ザーー……。
よしの「はー。あしたはれるかなー。よしずみさーん」
令「その人の予報はあてにならないと思うけど……」
よしの「あしたはれないとなー」
令「ん? 明日は晴れた方がいいの?」
よしの「もしもあしたはれならば!」
令「……私もノーコメントで」
よしの「はれがいい!」
令「それだったら、てるてる坊主とか作ってみたら?」
よしの「おー! そのてがあったか! あしもとあったか!」
令「……。……ん?」
うじゃうじゃ。
令「ひいっ! こんなにたくさん作ったの?!」
よしの「お? れーちゃん、これきて!」
令「これは……白ポンチョ? 別に健康診断とかないけど?」
よしの「で、てんじょーからくびつって!」
令「私がてるてる坊主になれってこと?! そんなことしたら死にますから!」
よしの「しょーがないなー。じゃーそこにたってて」
令「う、うん」
よしの「あしたはれにしてください」
令「ううっ、なんか変な気分……。てるてる坊主の集団に囲まれて気味悪いし」
よしの「スケスケれーちゃんはぁはぁ」
令「なに属性よ」
チュンチュン、チュン……。
よしの「れーちゃん、すごいはれた! はれはれゆかい!」
令「本当、気持ちいいくらい快晴ね。てるてる坊主の効き目あったかな」
よしの「それじゃーかおかかないと!」
令「顔?」
よしの「はれになったら、てるてるぼーずにかおかくんだよ? しまこがいってた」
令「ふーん。そうなんだ」
よしの「それじゃさっそく……(キュポン)」
令「ちょっ、なんでマジック持ってにじり寄ってくるの? 私には顔書かなくていいよね?!」
よしの「はっ、そうだ! よんでこないと!」
令「呼んでくるって何……?」
よしの「よんできたー」
令「祥子に祐巳ちゃん? えーと、い、いらっしゃい……」
祥子「ごきげんよう、令」
祐巳「どうです? お姉さまのジーパン姿、お似合いだと思いませんか?」
令「うん、まあ祥子は何着ても決まるけど……。それで? これから一体何が始まるっていうの?」
よしの「よういしろ! いっしょにいくぞ!」
令「いやだから、行くってどこに?」
よしの「べっそーだろ! なにいってんですかー」
令「ええっ? 別荘って……もしかして祥子の?」
祥子「もちろん? 令がよしのちゃんと一緒について行きたいと言っていたって、よしのちゃんにそう聞いたけれど」
令「私がー? どういうことなのよしの? 別荘に行くなんて言ってないよ?」
よしの「え……。れーちゃん、さちこのべっそーいくっていった」
令「うそ? 本当に? 私そんなこと言ってないって」
よしの「いった!」
令「言ってない!」
よしの「……うえのくちではそういってても、したのくちにきいてみれば」
令「ソッチに脱線してる場合じゃなくて……。だいたい、いつ別荘の話なんてしたの」
よしの「こないだのあめのひー。ゆみといっしょだからいこうーって」
令「……あ! ああーっ!」
よしの「ほらー。やっとおもいだしたか?」
令「ちがっ、違う! それ勘違いだって! 今年は祐巳ちゃんが一緒に行くから、お邪魔虫の私たちは遠慮しようねっていう意味で言ったの!」
よしの「?! は……? ……ハアーン?」
祥子「ちょっ……」
よしの「はやくべっそー……」
令「別荘行かないから」
よしの「…………」
祥子「……」
祐巳「……」
よしの「べっそー」
令「行きません」
よしの「べっそ……」
令「行かないってば」
よしの「べっど……」
令「それは夜に……ってちがーう! 行かないっつうの!」
よしの「――!! あーーー! あー! あー! あああー! ひょおおお……びゃーー!!」
令「はいはい。泣こうが吸い込もうがワギャン攻撃しようが行かないからね」
祥子「よ、よしのちゃん? 一緒に行けないのは残念だけれど、お土産買ってくるから機嫌直して……」
よしの「そんなものもらってなんになる!?」
祥子「お姉さまからのお土産(メイドさんトレカ)は嬉しそうにもらっていたくせに……」
令「二人ともごめん、騒がせて」
祥子「それは構わないけれど」
祐巳「でも、よしのさんがかわいそう」
令「……」
みーんみんみんみん……。
じーわじーわ……。
令「はあ。……別荘行くか」
よしの「!!」
令「今日から夏休みだし。よしのー、ちゃっちゃと準備するよー。急いで」
