[よしのと!] よしのとくまおとこ

よしの「さちこ! ごきげんよう!」
祥子「ごきげんよう。珍しいわね、よしのちゃんがちゃんと挨拶するなんて」
よしの「よしのやればできるこ!」
祥子「仕事もその意気で頑張ってほしいけど……。一人? 令は朝練?」
よしの「あされんだが?」
祥子「そう。だったらよしのちゃんから伝えてもらいましょう。まだ先の話だけれど、来年のお正月、うちで新年会を開こうと思っていてね」
よしの「しんねんかいってあれか? ひめはじ」
祥子「はいそこ危ない発言ストーップ!」
よしの「さちこだってゆみとしたいくせに……」
祥子「な、何のことかしら? それで、参加してくれるかどうかを令の分も一緒に後で教えてほしいの。とりあえずでいいから」
よしの「わかった!」
祥子「よろしくね。それでは私は教室に行くから」
よしの「いってよし! ……おとまりイベントでフラグたつなー、さちこでも」

 

令「はいみんなお疲れ。朝拝に遅れないようにね」
よしの「にとろあたっく!」
令「ぎゃふっ! ……あ、ありがとうよしの……、マッハで迎えに来てくれて……」
よしの「さちこがなー、しんねんかいにさそってた。しんねんかいいきたいなー」
令「新年会? なるほど、祥子がね……。オーケー、私たちはもちろん参加よ」
よしの「なー、さちこんちってどうやっていく?」
令「そうね。私たちの家からだとバスを乗り継いで行くことになるけど、それだとかえって遠回りになるのよね」
よしの「れーちゃんはいつもどうしてる?」
令「私はいつも自転車だけど。その方が早いし……って」
よしの「じーー……」
令「何?! もしかして、よしのも自転車で行きたいってこと?」
よしの「……こくこく」
令「本当に? まいったなあ、でも本気だって言うなら……。重大発表ー!」
よしの「おわ?! な、なにごとかと」
令「放課後、よしのの自転車を買いに行きましょう」
よしの「!」
令「今までずっと持っていなかったけど、いつまでもそういう訳にはいかないなあ」
よしの「よしのでも……のれる?」
令「大丈夫、私が乗り方教える」
よしの「いいのか?! よしのにはまだはやくないか?」
令「早くはないよ。高校生なのに乗れないなんて体裁悪いし」
よしの「そ、そうな?」
令「頑張って練習しよう。そしたら、祥子の家には一緒に自転車で行けるから」
よしの「やったー! これでれーちゃんとひめはじめ!」
令「なにぃ! 新年会ってそんなことするの?!」

 

令「よしのー、お待たせ」
よしの「またされた!」
令「それじゃ自転車屋さんに行きましょうか」

よしの「♪じーてーんーしゃーじーてーんーしゃー、すっぽんすっぽんすっぽんぽんー」
令「ご機嫌だねよしの……ってすっぽんぽん?」
よしの「♪いーじんさんにーつーるされーてー、いーっーちゃーっーたーー」
令「吊るされて?! なんか急にエロい歌に聞こえてきたよ!」
よしの「えろいのはれーちゃんのはっそうだとおもう」
令「ヒドス!」

 

よしの「ひゃー! じてんしゃがいっぱい!」
令「お店の奥のほうにもあるね。入ってみようか」
よしの「たのもー! ほー、どれがいいかなー」
令「そうね、これだけ数が多いと、自分に合ったものを探すのが」
?「いらっしゃいませ……」
令「なっ?!(ビクッ) いつの間に背後に……?」
山辺「親切安心、心のこもったアフターサービス、山辺自転車店へようこそ……」
令「は、はあ。……台詞に心がこもってねぇー」
山辺「自転車をお探しですか?」
よしの「くまおとこ」
令「ちょっ! 人の顔指さして何てこと言うの!」
山辺「いえいいんです。熊男とかよく言われますから」
令「いや、だからってそんな無頓着な……」
よしの「くまー、くまおとこー!」
令「よしのも調子に乗らないの」
よしの「そんなえさでこのおれさまがクマーー!」
令「それは違うよね?」

令「この子の自転車なんですけど」
よしの「すきなのえらんでいい? さんりんしゃでも!」
令「いや三輪車はだめでしょ。まあ適当に見ててよ」
よしの「てきとーだな!」
令「……あの子、まだ自転車に乗れなくて。でも背伸びしたい年頃だし大きめの方がいいでしょうか」
山辺「いいえ。初心者でしたらぴったりサイズがいいと思います。……お姉さんは自転車は? もうお持ちですか?」
令「ええ。ママチャリですけど」

よしの「ふんふーん。……ほう、これは……」

 

