よしの「ファイトー、しゅっぱーつ!」
チリンチリーン……ふらふら。
よしの「ううう、じてんしゃふらふらする……。でもケーキもってかないと」
……ぽつーん。
よしの「って、さちこんちどっちだ?! ……たぶんこっち! そんなきがする!」
よしの「はー。のどかだなあ。サイクリングヤッホーだなあ」
そよそよ…。
よしの「かぜふいてるなー。きもちいいなー」
ざわ…。ざわ…。
よしの「それなんかちがう!」
よしの「お? なんかとんでる……」
ブーン……ぴとっ。
よしの「あ、とんぼだ! まてまてー! あさっぱらからナンパかよー」
チリンチリーン……ガクンッ。
よしの「おわ?! ……あぶないあぶない、あやうくおちるとこだったぜー。……ん?」
祥子「……」
よしの「さちこはけーん! なんかはしってる……どこいくんだ? さちこー!」
祥子「……」
よしの「きこえてない?! こらー、またんかいわれー!」
よしの「たしかこっちに……。……! の、のぼりざか……きつそう」
ブロロロロ……。
よしの「でも、ここのぼらないとむこうにいけない……。うううう……よし! ……あんパン!」
スタ、スタ、スタ。
よしの「……マスタード・タラモサラダサンドのほうがもうちょっとがんばれる?」
スタ、スタ……。
よしの「ふうー……。じてんしゃおしながらのぼるのはきつい……。ちょっときゅうけい」
むしゃむしゃ。
よしの「れーちゃんのケーキおいしいなあ。……はっ! このおいしさをさちこにもおしえないと! まってろ!」
よしの「とおもったら、つぎはくだり……。ここあぶない、ここはあぶないな?」
ブロロロロ……。
よしの「いいかおまえら、おすなよ? ぜったいおすなよ? ……よしのだれにいってんだ?」
ズッ……ズズズズズ。
よしの「あー!! じてんしゃがかってに! ちょっとストップ! ミニストップ!」
ガッ……! ズザザーッ!
よしの「ぎゃふんっ!」
ごろごろごろ……ポフッ。
よしの「いてっ……とおもったけど、ケーキだからあんましいたくなかった」
よしの「……」
むしゃむしゃ……。
よしの「……はー。ちょっとげんきでた。これからどっちにいけば……」
ブロロロロ……。
よしの「あ! あのくるま、みたことある! くろぬりのくるま!」
ブゥーン、ブゥーン、ブウウゥーン……。
よしの「なんかいっぱいでてきた?! みんなおなじほうにむかってる……。くみちょうをおでむかえするのか? ……いってみよう」
よしの「ふう、ふう……。ん? なんかもんがあいて……」
ブロロロロ……。
よしの「くるまがみんなあのなかにはいってく。……さちこもきっとここにいる!」
チリンチリーン……キキッ。
よしの「で、でけぇー。くにがどうろとくてーざいげんをむだづかいしてつくったにちがいない。せっかくだからはいってみようぜぇ」
よしの「さちこー、さちこー! ……へやがいっぱいあってまよいそう。ここはなんだ?」
ガラガラガラ。
よしの「……だいどころか? ん? なんかまわってる」
ゴオオオオ……。
よしの「でけーっ! ぎょーむようのオーブンだ、すっげえー。……こっちはふつうのオーブン。つかいやすいレンジきのうつき」
よしの「このへやは……? おお、ふとんがいっぱい……。ふとんのためのへやか?」
使用人「ん? 今、何か人の気配が……?」
よしの「このふとん、くずれそう。よしのがなおしてやろう……、って!」
ドサドサドサーッ!
よしの「あっー!」
使用人「え……?! ちょっ、な……何?! あなた誰なの?!」
よしの「……ちがう!! よしのじゃないよ!」
使用人「あっ、こら、待ちなさい!」
よしの「……はあ、はあ。こ、ここまでにげれば……」
ぐうううう~~。
よしの「……。おなかすいたな?」
むしゃむしゃ……。
よしの「うぷっ。はー……、さちこどこかなー……」
よしの「Zzzz……」
使用人たち「どこから入ってきたのかしら……」
使用人たち「警察呼んだ方が……」
使用人たち「でも女の子よ……」
使用人たち「なんでケーキ持ってるの……」
使用人たち「それにしてもすごい寝相……」
よしの「……ん――。はっ! ここはどこだ!」
使用人「あ……。あの、おはよう」
よしの「ごきらっきー! ……おねーさんはだれ? わふうコスプレきっさのひと?」
使用人「いや違うけど……」
使用人「あなたこそ、なんでこんなところに入ってきたの?」
よしの「あ……! さちこ! さちこにケーキもってきた!」
使用人「さちこって……小笠原祥子さま?」
よしの「! それ! おがさわらさちこ!」
使用人「ということは、祥子お嬢さまのお知り合い……?」
使用人「そのようね」
祥子「ふう……たまには朝のジョギングもいいわね」
使用人「失礼します。お嬢さま、お客様がお見えです」
祥子「こんな時間に……? 誰かしら。通してちょうだい」
よしの「さちこーー!」
祥子「えええええーっ?! よ、よしのちゃん?!」
よしの「さちこ、いえじゃおじょーさまってよばれてるのな!」
