[むかしのなぞ] 2002/07

2002/07/01

ギャップどころか、けっしてまじわることのない、世界と世界。
その片一方、夢の中は、たったひとつの自分をすべてさらけられる場所。
けっして長くない、実世界のぼくが眠っているあいだだけ、ゲートは開く。
見たことのない景色にも、気分にあわせた空の色にも、自由に変えられて。
何もしなくても、考えなくても、だらけてても、なんだって許されて。
そして。好きなだけ会って、ふたりでしたいことを、たくさんして。
それは、けっして長くない、かぎられた時間がすぎれば、そこで追い出されてしまう。
…朝起きるのが苦手になってきたかもしれない。

2002/07/02

顔を上げられない。
だって、だめだよ。
こんなふうに、笑顔になれないもの。
こんなふうに、無垢になれないもの。
こんなふうに、吐露していないもの。
こんなふうに、努力していないもの。
何も見せられない。
ぼくは、だめだよ。

2002/07/03

耳を傾けるべきではなかった。
心の声。
内に潜む、悪魔の声。
記憶の操作を意図して。
責任の枷を無視して。
もう振り返らないこと、何も求めないこと、それが唯一かつ最善の、術であって。
それは同時に、最悪、でもあったのだけれど。
忘れてしまうなんて、あんがいかんたんなことだから。

2002/07/05

いつも、もらってばかりで。

2002/07/06

こんなに苦しくてつらい、感動があっただろうか。

知っていて。
わかっていることを、知っていて。
見られていることを、知っていて。
それでもなお、逃げることをえらばない。
はじめはせっかくの“新天地”を荒らしたくなどなかった。
けれどもう、セカイを抑えられなくて、押しとどめられなくて。
このこころは本物だから。
そしてここは、ぼくのこころの牙城だから。

あたらしい何かを見つけること、生き方を変えようとすることで、「昔の自分をなかったことにしたかった」だけなのかもしれない。

自分に対する、焦り。
気にしなくていいことばかり、推測して、詮索して。
一瞬でも気を許したらぼろぼろとはがれ落ちてしまいそうな、表情を保って。
歌詞や吹き出しのセリフに、感情を代弁させてばかりで。
もどかしくて。いてもたってもいられなくて。待ちきれなくて。
現実的な方法論ばかり議論の対象にしてしまって。
夢の中で、何度も幻を抱いて。
とっくにどうかなってしまっている。

どこまでが希望でどこからが欲望かもわからない、どこまでも果てのない“その先”。

真摯に伝えようとして表現を吟味するほど、抽象的でありきたりになり信憑性が薄れる、ことば。
よりかかることが重みにしかならないのなら、迷惑でしかないのなら。
「聞きたいことはいっぱいあるけど、でも、離れることになったら嫌だから、今は何も聞かない」。
どこかへ行ってしまわないように握りしめたら、強すぎる力で握りつぶしてしまうかもしれない。
正義とはえてして独善であって、愛情とはえてして自己満足であって。
すべてを認めたくても、わかってあげたくても、行きつくところはいつも、あらゆることを疑うこと、そして否定すること。
生きることの難しさ、そして自分の知らない自分を、いつも憂えて怖れて、ちぢこまってばかり。
それは正反対の不安。

確信できるのは、犯した罪の深さ、重さだけ。

ぼくは、どうして自分のことしか考えられないのか。
ぼくは、何かしなくていいのだろうか。
ぼくは、もっと否定されるべき存在なのではなかろうか。
ぼくは、こんなことをいつまでつづけるつもりなのか。
ぼくは、取り返しのつかないことをしてしまうのか。
ぼくは、このままでいいのだろうか。
ぼくは、自分が味わってきた苦しみを他人に与えなければ気がすまないのか。
ぼくは、本当はどこまで、そう思っているのか。

