[よしのと!] よしのとレイニーブルー

 ザアアーーー…。
令「うーん……」
よしの「……」
令「だから……なんて言うかな。えーと、私も細かいところはよくわからないんだけど」
よしの「……いってみろ」
令「こう図で説明すると……。よしのが出した入部届けが、剣道部の部長から顧問の先生、よしのの担任の先生、保健の先生、果ては校医にまで回っていって……、それでこう、私に連絡が来たの。わかる?」
よしの「……? わからん」
令「だーっ! ちゃんと人の話聞いてよ。そのせいで私は熱出して寝込んだんだから」
よしの「れーちゃんはちょっとかほごすぎる」
令「よしのの従姉だからね」

よしの「あめふってる。きょうはかせいみえないな」
令「そうね。今日はデートもなしかな」
よしの「えー! なんでだ! なんでデートいかない!」
令「私まだ熱あるし……」
よしの「わけのわからないこというな!」
令「なんでわからないのよ……。それに、まだよしののこと許したわけじゃないんだからね」
よしの「……つんでれか?」
令「違うし」

よしの「れーちゃん、れーちゃん」
 ぺちぺち。
令「いたた、頭痛に響くって……。なに?」
よしの「これよむ。よんでくれ」
令「え? またその本読むの? ていうか自分で読みなさいよ」

令「よしの、その本借りてきてから毎日読んでるわね。勉強もそれくらい頑張ってくれたらいいけど」
よしの「えーと、ぶっかが……」
令「……」
よしの「……」
令「……あ! よしの、ちょっとそれ貸して!」
よしの「とるな!」
令「違う違う、後ろの貸出カード見るだけだから」
よしの「……かしだしカード?」
令「うわっ、やっぱり今日だ。うーん、面倒だし体もだるいな……。でも返却期限破ったらつぼみとしての面子が……。お姉さまの顔にも泥を塗りかねないし」
よしの「ん?」
令「……。よしの、これ読み終わったらやっぱりデートしよう。学校にだけど」
よしの「おおーっ! なにかう……おごってくれる?」
令「なに言い直してんの。おごらないし。図書室にこの本返す日だから。まあ……ついでにデートくらいしてもいいけど」
よしの「ほー……。すなおになれないタイプなー?」
令「だからそういうんじゃなくて……」

 

 ぼんっ。
よしの「きゅうがたのスカウターか……」
令「何のネタよ……。はい傘。行きましょう」
よしの「おー!」

 ぐっちゃぐっちゃ。
よしの「じめんがぬかるんでぐちょぐちょになってる!」
令「わっ! 泥飛ばさないでよ」
よしの「ぐちゃぐちゃ、ぬちょぬちょ……。よしのちょっとへんなきぶんになってきたよ?」
令「さいですか。私はなってないから」
よしの「きょうはしめやかだなー」
令「それを言うなら湿っぽい、でしょ。梅雨だしね。もう夏がすぐそこまで来てるのかな」
よしの「ひぐらしがんばったからなー。セミだけど」
令「ひぐらし、セミで残念だったね。あのコスプレしてたキャラじゃなくて」
よしの「なんで? よしのセミもすき」
令「セミもパソゲーも同列か……。もう何でもいいのね」
よしの「セミヌードもすきー。ぜんぶぬがさないほうがいい」
令「ちょっ! おもむろに何言いだしてんですかよしのさーーん!」

 ザアアアア……。
よしの「れーちゃん! これはなかなかいいあめだ!」
令「へー。いいのと悪いのがあるんだ?」
よしの「ある。よしのにはわかる。あめふってじかたまる、だ」
令「えっ……?」
よしの「れーちゃん……、かってにけんどーぶにはいったからおこってるか? よしののこときらいになった?」
令「よしの……。まさか、よしのを思う気持ちは一ミリだって減ってないよ。私の心が弱いから、よしののこと甘やかしてしまいそうで」
よしの「だったら、よしのもぶかつがんばる。だかられーちゃんもがんばれ?」
令「……そうだね。もう少し、よしのに振り回されてみることにしたよ」
よしの「うん!」
令「ははは、何だか急に夏が待ち遠しくなってきたなあ。梅雨が明けたらすぐ夏休みだし」
よしの「なつやすみ! れーちゃんとおでかけする!」
令「うんうん。今年の夏はどこに行こうか?」
よしの「さちこのべっそういくー」
令「祥子の? うーん、今年は祐巳ちゃんと一緒だと思うけどな……」
よしの「わー」

 

よしの「がっこーについた!」
令「うん、靴を履き替えて図書室に……って、よしのなんでそんなに濡れてるの?!」
よしの「? あめですが、なにか?」
令「いやいやいや、だって傘さしてたでしょ?」
よしの「……れーちゃん、よしのがぬれるのすきなくせにぃー」
令「そ、それはそうだけど、っていうか今かなりクラッときてるけど……じゃなくて! そんな中途半端じゃだめなの! 濡れるなら思いっきり濡れるか、そこははっきりしてくれないと!」
よしの「……! れーちゃんからダメだしなんてはじめていわれた……」
令「うん……私も初めて言ったかも」

