、物事に毅然としていること。
そんな自分を描いていた。面白味などどこにもないのに。
レジストリを書き換えすぎて満身創痍となった人体兵器。
もう取り戻せない過日の前に、偽りの歴史が立ちはだかる。

そこから放たれた先もまた茨の道なのだろうか。

2004/08/09

幸せになればなるほど、面倒なものが増えていく。

かつて、すべての別れに区切りをつける詞を書いた。
心の傷跡と同じ数の。そして、重ねた罪と同じ数の。
未練ではないが。ずっと腹の中で消化不良を起こしていた案件。
決して勲章にも糧にもならない。ただの醜行の果て。
記憶を整頓し、外部記憶媒体に退避するための処理でもあった。
過去という膿を体の外に排出する、吐露する、そういったこと。
それが今、どうだろう。半分もが復縁に至っている。
呪いの言葉はいよいよ封印するしかなくなっていた。

現在与えられた選択肢からすべて取捨するというわけではない。
固定資産ではないから。人の繋がりは絶えず変わる。
それを自ら汚辱の履歴と称した。黒く塗って消し潰そうとした。
望みもしない苦難の人生を歩まされたと訴えた。ああ可哀相に。
それが最たる罪だったのではなかろうか。わずか二年前のこと。
大部分の呵責から解放されてもなお、ぼくを歪める。
忘れてはならぬ事実として。いくつもの釣鐘が鳴る。
出会いの先に別れるのか、別れが出会いを伴うのか。

逆に慣れない。自然に笑ったり偲んだりすること。

2004/08/19

今日のために明日を捨てるのと。
明日のために今日を捨てるのと。
どちらがいいのだろう。
どちらが有益なのだろう。
一概に言えないものであるということを知った。
誰かを咎める理由も自分を諫める理由もなかった。
人それぞれ異なる、という回答は便利だけれど。
決して真理ではないし、むしろ遠ざかっている。

人は何を耐えるのだろう。
そんなに我慢して、言いたいことをこらえて、その先に見えるものがあるのか。
人は何を惜しむのだろう。
自然が汚されることや、他人の血が流れることを、なぜ悔しがれるのだろうか。
人は何を叫ぶのだろう。
誰もが不幸を嘆き、自分の身ばかり憐れみ、苦痛でのみ自らの影を象るのか。
人は何を嘲るのだろう。
自分の足下も見ないで、幼稚な差別に夢中になって、それで卑しみを満たすのか。

天国だと思って生きるより。
地獄だと思って生きる。
天国だと思えば、人生は艱難や恨みつらみの連続だけれど。
地獄だと思えば、人生はこんなものかと拍子抜けする。
絶望を捨て去って佇むより。
希望を捨て去って佇む。
希望しか知らなければ、世界は底なしの無価値。
絶望しか知らなければ、世界は尊い骸骨の宝庫。

また明日があるという文言は、羽ばたく風を起こさない。
また明日も、今日と同じかそれ以上の苦行が待っている。
また朝が来るという文言は、躍動する未来を意味しない。
目覚めたら、五感すべてに生の痛みが流し込まれる。
今しかないという文言は、決着を促すものではない。
今のような機会が実際は何度も訪れると言い当てている。
もう明日はないという文言は、終焉にはふさわしくない。
今日という日に意味を与え永劫の史実へと昇華する。

2004/08/21

一番わからないのは自分の気持ち、とは言うけれど。

寝ても覚めても、夢がつきまとう。
こうなってほしい、こうなればいいのに。極小のギャップの集積。
憎しみが消えることを願い。
金銭への崇拝から脱却し。
目で本心を伝えあえるように。
夢は決して尊く遠く取るに足らないものではない。
もっと卑しく痛くいつでも叶えられるもの。
現実とかけ離れた存在ではなく、常に現実に即応しているべきだ。

世の中はきれいごとばかりではないから。濁っているから。
だからこそ、純粋で美しいものに焦がれる。
得られないものを得ようとして、夢にすがる。
実際には、すぐ近くにあっても届かないものが多いから。
嫌だから疎むのではない。明確な目的を持って逃避する。
ぼくは自分のあらゆる嗜好に説明をつけられる。
理由、愛着、動機。愛とは信念。見境を失わない。
わけのわからない感情など、この心の中にはない。

