[よしのと!] よしのとスクみず

令「お姉さま、新聞部からこんなものをいただきました」
江利子「新聞部が? どれどれ」
よしの「よしのにもみせろ!」
令「紙上アンケートで私とよしのがベストスール賞に選ばれまして、その賞品だそうです」
よしの「ついによしのたちのじだいな!」
令「いや、時代とかじゃなくて……」
江利子「それが……ウォーターワールドのチケット? やけに豪華ね。罠だったりして」
令「え? 罠……?」
江利子「新聞部のことだから、私たちが遊びに行くのを待ち伏せて、記事のネタにでもするんじゃないの?」
令「そ、そうか。賞品につられて、何の疑いも持ちませんでした」
江利子「まあ、私は突撃取材でも何でも受けて立つけど♪」
令「行く気満々じゃないですか!」
よしの「だれといく? だれといく?」
令「チケットは四枚あるから、あと一人。剣道部の後輩にでも」
江利子「待って、令。私に考えがあるわ。……よしのちゃん?」
よしの「なんだー?」
江利子「よしのちゃんは、紅薔薇ファミリーと仲良しよね?」
よしの「あー。あいつらなんてしょせんうわべだけのつきあいですよ」
令「そうだったの?!」
江利子「ま……まあこの際何でもいいわ。一番上の食いしん坊なお姉さまいるでしょ」
よしの「よーこか!」
江利子「そう。よしのちゃん、蓉子とプールに行って遊びたいわよねー?」
よしの「うん!」
江利子「それじゃ、明日一緒に行こうって誘ってきなさい」
よしの「さそってくる!」

令「……あ、あの」
江利子「何よ。文句あるの?」
令「いえ、よしのをダシに使うのは構いませんが……。どうして紅薔薇さまなんですか」
江利子「だって蓉子……、いつも聖ばかりかまって、私と一緒の場面が少ないんだもの」
令「は? い、いや、そんな大人の事情知りませんから」

よしの「さそってきたー。くるっていったー」
江利子「よっしゃー! これで蓉子と絡める! 明日は頑張るぞー!」
よしの「おーっ!」
令「こ、こんな出番獲得に必死なお姉さまの姿なんか見たくなかった……ううっ」

 

令「校門前で待ち合わせでいいのよね。……あっ、来た来た」
祥子「ごきげんよう、令」
祐巳「今日はお誘いいただいてありがとうございます!」
令「あれ……? 紅薔薇さまは?」
祥子「お姉さまなら、昨日から学校をお休みしているけれど?」
よしの「だからゆみとさちこといくんだ!」
令「そ、そう」
祐巳「よしのさん、ナイスアシスト! 遊園地じゃないけれど、念願のお姉さまとのデートだよ!」
祥子「もう祐巳ったら。行く前からはしゃいで、しょうがない子ね。リボンが曲がっていてよ」
祐巳「はい、お姉さま♪ えへへ……」
よしの「す、すげえー。ふたりのせかいだ」

江利子「…………」
祥子「黄薔薇さま。どうかされました、その格好? 小じゃれたアロハシャツなんか着て」
江利子「だまれお嬢!!」
祥子「?!」
江利子「あんたなんか呼んでないわよ! 箱入り娘はひきこもってなさい!」
祥子「なっ……!」
江利子「よしのちゃーん、話が違うじゃないのー。蓉子って言ったのに」
よしの「よーこはけっせきだってー」
祥子「ははーん。うちのお姉さまの人気に便乗しないと生き残れないなんて、マイナー薔薇さまは哀れですわね」
江利子「くっ、この子言わせておけば……!」

 

祐巳「あれ? 学校から徒歩で行くんですか? 近くにプールなんてありましたっけ」
江利子「何言ってるの、祐巳ちゃん。もう着いたわよ」
祥子「って……学校のプール?! 市民プールですらないんですか!」
江利子「世間知らずのお嬢にはここがお似合いよ!」
祥子「ムキーッ! 逆恨みもほどほどになさいませ……!」
祐巳「……私は学校のプールでもいいですよ」
祥子「えっ?」
祐巳「というか、お姉さまの魅惑の水着姿が拝めるならどこだって!(鼻息)」
祥子「魅惑とか拝むとか言わないで……。でもそうね、今日はせっかくのデートですもの。楽しみましょう」
よしの「プールだーー!」
令「みんな、そうじゃなくて……。無断で使っていいのかとか、そもそもまだ泳げる時期じゃないとか、どうして誰も考えないの……」

 

よしの「プールサイドになつがきた!」
江利子「わあ、貸し切り状態ね。私たちの他には誰もいない」
令「当たり前ですって! 水着一枚じゃ寒いし、水だってまだ冷たいし」
江利子「それにこのプール……入れるのかしら。苔がびっしり湧いて緑色よ」
令「こ、これは体に悪そうですね……」

祥子「まったくよ。こんなプールで泳ごうなんて気が知れないわ」
江利子「あ……」
令「……いい」
祥子「な、何ですか。二人ともジロジロ見て」
祐巳「ねーっ! 思わず見とれちゃいますよね! お姉さまのスク水!」
祥子「だから……変な略語はやめなさいって言っているでしょう」
祐巳「さすがお姉さま、わかってらっしゃる! ご立派です! セクシーです! ああっ、スク水の神様は今まさにお姉さまにご降臨あらせられた……!」
祥子「スク水の神様って何ー?! 祐巳、いったい何が見えたの? しっかりなさい!」
令「まあ、祥子にそんな格好されたら、祐巳ちゃんの反応もわからないでもないけど」
よしの「ゆみをのーさつだな! スクールみずぎはポイントたかいな!」
祥子「そ、そういうものなの?」

