よしの「おいしーくうきをしんこきゅー! アオゾラブルー!」
令「どこまでも続く並木道! シラカバホワイト!」
祐巳「森のお友達こんにちは! シマリスストライプ!」
よしの・令・祐巳「三人揃って……、高原戦隊! カルイザワン!」
祥子「のっけから何してんのーーー?! というかアオゾラとブルー一緒だし! シラカバでホワイトってそのままだし! ストライプは色の名前じゃないし! そもそも語尾が『マン』じゃない上に地名言っちゃってるし! ……はあ、つっこむの疲れる……」
キヨ「お嬢さまは夕方までお休みでございます」
よしの「……」
令「……」
祐巳「……」
よしの「きょうはあそぶぞー! しゅっぱーつ!」
令「あっ、よしの! 待ちなさい!」
よしの「うわー……あーれー……。……」
令「え……? ちょっ、まさか道に迷って……?! よしのー! カムバーック!」
よしの「ちょっとかえりみちがわからなくなった……」
令「もう、一人で飛び出すからよ。そもそも出掛けるのは着替えてからでしょ」
よしの「そっかー……。それじゃーさっそく」
令「ちょっ! 脱がすのは別荘に入ってから! っていうかなんで私を脱がしてんの!!」
令「この門のところの看板が目印だから。ハウスナンバーをよく覚えておいて」
よしの「めだたねーなー。みのがしそうなくらい」
令「おっ、祐巳ちゃんも準備できたみたい」
祐巳「はい! それでは行きますか!」
よしの「いきますか? いきませんか?」
令「それ何のロケ?」
祐巳「それー! まずは近くの林を散策!」
ガサガサ……。
祐巳「ひゃっ、冷たいー」
令「本当、葉っぱに朝露がついてひんやりしてるね」
よしの「モイスチャー! あははは!」
ずおおおー。
祐巳「あっ、何か迫ってくる……!」
令「これは……霧?」
よしの「!」
祐巳「……ぷはーっ。けっこう濃いですね。これだと視界が……って、よしのさん?!」
よしの「ズコーッ」
祐巳「ギャーッ! なんというベタなズッコケ!」
令「はははは、足滑らせてひっくり返ってるよ」
祐巳「笑いどころ全然ないですから! 20点!」
令「……だってさ。よしの、ほら起きて」
よしの「あはははは! はらしょー!」
祐巳「いやいや、自分のネタに受けるのも駄目だし! しかもなんでいちいち昭和のギャグなのかと!」
よしの「ゆみはテンションたかいなー」
令「さて、次はどこ行こうか」
祐巳「観光地の方に行きたいです。ガイドブックでバッチリ予習してきましたから」
よしの「わくわくげっかんなー?」
令「それいいね。でも道がわからないから、祥子に案内してもらおう」
祥子「行かないわよ」
よしの「へっ?」
祐巳「へっ?」
祥子「祐巳まで何なの、間の抜けた声出して……。私は別荘では読書三昧と決めているの」
よしの「なんでだー! ほんなんていつでもよめるのに!」
祐巳「……わかりました、私もここで読書にします」
令「えっ、祐巳ちゃん? 祥子と日傘を差して散歩するって楽しみにしていたのに、いいの?」
祐巳「ここではお姉さまと同じことをして過ごすって、密かな目標にしていたんです。ですから、ここは私も本の虫を目指します。お姉さまと同じひきこもり……ヒッキーとして!」
祥子「ヒッキーじゃねえ!!」
よしの「……ヒステリーでキーッてなるからヒッキーな?」
令「ところで、夏休み始まったけど、祐巳ちゃんや祥子は宿題どうする?」
祐巳「後半勝負ですかね。とりあえず別荘では思いきり遊びますよー」
令「そうだよね。祐巳ちゃん前からあんなにはしゃいでたもんね」
祥子「ちょっと、祐巳、どういうこと? もしかして宿題持ってきていないの?」
祐巳「え? お、お姉さまこそどういうことです?」
祥子「私は持ってきているわよ。七月中に全部終わらせるつもりだし」
祐巳「そ、そんな……」
令「ポカーン。……ごめん、祥子」
祥子「? どうして令が謝るの」
令「いや、私のイメージだと祥子って『あんな無駄に量が多いだけのレベルの低い宿題なんてする意味ないわ』とか言ってボイコットしそうだったから。見直したよ」
祥子「なっ! そんなこと言うわけないでしょうが! 謝りなさい!」
祐巳「よしのさんは? 夏休みの宿題」
よしの「しくだいってなに?」
祐巳「なんですとー?!」
よしの「さちこー、なによんでんだ? おもしろいー?」
祥子「『津軽』。紀行文ってあまり好きじゃないわ」
よしの「しゅじんこーがつがるをたびするはなしか!」
……。
祥子「ま、まあそんなところ……」
よしの「おー! あたった!」
令「とても同じ山百合会幹部の会話には見えない……」
よしの「よーし、よしのもよむぞー」
令「あれ、本なんて持ってきてたっけ」
よしの「――こいはいつだってとーとつだ」
令「なんで声に出して読んでんのさ! しかもソレかよ!」