人並みの感情も幸福も持つことを許されていない、存在として。

それでも、雨露から守る、軒先になれたら。

2002/07/07

たとえば今日といういちにちでも。
過ぎゆく時間を指折り数えて。
叶えられることなんてなにひとつなくて。
まだるい満足に身を浸して、むなしさが悲しく押しよせて。
ふと怖くなってしまうこともある。
今はけして今のためにあるのではないけれど。
気がつくと溺れてしまっていて。
このままでなんて、いたくないから。

2002/07/08

ここから抜け出したくて、いつも。
非日常に焦がれて。
どんな事故や事件も、遠い話のようで、なにかのひとこまのようで。
空がひとつだなんて信じられなくて。
それは不謹慎、暗黙の諒解など知らない世間知らずの不謹慎。
空想とはそういうもので。
何を憂えているのだろう。
こんなに満たされているのに、幸せなのに、まだ何が物足りないというのか。

2002/07/11

傾倒しきった、濁った幹の中を。
流れているのは、つながっているのは、感じている以上に無機で、無散で、一時的な確保。
見えなくなっている、周囲が、現実が、あるいは自分が、それは見ようとしなくなっているということ。
いかに閉塞するか、自己に隔絶するか、そして呼吸も排泄も忘れて。
影を意図的に作ろうとしたり、像に対して盲目であったり、都合よく信心深くなってみせたり。
望まないものを見ようとしなくて、それで何を知ったといえるのか。
深層を超えた冷酷は、いつも自らを赦すように、逃げ場所をいくつも用意している。
そういうぼくが、蟒のような、ぼくがいる。

2002/07/12

自分の一部を切り離したら。
信じられないことが、想像もつかないことが、つぎつぎと目の前で。
それは恐ろしくて、汚くて、腐りきっていて、黒い水がたまってじめじめした地下室のようで。
あるいは文字通りの、そして心が、囚われて、穢れて、環境を喪失して壊死していく感覚。
疲れきった、ぼろぼろになった精神は、徐々に回復しつつあるものの依然として爪跡は深く。
もう、怖いことなど、悪いことなど、そんな世界の存在そのものも、信じたくなくて。
けれどもう、蘇生することなどないのかもしれない。
本当のぼくを知ったら、みんな消えていくんだ。

2002/07/13

毒にも、薬にも。
もうどれだけ、埋めつくされているか、そしてそれをひた隠しにすることに躍起になっているか。
狂言的な命題だけがつぎつぎに蓄積され、いずれ究極の理想体をも通り越して、しかしそれはすべて虚構。
それは非常に危険な、非決定性求解。
ありもしないキー値を対象に、深さ優先でどこまでも探索をつづける、底なし沼をずぶずぶと、深く深く潜り落ちて。
どこにも行けず、どこにも戻れず、無限ループに捕らえられ、あとは穀をつぶすだけの生物。
見つからないから探しつづけるのだろうか、それがけっして叶えられることのない完全問題であったとしても?
あるいは、不可解を証明することも成果たりうるとして。

2002/07/14

抜け出せるほど、弱くて。

過去へ進む時間。
積み上げるのは長くて、苦しくて、磨り耗って、しかしそれを崩すのは一瞬で、かんたんで、何の悩みもいらない。
どれだけ平静を装っても、生きているふりをしていても、もはや費えきった精神は戻らない。
ぼろぼろと、剥げていくだけの。
そして、熱を持たせるだけの。
うなされて、何も考えられなくなって、堕ちていく、いつ再び苛まれるともしれぬ、威迫。
押し囲まれて、憤ることもなく、雪崩れることもなく、あるいは見透かされることも咎められることもなく、ただわずかな呼吸音のみ。
生きることはこんなにも。

だから支えが必要だなんて、弱い意志だろうか。

つつがない、一途を。
それが歪んだそれでしかないとしても、もう自己修築は止めどなく。
空白が、溢れて、均衡を、緊張を、薙ぎ潰していく。
みずから張り巡らせた防衛線がつぎつぎ決壊し監視対象範囲は拡がるばかり。
あるいは、内側から。
3枚の呪符を使い果たしてもなお迫り来る山姥の形相たる恐怖、きっとそのように見えるのだろう。
これほども狂おしくて、狡猾で、惨くて、そのほかならぬ過罪の鬱積にあって、いまだその手を汚しつづける。
けっして消えることなく、これからも重ねていく、虐悪。

