[よしのと!] よしのとマリアさま

 ガサガサ……。
よしの「あれえ、いないなー。たしかこのへんに……」
志摩子「よしのさん、ごきげんよう」
よしの「しまこ!」
志摩子「今日もよく晴れて、暑いくらいね」
よしの「あー、てんきのはなしな? あたりさわりのないわだいな?」
志摩子「え。別にそういうわけじゃ……。よしのさん、何か探していたみたいだけれど」
よしの「さっきこっちのくさむらでみた!」
志摩子「何かしら。ギンナンでも拾うの? まだ時期じゃないわよ」
よしの「ねこー」
志摩子「ねっ――――」
よしの「なかにわでランチがあるいてた! よしのがつかまえる!」
志摩子「ああ、あの野良猫のこと。猫なんか捕まえないほうがいいわ。汚れているし」
よしの「そうか……?」
志摩子「それに、人間と触れ合うことに慣れてしまったら、自然界では生きていけなくなるから。かまうのはかえって残酷よ」
よしの「お、おー……。しまこはてんねんだけどいがいとおとなだなー」
志摩子「ふふふ」
よしの「……あっちもおとななのか?」
志摩子「ふふふ」
よしの「こわぁー、むくなほほえみがむしろこわぁー」

志摩子「そういうよしのさんも、子どもっぽい言動に見せかけて結構……あら?」
よしの「……がたがたぶるぶる」
志摩子「どうしたの? 私の後ろに隠れて」
よしの「あいつが、あいつがこっちみてる」
志摩子「あいつって……あのマリア像のことかしら」
よしの「うん。あいつ、よしののことにらんでる」
志摩子「そんな、怖がることないわ。マリア様は私たちをいつも見守ってくださるのよ」
よしの「いつも?! ストーカーかと!」
志摩子「そうではなくて……。リリアンの生徒なのにマリア様が苦手だなんて、初めて聞いたわ」

志摩子「私は一旦教室に戻るけれど、後で一緒に薔薇の館に行きましょうか」
よしの「いく!」
志摩子「それでは後ほど。猫捕まえちゃだめよ」
よしの「おー。……さーて、どこにいったかなー」
 ガサッ。
よしの「はっけん! よーし、こんどこそ。よつんばいでちかづこう……」

 

よしの「たのもー!」
祥子「ごきげんよう、よしのちゃん。今日も元気バリオンステッチね」
よしの「……20てん。ていうかいみがわからん」
祥子「ええー! や、やっぱり私にはギャグは無理だわ……」
よしの「しょーじんあるのみだ。ゆみいるか?」
祥子「祐巳は二階にいるわよ。あら、その袋、何持っているの?」
よしの「みるか?」
 ばすっ。ばすっばすっ……。
祥子「! ゆ、祐巳に見せてあげて」
よしの「わかった! ゆーみー」
祥子「……何?! あれ何?」

 

祐巳「なになに? 何を持ってきたの?」
よしの「みろ! これだ!」
祐巳「わ」
ランチ「ニャー」
祐巳「わあ、ランチだ! 間近で見るとかわいいね!」
よしの「なー?」

祐巳の声「かわいいー」
祥子「あら? 子猫とかだったのかしら? ……ねえねえ、私にも見せてくれない?」
よしの「いいぞ! ほら!」
ランチ「ニャー」
祥子「って、本当に子猫? よしのちゃんのことだから、てっきり裏があるかと思って警戒していたのに。拍子抜けだわ」
祐巳「お姉さま、そんなこと言ったら悪いですよ」
よしの「ひとをうたがうのはよくない! れーちゃんがいってたぞ」
祐巳「そうですよ。よしのさんはやんちゃだけど、人を騙すようなことはしません」
祥子「おもくそ騙されてるよこの子ー!」
よしの「だましてないよ? よしのはすなおでやさしいびみょーにょだよ?」
祐巳「ねーっ。意地悪なこと言うお姉さまは放っておいて、あっちで二人で遊ぼう」
よしの「いこういこう! あはははは!」
祥子「ぐっ……祐巳の前だといい子になって! よしのちゃんこそ猫っ被りじゃないの!」

 

