江利子「おーい、持ってきたわよー。どこに持って入る?」
令「あー、どうしましょう。二階でもできるものなんですか?」
江利子「畳の部屋はやめた方がいいかな」
よしの「でこちん! ごきーっす!」
江利子「よっ。よしのちゃん」
よしの「はい! たすぽです!」
江利子「何これ……って、なんでよしのちゃんが持ってるの?」
よしの「なんだこれ? きだ」
令「材料ってこれで全部ですか」
江利子「いいえ、外にまだまだあるわ」
令「でしたら結構場所使いますよね。ごみとか出ます?」
江利子「出るわね。木くずとか」
よしの「なにー? これなに?」
令「でしたら外でしましょうか。あ、でも作ってからだと部屋に運ぶのが大変に……」
よしの「なーにー?」
江利子「どっちみちカンナがけするときは外の方がいいわよ。削りくず出るから」
よしの「なにするのー!」
令「そうですか。だったら全部外でやりましょう。家の庭で」
江利子「そうしましょうか」
よしの「なにするんだー?! おしえておしえてー!」
令「お? 今日は、階段を作る」
よしの「かいだんつくるのかー。どんなかいだんつくる?」
江利子「かっこいい階段よ」
よしの「でっかい? いっぱいのぼれる?」
江利子「ええ、櫓のてっぺんにも登れるわ」
よしの「おー……? ……それはなにかいてる?」
江利子「これは印。ここに穴を開けるの」
よしの「どうやってあなあける? デコフラッシュか?」
江利子「それでどうやって開けろっていうの……。そんなのよりもっといいものを使うから」
よしの「それはいいものだ!」
江利子「いやまだ何も言ってないし」
令「この辺のは端材ですか? もう使いません?」
江利子「いらないわよー」
令「何か作れないかな……」
江利子「そうだ、よしのちゃん。自転車は乗ってる?」
よしの「……」
江利子「私も今度自転車で来ようかな……ってどうしたの?」
よしの「よしのいまじてんしゃのっちゃだめ。けんしんでござる」
江利子「けんしん?」
よしの「ぜったいにはたらきたくないでござる!」
江利子「働かないも何も高校生でしょ……」
令「謹慎でしょ。謹慎中」
江利子「謹慎って、何やらかしたの? 当て逃げ? それともエアロバキバキ?」
よしの「じてんしゃでさちこのいえにいったらなー、ケーキもっていったんだけどなー、めんきょがなかったかられーちゃんにおこられてしかられた」
江利子「なるほどー、無免許運転ってわけか。危なかったわねー。それ警察に見つかったら逮捕されてたわよ?」
よしの「たいーほ!! た、たいーほされたらじたくのおしいれとかパソコンとかしらべられるんだぞ……」
江利子「よく知ってるじゃない。……って、何か見られるとまずい物でも入ってるわけ?」
令「お姉さま、練習に何か作りたいんですけど……」
江利子「それだったら作業台をお願い。あ、まさしくその形でいいから」
令「わかりました。それじゃ、穴を開けるか」
よしの「あけるか?!」
令「……シャキィーン!」
よしの「おおー! なんだそれ! かっこいいぞ?!」
令「これはドリル」
よしの「ドリル?! おとこのロマン?」
令「うん。私女だけど。いくよー、見てな」
よしの「お、おう……」
ギュイイイイ……。
よしの「お……!」
令「……ふう。まあまあかな」
よしの「あいた! ……よしのも! つぎはよしののターン!」
令「いいよ、一緒にやろうか」
よしの「うん!」
令「こうして……はい、引き金を引く」
よしの「ぽちっとな?」
ギュギュギュギュ……。
よしの「おおう?!」
令「うん、いいよいいよー」
よしの「でこちん、あなあけたー」
江利子「そしたら次はネジね。ドリルの先をドライバーに替えて……、これでネジを締める」
令「よし、やってみるか」
よしの「まきますか? まきませんか?」
ギュイイイイ……。
令「お……曲がっていく……」
よしの「……むずかしーな?」
令「うまく垂直にするにはどうしたら……?」
江利子「がんばれ?」
よしの「おお……。できた! うりものみたい!」
令「へえ、意外とできるもんですね。これがあれば何でも作れそうな気がしてきた……!」
よしの「なー? つくれるなー! よしのはれーちゃんのこど」
令「ゲフンゲフンッ! よ、よしのには色々教えないといけないわね……。とりあえず、よしのにアクセサリーを作ってあげる」
よしの「おー!」
『自重』
令「それつけときなさい」
よしの「やったー!」
令「……意味わかってる?」
江利子「令ー、この印つけたところ、穴開けていってよ。その台の上でやったらいいわ」
令「わかりました」
よしの「よしのは? よしのはなにしたらいい?!」
江利子「んー、カンナかけてもらいましょうか」
よしの「かんな? りゅーきゅーからて?」