奪うことは、どちらなのだろうか。

2002/07/15

森に紛れて。
ひとりぼっちの、かなしい、森にいて。
自分の足が葉っぱを踏む音しか、聞こえないんだって。
見上げても、光は見えないし。
夜は木々がいっせいに泣き出す。
歩きつかれてうずくまったら、どんどん、かなしくなってくる。
人知れずさまよっている、心の森。
照らしてあげて。おともだちに、なってあげて。

2002/07/16

気づいている、気づいていない。
わからない…なにもかも、中途半端で。
イメージングを妨げる一切のものを遮断して。
押したら、岩が動く。それだけのことのはずなのに。
目標なんかに、定めてしまってよいのか。
今でもじゅうぶんすぎるほど、頼りきっているのに。
いつかそうなったら、泣いてしまうだろうか。
思いが強ければ、それだけ、こわくなる。

2002/07/17

だめだめくん。
何も言っちゃだめ、質問しちゃだめ。
表情をくずして笑っちゃだめ、楽しんじゃだめ。
合わせようとしちゃだめ、近づいちゃだめ。
心配しちゃだめ、やさしさも弱さも、見せちゃだめ。
甘えちゃだめ、縛っちゃだめ、迷惑をかけちゃだめ。
これ以上、好きになっちゃだめ。
…だめなんて言っちゃだめ。

2002/07/19

いやでも、行かなければならないときがある。
ほかのすべてをなげうって、無理をしなければならないときがある。
この時間も、いつ消えてしまうともわからない。
あるいははじめから、前提のもとに動いているとしたら。
ほしいものだけ、手元において、それでもまだ心もとなくて。
さらに奪われようとしているのだから。
望むことがまちがいなのだろうか、罪なのだろうか。
…だから焦っているのか。

2002/07/20

ぼくは、おとこのこなんだ。
だれもがもっていたもの、いつかはわすれてしまうもの、そしてかわっていくもの。
どんなにいまとはちがっても、どんなにとおくても、ぼくはいきていた。
そのときたしかに。
ひっくりかえってもほかのものになんてなれない、ううん、なくしたくないよ。
こんなきもちを、たいせつなものを、そのすばらしさを、いまはしっているから。
そのままでいいって、みとめてあげたい。
あのときの、おとこのこだったぼくに。

2002/07/21

張られた予防線を、ひとつひとつ。
突き抜ける空の青のように、吸いこまれて。
山の色も、風のにおいも、きっときのうとちがうもので。
不安も、夢も、未来も、ゆううつも、きっとそれだけ。

雲は、流されているんじゃないよ。
雨をとどけに向かっているんだ。
身をけずって、なみだを降らせているんだ。
それでも雲のように生きたいって思えるのなら。

理由はいくつもないのに、なにかに毒されるたびに、よけいな知恵をつけてしまう気がして。
どんなふうになんて、考えたくない。
自分のままでありつづけることはどんどんむずかしくなっていくけれど。
明日のために今日を生きているなんてとても言えやしないけれど。

そういうことじゃなかったはずなのに。
よそ見もしないで、まっすぐなままで、ただ笑っていたかったのに。
“現実”のせいにしようとしているけれど、本当は、ここから抜け出したいと願っているのはぼく自身かもしれなくて。
どうしたいんだろう。

2002/07/22

もう何もいらない。
わずらわしいことは、みんな捨ててきたんだ。
うわべだけのものは、みんな捨ててきたんだ。
おもさのないものは、みんな捨ててきたんだ。
おとなのまねごとは、みんな捨ててきたんだ。
うたがいのきもちは、みんな捨ててきたんだ。
くろくさびたゆめは、みんな捨ててきたんだ。
ぼくにはこれからがあるから。

