令「よし……そろそろかな」
よしの「れーちゃん……。なんかきあいはいってる」
令「それでは、優勝決定戦に行ってきます」
よしの「ああ。むこうのボスによろしくな」
令「ボスって?」
よしの「たなかさん(ちょうじょ)……、な」
令「うん、わかってる。大将戦の借りはきっちり返してくるよ」
江利子「ちょっと待ったーっ。私との決着がまだだってこと忘れてないでしょうね?」
祥子「私にも剣道教えてくれないかしら」
よしの「なんだー? さちこもけんどうするのか?」
祥子「少しなら経験あるから。これ、自分用の竹刀」
江利子「わ、私だってマイ竹刀よ!」
令「これは子ども用の竹刀です。中学生以下の子はこっちの長さのを使います」
祥子「足さばきが……」
江利子「対戦相手との駆け引きでね?」
よしの「み、みんなけんどうするのか……」
祐巳「それじゃ私も剣道教わろうっと」
よしの「なにをいう! ゆみはどしろうとだろ!」
祐巳「? 誰だって最初は素人なんじゃないの? ……令さまー」
よしの「あ……。よ、よしのも! よしのもけんどうする!」
令「そうは言うけど……、竹刀は持ってる?」
よしの「え?」
江利子「剣道着は?」
よしの「そ、そうか。えーと、はかま、よしののはかま……」
ボワンッ。
よしの「おー! へんしんした! ……ってちがう! これみこふく! あ、あとしないも……、えっとえっと……あれー?」
よしの「……あー、ああー! ……ん? なんだ? ゆめか? ゆめおち?」
令「Zzzz……」
よしの「れーちゃんおきれ!」
令「デュクシ!」
よしの「しないくれ!」
令「んー……? 何の話かよくわからないけど、とりあえず朝ご飯食べてからにしようよ……」
よしの「わかった! いただきまーす!(ガバーッ)」
令「ちょっ、なんで覆い被さってくるの! ちがっ! ソッチの朝ご飯じゃなくて!」
よしの「……はー、れーちゃんはつれないなー」
令「もぐもぐ……。で、何の夢だって?」
よしの「れーちゃんがけんどうしてたー」
令「それじゃいつも通りってことね」
よしの「ちがう。……いつもよりちゃんとけんどうしてた」
令「ええっ? 私いつもちゃんとしてないの?!」
よしの「あ……。……。れーちゃんはいつもガチでがんばってるとおもう」
令「そう、あ、ありがとう」
令「――というわけで、今日はよしのに練習を見せてあげることにしました」
よしの「だれにいってんだ?」
令「よーし、今日もバリバリ鍛えるぞー。……はーっ!」
よしの「おー! すぶりがはじまった!」
令「面! 胴! 小手!」
よしの「あく! そく! ざん!」
令「……それ違わない?」
よしの「んー、れーちゃんなんかいまいち。バリバリするのはけんどうぎきないとだめだ」
令「そんな……。家の道場だし、ジャージの方が楽でいいんだけど……」
よしの「いいからきがえてきなさい」
令「は、はあ」
よしの「……よしのがきがえてつだってやろうか?」
令「それが狙いか」
令「ふむ……。これでどう?」
よしの「うん、ごうかく!」
令「何が?」
よしの「なんかいつもよりバリバリできそうなかんじする」
令「そ、そうかな。それじゃ早速……はーっ!」
ブンブンブン……シュババババッ!
よしの「はえー! むさしのけんみたい!」
令「……ああ、あのマッハで竹刀振れるアイテム取ったときみたいな?」
よしの「よしのもはかまきる!」
令「んー。私のお古でよければ貸してあげる」
よしの「わかった! きがえてくるからまってろ!」
令「う、うん」
よしの「……よしののきがえてつだうか?」
令「そっちもか」
よしの「どーだ! れーちゃんみろ!」
令「うん、似合ってるよ」
よしの「いっぽんとれるかな?」
令「おっ、さすがにルールは詳しいね」
よしの「きょうのれんしゅーはなんですか! しはん!」
令「そうね、よしのは基礎体力をつけないといけないから……。まずは腹筋から」
よしの「わかりました!」
よしの「れーちゃーん、どうしたー? れんしゅうしないのか?」
令「ちょっと静かにしてて……。今書き物しているから」
よしの「お、おう……。なんだそれ? かきぞめ?」
令「書き初めは正月でしょ。……注意点とか次の目標とか、忘れちゃいけないことをこうして紙に書いて、貼っておくの」
よしの「わすれちゃいけないこと? コスモスフレンドのはつばいび?」
令「いや剣道のことで……」
よしの「それなんてかいたんだ?」
令「ああ、これは『平常心』。試合で熱くなったときこそ冷静さが必要だから」
よしの「そっかー。そんなことよりれーちゃん、……やらないか?」
令「ちょっ! なななんでいきなり胸元をはだけてんの!」
よしの「よしの、いちどこういうシチュでしてみたかったんだー」
令「何をーっ?!」
よしの「しんせーなどーじょーで、はかますがたのれーちゃんとふたりっきりで……」
令「ゴクリ……って! いやいやいや、落ち着きなさいよしの。父さんがいつ来るかわからないし、子どもたちも剣道習いに来るし、だいいち剣道の神様が見ている前でそんなこと……」