山辺「ああ、お姉さんのとお揃いの色にするなんてどうでしょうか」
令「そうか、色か。よしの――」
よしの「んしょっ、んしょっ」
令「ひいーーっ! ちょっ、壁に掛かっているマウンテンバイクによじ登るなんて……! 危ないって! 何してんの!」
よしの「よしののじてんしゃこれにするー」
令「ダメ! そんなの買いません! 降りてきなさい!」
よしの「そしていたじてんしゃにかいぞーする!」
令「そんな夢捨ててしまえ!」
山辺「ほお、お目が高いですね」
よしの「これはやい?」
山辺「速いですよ。22段変速」
令「店員としてそんなの勧めないでください! こんなの上級者向け……うわっ、高い!」
よしの「れんしゅうがんばります! よしのやればできるこ!」
令「いやいやいや、無理だから」
よしの「……あれー?」

令「ふうー……、やっと降りてきた」
よしの「ちぇーっ」
令「マウンテンバイクはよしのには早いってば」
山辺「そうですよ。お嬢さんはおいくつ?」
よしの「じゅ、18さいいじょう……っていうせってい」
令「それなんてエロゲ?」
山辺「ああ、自称だったら駄目ですね。あの自転車は大人用ですから」
令「いや、そんな子ども騙しが通じるわけ……」
よしの「あー、そうだったなー」
令「通じるし」
よしの「というわけで、れーちゃん。よしのをおとなにして……?」
令「こんな場所でそんな台詞言われてもー! っていうか今ここで?!」
よしの「……ほんきにしてるのか?」
令「ええっ? いやいや、まさかそんな……ねえ?」
山辺「あの……。どうぞ私に構わずおっぱじめてください」
令「構えよ!! なんなんだこのおっさん……」

 

山辺「この辺りの小さい自転車から選んでください」
よしの「イエッサー!」
 スタスタスタ。
よしの「どれにしようかなー。……ん? いすのしたになんかついてる。なんぞこれー?」
 クイッ。……カキン。
よしの「おわっ、いすがおちた! どうしよう、もちあげないと……」
 ぐぐぐ……。ズボッ!
よしの「しまっ!!」
山辺「あ」
よしの「!」
山辺「大変だ。壊しちゃいましたか」
よしの「あ……、ち、ちがう、これはかってに……、ぜんじどうで……」
令「よしの?」
よしの「……こわしましたー! べんしょう? からだではらう?」
令「そこ、体で払うとか言わない」
山辺「はあ、まあ正直でよろしいです。ですが、当店は自転車修理も承っておりまして」
 グッ。クイックイッ。
山辺「はい直りました」
よしの「おおー! やるなくまおとこ! れーちゃん、このおみせはいいおみせだ! ここでかおう!」
令「うん……。まあサドルつけるくらい誰でもできるんだけど」
山辺「ありがとうございます……」

 

よしの「いいかいものしたな!」
山辺「何かあったら持ってきてください。修理、パーツ交換、生物の授業、何でもしますので……」
令「生物……って?」
山辺「ああ――。私、本業は高校の講師でして」
令「先生? どうりで店員っぽくないと思った。ご実家のお手伝いか何かですか」
山辺「ええそうです。両親に娘を見てもらって……いえこちらの話です」
令「?」
山辺「子どもの頃から、この店の自転車を眺めるのが好きでしてね。ずらりと並べられたフレームを見て、想像するんです」
令「想像……何をですか」
山辺「恐竜です。恐竜の化石。はぁ……うふふふ」
令「ちょーっ! なんかすでにトリップしかかってる!」
山辺「フフフ……、あなたを見て、恐竜を思い浮かべてみましょうか。そうですね……」
令「いや聞いてませんから! むしろ聞きたくありませんから!」
山辺「ステゴケラスかな。ピプシロホドンじゃ少し小さいかもしれない」
令「イヤーッ! やめてーー! あーあー、聞こえなーい!」
よしの「なー、よしのはなんにみえるー?」
山辺「お嬢さんは……さかりのついた猫とか」
令「恐竜じゃない上に微妙に正解だし……」
よしの「ちがうよ? ネコはむしろれーちゃんだよ?」
令「そっちかと! というか人前でそんなことばらさないで!」
よしの「くまおとこー、じゃーなー」

 

令「なんだかどっと疲れた……。あんなキャラ初めて見たよ。お姉さまに紹介してあげたら喜ぶかも」
よしの「でこちんはむかしっからへんなおとこがすきなー?」
令「自転車はちゃんと買えたからいいけど」
よしの「これでどこででもいける! どこまでもな……!」
令「どこまでもは無理でしょ。まだろくに乗れもしないのに」
よしの「そんなことないよ? ふたりのりできるよ?」
令「いやもっと無理でしょ」
よしの「いいからうしろにのりなさい!」
令「わかったよ……」
 ふらふらふら……ガンッ。
令「ほらぶつかった。貸して、私が運転するから」
よしの「そ、そうな?」
 ふらふらふら……ガンッ。
令「いや、違……」
よしの「ふたりのりはいけません!」
令「は、はい」

« 35 よしのとリサイタル   37 よしのとメーヴェ »

ソーシャル/購読

X Threads note
RSS Feedly Inoreader

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