[よしのと!] よしのとちさと

 スッ……カチャカチャ……。
よしの「ふんふんふーん♪ ……あ、あみめまちがえた。ほどかないと」
 はらはらはら。
よしの「あはははは! けいとほどいたらラーメンみたい! ……なんだこれ」
令「よしのー。私ちょっと買い物に行ってくるね。本屋さんに辞典を買いに。すぐ戻るから留守番」
よしの「れーちゃん! これもっかいおしえて!」
令「ん、編み物? ちょっと貸して」
よしの「ほい」
令「ここに輪っかが並んでるでしょ。前、後ろ、前……って通して」
よしの「うん」
令「でー、最後にクルッと一周」
よしの「ガリガリくん!」
令「は?」
よしの「ガリガリくんかってきたらいい……かってこい」
令「命令形だとう?! でも……買ってあげないとまた紅薔薇さまに無心するかもしれないし。わかったよ、今日だけ特別ね」
よしの「うん! あたりのやつな!」
令「それ無理……」
よしの「がんばれ?」
令「だから……。それじゃ行ってくるね。留守番頼むよ」
よしの「ブラジャー!」

 

 ピンポーン。
よしの「きゃくか? おまかいか?」

よしの「はーい」
ちさと「あっ――」
よしの「んー? だれー?」
ちさと「……ああ、そうだわ、従妹の。確か苗字みたいな名前の……上の名前か下の名前か」
よしの「むー……」
ちさと「あ。桂さん?」
よしの「ちがう! よしのをそんなザコとまちがえるなんて……あやしい」
ちさと「そう、よしのさんだったわね。ええと、……お姉さまか、あなたのお姉さまはいらっしゃる?」
よしの「いるよ?」
ちさと「取り次いでくれないかしら」
よしの「だ、だめです」
ちさと「大丈夫よ、田沼が来たって伝えてくれれば」
よしの「……れーちゃんはいません」
ちさと「えっ、今いるって言ったのに」
よしの「やっぱりいない。れーちゃんいまおでかけしてる」
ちさと「そうなの。いいわ、それなら中で待たせてもらうから」
よしの「だめ!」
ちさと「ちょっと……。どうして友達にそんな意地悪するの」
よしの「……ともだち? よしのたち、ともだちだったか?」
ちさと「そんなこと言わないで……。友達ってことにしておかないとお家の方に怪しまれるでしょ」
よしの「だめなものはだめ!」
ちさと「はあ。……よしのさん、キャンディーいる?」
よしの「いる。レモンあじがいい。はつこいのあじな?」
ちさと「そうね、甘酸っぱいわよね。はいどうぞ……あ」
よしの「もー、おとすなよー」
ちさと「よしのさんが拾っているうちに……、お邪魔しまーす」
よしの「!! はいんな!」
 バシーン!
ちさと「アギャーーッ! ……いってえー! いてえーっ! っこの、何しやがんだこのアマ!!」
よしの「はいんなー! はいんなー!」
ちさと「うるせぇ! てめえ令さまの何だってんだよ! 従妹ふぜいが出しゃばんじゃねえ!」
よしの「おまえこそなんだー! このねこっかむりー!」
令「よしの! いったい何の騒ぎ?!」
ちさと「あ、令さま♪(コロッ) 来ちゃいました」
令「ああ……。いや、それよりさっき、よしの以外の罵声が聞こえたような……」

 