令「はい、それじゃ返却してきて」
よしの「おう!」
静「ごきげんよう。よしのさん」
よしの「かにーな! みせばんか!」
静「お店じゃないけどね。よしのさんは何の用かしら」
よしの「へんきゃくです!」
静「はい、ありがとう」
よしの「ぶっかのほんおもしろかった!」
静「ふふっ、よかったわね。そう言ってもらえると、私も図書委員している甲斐があるわ」
よしの「あのなー、こめのねだんがぴょーんってあがったらほかのねだんもぴょーんってあがった! そんでなー、すごいインフレ! ものすごいよ!?」
静「い、いや、そんな本の内容まで説明されても……」

 

よしの「へんきゃくしてきた!」
令「ついでに今日も借りていくから、好きな本選んで」
よしの「うん。ここ、にほんしコーナー」
令「その通り」
よしの「おーおーえーどーずーかーんーっ!」
令「本当に江戸の本が好きなんだね、よしのは」
よしの「♪だっ、だだだだっ、だだだだっ、だだだだだだだだだ」
令「え?」
よしの「♪じーんせーいーらーくーあーりゃー、くーはなーいーさー」
令「いや、ちょっ」
よしの「♪なーみだーのーあーとーにーは、まーじへーこーむー」
生徒「……(ガクブル)」
よしの「♪まーじへーこーむーっ」
令「それ歌詞違うでしょ? 違うよね?! ほら、隣で聴いてた子が落ちこんじゃってるし!」

よしの「れーちゃん、これをかります。ほい」
令「ちょっと待てーい! これさっき返却した本でしょ!」
よしの「そうだが?」
令「駄目よ、というか他のにしなさい」
よしの「えーっ! それおもしろいぞ。といつめたい! こいちじかんといつめたい!」
令「私を問い詰めてどうするのよ……。ほら、同じ全集で別のがあるじゃない。そっちにしたらいいのに」
よしの「んー……」
令「ほら、これなんかいいんじゃない? 江戸時代の着物だって。着物はいいわよ」
よしの「どんなふうにいい?」
令「……ちらりと覗くうなじが萌える」
よしの「……。ごめん、れーちゃんのしゅみはわからん」
令「なにーっ! そこは乗ってくれないの?!」
よしの「でも、きもののおびをひっぱるのはいいな! よいではないかよいではないか」
令「うん……そう、まあ、そんな感じかな……」
よしの「そっかー。なっとく!」
令「それは何よりなことで」
よしの「れーちゃんもなんかかりるか?」
令「うん、編み物の本を借りるよ」

よしの「これとこれをかしてください!」
静「はーい、少々お待ちくださーい」
よしの「ぜったいかえせよ!」
静「……あなたがね」
よしの「なー、おもしろいほんしってる?」
静「そうね……。バラの図鑑なんてどうかしら。ロサ・カニーナってどんな花か知っていて?」
よしの「んー……れーちゃんしってる?」
令「さあ?」
よしの「このまえれーちゃんがかにーなのこと、『あいつはくろいからくろばらだー』っていってた」
令「言ってない! 超言ってない!」
静「……フフッ、選挙が楽しみね。令さん」
令「いやいやいや、誤解だからそんな怖い笑顔で見ないで……」

 

令「はあ……。まったく、よしのはいい加減なこと言って……」
よしの「つぎはどこいくー?」
令「適当に買い物かな。ついでに喫茶店でも寄ろうか」
よしの「そのほん、よしのがもとうか?」
令「いいって。よしのに持たせて、学校の本が濡れたりしたら大変だから」
よしの「……よしのどじっこか?」
令「うん。ドジっ娘」
よしの「……ぞくせいか?」

よしの「あっ。れーちゃん、あそこにあたらしいゲームがある」
令「ん? うん、あるね」
よしの「……」
令「どうしたの、そんなにじっと見て。よしのってきらレボ好きだったっけ」
よしの「……? よしの、きられぼやったことないよ」
令「え?! きらレボやったことないの? なーんだ、よしのおっくれってるー」
よしの「! きられぼはやりか? にひきめのどじょう? よしののりおくれた?」
令「なんか失礼な発言が混じってた気もするけど……。もうみんな知ってるよ。みーんなだよ?」
よしの「なにー!」
 ダダダダッ。
令「よ、よしの……?」
よしの「すんまそーん」
小父さん「あ?」
よしの「おっちゃんはきられぼやったことありますか?」
小父さん「きらレボ? ああ、あるよ」
よしの「ありがとーう」
小父さん「……?」
よしの「すんまそーん、すんまそーん」
令「……うわ、道行く人に聞いて回ってるよ」
 ダーッ。
よしの「たいへんだ! ほんとだ! みんなやってる!」
令「よしの、よく一人目の小父さんに話しかけられたね……。って、一人目の小父さんもやってたの?!」
よしの「……じー」
令「よし、じゃあきらレボしようか。私が教えてあげるから」
よしの「わー!」

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