[よしのと!] よしのとずぶぬれ

よしの「うわー! すごいくもがでてきた!」
祥子「はあ、はあ……。大変、早く薔薇の館に入らないと」
よしの「さちこ! みろ! くもがみどりいろだ」
祥子「よしのちゃん。ええ、これは今にすごい雨が来るわよ」
よしの「さちこもみどりのくろかみだ!」
祥子「え……えっ? ありがとう、髪をほめてくれるの……?」
よしの「リリアンのせいふくも、『みどりをいってきおとしたようなくろ』っていう」
祥子「そうね、よく知っているわね。だけど、どうして今そんな話を……」
よしの「なー、なんでくろなのにみどりっていうんだー?」
祥子「たしかに不思議な話ね。でも、それが日本語の奥の深さでもあるのよ。……って、雨が降りそうだって言っているのに、いつまで外で立ち話させる気なの。もう中に入るわよ」
よしの「まあそうしろ? そんなとこでいつまでもくっちゃべってんな?」
祥子「よしのちゃんが脈絡もない話を振ってきたからでしょ!」
よしの「でもべんきょうになった! がってんがってんがってん!」
祥子「今のテーブルを叩く身振りは何……。あら? 二階の窓が開けっぱなしじゃない。急いで閉めないと。令はいる?」
よしの「れーちゃんはぶかつだー」
祥子「そう。だったらよしのちゃんでいいわ。窓を閉めてきてちょうだい」
よしの「……。……よしのもてつだおうか?」
祥子「なにーっ! 私が主戦力ってことになっちゃってるし! ……わかったわよ、二人で一緒に行きましょう」
よしの「それがいい!」

 

祥子「……はあ。まったく、本来こういう雑務は下級生が率先して……」
よしの「さちこー、なにぶつぶついってんだ? ストレスたまるぞ?」
祥子「いったい誰のせいだと思って……。よしのちゃんは令の妹だから、大目に見ているけれど」
よしの「れーちゃんもよしのにあまいぞ?」
祥子「ということは、誰もよしのちゃんをしつけていないってこと?」
よしの「だいじょーぶだ! よしのはだいぶしっかりしてきた!」
祥子「今の聞き捨てならないわよ……。ねえ、令は武道場に行ったの?」
よしの「うらにわにいるよ? すぶりしてる。たいかいまえっていってたからなー」
祥子「なんだ、いるんじゃない」
江利子「(無駄よ祐巳ちゃん。よしのちゃんは頭の弱い子だから、自分のお姉さまが誰かわかっていないの)」
祥子「……はっ。あの、よしのちゃん? まさかとは思うけど……令が何の部活をしているか、当然知っているわよね」
よしの「え……。えーと、なんかけんもって……、けん……」
祥子「も、もしかして言えないとか……?」
よしの「うーん……。れーちゃんにきいてくる!」
祥子「ま、待って! ……本人に聞くなんてずるい」

 

令「部活? 剣道部だよー」
よしの「おー! それ! それな!」

よしの「ただいまー」
祥子「おかえりなさい。それで、答えはわかった?」
よしの「うん! けん……こん……、あれ? ……。こんどうむー」
祥子「ちょっとー! 言うに事欠いてなんてことを……。た、たしかに剣道部と聞き間違えそうだけれど」
よしの「いまあっちでひとりでしてるー」
祥子「それ……本当に竹刀の素振りよね? よしのちゃんが言うと別の意味に聞こえるから怖い……」
よしの「よしのがこのまえスポーツブラかってやった!」
祥子「またその話……?」
よしの「これだ! みろ!」
祥子「まあ、かなり動きやすそうなつくりなのね……って違うから。どうしてこんなの持ち歩いているの!」

 