令「……」
ちさと「私はですね、クッキーをそのまま食べるんではなくて、ミルクに浸してベチョベチョにして食べるのが好きなんです」
令「ベチョベチョってあーた……」
ちさと「令さまも召し上がってくださいよ。せっかく丹精込めて焼いたんですから」
令「うん、……それはいいとして。わざわざうちにクッキー届けに来たの?」
ちさと「違いますよ。嫌だ、お忘れになったんですか? 今度のデート♪」
令「ああ……新聞部の企画の。まだ先だと思っていたけど」
ちさと「早いうちに行き先決めた方が何かといいでしょう? ねえねえ?」
令「それもそうか。わかった、それじゃ話し合おう」
ちさと「やった! ……でもその前に」
令「ん?」
よしの「じいいいー……」
ちさと「あの子が私のこと目の敵にして、さっきから突っかかってくるんです……。何とかしてくださいませんか?」
令「あー……。よしのよしの、おいで」
よしの「……」
令「この子は田沼ちさとちゃん。剣道部の後輩」
よしの「たぬまちさと?! わるいやつか? ちょーわるいやつか?」
令「なんで『いいやつ』の選択肢がないのよ。ちさとちゃんはいい子だよ? 真面目だしよく気が利くし」
よしの「れーちゃんめあてのくせに……。かえれ! ちさとかえれ!」
ちさと「ひ、酷い……。随分と嫌われたものね。……よしのさん、さっきあげたキャンディーはある?」
よしの「これか? ……はっ。まさかとるきだな?」
ちさと「そんなことしないわ。食べてちょうだい。私からの仲直りのしるしに」
よしの「そ、そうか? じゃーたべてやる。もごもご……ブハーッ! な、なんだこれ?! レモンちがう!」
ちさと「あら、間違えてコーヒー味を渡しちゃったみたい。お口に合わなかった? 味覚がお子ちゃまなのね……ぷくくく」
よしの「なっ! わ、わらったなー!」
ちさと「さて、そろそろクッキーが食べ頃かしら」
よしの「むむむ……」
ちさと「ん? よしのさん、クッキー欲しいの?」
よしの「ぼっしゅー」
ちさと「だ、駄目よ、これは私が令さまのために」
よしの「ぼっしゅー。れーちゃんにくわせるわけにはいかない」
ちさと「そんな……。わかったわ、よしのさんにあげるから、どうか冷たくしないで」
よしの「うまかったらかんがえてやる」
ちさと「よかった……それじゃどうぞ」
 ベチャッ!
よしの「ぎゃっ! かおにぶつけた……!」
ちさと「あはははは! どう? ミルクに浸したクッキーのお味は。その汚れっ面、よしのさんにお似合いだわ……ははは」
よしの「うぬぬぬ……! ま、またしてもはかったな!」
ちさと「さあ? 何のことかしら」
よしの「ううう……れーちゃーん! れーちゃんどこだー!」
ちさと「令さまなら、さっきお茶を入れに行ったわ。……あなた令さまがいないと何もできないの?」
よしの「なにをー!」
ちさと「それに、令さまへのお土産は他にもまだあるし。このガリガリ君とか」
よしの「よこせ!」
ちさと「あっ、と、取らないでよ」
よしの「こんなもの、よしのがくってやる!」
 がつがつがつ……。
よしの「んんんーー!! あ、あたまがキンキンする……!」
ちさと「……それは私のせいじゃないわよ。自業自得」
よしの「お……おのれー! このうらみはらさで……」
 ♪ぴぴるぴるぴる~ぴ~るぴる~。
ちさと「あ、電話だわ」
よしの「こらー! けーたいでんわはべんきょーのじゃま! がっこうにもってきちゃだめ!」
ちさと「ここ学校じゃないでしょ。プライベートでの持ち歩きまでは禁止されていないし。――はい。あー私。……うん、そうそう、ちょうど今来てんの。けどさー。ほら、例のあの女いるでしょ、……そう従妹の。そいつが超うざくてー、まじむかつくんだけど」
よしの「?! よ、よしののことかー!(バッ)」
ちさと「ああっ! 返しなさい!」
よしの「あぼーん! あぼーん! あぼーん!」
ちさと「!!」
よしの「じゅうろくれんしゃ……!(ピッピッピッ……)」
ちさと「な、何てことするの!(パシッ) もしもし?!」
 ツー、ツー、ツー……。
ちさと「ちょっ……。ど……どうしてくれるのよ」
よしの「にやり」
ちさと「……っ。……」
 トゥルルルルル……トゥルルルルル……。
よしの「お?」
ちさと「電話よ。令さまはいないから、よしのさん出ないと」
よしの「そ、そうな?(ガチャ) もしもし」
?『おみそー、おみそー』
よしの「?!」
ちさと『よしのさんのお味噌ー、味噌っかすー。クスクスクス……』
よしの「うぎぎぎぎ……! さっきからばかにしおって!」
ちさと「見事に引っかかってくれて、ほんといい気味だわ。……さあクッキーでも食べましょ」
よしの「ゲロー! ゲロきったねー!」
ちさと「ブッ!! ち、違うわよ、これはクッキーをふやかしただけで」
よしの「ちさとがゲロはいてるー! くせー! すっぱくっせー!」
ちさと「なんて汚い言葉を……。それでもリリアンの生徒なの?」
よしの「ゲゲゲのきたろー! ゲロンパー! ゲロゲーロー!」
ちさと「ぐぐぐっ……! ……ゲロうめー! ゲロうめええ!」
よしの「なっ!! う、うそゆーな! ゲロがうまいわけねー!」
ちさと「んだとこら! じゃあ食ったことあんのか! ふざけんな!」
よしの「い、いちどはいたものなんかくわねー!」
令「よしの?! またしても何の騒ぎ?」
ちさと「じゃあゲロの味ってもんを教えてやるよ! 腹に蹴り入れてやっから!」
令「はいーーー? ちちちちさとちゃん?!」
ちさと「てゆーか、もうてめえのゲロで溺れて死にな! 葬式でおもくそ笑い飛ばしてやりてえよ!!」
令「原作でもそこまで言ってないってーー!」
ちさと「え……? あ、令さま♪」
令「いや、もうばれてる……。もう完全にばれてるから」

 

ちさと「今日は遅いのでおいとましますね」
令「……うん」
ちさと「令さま、剣道部の次の休みっていつでしたっけ」
令「木曜……だったかな」
ちさと「それじゃ、その日に改めてお邪魔します」
令「あ、ああ……」
よしの「くんな! ちさとくんな!」
ちさと「あらあら。よしのさん、キャンディー美味しかった?」
よしの「レモンあじじゃなかった! はつこいかえせ!」
ちさと「初恋ですって……ププッ。ではごきげんよう」
よしの「むきー! こんじょーのわかれだ! にどとくんな!」
ちさと「……あ、よしのさん。最後にいいこと教えてあげるわ」
よしの「む……?」

ちさと「――私のお腹には、令さまの赤ちゃんがいるの」

よしの「!!!!」
令「なにー! いや、ちがっ、ていうかそれありえないから!」
よしの「このどろぼーねこ!! ちさところす! ぜってーころす!!」

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