祥子「ど、どうだっていいでしょ……! むしろよしのちゃんもさまを付けなさい! それよりどうしてうちに……?」
よしの「れーちゃんのケーキ、おとどけにあがりやした!」
祥子「え……それってもしかして昨日の? わざわざ持ってきてくれたの?」
よしの「そうだ!」
祥子「はあ……、あ、ありがとう……」
よしの「さっそくたべてみれ!」
祥子「そうね、せっかくデリバリーしてくれたのだし」
パカッ。
祥子「……」
よしの「どーしたさちこ? おいしーぞ?」
祥子「いえ、おいしそうなのはともかく……ベッコベコなのは……」
よしの「きにすんな! な!」
祥子「しかも食べかけだし」
よしの「……! よ、よしのじゃないよ!」
祥子「よしのちゃん……。口の周り、口の周り」
よしの「え?! な、なんにもついてないよ!(ごしごし)」
祥子「……引っかかったわね」
よしの「なにー! おのれはかったな! じょーきゅーせいは! まったくじょーきゅーせいは!」
使用人「あの、お嬢さま……。その方は一体……?」
祥子「ああ……。よしのちゃんって言って、同じ学校の、生徒会の後輩」
使用人「ということは、お嬢さまの妹さん? あの姉妹制度とかいう」
使用人「ですが、以前紹介していただいた妹さんとは違う方のようですが……」
使用人「それって……ひょっとして二股? きゃー!」
使用人「まあ……! 祥子お嬢さまがそんな尻軽だったなんて……!」
使用人「父親も外に愛人作ってると思ったら、娘までも……。蛙の子は蛙ということですかね」
祥子「なんかあらぬ誤解された上にボロクソ言われまくってるー!! ……あなたたち! 口を慎まないと暇を出しましてよ!」
使用人「よしのさまって今時の高校生? KYってご存じ?」
よしの「しってる! さちこはけーわい!」
祥子「そこも!」
令「……んん。ちょっと寝過ぎちゃったかな……。よしのー? どこ行ったー? ……も、もしかして」
カパッ。
令「ブッシュ・ド・ノエルがなくなっている……」
ガラガラガラ……。
令「よしのの自転車も! ということは……まさか!」
令「えっ! よしのまだ来てないんですか?」
聖「うん。だって今日の活動は休みだって言ったじゃない。……私はちょっと野暮用でね」
令「うーん……。祥子にケーキ持っていくとか言っていたから、絶対ここだと思ったんですけど」
聖「よしのちゃんは徒歩?」
令「いえ、おそらく自転車で」
聖「自転車? それって大丈夫なの? まだ一人で乗りこなせるって感じじゃなかったけど」
令「ええ、だから私も心配で……。もう、どこ行ったのよよしの」
蓉子「もしもしー。うん……ええ」
令「あれ、紅薔薇さまもいらしたんですか」
蓉子「うん、今ここに――。令、よしのちゃん祥子の家にいるって」
令「ええっ?!」
使用人たち「行ってらっしゃいませ、お嬢さま」
祥子「令が迎えに来るそうだから、ここで待っていましょう」
よしの「お、おー」
祥子「……私ね、子供の頃、ブッシュ・ド・ノエルって本物の木の枝を食べているとばかり思っていたの」
よしの「ねーよ!」
祥子「ちょっ……。でもいいのかしら?」
よしの「なんだ?」
祥子「よしのちゃん、一人で勝手にこんなところまで来ちゃったから、きっと令に怒られるわよ」
よしの「おこられねーよ! よしの、さちこにケーキとどけた! グッジョブ! だからへーき!」
祥子「本当にそうかしら。……あ、来たみたいよ」
よしの「お……? れーちゃん!」
令「あ……」
よしの「れーちゃん! にへー」
令「……」
ゴスッ。
よしの「!!」
祥子「れ、令……」
よしの「なっ! ……ぶったな! おねーさまにもぶたれたことなかったのに!」
令「だから今ぶったってば」
よしの「いつもはれーちゃんがよしのにぶたれるのに!」
令「そっちの話はいいから」
よしの「うっ、うううー……。な、なんでだ?!」
令「……私言ったじゃない。まだ一人で自転車で出かけちゃいけないって」
よしの「で、でも……! さちこにケーキたべさせるって……だからもっていって……」
令「そうね、それはよく頑張った。だけど、祥子の家には新年会のときに、一緒に行こうって約束してたよね」
よしの「それは……」
令「それなのに一人でこんな遠くまで来て! どれだけ心配したと思ってるの……!」
ゴスッ。
よしの「……!!(涙目)」
令「祥子……ごめん、迷惑かけて」
祥子「いえ別に……。あ、ブッシュ・ド・ノエルおいしかったわ」
令「ん。ありがとう」
祥子「それよりも見直したわ、私。令はよしのちゃんに甘いと思ってたけど、お姉さまとしてちゃんと叱るときは叱るのね」
令「……そんなんじゃないよ。よしののことが心配で心配で、気が気じゃなかったから。それだけ」
祥子「なるほど。令なりの照れ隠し、というわけね」
よしの「くちではおこってても、あっちはだいこーずいな?」
ゴスッ。
令「よしのは反省しる! ほら帰るよ」
よしの「うあーん! うあーん! うあーん!」
祥子「……」