[むかしのなぞ] 2003/11

2003/11/13

何をさせているのだろう。

自分が失策するだけならよい。
恥をさらし、損害を被り、苦しみにあえぐ。
蒔いた種が、すべて自分のもとに返ってくる。
それだけの単純な因果。
スタンドプレーに走りたければ走ればよい。
自滅したって勝手。

他人を巻きこむとなると話はそうはいかない。
指図したり、従わせたり、欺けないよう操ったり。
有無を言わせぬ交換条件を、提示して。
相手にだって人格も意志もあるのに、それを外部から動かすなんて。
もっと恐るべきことであるはずだ。
人間同士のやりとりとは、どちらが主導権を握るかの競り合い。

誰にも縛られたくない。
そう願う以上に、誰のことも縛りたくない。
関わりが深くなるほど、礼儀を忘れ横暴になってしまう。
過去にそうして裏切りの歴史を積み上げてきたから。
ぼくの言動や、もしくは存在が、誰かを苦しめるかもしれない。
ひとり遊びの世界に埋もれることで、危機を回避している。

人はそれぞれ違うし、人生も異なるから、真に同情なんてしえない。
何種類かに大別される感情のひとつを、呼応的に増幅させるだけ。
真似して、泣いたり怒ったり。それで慰められるのだから簡単なものだ。
実体のない心を伝達するには、感覚に訴えるしかない。たとえば痛覚。
自分が受けた苦痛を他者に分け与えることで、悔恨を軽減しようとする。
独りで地獄に堕ちるのが怖いから、人の足を引っぱって道連れにする。

心中しようとしているんだよ?

2003/11/14

憎めば憎むほど、離れられなくなっていく。

心の存在を占める念に愛憎は不問で。
忘れようと強く誓うほど、記憶に焼きついてしまうのと一緒で。
関わりたくない相手、殺したい感情、嫌気がさす社会。
どうして達観できないのだろう。聞き流せないのだろう。
誰もがめいめいの方法でつっぱっている。くだらない自己主張。
全身にくまなく転移した癌を取り去ることなどできずに。
ひたすら自己暗示をかけ、綺麗事を語り、腕を掴まえる。
手首を切り断ちでもしないかぎり、後戻りはできない。

好きと嫌いは、自分の中ではすでに表裏の関係などではなかった。

2003/11/15

求め合うことが罪ならば。

自分が誤っていることを自覚しているつもりだ。
どちらの意見が優勢であるか、そして、個人的な僻みでしかない劣勢。
この世界がどうして歩み続けられたか、という問いに遡る原理。
誰もが自己正当化のための理論しか述べない社会にあって。
たとえ間違っていようと自己を貫こうとする構えは、気高いのか。
それとも単なる虚勢なのか。いずれにも属さない、四面楚歌の孤高か。
今はただ、自分の状況や意思を表明しないのが得策だと思っているだけで。
それは、失敗と羞恥と派閥を、そして経歴の汚点を隠蔽する愚かな工作。

恋する想いも罪でしょうか。

2003/11/16

自分の気持ちが天秤のように揺れていることが、手に取るようにわかって。

窓から見える景色は、いつも同じに見えて、毎日少しずつ変化している。
天候、風、季節、建造物、それから心の中のファインダー。
ちょっとした変化が重なると、風景はまったく別物にもなりうる。
揺れ動いている。振れている。胸に手を当てれば感じる。こんなふうに。

だから、気紛れと言われるのだろう。
疎ましかったり、話したくなったり、献身的だったり、教唆したり。
どのような位置で自分は立っているべきか、そのスタンスを見失うことがある。
また一から積み上げなおし。

次の季節がやってくることは、誰にも言い当てられる。
だがいつから始まるか、気温がどれだけ変化するかは、予測できない。
確実なようで不確定。統計的なようで直感的。偶然と必然の境界線。
雲に問いかけても、彼自身もまた、移り気の申し子であるから。

それなのに、どうして秋だけが特別に閑寂さを倍加させるのだろう。

2003/11/17

眠くてしかたない。

不満を抱えた夜。
不安を抱えた夜。
雨粒が落ちる夜。
窓枠がきしむ夜。
音楽が流れる夜。
喧噪が漏れる夜。
友情を失った夜。
信頼を失った夜。

若いころ頭を使いすぎて、悩むことに疲弊してしまったから。
今は難しいことを考えるのを極力避けるようにしている。
それでも至らないところだらけで、それでもあくせくもがいている、生身の人間だから。
心と体のどこかに、無意識のうちに無理を働いて、生きてしまうものだから。
毎日のように議題は天から突きつけられる。
課題ではない。解く必要はない。結論を導くのも、雑談に終始するのも自由。
自分の人生と向きあうことから逃げるために、脳を睡眠に落とす。
寝て覚めてまた明日。きっと同じ過ちを重ねる。記憶とダメージだけが残る。