ないと言っているだろ。

2004/08/22

確固たる意識を胸に秘めつづけるのは、なんと苦しいことだろうか。

知らなければよかった世界がある。知らなければよかった感情がある。
誰ともトラブルになどならなかったのに。傷つけはしなかったのに。
省みては負い目を感じてばかりの現在には陥らなかっただろうに。
そうだろうか。
今の自分を自分たらしめているのは、本当に過去の自分なのか。
失態への屈辱や後悔に縛られて動けないなんて、思い込みではないのか。
もっと子供で、愚かで、俗的で。自問自答するまでもない。
勘違い野郎。

自制心なんて簡単には身につかないし、矛盾だらけで説得力がない。
如何にしても抑えられない衝動こそが、人間の活力ではなかろうか。
そういったことをかなぐり棄却してきたのがぼくの歴史だった。
たとえば肉体と精神を切り離すこと。
たとえば理性と気概を切り離すこと。
たとえば恋慕と性愛を切り離すこと。
明確に線を引けない自分は弱くてみじめなのだとずっと思っていた。
ストイックに鞭打つだけ、取り返しのつかない傷が遺るだけなのに。

成功した人間が喜びを勝ち得るという前提に照らせば、ぼくは邪道だ。
悪徳を並べて背任に報われるべき立場なのに。世間のお荷物なのに。
自分で許せなくなるくらい多くの幸せを感じてしまえている。
自分勝手に生きられる生活を得、理解ある友人に相手をしてもらって。
誰にも邪魔されない環境と、無策で心を割り開ける環境の併有。
これ以上の贅沢があろうか。飾り立てる物なんてかえって不要。
両極端なふたつの部屋を行き来して、それぞれで笑って、生きていられる。
一方的に思いをかけて幻想に溺れているとしても、幸福には変わりない。

努力や人徳によって得たとも、罰や足枷として与えられたとも思わない。
一度は、いや一度ならず、何もかもを截とうとしたのだから。
本来ここにないはずの人生が、手放しかけた未来が、今ここにあって。
そのときそのときに真摯であろうとした積み重ね、なのだろうか。
自分を納得させることも、許すこともできない。庇いたくもないけれど。
こうして生きていくことを望むことはできるし、そのために何も惜しまない。
どんなに間違いだらけでも、また利己心の固まりでも、貫くしかない。
たったひとつの真実に到達した。あとは死ぬために生きるだけ。

企てではない。さらに醜いもの。

2004/08/23

いくつかの世界はそんなにも隔たっていて。

鳥を飼っている。
空舞う翼に魅了された。
それなのに小さい篭に拘束したりなんかして。
ひがみから、翼を封じてしまおうとする。
己を凌駕する存在を支配し、ときには絶滅させて、人間は進化してきたから。
結局。自由が気にくわないんだ。
自分より幸せそうにしているやつが憎たらしいんだ。
監視していなければ気が済まないんだ。

感覚を疑ってしまう。
手に入れたいものが何なのか、思い出せなくなる。
未来を怖れる。過去を並べて比較する手段は常套。
溺れまいとしてあえて遠ざける。
どうして、こんなに複雑に考えを巡らせて行動するのか。
決断を下せない状況をもどかしく思い。
見たり聞いたりしたものをそのまま信じられない。
情報は撹乱材料。何が有害とか何が危険とか、脅迫して足をすくませるばかり。

羽ばたくには程遠い自分の世界。見識の狭さをいつも嘆く。

2004/08/24

幸せが怖いの、何故。

無限の可能性、なんて簡単に夢みたいなこと言うけれど。
何かに挑戦すればするほど、その可能性の芽を摘んでいる。
進路は自分の手で決めるなんて、子ども騙しのまやかし。
実際に選んでいるのは企業。追い求めるのは採用内定。
自分なんて、旅に出て探したって見つかるわけない。
未知の世界に触れたって、自分の落ち度や限界を知るだけ。
争いのない平和な世の中なんて、永遠に訪れはしない。
闘争心や支配欲こそ人間の根元。誇りなき戦闘民族地球人。

誰もが飽き飽きしている。上澄みだらけの世の中。
遠い遠い希薄な空気の層である空を憧れるばかり。
奥底に沈殿した粘っこいヘドロを、手で触れもしない。
そのぬかるんだ大地こそを、人は歩いていくのに。
鬱積した欲望や憤懣がどのような形で爆発するのか。
昨今の幾多の事件が具体例を顕示しているというのに。
もっと汚さを知れ。社会の、人間の、そして自分の。
いちいち価値観を崩されていてはたまったものじゃない。