令「ふう。お待たせー、よしの」
よしの「おー、れーちゃん! すぶりはどうだった?」
令「うーん、そうねえ……。もえーっ! ってかんじかな」
よしの「もえーっ!」
令「もえーっ!」
祥子「……も、燃え? 大会を意識して燃えているってこと?」
令「お、祥子じゃない。……あれ? 私のブラジャーに何か? いる?」
祥子「い、いりません! よしのちゃんに押しつけられただけよ」
令「それもそうよね。私のじゃサイズ合わないと思うし。祥子って結構あるから」
祥子「なっ……! む、胸のことはどうだっていいでしょ!」
令「はっはっはっ。あっ、そうだ。これをこうして……っと」
祥子「ちょっと、令? いきなりブラを頭に巻いて、いったい何する気……?」
令「――ネコミミモード!」
祥子「あの……そんな男子小学生じゃないんだから……」
よしの「おー! きょうはへんたいかめんじゃないほうがでた!」
祥子「変態仮面?! そっちも出るの?!」
令「ネコミミモード♪ ネコミミ♪ ネコミミモードでーす♪」
よしの「いいぞー、もっとやれー」
令「お・ね・え・さ・ま♪ よしののシモベ~♪」
よしの「おのれー! ひくつになりやがってー!」
祥子「あははは……。令が壊れた」

 

よしの「すー、はー♪ ……れーちゃんのブラはおとめちっくなにおいがするなー」

令「ありがとうね、戸締りしてくれて」
祥子「令がいるとわかっていたら、最初から令に頼んでいたわよ」
令「それって……よしのは役に立たなかったってこと?」
祥子「別にそういうわけじゃ。気は利かないけれど、こちらが言えば手伝ってくれるし」
令「だけど、昨日もお騒がせしたみたいだから。毛虫がなんだーって言っていたけど」
祥子「ああ、あのこと? 別段気にしていないわよ。というか、私は卒倒したから正直よく覚えていない……」
令「卒倒って! やっぱり迷惑かけていたのね」
祥子「ま、まあ……。それより、そのとき黄薔薇さまが言っていたのだけれど、……よしのちゃんは頭の弱い子だって」
令「あー、たしかに。心臓の病気で欠席や入院が多かったから、勉強が遅れているんだわ」
祥子「一理あるわね。でも、それにしては高校生なのに言動が幼稚すぎないかしら」
令「うーん、わかりやすく言うと、……私も病気?」
祥子「何ですって? 初めて聞いたわよそんなこと?! 令がいったい何の……?」

 ピカッ! ゴロゴロゴロ……。

よしの「かみなりだっ!」
祥子「よしのちゃん? 慌ててどこに行くの?」
よしの「ちょっとおもてへでる!」
祥子「あっ! よしのちゃん、雨降るわよ?」
よしの「あめゲットだぜ! ばっちこーい!」

 ……ポツ、ポツ、ポツ、……ザアアアアア――――!!

よしの「どっひゃーーーっ!」
祥子「うわー! よしのちゃん大変! 全身ずぶ濡れよ!」
よしの「これでいいのだー!」
祥子「いやいやいや、よくないから! 早く戻ってきなさい!」
よしの「へいきへいき! むしろさちこもこーい! いっしょにぬれろ!」
祥子「わ、私は遠慮するわ……。まったく、あの子何考えているのかしら」

令「よしのは、私が濡れフェチなのを知っているから」
祥子「……へっ?」
令「雨に濡れた女の子を見ると、とても興奮するの、私。だからよしのは私を喜ばせようと、わざと大雨に飛び込んで濡れてくれるの」
祥子「……。あ、あの……」
令「幼女趣味なのも、振り回されたいのも、マゾなのも。私の弱点を熟知していて、何でも実践してくれる。よしのは無敵……! 無敵なのよッッ!」
祥子「そんなこと目いっぱい力説されてもー! っていうかあなたのその異常な性癖、まさしく病気だから!!」
令「う、うん。自覚はしている」
祥子「……はあ。よしのちゃんが困ったちゃんだとばかり思っていたのに、まさか令のほうが重症だったなんて。聞いて呆れるわ」

 

よしの「ふー。おもしろかったー」
祥子「そ、そう。それはよかったわね……」
よしの「れーちゃんもくればよかったのに」
令「ううん。私は自分が濡れるより、よしのが濡れるのを見るのが好きだから」
よしの「あー、そっかー」
祥子「納得してるし」
よしの「どうだ、れーちゃん! よしのはそそるか?」
令「うん、うん! 肌に貼りつく制服とか、三つ編みの先から落ちる水滴とか、もう最高! もえーっ!」
よしの「もえーっ! きゃははは!」
祥子「……だめだわ。もう完全についていけない」
よしの「あ、はれた!」
祥子「晴れどころかお先真っ暗よ……。山百合会の将来が本気で心配になってきた……」

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