明日をも知れぬ命だなどと、ぼくはけして軽はずみに口にしたりはしない。

2003/11/18

ほら、苦しくなってきた。

足下に広がるは、闇色をした黒い綿花。足に絡む蔦。
頭の中の虚像を塗りつぶすように、敷き詰められる。
自由を奪われて身動きが取れなくなるまで、自分を甘やかしていた結果だ。
大空を羽ばたく鳥は、翼を失って途方に暮れる。地面をついばみもしない。
このままではいけないとわかっていて、どこかで手を抜く。
どうせ何とかなるという楽観が油断を生み、モラルを覆す。
凍え死ぬまで歌いつづけるがよい。格好や財産で自身を物語ろうとするのならば。
だが違うのだろう。平凡という名の集団に身を潜ませたがっている、ただの臆病。

他人に干渉しない、領域を侵さないことで、自分を守ってきた。
安易に手の内をさらすと後々不利になるから。戦略めいた距離。
孤軍で世間に抗うことに慣れてしまったから。
己の無知を知らず、恥を恥とも思わなくなる。
私欲を承知で見境なく貪る。自分だけの倫理規定しか頭にない。獣と呼ばずして何と呼ぶだろう。
矛盾が存在しても、他人から馬鹿にされても生き抜こうだなんて、いつまで強情を張る気だろう。
自分の正義を実証することに意味はあるのか。
内的世界を知らしめたいだけではなかろうか。

意地や自尊心だけで塗った壁が剥がれ落ちんとする、終焉の瞬間を迎えて。

2003/11/19

失敗したと思う日はたくさんあるのに、成功したと思う日はすこしもない。

また、自己陶酔ばかりの一日。
自分の理論、自分の価値観、自分の世界。夢は膨らむ。
その中では自分が主人公で、自分が恒真で、自分が絶対である。
枢軸に立ち、政敵を論破し、無限の閃きを生む。誰からも注目される存在。
そんな有頂天を模想しては、妄念を泳がせる。至福に酔いしれる。
現実を見ようとしないから、現実の姿を的確に捉えられなくなってくる。
ギャップに苦悶し、さらに壁を高くして閉塞する。籠城の悪循環。
あらゆる野望は叶えられ、そして完結する。

自画像がまったく反転したこの逃避に固執するかぎり、永遠に訪れやしない。

2003/11/20

きみに嫉妬していたなんて、言えるはずないだろう。
焦って馬鹿を見た顛末を含めて。

2003/11/21

苦しみを与えられることが幸福と感じるのは、おかしいだろうか。

多少は言い逃れや言いわけをする必要があるのかもしれない。
求めないかわりに、求められることを期待しない。そんな姿勢について。
説明責任は、常軌を逸する行為者によってこそ果たされるべきだ。
どこまで無関心であろうとするのだろう。それが悪事ではないとしても。
寡黙を美徳とする風潮は、寡黙を擁護するためにのみ存在している。
正しいか間違いか、有益か無益か、そんな議論そのものが意味を失っている。
ここに自分が存在して、今という瞬間があって、それだけでみな動く。
自由と自分勝手は、突き詰めればやはり同源であるのかもしれなかった。

人生を理解しているようで、実は何もわかっていない。見えていない。
明日のことはどうなるかわからないから、予定ひとつ立てられない。
この感情を表明することもためらうが、いなくなる可能性だって。
無論、今はその意志も度胸もないし、親より先立つわけにもいかない。
ただ、ぼくは心が弱い人間だから。エロースを保てなくなるかもしれない。
些細なきっかけや衝撃で、あるいはそれすらなくても。擲ってしまえるから。
前向きに考えても眼前は薄闇ばかり。上を向いても奈落の空が口を開ける。
どうせ行きつくところは同じ、と結論づけると安心感すら憶える。

だが、それではいけない、今のままではいけないとは思っているわけで。
とは言え念じるだけでは叶わない。精神論者のぼくもそれくらいわかる。
行動に移さないのは、端から打破できないと諦めているからに他ならない。
重要なのは、真理を疑わない領域にメスを入れ、意識改革を施すこと。
具体的な政策は論じるに難いし、成果が目に見えなければ苛立ってくるが。
それを逃げ口上にはできない。本当にただ現実から逃亡するだけになるから。
朝になって目が覚めてその日の自分の存在を確認するような生き方でなく。
もっと強い絆で、あるいは日常で、この身は縛られたがっている。

