令「ふむ、修学旅行か……。どうしようかな」
よしの「れーちゃん!(ぺちっ)」
令「いたっ! ちょっ、こら、よしの!」
よしの「そういうのいいから! でんわしろ!」
令「よくないでしょ……! 電話なんて……こうだ!(ゴスッ)」
よしの「ギャーーッ! よくもやったなー! てんちゅー! てんちゅー!」
令「きゃっ、ちょっとよしの、本気で叩くとか反則……ぐはっ! や、やめっ、本当やめ……はぁはぁ!」
よしの「れーちゃん?! むしろなんかよろこんでる?」
令「……まったく。それで、電話って? 誰に?」
よしの「じーちゃん!」
令「じーちゃんって……もしかして谷中さんのこと? どうして?」
よしの「いいからはやく!」
令「まあ別にいいけど……。でもよしのが谷中さんに何の用事……?」
プルルルル、プルルルル……。
令「――こんにちは、支倉です。……ええ。はい、父も変わりありません」
よしの「かわって、かわって」
令「はい……ああ、うちは大丈夫です。全然来てませんのでわかりませんが……」
よしの「はやく、はやく!」
令「……でですね、隣のよしのが話があるそうです。はい代わります――。ほらよしの」
よしの「おー! じーちゃん、よしのだよ!」
令「本当に何の用なんだろう……。ちょっと聞いててみよう」
よしの「じーちゃんにとっておきのおしらせだ! ねんきんがかえってくるぞ! だからいまからいうこうざにげんきんを……」
令「詐欺だー! ちょっ、犯罪とか絶対ダメ!」
よしの「……えー。ぜったいだませるとおもったのにー」
令「……それ谷中さんに対してものすごく失礼なんだけど? とにかく、適当に話題変えてごまかしなさい」
よしの「ちぇー……。じーちゃん、さいこんおめでとー!」
令「あ、そういう情報は耳に入ってるんだ」
よしの「……え? じーちゃんのむすこと、れーちゃんをおみあいさせる? ……なんだとー! そんなのよしのがみとめん!」
令「どうしてよしのの許しがいるのよ……」
よしの「だいたい、じーちゃんのこどもだったらいいとしだろ? そんなマザコンちゅーねんのはつこいなんかしるか! れーちゃんはよしののものだ!」
令「そ、そういうことはあまり人前で言わないで……ね?」
ピーンポーン。
祐巳『よしのさーん』
令「あ、祐巳ちゃんが来てるよ。電話はそのくらいにしておきな」
よしの「……きょうのところはこれくらいにしてやる。だがいずれいんどうを……じゃあな」
令「最後まで無礼なこと言いまくりだし……」
祐巳「今から志摩子さんちに行くの。……志摩子さんから私たちに、何か大切な話があるんだって」
よしの「よしのにもか?」
祐巳「うん。だから一緒に行こう」
令「そうか、志摩子がね……。やっと打ち明ける気になったのかな」
祐巳「……? 令さま、何かご存じなんですか?」
令「まあね……一応。それで、どうやって行くの? 電車?」
祐巳「はい」
令「それじゃ、祐巳ちゃんは今日はナビね」
祐巳「ナビ?」
令「よしのが道順わからなかったり、乗り換え間違えそうになったら教えてあげて」
祐巳「わ、わかりました」
令「よしのもわかった? 祐巳ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ」
よしの「わかっびゃああうまいいい!」
令「?! な、何それ……」
よしの「んー……いまかんがえたんだけどな?」
令「そ、そう……。それじゃ、いってらっしゃい」
よしの「わかっびゃああうまいいい!」
令「またかい! ……もしかしてそれ気に入ったの?」
よしの「きにいったんだぜ! とっちゃやだぜ!」
令「誰も取らないから……」
よしの「えきはこっちかー? あってる?」
祐巳「それよりもちゃんと前見て歩いた方がいいよ、よしのさん」
よしの「そっかー。ゆみのナビはこーせいのうだなあ」
祐巳「……はーい、止まってください」
よしの「え……? なんだ? よしのなんかまちがえた?」
祐巳「ううん。今日はこれ、この間新しく開通したばかりの路線で行こうと思って。ここ、なんて書いてあるかわかる?」
よしの「んー……。ふく……つ……こころ……。……ふくつのこころはこのむねに!」
祐巳「この手に魔法を! リリカルマジカ……ってちがーう!! これは『副都心線』!」
よしの「あー、ふくとしんってよむのかー」
祐巳「もう……。よしのさんが変なこと言うから、いい歳こいて魔法少女に変身しちゃうところだったよ」