よしの「れーちゃん……。よしの、もうげんかい……」
令「ま、まじっすかー?! うっ……、もじもじしてるよしのを見てるとこっちも辛抱たまらなくなってくる……。こ、これはもう……、……よしのーーー!」
よしの「れーちゃん! へーじょーしんはどうした!」
令「はっ!! ……え? ええええ?」
よしの「これくらいでじぶんをみうしなうなんて、しゅぎょーがたりないのう」
令「えっ……ちょっ! ということは、今までのは私を試しただけ……?」
よしの「うん」
令「……! ……え、いや、本当に? 続きは? しないの?」
よしの「ねーよ」
令「そ、そんな……。あれだけ煽っておいておあずけなんて殺生な……」
よしの「……もっとつよくなれ?」
令「ううっ……。めーん、どうー、……」
よしの「れーちゃんだいぶまいってる……。そうだ、みずもってきてやろう」
スタスタスタ……。
令「はあ……よしのはいつも人のこと振り回して……。って、あれ、よしのー?」
よしの「れーちゃーん!」
令「あ、戻ってきた」
よしの「れーちゃん、れいぞうこになんかすげーおいしそうなのが!」
令「っていうかまたうちの冷蔵庫勝手に開けるし……。あれはうまい棒っていうお菓子よ」
よしの「うまいぼーー!? いかだつくってかわわたるのか?」
令「またそんなネタを……」
よしの「にほんあったぞ? にほんともたべていいのか?」
令「……一本は私のだから。どうしてよしのはそんなに食い意地が張ってるの。今日のおやつに一緒に食べるんだから、おやつの時間まで待ってなさい」
よしの「うん! うまいぼーたのしみなー」
よしの「れーちゃんまだれんしゅーしてる……。はやくさんじにならないかなー。……ちょっとようすをみにいこう」
ガチャ……。
よしの「おじさんとかにとられてないかな。……ちゃんとある。よしのあんしんしたー。どれどれ……、ちゃいろはテリヤキバーガーあじ、あおは……なっとうあじ」
ぐ~~~。
よしの「なっ! べ、べつにおなかとかすいてないんだからね! ……。……。さんじ……かな!」
ズボッ!(←太ももに突き立てて袋を破るタイプ)
よしの「もぐもぐ……うめえーっ。これうまいな? うまいぼーだけにな?」
サクサクサク……。
よしの「……はーっ。しやわせー……。あ、もういっぽんある。……。……ちょっとあじみしてみよう。れーちゃんのきらいなあじかもしれないし」
ズボッ!(←太ももに突き立てて(以下同文
よしの「むしゃむしゃ……。んんーっ! こっちもうまいな?」
ガツガツガツ……。
よしの「たべちゃったぜ……」
令「おっ、よしの。腹筋は終わった?」
よしの「! ば、ばらのやかたいってくる!」
令「え? あ、うん……」
聖「ぶわっはっはっ、それで二本とも食べちゃったのかー」
よしの「うまかった……」
聖「話逸れるけど、よしのちゃんの剣道着姿そそるね」
よしの「なー? れーちゃんもかなりむらむらきてた」
聖「……だけど、一本は令のだって言われてたんでしょ? どうして食べちゃったの」
よしの「じょしこーせーってたべざかりだから……」
聖「というか自分が女子高生だっていう自覚あったんだ?」
よしの「なー、ばらのやかたにうまいぼーないか?」
聖「うまい棒はないわね、残念ながら。今何があったかな、えーと……」
(祥)
聖「……」
ピッ。(←付箋をはがす)
聖「これ持ってっていいから。令にあげな?」
よしの「わー! なんだこれ……? ……で、でもうまそう」
聖「言っておくけど、それはよしのちゃんが食べちゃ駄目だからね」
よしの「わ、わかってる! ちゃんとれーちゃんにやるよ! ……じゅるり」
聖「よしのちゃん、よだれよだれ」
令「……ふう。そろそろおやつの時間ね。よしの、それじゃ一緒に食べようか」
よしの「……。よ、よしのはいいです……。れーちゃんだけたべてきてください」
令「! よしの……あなたまさか……」
よしの「……」
令「……」
よしの「……」
令「……私の顔を見なさい」
よしの「そういうのがすきなのか……?」
令「プレイの話じゃなくて! もう……わかった、それなら私だけ食べてくるから」
よしの「はい……」
令「ったく……ぶつぶつ」
よしの「……。……。……」
令「あれっ?!」
よしの「?!(ビクッ)」
祥子「あら?」
聖「……どうした祥子?」
祥子「白薔薇さま、ここに入れておいた私の弁当知りません?」
聖「あー。あれなら令が食べた」
祥子「はい? よしのちゃんの間違いではなくて?」
聖「んーん、よしのちゃんじゃなくて、令。令が食べた」
祥子「ええっ? まさか令がそんなこと……?? でも、もし本当だったら大変ですわ」
聖「何か問題あるの?」
祥子「ええ。あの弁当は昨日置き忘れたものなので、中身はだいぶ傷んでいると……」
聖「まじで?! やばっ、どうしよう、とんでもないもの渡しちゃったーっ!」