よしの「ゆみー、なにしてる? えろげ?」
祐巳「するわけないでしょ……。ほら、こういう葉っぱを葉書に挟んで、押し葉にするんだー」
令「ほほーう。祐巳ちゃんはなかなか乙女チックなことしてますなあ」
祐巳「えへへ。旅行先から葉書を出す、これぞ旅の定番ですから」
令「……いいなあ、押し葉の絵葉書いいなあ……。祐巳ちゃん、葉書余っていたら分けてくれない?」
よしの「れーちゃんもおとめしちゃってるな?」
令「私たちも葉っぱ摘んでこよう」
よしの「つまみます! ……れーちゃん、これはいいものか? ぎざぎざだぞ?」
令「駄目駄目。ここ大きな虫食いがあるでしょ。もっと綺麗な形の葉っぱを探すの!」
よしの「れーちゃんだけはガチ……。……? ……ひいっ!」
令「ど、どうしたのよしの?」
よしの「はながうごいた……!」
令「花が? そんな馬鹿な……?」
ガッシャガッシャガッシャ。
令「はは、これはフラワーロックよ」
よしの「うらわ……?」
令「フラワーロック。ロックする花だからフラワーロック」
よしの「なんでロックしてんの!」
令「え……。きっと熱いビートが……」
よしの「みんなー、のってるかーい?」
ガッシャガッシャガッシャ。
よしの「そこは『イェーイ』ってかえせよ!」
令「んな無茶な……」
よしの「でもきにいりました! グラサンだし!」
よしの「ただいま!」
祐巳「お姉さま、今戻りました……って、お客さま?」
ゆかり「ねえねえ、いいでしょう? 祥子お姉さまぁ」
令「おっ、祥子が女の子にナンパされてる。ヒューヒュー」
祥子「これのどこがナンパに見えて?! というか同性!」
ゆかり「あ……。では私はこれで……」
祐巳「あれ? 帰っちゃった」
祥子「ふう……。令、ありがとう。助かったわ」
令「ええっ?! いやいやいや、私冷やかしただけだし」
祥子「今の子は、その……。私たちをホームパーティーに誘いに来たの」
令「それってまさか……、小笠原家をねたむ人が、祥子の妹の祐巳ちゃんを攻撃して恥をかかせるつもりじゃ……」
よしの「あはははははは! トラップな! バレバレのな! これはないな!」
令「ない?」
祥子「確かに罠かもしれないわ。でも……」
祐巳「行きましょう。お姉さま」
令「祐巳ちゃん!」
祐巳「堂々としていれば何も恥じることはないはずです」
祥子「……そうね。私だってここで逃げ出すのは嫌よ」
令「まあ、もし何かあっても私たちがガードするから、そうそう恥なんてかかせないよ。ね、よしの?」
よしの「はじのうわぬり?」
令「ちがーう! もう駄目、よしのお留守番!」
よしの「……あれー?」
祥子「祐巳、令、そろそろ時間よ。行きましょう」
よしの「えーーー! よしのよばれてないよ?!」
祥子「いや、だって……」
令「よしの、いつまで言ってるの。よしのをパーティーになんか連れて行ったら、場をぶっ壊しかねないじゃない」
よしの「ちがう! よしのはおとなしく」
……にへー。
よしの「よしのはおとしやかにふるまう!」
……にやにや。
よしの「それがここでのたしなみ!」
令「さっきなんか半笑いしてなかった?! やっぱり何か企んでるんでしょ! ダメダメー」
よしの「うううう……」
令「……」
祐巳「あの……よしのさんも連れていきませんか?」
祥子「祐巳……。それでいいの?」
祐巳「ええ。何かと使えそうですし(ニヤリ)」
令「なにぃ! 今回のラスボスはまさか祐巳ちゃん?!」
ざわ…、ざわ…。
祐巳「♪やすぅ~きぃ~~」
祥子「いきなりかよ!」
ゆかり「ちょーっ! なんで自ら進んで笑い物になろうとしてるのこの人?!」
祐巳「よしのさん、一緒に踊ろう!」
よしの「ここでか? このくーきでか?!」
令「えっ……? よしのって空気とか読めたんだ?」
よしの「つめたいしせんのいちばんまんなかに、あえてのりだす! これにのるとかなりすごい! でもけっきょくぐだぐだになるからむずかしい」
令「結局どうしたいの……」
よしの「いくぞ、れーちゃん!」
令「って私もなのー?!」
祐巳「♪おや~じどこいく~、こし~にかごさげ~~」
よしの「あるーはれーたひーのごごー、まほーいじょーのゆーかいがー!」
令「ネコミミモード♪ ネコミミ♪ ネコミミモードで地獄行きでーす♪」
祐巳・よしの・令「三人揃って……、高原戦隊! カルイザワン!」
祥子「またそれかよ!」
曾お祖母さま「ブラボーッ! 若い頃を思い出したわ!」
ゆかり「なにーっ?! っていうかお祖母さまの若い頃ってどんなだったの?!」
祥子「ま、まさか本当にパーティーをぶっ壊すなんて……。あは、あは、あはははは……」
祥子「……(激しく脱力)」
祐巳「……(どこか満足げ)」
令「……(後悔はしていない)」
よしの「……(やりきった感)」
祥子「と……東京に帰りましょうか」
令「う、うん……」