江利子「それはちょっと古いかな」
よしの「おじゃるまる?」
江利子「……中の人がね。これで板をシャーッシャーッて削るの。こうやって」
よしの「かつおぶし?」
江利子「そう、そんな感じ。こうすると板の厚さが均一になって上り下りしやすくなるから。これはとっても重要な仕事よ? よしのちゃんにできる?」
よしの「もちろんだとも!」
ギュイイ、ギュイイイ……。
シャッ、シャッ。
よしの「はー……。ん? なんかきた」
ガラガラガラ……。
ちさと「……」
よしの「!! あーーー! どろぼーねこがきた!」
令「ほんとだ、猫っ被りが来た」
江利子「よくわかんないけど……子猫ちゃんが来た」
ちさと「何なんですか……。黄薔薇さまとか初対面なのに」
江利子「いや、ついノリで」
ちさと「それ何してるんです? 何か作ってるんですか、それ」
江利子「階段よ。花寺学院の学園祭で使うの」
よしの「すげーだろ?!」
ちさと「階段? 花寺の? うっわ、めんどくさ……。どうしてリリアンが作らなくちゃいけないんですか」
江利子「大工仕事なんて珍しいから面白いじゃない?」
令「リリアンとの合同イベントで使うのよ。花寺が用意してくれた梯子じゃ、私たちは櫓に登りづらい。下からスカート覗かれるかもしれないし」
ちさと「はあ」
令「それでどうしたらいいかお姉さまに相談したら、階段作ろうって」
ちさと「へー。黄薔薇さま作れるんですかー」
江利子「うち、兄弟が兄三人だからね」
ちさと「じゃあ私の鏡台作ってください」
江利子「ホワイ、なぜ?」
よしの「たぬまちさと! なにしにきやがった! またクッキーたべにきたのか?!」
ちさと「そうよ?」
よしの「おのれー!」
ちさと「令さまー。ミルクあっためたいので、台所お借りしますね」
よしの「かえせよ! むしろかえれ!」
ちさと「よしのさん、それ何つけてるの? 自重……プフーッ」
よしの「わらうな! ちさともじちょーしろ!」
江利子「ああ、私たちもお昼にしましょうか。何か買ってくるわ」
よしの「でこちん、たのんだぞー!」
令「ええ……えっ?」
江利子「何よその顔……。もしかしてパシリさせられたかった?」
令「いいえっ! まさかまさか……」
ちさと「へえ、ドリルなんか使うんですか。プロっぽいですね。……私もちょっとやってみようかな。この印のところを開ければいいんですね?」
よしの「ちさとできるのか? だいじなかいだんだ! しっぱいすんな!」
ちさと「大丈夫よ、よしのさんじゃあるまいし。えーと……」
よしの「ここ! ここのしるし!」
ちさと「ここかな」
よしの「ちがう、ここ!」
ちさと「ここ?」
よしの「ここっつってんだろ!」
ちさと「……じゃあかしいわ!! 黙って見てやがれ! てめえのツラに穴あけたろかゴルァ!!」
よしの「ギャーッ! ……あいつはじんぎなきやつだ!」
令「そうね、仁義ないね」
江利子「仁義ないわね」
ちさと「ふう……。それじゃ私はこれで」
江利子「はいよー」
ちさと「またね、よしのさん。……次はフルボッコにしてやるから」
よしの「してやんよ! みっくみくに!」
江利子「穴は開いたから、いよいよ組み立てね」
よしの「よしのはなにする?」
ぶちゅー。
江利子「そう、そうやってダーッと出して。指で全体に広げる……こう」
よしの「うわー、○○○みたい……。○○○かな?」
江利子「伏せ字とか超やめーい」
よしの「ぱくっ」
令「あっ!」
よしの「……」
令「……。どんな味?」
よしの「れーちゃんのならのめるよ?」
令「私のって何ー! ありえないからそれ! そして質問に答えてないし!」
よしの「……まずい」
令「今すぐ洗面所に行ってうがいしてきなさい」
ギュギギギギ……ギギギゴゴ……。
令「おーっ。ビューティフル」
よしの「できあがり?」
江利子「いや、あとニス塗りとかあるけど、それはボンド乾いてからね」
令「それじゃ、今日の分はここまでですね」
よしの「おー!」
令「はあ、いいのができるものね」
よしの「どこにのぼろっかな? どこにのぼろっかなー?」
だだだだっ。
よしの「やっほー! てっぺんだー!」
令「おお、高い高い」
よしの「なー!」
令「それじゃ、そろそろ夕飯の買い物に行かないと。よしの、自転車取ってきなさい」
よしの「! じてんしゃいいのか?」
令「よしのは今日、お手伝いをいっぱい頑張ったよね?」
よしの「はい! がんばっちゃ! ……やっちゃっちゃ?」
令「だから謹慎おしまい。乗ってもいいよ。その代わり、もう一人で勝手に出かけないでね」
よしの「はいっ!」
令「もう、こういうときの返事は必要以上にいいんだから」
よしの「れーちゃんさいこー!(ガバーッ)」
令「コラーッ! 私の上にじゃなくて!!」