現状と立ち向かう気概を。不安に怯える間を与えないほどの忙殺を。
だから常に課題を突きつける。ドリルワークのような単調な問いでも。
余罪が残っていないか、何度も刑事役が犯人役を追及する。
洗い流せるものでないと知っていても、心の根まで掘り返して罵る。
それでもまだ足りない。自らを拘束する材料としては十分な分量でない。
第三者機関による監査。公正と客観を加味した痛快な痛みがほしい。
それは、どのような口実であれ、他人に打ち明けたかったというだけの話で。
そんな精神状態のときに出会ってしまったからいけなかったのだろうか。

わかってもらえるだなんて高望みしない。しなければよかった。

2003/11/22

本気で笑ったり、泣いたり怒ったり、どれくらいしていないだろう。

完全にやり返された気分。
意識していないと強く否定すればするほど疑わしい。
無頓着で、こだわりを持たなくて、ひたすらニュートラルを演じる。
見えないものに恐怖し、他人の視線に恐怖し、必死で芽を摘む。
下らないと見限ってきたこと、俗世にありふれた渦、氾濫。
それらはみな、ぼくの心の闇が映し出した劣等感に他ならなかった。
幻影に追いつめられているのは自分のほうだと、汚れきっているのだと。
言い当てられた気がして。屈辱だった。

血の巡りが悪くなって、すっかり冷えきった指先。
ベッドの縁にもたれて、不可思議な目で見下ろす。
状況に溺れてこうなったのではないと悔し紛れに言い放ったところで遠吠え。
取り繕うほど自分が惨めに思えて、悔しくなって。
文字通りの劣情。乱暴な言葉で傷つき傷つける。
なぜぼくが泣かなくちゃいけないんだろう。指摘されるがままの醜態。
理想なんて語るから痛い目に遭うんだって、何度思い知れば済むのか。
まだ夢を見ている子どもなんだ。

狂気に汚染され、暴徒化した正義に憑かれ、道なき道に堕ちた。
堅強で執拗な厭世観。
身体と性への疑問。
終末思想。死感。
この人間は、どこまで大丈夫なんだろうか。
自分の心拍数を把握できているのだろうか。
こんなことばかり口にして、他人に避けられることは考えないのだろうか。
自律が崩壊すると途端に脆くなる。破滅的な本性が剥き出しになる。

強さを得すぎてしまったのかもしれない。
暴動を弾圧する理性。心外の虚言で塗り固める表情。脚色に満ちた慈善。
隠そうとするたび自己嫌悪が深まる。他でもない自分を騙している。
やり場がなくて、どこにも出せなくて、しかし恐ろしさを身で知っていて。
どちらが本当でどちらが嘘なのか、演技か懇意かも、わからなくなった。
一番どうにもならなくなっているのはぼく自身。
笑っているどころではない。生涯を棒に振った朽ち枯れた人生なのだから。
それなのに、悪夢の一夜が明けたら、また笑顔で人前に顔を出すのだろう。

誰も本気で相手になんてしないから、ずっとわめいていればいいんだ。

2003/11/25

見栄なんて張らなくていい。見てくれなんて気にしない。
雨の中でもなりふり構わず飛び込む度胸と気迫。
そんな泥臭さを身につけたいと願っているのに。
泥の臭いを嗅いだことがないから、どうすればいいかわからない。

型にはまった無駄のない人生なんて面白味に欠ける。
失敗したって回り道したって、それが愛嬌というもの。
そんな人間臭さを身につけたいと願っているのに。
人間の臭いを嗅いだことがないから、どうすればいいかわからない。

2003/11/27

ぼくがペガサスになった日。

白い翼が欲しかった。
大きくても小さくても、蝋で固めていたってよかった。
空を飛びたいのではないし、空に近づきたいのでもない。
身を覆うものでさえあれば。
背中から特異な器官が突出すれば、それが変化の合図となろう。
額に角が生え、手足は馬蹄になり、輝く体毛がなびく。
異形の形こそが自分にはふさわしい肉体なのだから。
人間でも馬でもなく、きっと天使に近い立場として。

そうか。天使だった。
目には見えない、空想上の、もしくは宗教上の存在。
生を持ち、しかして生命たらない、魂だけの概念。
不必要なものは何も手にしない。身につけない。
自分を自分たらしめるのは背中の羽だけ。
遥か雲の向こうの冷えきった楽園から、地上を眺めて過ごす。
生まれては滅びる時の流れを、永遠の視点で、無感情で見守る。
昼も夜もない。光も闇もない。希望も、絶望もない。

人間としての自分に、自信がなかったから。
目標を見失ってしまったから。
生きることが辛い、死ぬことが怖い、だから生を超越したかった。
渦中に溺れるのはたくさんだった。
あくまで傍観者でありたかった。
火の粉がかからないように、手を煩わさないように。
赤の他人の人生を客観する感覚で自分と向き合っている気になっていたのかもしれない。
雲の上の存在になることで、自分の姿を抽象的に消してしまいたかった。

一方通行の昇華と知っていて。

« むかしのなぞ

ソーシャル/購読

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