江利子「だいたい、どうして学校の水着なの。祥子だったら水着なんか山ほど持っているでしょう」
祥子「いいえ、海やプールにはあまり行きませんので。今年のはまだ買っていなかったし」
江利子「令はセパレートね。いかにもスポーツマンってスタイルだわ」
令「……私ウーマンですが、一応。お姉さまも、その水着すごく着慣れている感じですね」
江利子「わかる? パレオつけて、ハワイアンをイメージしてみたんだけど」
祥子「祐巳は、水玉模様のワンピースね。よく似合っていてよ」
祐巳「は、はい。でもこれ……一昨年買ったのなんです。つまり全然成長していない……」
よしの「だがそれがいい!」
祐巳「幼児体型コンビのよしのさんに言われても嬉しくないよ……」
祥子「わ……私も祐巳のスタイルは可愛いと思うわ。だから気を落とさないで」
祐巳「お、お姉さまぁ!(感涙)」
江利子「さて、残るよしのちゃんは……やっぱりスクール水着か」
よしの「あたぼうでい! いわゆるひとつのもえよーそ! れーちゃんのリクエストだ!」
江利子「え……令が?」
令「当然です! もちろん旧スク・名札つきで! 後で食い込みとか直させます!」
江利子「……。あ、あなたたちが真のベストスールだってことだけはよくわかったわ」

 

令「――水泳というより、これではただの水着ファッションショーですね」
江利子「まあ無理もないでしょ。こんな汚いプール、泳げるわけないじゃない」
祐巳「……! あっ、あれ! あれ見てください!」
よしの「あははははははは!」
 バシャバシャバシャ……!
祥子「がっつり泳いでるーー! い、いや、違う?! あれは……」
江利子「水の上を走ってるわ……。まさかそんな、忍者じゃあるまいし」
令「ああっ、コースロープだ!」
祐巳「コースロープ?」
令「コースとコースの間に張ってあるロープ、よしのはあの上を走っているのよ!」
祥子「それにしたって、とても人間業じゃないわ……」

よしの「ふー、いいあせかいたぜ」
祐巳「よしのさん、すごいねー。私も綱渡りの人生だから、よしのさんのこと見習わないと」
よしの「んあ……? なにいってんだ?」
江利子「というか、運動神経よかったのね。病弱っていうのはカモフラージュかしら」
よしの「そんなことないよ? みんなもやれ! たのしーぞ」
祥子「わ、私たちはやめておくわ。プールに落ちたら大変だから」
よしの「できないのか……? じょうきゅうせいなのに。よしのにもできたのに」
祥子「なっ……よしのちゃん? 私がこれしきのこと出来ないとでも?」
令「ちょっと、だめよ祥子。ここで挑発に乗っちゃ」
祥子「黙っていて! だいたい令、よしのちゃんになめられすぎよ。お姉さまの自覚なさすぎだわ」
令「いや、それは単に性格の問題……」
祥子「ここはひとつ上級生の威厳を示しておかないと。……そうですわよね黄薔薇さま!」
江利子「えええ! ここで私に話を振るわけ?!」

 

よしの「ふーうんよしのじょうー」
祥子「風雲よしの城?! 何なの、その80年代なタイトルは」
よしの「でこちんとれーちゃんとさちこはちょうせんしゃです」
令「やっぱり私も強制参加なのね……とほほ」
よしの「よしののところまでロープをつたってきなさい」
江利子「プールの反対側まで行けっていうの……? 明らかに無茶でしょ」
よしの「へんじはどーした!!」
令「は、はいっ! すみません!」
よしの「できないのか? それじゃー、はっとりはんぞーからやって」
江利子「……は?」
よしの「もっとしのびのことかんがえて!」
祥子「何?!」
よしの「もとべいぞーでもいいから!」
令「そ、その人は忍者じゃないと思う……」
 風雲よしの城――完。

 

祐巳「み、みなさんお疲れさまでした……」
江利子「結局、誰もトライできなかったわね。確かに情けないわ、私たち」
祥子「ねえ、よしのちゃん。どうしたらあんなふうに走れるの?」
よしの「かるいとはしれる。おもいとはしれない」
祥子「ええっ!」
令「私は重いので走れません」
江利子「私も重いので走れませーん」
祥子「私は重くない!」
令「胸にそんなでかいものつけておいて、よく言うよ……」
江利子「祥子、仲間仲間。50キロ以上は走れないのよー。くっくっくっ」
祥子「なんですってー! キーッ!」
江利子「かかってきなさい。今日こそ決着つけてやるわ!」
令「お、お姉さま! ここは私が!」
江利子「ちょっ、令、足踏んで……!」
祥子「えっ? きゃっ! あぶな……っ!」

 どっぼーーーん!

祐巳「わーっ! 三人とも落ちちゃったー!」
江利子「あば! あば!」
令「ひっ! ひいーっ!」
祥子「げはっ! うばっ!」
よしの「さすがじょうきゅうせいだなー。……だいちょうきんにきをつけろ?」

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