祥子「ほら、よしのちゃん。準備していらっしゃい」
祐巳「一緒に別荘行くって! よかったね」
よしの「お……おおー!」
よしの「はやくしろ! でんしゃいっちゃうぞ!」
祥子「その件はうちの者に行かせるから大丈夫よ」
祐巳「その券? 乗車券を買いに行ってもらうんですか?」
祥子「違うわよ。車を出させるってこと。……ほらあそこ」
よしの「あ! カーチェイスのときのくるま!」
祥子「そう。別荘へはこれに乗って行きますからね」
運転手「皆さま、おはようござ」
よしの「のりこめー!(ダダダッ)」
令「こらー! 挨拶もしないでいきなり乗らない! ていうか走ったら危ないって!」
よしの「れーちゃんみろ! ねこのひざかけがあるぞ! ぬいぐるみもいっぱい!」
令「本当? 私にも見せて!(ダダダダッ)」
祥子「ちょっ、令まで……」
祐巳「あはは……。た、楽しくなりそうだなあー(棒読み)」
ブロロロロ……。
祥子「早速で悪いけれど、少し眠るわ」
祐巳「えっ、お姉さま……?」
令「祥子は車酔いするから、寝かせてあげようよ」
祐巳「そうですね……。でも、車内でゲームするのも旅行の楽しみなのに」
令「ゲームって? トランプ広げるの?」
祐巳「いいえ、しりとりとか古今東西とかマジカルバナナとか数取団とか」
令「ゆ、祐巳ちゃんは車の中でそんなことしてるんだ……」
祐巳「その代わり、別荘に着いたらこれを差してお姉さまと散歩しますよー」
よしの「パラソルだ!」
令「白い日傘かあ。イメージにぴったりね」
よしの「……はー、たいくつだなー」
カパッ。ごそごそ。クイッ。
令「ちょっと、車の中のもの勝手にいじっちゃだめよ」
よしの「お? さちこねてる。……かおかこっかなー(キュポン)」
令「やめなさーい! しかもそのマジック家から持ってきたの?!」
祥子「あーー! 鬱陶しい!」
祐巳「起こしちゃったし……」
祥子「サービスエリアよ。祐巳、一緒にお手洗いに行きましょう」
祐巳「はい! お姉さまとお手洗い……えへへ」
令「祐巳ちゃん……? と、トイレに行くのが嬉しいのかな」
よしの「それじゃー……、よしのたちもこしつでちょっとしてくるか?」
令「激しく何をー?! いや、っていうか祥子たちはそんなことしに行ったんじゃないから!」
よしの「……そんなことってなんだ?」
令「なにー! 自分から話振っておいてそりゃないよ……」
令「はい、お菓子ここに置いておくから」
よしの「おー、きがきくな! ……れーちゃん?」
令「Zzz……」
祐巳「あらら。今度は令さまが寝ちゃった」
よしの「しーっ。おこすなよ? うるさくするな? かおにらくがきするな?」
祥子「よしのちゃんじゃあるまいし……」
よしの「……ゆみー? それなんだ?」
祐巳「これはお弁当です(英訳風)。ほら」
よしの「んまそー!」
ぱくり。
よしの「んまーい!」
祐巳「ちょっ、ていうか勝手に食うし……。あの、お姉さまも召し上がります?」
祥子「ええ。……本当、美味しいわ」
祐巳「よかったー。でしたら、これとこれも食べてみてください。あと、おにぎりの海苔はパリパリとしっとりの二種類あるんですけど……」
祥子「そう言われると両方とも食べてみたくなるわね、ふふふ」
令「むにゃむにゃ……ん? 祥子?」
祥子「!!」
令「……祥子が早弁ねえ。気の早いお姉さまだこと」
祥子「ちがう、違うの! これはただ味見をしていただけで、というか最初に食べたのはよしのちゃんで……」
よしの「でも、さちこのほうがいっぱいたべてたー」
祥子「それを言うなぁ! うううぅ……降ろしてー! 今すぐここから降ろして!! 松井、車を停めなさい! 大至急!!」
運転手「高速道路のど真ん中で無茶おっしゃらないでくださいお嬢さま!」
祐巳「あは、あは、あはははは……(乾いた笑い)」
祐巳「わあ、涼しい。さすが避暑地と言うだけありますね、お姉さま?」
祥子「……」
祐巳「うわ。見事にグロッキー」
よしの「べっそー、べっそーは?」
令「お、なんかレトロな建物が見えてきた。もしかしてあれが祥子の別荘?」
祥子「そ……そうよ」
よしの「べっそーだ!(ダダッ)」
令「あっ! 負けないぞー!(ダダダッ)」
祐巳「私も私もー!(ダダダダッ)」
祥子「ちょっ……。今度は祐巳まで……」