志摩子「? 何か怒鳴り声が聞こえたような。……祥子さまのヒステリーはいつものことだけれど。さて、このお面をつけて……っと」

 コンコン。
令「はーい、今開けまーす」
マリア様「――」
令「……?!」
マリア様「ごきげんよう」
令「は、はあ」
マリア様「よしのさんはいらっしゃいますか?」
令「あ……えっと、二階、会議室に……」
マリア様「そうですか。それでは上がらせてもらいます」
令「え、ええどうぞ……」
 ギッ、ギッ、ギッ……。
令「……。ていうか誰――?!」

 

ランチ「ニャー、ニャー」
祐巳「後で中庭に放してこよう」
よしの「そのまえににくきゅーふにふにしてあそぶ!」
祐巳「肉球ふにふに! よ、よだれ出てきそう……(妄想)」
?「よしのさんはいるかー」
よしの「お? だれだ?」
祐巳「さあ?」
よしの「だれですかー?(ガチャ)」

マリア様「――――」

よしの「!! ギャーッ!」
祐巳「なっ、なに?」
マリア様「よーしーのーさーん」
よしの「ギャーッ! ギャーッ!」
祐巳「よ、よしのさん! どうしたの? ちょっと落ち着いて」
マリア様「きーたーわーよー」
よしの「フーッ! フーッ!」
マリア様「私がいつも見ているわよー」
よしの「ひいっ! ……ちょ、ちょあーー!」
マリア様「おっ?」
祐巳「ま、まさか戦う気?」
よしの「ふんっ!(ポカッ)」
マリア様「いたっ。……よくもやったわねー」
よしの「……! う、ううう……あーー! あーーー!」
マリア様「わわっ」

祐巳「だめじゃない、志摩子さん! よしのさんを泣かせて!」
マリア様「わ、私は志摩子じゃないわ。ええと……私の名前は阿部マリアです。東京都H市から来ました」
祐巳「H市ってずばり志摩子さんの住所だし! そんなお面つけたって、中身は志摩子さんでしょ」
マリア様「ちっ違うわ。中の人は能登よ?」
祐巳「中の人すぎるよそれ!!」
マリア様「……だって、よしのさんがマリア像のこと苦手って言うから。この機会に克服してもらいたくて、その……」
祐巳「ふーん……。そうだ! それなら志摩子さんも、一緒に苦手を克服しようねー?」
 ガサゴソ。

祐巳「志摩子さん志摩子さん。じゃーん」
ランチ「ニャー」
マリア様「きゃっ! ど、どうして猫がここに? あわわわ……」
祐巳「ほらほらー、かわいいでしょー」
マリア様「ちょっ、やめて祐巳さん。あまり近づけないで……早くしまって!」
よしの「……お? マリアさま、ねこきらいか?」
祐巳「そんなに怖がらなくていいのに。背中なでてみて」
マリア様「い、いやよ。猫の爪はばい菌があって、祖母が引っかかれてものすごく腫れて……ひっ!」
祐巳「あの志摩子さんがこんなに慌てるなんて。……ほらランチ、マリア様が直々にかわいがってくださるって」
ランチ「ニャーニャー」
マリア様「ギャーッ!」
よしの「ギャーッ! こっちくんな!」
マリア様「そんなこと言われても猫が……ギャーッ!」
祐巳「あはは、二人とも頑張れー」
よしの「くそー! ゆみもなんかこくふくしろ!」
祐巳「えーっ? なんで私もなの?」
よしの「そ、そうだ! こんなもの! こうしてくれる!」
祐巳「わー、よしのちゃんダメ! 祥子さま人形が破れちゃう!」
よしの「にんぎょーなんかもつな! げんじつとむきあえ!」
マリア様「そうよ祐巳さん。ロザリオをいただいた正式な妹なのでしょう? もっと自信持って……オラオラオラァ!」
祐巳「って、なんで志摩子さんまでマッハで殴ってるのー?!」
よしの「むだむだむだむだむだ!」
 ブチッ……。
祐巳「……!! ギャーッ! 首がもげたーー!」

 バタバタンッ!

祐巳「? 今、廊下で変な物音が……」
マリア様「大きな物が倒れるような音だったけど。行ってみましょう」
よしの「あ! さ、さちこ!」
祐巳「お……お姉さまの、首が……首が……!」

 ぎゃああああああああああ!!

 

蓉子「……」
聖「……」
蓉子「賑やかねー」
聖「い、いや。なんで私たち、わざわざ学校休んでこんなところに来てるわけ?」
蓉子「その謎は次回明かされる……かも? それではまた来週ー♪」
聖「誰に言ってるのよ、誰に」

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