「――すみません、シグナム副隊長! 自主トレにつきあってもらって」
「なに、これも私の務め。昼間なかなか訓練に加われんからな」
「ヴィータ副隊長も……! ご指導ありがとうございます!」
「いいからよそ見すんな! …ったく、相手はうちのリーダーだぞ? 反撃の隙を与えねーように攻撃に集中しろ」
「はっ、はい! …たあああっ!」
「ふむ…いい太刀筋だ。まだまだ粗いが、それでこそ鍛え甲斐があるというもの」
「とか言ってシグナム、ホントは一人前の騎士に育ちつつあるエリオのことが気になってんだろ?」
「バッ…! なな何を言うのだヴィータ!」
「……! 今だ、そこっ!」
「なっ――――」
「おおー…。すげえぞアイツ、シグナムの木刀を弾き飛ばしやがった」
「…や、やった! 副隊長から一本取りましたよ」
「あ、ああ…。というかエリオ……、貴様わざとやっているのか?」
「えっ? 何がです?」
「…おまえの得物が私の胸に押しつけられているんだが」
「うわわ…っ! ごご、ごめんなさい! けしてわざとじゃ…」
「……かっ、構わん。好きにしろ」
「何をですかー!? ていうかなんでちょっと顔赤くしちゃってるんですか!」
「いやこんな棒切れなどではなく……いっそ手で! おまえの両手で直接…! さあ存分に揉みしだくがいいこの胸をッッ!」
「そんな堂々とされたらかえってやりづら……じゃない! そんなことするわけないじゃないですか!!」
「――実際の戦場じゃそういう話もある、ってことだろ? シグナムが言いてーのは」
「ヴィータ副隊長…?」
「……あたしらヴォルケンリッターは古代ベルカでいくつもの戦争を見てきた。極限状態に追い込まれた人間たちが、どんなイカれた行動に出るかもな」
「敗者は時として、死よりも屈しがたい辱めを受ける。理性を喪失した者たちの、口では語れん卑劣な行為によって…な」
「…ゴクッ。で、ですが……、魔法戦が主体の今の時代にそんなこと…」
「何ノンキなこと言ってやがる。本物の戦争を知らねえ奴のセリフだ、んなもん」
「その甘さが、今のエリオの弱さだ。現実を見ろ、経験を積め、大人になれ」
「は、はあ…。じゃあ僕はどうすれば……痛っ! はっ離してくださいシグナム副隊長!」
「――例えばの話だ。おまえが敵の捕虜になり監禁された場合を想定しよう」
「想定が具体的すぎませんか!?」
「ありえねー話じゃねえだろ? エリオみてえな美少年、男にも女にも狙われる可能性あんだからよ」
「本当にありそうだから微妙に笑えないー! って、狙うってやっぱりそっちの意味で…!?」
「フフフ…、他に何があると言うのだ?」
「うあっ…! み…耳元でしゃべられると息が……!」
「情けねえ声出してんじゃねーよ、ったく。…シグナムに両腕つかまれたぐれーでそんな顔しやがって」
「だ…だってこれ本当に痛くて……って! ヴィータ副隊長! なんで僕のズボン下ろしてるんですか!?」
「…なんだ? なんか引っかかってうまく下ろせねーぞ?」
「なんかって!! いや、ちょっ…! そんな無理やり引っぱったら…んああっ!」
「……感謝するがいい、エリオ。ここからは副隊長陣による特別訓練だ」
「何の訓練ですかこれー! というか、一体何するつもりですかっ?」
「話聞いてただろ? エリオに現実ってもんを教えてやるよ…ヘヘッ」
「嫌ならば逃げても構わんぞ。……私の腕力から逃れられれば、の話だがな」
「ぐあああっ…! …って、ヴィータ副隊長も! だっ、それ下ろしちゃっ、…み、見ないでくださ……っ」
「……あーあー、こんなパンパンにしちまって。マゾなんじゃねーの?」
「嘆かわしい。これではかえって敵を喜ばせるだけではないか」
「ううっ……。ちがっ…うんです、これは体が勝手に……」
「だーから。それが現実なんだっつーの。わかったら大人しくしてろよ?」
「えっ…も、もしかして本当にそっちの……? まま、待ってください…! 僕はともかく、お二人は……なんて言うかその、――いいんですか?」
「…ああ。我々のことは気にするな。もう慣れた」
「え……」
「過去の『闇の書』のマスターの中には、そういう奴もいたんだよ。あたしらをページ蒐集の駒としてだけじゃなく、てめえの欲望のはけ口に使ってた奴が」
「使う…って、そんな……っ」
「守護騎士は人間の姿をしているが人間ではない。だからどれほど手荒な真似をしようと心は痛まんし、万が一…を案ずる必要もなかったのだろう」
「あたしみてーなナリでも、需要とかあんだよな。さすがに人間に失望したぜ」
「け、けどっ…。副隊長たちほどの実力があれば抵抗できたんじゃ…?」
「主の命令には逆らえん。絶対服従――そうプログラムされていたからな」
「……っ」
「なんだエリオ? …同情してんだったらやめろよな」
「全くだ。別にそのような主ばかりだったわけではない。たとえば今の主はやて…は……、…くっ、思い返すも思い返すも破廉恥なセクハラの数々……!」
「ある意味はやてが歴代の中で一番スケベかもな……。嫌じゃねーけど」
「あはは……。八神部隊長って…」
「…ッ! 主はやてを侮辱するとは貴様許さん!」
「してませんっ! 断固してませんっ!!」
「まだ状況わかってねえみてーだな、エリオは。……ん? なんかさっきよりカタくなってねえか…?」
「下着の上からでも丸わかりとは…。さては、私たちの卑猥な話を聞いて昂ったな?」
「…ていうか、お二人がそんなジロジロ見るから……んうっ」
「おいおい……。しょうがねえなー、あたしが何とかしてやるよ」
「何とかって――まさか! いや、まっ、ちょっと、それマズイですってば…!」
「心配いらねぇ。ちゃんとエリオのストラーダを待機状態に戻してやっから」
「コレはストラーダじゃないです!!」
「ヴィータが好かんのなら私でもいいぞ? この誇り高き双峰でおまえの」
「格好いいこと言いながら胸をグリグリ押しつけないでくださいっ!」
「何と言うか……。主はやてが女の子だったから…な。我々もご無沙汰でな」
「なっ……!?」
「……つーわけだ。悪く思うなよ? まあ一応訓練は訓練なんだけどよ。……さあ、てめーは何分もつかな?」
「何がですかー!! いやいやいや…まま待ってください! こっこんなの絶対ダメっ……! くっ――ソニックムーブ!」
「なっ……?! アイツ消えやがった…」
「…! あんなところに! クッ、逃げ足の速い……!」
「きょ、今日はご指導ありがとうございました! でもこれ以上は…ごめんなさい~っ」