よしの「はいれーちゃん、あーんして」
令「うん。……なんか照れるねこういうの。あーん」
よしの「おりゃ！ くいやがれ！」
令「ぱくっ、もぐもぐ……。よし。次はよしのがあーんして」
よしの「ゴガーーッ」
令「口開けすぎ開けすぎ。それじゃいくよー。ほいっ」
よしの「むぐむぐ……。！ んまいー！」
令「いつもより丁寧に作ったからかな、我ながらおいしく感じる。試しに挑戦してみてよかった」
よしの「がつがつ、むしゃむしゃ……。これうまいな？ さいこーけっさくな？」
令「そうね。これなら本番で出してもきっと大丈夫。けど……やっぱり一度みんなに味見してもらった方がいいか」
よしの「おすすめだ！」
聖「ブッシュ・ド・ノエル？ ……本物？」
よしの「れーちゃんのじしんさく。さいこーけっさく」
祐巳「わっ、令さまお手製？」
聖「へえ、それは是非食してみたいものだ。祐巳ちゃん、みんな呼んできて」
蓉子「令の手作りケーキと聞いて来ました」
祐巳「はやっ！」
聖「食べ物のことになると目の色変わるなあんた」
蓉子「祐巳ちゃん、人数分のお皿とフォーク出して。聖は紅茶。私は切り分ける係ね。……きっちり均等に切るから、一切口出し無用よ？」
聖「そしてなんか仕切ってるし」
祐巳「板についてますよねー。鍋奉行って感じで」
蓉子「それ褒め言葉に聞こえないんだけど……。……あ。聖、ナイフについたクリームなめる？」
聖「って刃物を人に向けないでよ！」
よしの「やんでれか？」
蓉子「何よ、一番に味見させてあげようと思ったのに。自分の指で掬ってからなめればいいじゃない」
聖「そっか、頭いいね。それじゃ失礼して……ん？」
祐巳「いいなあ、味見いいなあ……（じゅるり）」
聖「おろ？ 祐巳ちゃん、先に味見する？ 甘い物といえば甘党の祐巳ちゃんだし」
祐巳「えっ……？ でも、クリームはもう白薔薇さまの指に……」
聖「あー、いいよいいよ。私の指ごとパクッていって。はいどうぞ」
祐巳「いいんですか？ ではお言葉に甘えて……あーん」
祥子「お待ちなさい祐巳！ それは孔明の罠よ！」
祐巳「えっ？ お姉さま？！」
聖「……ちぇーっ。せっかくの指ちゅぱチャンスだったのに」
祥子「まったく……！ 白薔薇さま、祐巳へのセクハラはご法度だと何度申し上げれば……」
蓉子「ちぇーっ」
祥子「お姉さまもグルかよ！」
よしの「さっさとたべなさい！！」
聖「はい、すみません」
祐巳「もぐもぐ……。あっ、これおいしい！」
聖「……大丈夫そうね。実はよしのちゃんが作ったとかじゃないよね？」
よしの「そんなわけないだろじょーしきてきにかんがえて……」
祥子「あの、私もいただいても……？」
蓉子「もちろん？ 自分のお皿持ってきなさい」
聖「それにしても、こんな本格的なケーキ、どうやって作るのかね」
祐巳「市販のロールケーキを切って丸太の形にして上からクリームを……、って聞いたことありますけど」
蓉子「なんだ、案外簡単に作れるんじゃない。拍子抜けね」
祥子「よしのちゃん、令はどんな風に作っていて？」
よしの「たたかった！」
祥子「何とー？」
よしの「こむぎこ」
蓉子「小麦粉？！ 粉から作ったってこと？！」
聖「すごっ！」
祥子「本格的ってレベルじゃなくってよ！」
聖「令の料理の才能はムチャクチャよね……。外見とギャップあるけど」
祐巳「そうそう。令さま、バレンタインのトリュフチョコも自分で作ったって」
祥子「そんなに手のかかったケーキとなると、これは食べる方も気合いを入れて……って」
よしの「あれ？ もうない」
祥子「なっ！」
祐巳「あれ？ たしかお姉さまの分もあったはずですけど……」
蓉子「ちょっとー。聖、二切れ食べてなかった？」
聖「蓉子だって二切れ食べてたじゃない」
蓉子「だってゲロウマだったんだもーん」
聖「……ゲロウマはないだろ」
祥子「そ、そんな……。私も食べたかったのに。いいですいいです、家から持ってきたケーキがありますから。ケーキはみんなケーキ味よ」
聖「ああ、祥子んちのお抱え料理人が作ったとかいう？ あの味は難解すぎた」
蓉子「ただ甘ければいいってものでもないのよね。濃厚すぎてかったるいし」
祐巳「所詮、庶民の味覚にはわからない世界ってことですかねー」
祥子「またも大不評？！」
よしの「さちこ……なくな？」
祥子「な、泣いてなんか……」
よしの「れーちゃんもういっこつくってたぞ？」
祥子「本当？」
よしの「うん。もってきてやろうか？」
祥子「ええ、お願いするわ」
志摩子「ごめんくださーい」
よしの「あっ、しまこきた！ あそぼーぜ！（ダダダダッ）」
祥子「えー……」
よしの「そんでー。しまこがゴガーーッてなったら、みんなもゴガーーッてなったー」
令「何やってんの志摩子さん？！ お姉さんびっくりだ！」
よしの「うん、よしのもびっくりしたー」
令「本当に何やったんだろうあの子……。それはそうと、ケーキはどうだった？ 感想は？」
よしの「やくいちめい、ゲロウマっていってた……」
令「約一名ってたぶん紅薔薇さまだろうけど、ゲロウマって……」
よしの「ほかはみんなおいしーおいしーっていってた！」
令「そう、それはよかった」
よしの「うん！ みんな……ああー！」
令「わっ。ど、どうしたの」
よしの「さちこわすれてた！ もってかないと！」
令「いやいやいや、もう夜だし。みんな帰ったからこんな時間に誰もいるわけないでしょ」
よしの「だれもなかにいませんでしたからねー」
令「そういうネタはいいから」
よしの「でも……。さちこんちでしんねんかい……」
令「新年会？ それはまだ先の話だって。あのブッシュ・ド・ノエルは新年会に持っていくんじゃなくて、年末のクリスマスパーティー用なんだけど」
よしの「しんねん……ねんまつ？」
令「ちゃんとわかってる……？ ほら、見た目からもわかると思うけど、あれってクリスマスの定番メニューなの。おせち料理と一緒に並んでたら変だと思わない？」
よしの「それはそうな……？」
令「まあ、明日また薔薇の館に持っていってあげな」
よしの「う……うん」
チュンチュン、チュン……。
よしの「ごきらっきー！」
令「Ｚｚｚ……」
よしの「れーちゃんおきれ！」
令「んん……もうちょっと寝かせてよ……。だってゆうべあんなに（ｒｙ」
よしの「ばらのやかたいかないと！ さちこにケーキもってく！」
令「は……何言ってるのよしの……？ 今日は山百合会の活動は休みよ……？」
よしの「！」
令「というわけでもうちょっと寝かせて……Ｚｚｚ」
よしの「ちがう！！ こ、こうなったらよしのひとりで……。ケーキどこだー？」
カパッ。がさごそ。クイッ。
よしの「あった！ やまゆりかいやすみ……だから……。だからさちこんちいく！」
チリンチリーン。
よしの「しんねんかいだから！」