ぼくが信じられないの。

2004/08/26

人は退化の道を選択したがる。

ぼくたちを繋ぎ止めている力は、とても弱い。
些細なことで、簡単に壊れていく。
事業。
電話回線。
伝統や文化。
信頼関係。
婚姻。
そして、人体。

愚かとしか言いようがない。
破滅しか見えない将来を見越して身を投じるのだから。
簡単に欲しいものを手中に収めてしまう。
どんなに恐ろしいことか。危険性をわかっていない。
自分自身以外のものに価値を見出すなんて。
愛情を他のものに注げばそれだけ己を維持する力が衰える。
それでも手にしたいものがあるとみな言う。
あなたがいなければ生きていけないと。

殺し文句のつもりなのか。

2004/08/27

今日もひたすら足踏み。

窮地に追いつめられたときに人間の本性が出るもので。
ぼくはまた肝心な選択を放棄した。
何かを決めることが怖い。自分の意思を表明することが怖い。
煮え切らないと思われるだろうか。
意気地がないと思われるだろうか。
それを否定はできない。事実、倦ねているのだから。
だから、このまま軌道を外れていく惑星もあるだろう。
自分の中に重力を閉じこめているかぎり、それを引き寄せられない。

策略的にものを言う自分が嫌い。
思わせぶりな台詞や、裏の意味を含む表現を使ってしまうことが。
何も隠しだてはしたくないのに。
いつだって、無実でありたいのに。
ぼくにはもう、そんなことはできない。
自分を偽ることに慣れすぎて、本心を取り出すことができない。
この腹の底で何を謀っているのか。
知りたくないなどと、蓋をしてはいけなかった。

それでも、いつか。
この心を開けられる日が訪れたら。
一度だけ、自分ひとりで中を覗くんだ。
純粋であることが必ずしも美しくはないと、この目で実証するんだ。
そしてそっと入り口を閉ざす。
仕舞っておこう。すべての栄枯を。自慢と自戒の堆積を。
これまでの新しい自分のように、何もなかったことにして。
隠しごとなどないとうそぶいて、無実の過去を装って、生きていくんだ。

前には進んでいないが、地盤は確かに固まっている。

2004/08/28

返す言葉もない。

何の準備をしていたのか。
毎日の生活に追われ、おざなりにしてきたこと。
これは残件なのか。本来の日常そのものではないのか。
時間の使い方が、拙すぎる。
片づかない。手を止めて追憶に浸ってばかり。
懐かしさの中になんて、将来は見出せないのに。
未練ばかりが募って、捨てられなくて。
あれほど辱められた時間を、愛しんでさえいる。

誰に何と言われようと。
ここにはぼくのすべてがある。
重量とか価値とか、あるいはデータ容量では計れない、楽園。
長い年月をかけて、雨が大地を削るように。
この空間はここにできた。一人遊びの部屋。
あらゆる空腹を充足するよう設計された、究極の機能美。
そこに、ぼくは住んでいる。
一家の主として、守っている。

乱されたくなかった。指摘された通りの、拒んだ嘘の理由。

2004/08/30

やっと、到達したのだろうか。

投げても投げても、手紙は戻ってはこない。
それもそのはず。宛先が書かれていないから。
一人語りの戯言のようなこの文章は、かつて特定の誰かへのメッセージとして宛てられた。
その多くが、悪意を包含した。
不満や虐げられたことへの恨みが、他者への中傷と成した。
それと容易にわからないように、非難を書きつづける。
孤独に報復感を味わう、そのための場所だった。
ぼくの心の最も穢れた部分の、隠れ蓑だった。

もう久しく、その対象がいない。
自分のしていることがいかに愚かで誤ったことか、真に知ったときから。
無論、それがすべての罪から解放されたことを意味するとは思わないが。
反省しなければならなかった。
議論を伴わない悪口など、最たる醜い行いだと。
人間として最低の毎日を、繰り返してきたのだと。
だから、自分で毒牙を抜いてしまったぼくには、もう必要のないものだ。
無意味な単語の羅列が、今は並んでいるだけ。

己を晒し続ける終身刑へ。

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