よしの「きにすんな! あっちは19さいでもしょーじょとかいいはってるから!」
祐巳「……それ以上言ったらいろんな方面から怒られるからやめようね? ね?」
よしの「かおこわい! は、はい……」
祐巳「はい到着~」
よしの「うわあ、でか……」
祐巳「ほ、本当に山ひとつがまるまる敷地なのかな……。家とか門のずっと奥に見えるよ。それに……『小寓寺』?」
よしの「とにかくはいってみようぜえ!」
祐巳「ちょっと待って。ここにインターホンあるから」
ピーンポーン。
祐巳「あの、福沢ですけど……」
?『……祐巳さん?』
祐巳「その声……志摩子さん?」
志摩子『ええ』
よしの「のとだからすぐわかるなー」
祐巳「能登とかいいから……」
志摩子『すぐ行くわ。ちょっと待ってて』
ガラガラガラ……。
志摩子「ご……ごきげんよう」
よしの「きものだ! リリアンのあいさつなのに……」
祐巳「本当だ、すごく似合ってる。……ところで志摩子さん、表札になんかお寺の名前が書いてあるんだけど、あれって……」
志摩子「ええ……。今日話したいのはそのことなの」
よしの「しまこんち、てらなのか?」
志摩子「今まで隠していたけれど……実は私、寺の娘なの」
祐巳「そうだったんだー。でも気にすることないと思うけど?」
よしの「そうだぞ! しんこーのじゆう、しょくぎょーせんたくのじゆう!」
志摩子「ええ、私もそう思う。けれど、今はまだ他の人には内緒にしていてくれる?」
祐巳「うん……志摩子さんがそう言うなら」
よしの「わかっびゃああうまいいい!」
志摩子「えっ? い、今の何……」
よしの「かくしてたけど……よしのニコちゅーなのじゃ」
祐巳「いや気づいてたから。バレバレだから」
祐巳「ところで志摩子さん、それ何持ってるの?」
志摩子「ああ、これは……」
よしの「よしのそれしってる! えーと……い、いんてりじぇんとなんとか……」
志摩子「違います」
よしの「なにー!」
志摩子「これはこうして……。――ロサロサギガギガ、ギガンティア~~!」
祐巳「え……? きゃっ、杖が光って……!」
よしの「うおっまぶしっ」
志摩子「……迷える子羊に福音を! 魔法少女志摩子!(キュピーン)」
祐巳「ちょちょちょちょーっ! なっ何なのこれーーー!」
よしの「ちょーてんかいだ、ちょーてんかいはじまったあ……」
志摩子「その、もう一つ隠していたけれど……。実は魔法少女なの」
祐巳「しし志摩子さんっ?! ていうかいい歳こいて何言ってんすかー?!」
志摩子「まだ19歳じゃないから大丈夫よ?」
祐巳「だからそれを言うなぁ!!」
よしの「しまこー、なんでまほーしょうじょなんだ?」
志摩子「んー。……Webラジオの台本にあったから。スタッフさん、よほどネタに詰まっていたのね」
よしの「げんじつはそんなもんだなー?」
志摩子「そんなものよね」
祐巳「いやいやいや……! というか現実も何もそんな裏話とか切実すぎるから!」
志摩子「それでは、学校に行きましょうか」
祐巳「学校? なんで?」
志摩子「だって……、リリアンの平和を守るのが私の使命だもの」
よしの「……っていうせっていな?」
祐巳「だけど平和って……。そもそもリリアンで事件なんてあるの?」
志摩子「あら。たくさんあるわよ、事件。黄薔薇革命とか」
祐巳「よしのさんのことかー!」
志摩子「学園内での不純同性交遊とか」
祐巳「それも主によしのさんだよね……?」
志摩子「レイニー止めとか」
祐巳「それはそこで本が終わってるだけでしょ! 事件でも何でもないし! っていうか志摩子さん、さっきから物語とリアルがごっちゃになりすぎ!」
よしの「ゆみはツッコミじょうずですなー」
志摩子「――というわけでリリアンに来たわ」
祐巳「はやっ! 一瞬でどうやって……?!」
志摩子「ええ、瞬間移動よ。ヤードラット星の方に教わったの」
祐巳「もう魔法とか全然関係ねえー!」
志摩子「事件は……、まだ起きてないみたいね」
祐巳「むしろ志摩子さんの暴走が今日の大事件だから!」
よしの「じー……」
志摩子「……どうしたの? よしのさんも、魔法が使えたらなって思ったことないかしら」
よしの「ある! つかってみたい!」
志摩子「ふふ、そうよね。それじゃ一緒に呪文を唱えましょう。ロサロサギガギガ……」
よしの「ギガデイン!!」
祐巳「ゆみすけは しんでしまった!(カオスすぎてついていけない的な意味で)」
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