2002/07/23

どこまでもくるくると。
ねじ曲がった鎖を、引きはがして、引きちぎって、拘束された芯。
どれだけ吐き出せば、わだかまりは消えるのだろう。
内臓がめくれ出るまで、なげうって、突き刺して、それでも満たされることはなく。
縛られることから逃れ、巻きつくことを渇して。
見えない真実、自分自身という、真実。
目が回って見えなくなるよう、考えられなくなるよう。
光を失おうとも。

2002/07/24

結論を急いで、はやる気持ち。
自分の中にひとつしか存在しえない、それはまちがいのないことだとしても、ときに身勝手で一方的で、だから苦しくなる。
感情の貧困であふれかえっていて、どんなことばも物質も薄っぺらで安っぽくて、とても媒介たりえない。
けれど心は見えないから、触れあって求めあって、その中で感じとっていくしかない。
ことばの意味など考えたくもなくて、たとえばの話など考えもおよばなくて。
可能性はあくまで可能性であり、すべてがハルシネーションであり。
それは自分がより理想の状態に近づかんとするための手段なのだろうか。
それでも、今が今のままであってほしいなんて。

2002/07/27

そういうふうに考えてしまいたくて。
なかったことにしてしまいたくて。
無理をしてしまいたくて。
許してしまいたくて。
見栄をはってしまいたくて。
近づきたいと願ってしまいたくて。
つかんでいてしまいたくて。
しまってしまいたくなんか、なくて。

2002/07/28

セカイを分断するものなどどこにもない。信じたくない。
夢にだって、あこがれにだって、自由にアクセスできて。
子供のままでいい、とまっていてもいい。待っていたい。
うまく伝わらなくても、届かなくても、それでもいいの。
思うだけでこんなに、やさしさやあたたかさが広がって。
だから、かなわないことだなんてあきらめたりしないで。
ありっこないんだったら、これから、つくっていこうよ。
ふたつのこれから、ひとつのしあわせ、その片翼として。

2002/07/29

逃げ場を失うこと、奪うこと、それを怖れる者、画策する者、甘んじる者。そんな具体性。
その中にあって、まるで他人事のような、あるいは月並みな悩みごとのような。
悲しみに暮れるそのことばの奥の、肝心なものはどうして、なにも理解できないのだろう。
自分の無力さを、なにひとつできないことを、痛感するたびに、ただただ悔しくて、ここにいられる資格さえ喪失してしまいそうになる。
なんの事実関係があったわけでもないのに、かってにその気になって、有頂天になって、演じきって、幸せそうな顔をして、こんなのバカみたいだ。
“「それ」を幸せと感じるかどうかは、あなたが決めること。”とは言われても。
こんなに侮蔑的で、エゴイスティックで、張りぼてみたいな、自分が生きているのかも生かされているのかもわからないほどの幸福がほかにあろうか。
いつか、切断した身体の一部たる枷となるとも。

2002/07/30

細く曲がりくねった、雑草だらけで足下もおぼつかない、長い長い畷を伝って。
手の内をすべてさらけて、ありったけ覗き見て、とても対等とは言えない労働条件にあって。
すべての文字列は、ありえない対話をなしている。
いずれ途絶えようとも、奔流がハーヴェストを押し崩そうとも、それで取り消せる過ちなどないのだ。
また来年、種を蒔いて、ぬめった畦を延々歩き潰して、日照を興して、懲りずに挑む。
噤んだストロークも紡いだストロークも、すべてこの手の中、指が蘇らせる。
糧を求めて、結実を祈って、それが慾なのだろう。
たったひとつ、その場所へ誘う道。

2002/07/31

科されるもの。償うもの。忘れさせるもの。
幾多重ねた、自身のなれの果てを。
でも結局は今に委ねている。四肢を投げ出して、漂っている。
この時間が、この生活が、この世界がなくなったとき。
沈没しようとも、埋葬されようとも。
遺そうとしたものは消えたりはしない。
過去も、呵責も、この気持ちも、ぼくも。
剥がれゆく今たるとも、ここに全霊を託そう。

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