[よしのと!] よしのとロサ・カニーナ?

蓉子「ごきげんよう……」
聖「あらあら。紅薔薇さまともあろうお方が、朝からテンション低いじゃないの」
蓉子「低血圧だもの。仕方ないでしょ」
聖「紅茶でも入れようか? 飲めばスッキリするよ」
蓉子「それもそうね。……祐巳ちゃん、紅茶入れてくれる?」
聖「フラグへし折りやがったー!」

祐巳「お待たせしました、紅薔薇さま」
蓉子「ありがとう、いただくわ。……ん?」
静「――」
蓉子「……」
静「ごきげんよう」
蓉子「誰?!」
祐巳「しっかりしてください。合唱部の蟹名静さまじゃないですか……」
蓉子「あー、そんな人もいたわね」
祐巳「ちょっ! その扱いひどすぎですって」
蓉子「で? その蟹名静さんが何の用なの?」
聖「忘れたの? 来年度の生徒会役員選挙に立候補するんだってさ。つまり私の後継者候補」
蓉子「ばかっ! 冗談言わないでよ。あなたが妹作れば済む話じゃない」
聖「……やめてよ、そんな話。私に妹なんて」
蓉子「じゃあ、藤堂志摩子のことはいいの?」
聖「なっ……! 蓉子には関係ないでしょ!」
静「ふふっ、お二人とも仲がよろしいんですね」
蓉子・聖「どこが!」
静「あ、ハモった」

祥子「ごきげんよう」
蓉子「ああ、祥子。大丈夫、この子は蟹名静さんよ」
祥子「あの……。いくら何でも同級生の名前くらい知っています」

 

聖「まったく蓉子は口が悪いわね。お客さまの前で」
静「いえいえ。みなさんのありのままの姿が見られて嬉しいです」
聖「うん、いい心がけだ。いずれ私たちの仲間になるかもしれないんだから」
蓉子「ちょっと……! またそんな縁起でもないこと言って……」
祐巳「ねえ静さま。もし当選されたら、静さまが次期白薔薇さまですか?」
静「そうね、それもいいけど。クラスメイトが私のことロサ・カニーナって呼ぶのよ」
蓉子「……何それ。そんな薔薇知らないわ」
祥子「もしかして……蟹名だけにカニーナ、とか?」
蓉子「祥子はつまらないこと言わなくていいの!」
静「いいえ、祥子さん正解よ。蟹名だけにカニーナだって、クラスのみんなが」
蓉子「なにーっ」
聖「あっはっは、ロサ・カニーナとは面白いなあ。これは座布団一枚だなあ」
祐巳「そうですね! こんなに楽しい薔薇さまなら大歓迎ですよ!」
蓉子「みんなどうかしてるわ……。部外者が次の薔薇さまなんて前代未聞よ」

聖「だけど、もう来年の選挙の話だなんて。時間が過ぎるのはあっという間ね」
祥子「いいえ、今年度の行事はまだまだ残っていましてよ」
祐巳「行事……。そうだ、明日はマリア祭だ!」

 

よしの「マリアさい?」
江利子「そうよ。お聖堂でミサが開かれるの」
よしの「おー! ミサか!」
令「あの……お姉さま。今日はどうしてうちに? 薔薇の館に行かないのですか?」
江利子「仕方ないでしょ。親不知が痛くて熱を出したら、うちの父が救急車呼んじゃって。騒ぎが収まるまで、入院したことにして学校は休めって。……まあ今日までだけど」
よしの「よしのもミサする!」
令「『する』って何? そういえば、よしのはミサ知っているの?」
よしの「うん! えーとな、しょじょをひんむいてみんなでおか」
令「ちょちょちょちょーーっ!」
よしの「モガモガ……! な、なにをするー!」
令「まったく、とっさに口を塞がなかったら何を口走っていたやら……」
江利子「よしのちゃんが何もわかっていないってことはよくわかったわ」
令「ミサは私たちは何もしないの。話を聞くだけ」
よしの「えー。なんだーそれー」
江利子「でも本格的なものよ。この日のために、外から神父さまを呼ぶし」
よしの「うん」
令「校庭にあるマリア像も、明日だけお聖堂に移動するの」
よしの「あー……すごそうだな」
江利子「でしょう? 他にも、学園中が花で飾られて、園児が仮装パレードをして」
よしの「おー! えんじでるのか! いこう! マリアさいいこう!」
令「なんで園児に反応するのかと!」
よしの「まえよしのがやったミサよりいいな?」
令「前? ああ、薔薇の館でね。あれとは全然違うわよ」
江利子「えっ、ミサやったの。私も呼んでくれればいいのに」
よしの「よーことやったー」
江利子「!! 呼べよ!」
よしの「よーこがよしののためにしてくれたんだー」
江利子「蓉子……優しいわね。その優しさで私にももっと出番を……」
令「またお姉さまがよからぬ企てを……」

江利子「――ねえよしのちゃん。ミサしてもらったのなら、ミサでお礼をするのが筋なんじゃない?」
よしの「ほー、いいこというな」
令「やっぱりそう来た……」
江利子「心の綺麗な園児たちのパレードを見せてあげたら、蓉子も喜ぶわよ」
よしの「そうな! えんじきれいもんな!」
江利子「ええ、園児の心は綺麗。でも蓉子の心は……なんてね、くくくく……」
よしの「……だれがうまいこといえと」
江利子「言えるわけないでしょ!!」
 バンッ! ……ドムッ、ビターン!
令「よしのが吹っ飛んだー!」
よしの「!! ふ、ふぎゃー! がーっ!」
江利子「いけない! つい我を忘れて……。ごめんねよしのちゃん!」
よしの「がうー!」
江利子「お、おわびにマリア祭でいろいろ買ってあげるから。いちごオーレでもタラモサラダサンドでも」
よしの「ラーメン!」
江利子「ラーメン? ああ、大学校舎の。わかったわよ」
よしの「3つよりたくさんでもいいのか?!」
江利子「え? 3つ?」
令「よしのは際限なく食べるから、外食のときは3人前までって言い聞かせてあるんです」
江利子「またそんな設定を……。ああもう、いいわよ、4つでも5つでも」
よしの「……。……にへー。たのしみだな! マリアさい!」
江利子「そうよねそうよね。で、蓉子にミサのお礼しないとね?」
よしの「しないとな!」
江利子「お聖堂のミサ見せてあげたいね?」
よしの「みせてあげたい!」
江利子「よし、じゃあ誘ってきて」
よしの「さそってくる!」
江利子「……」
令「……」
江利子「……」
令「……」
江利子「何も言わないで。わかっている、わかっているから……」
令「は、はあ……」

 

聖「よしのちゃん来たよー」
よしの「きたよー。よーこ、あのなー……」
静「ごきげんよう」
よしの「?! だれだ? てきか? みかたか?」
蓉子「敵よ!(生徒会役員選挙の) やっつけろ!」
よしの「チェストーー!」
祐巳「ちがーう!」
静「ぐ……ぐふっ」
祐巳「間に合わなかったぁー!」

 

祐巳「……だ、大丈夫ですか? 静さま」
静「ええ、何とか……。腹式呼吸で腹筋は鍛えているから」
祐巳「じゃあ、よしのさんに紹介するね。次期薔薇さま候補の一人、蟹名静さまです」
よしの「これはこれは。いつもばらさまがおせわになっています」
静「これはご丁寧に」
蓉子「世話になんてなっていないわよ……」
静「よしのさんも、薔薇の館のみんなと仲良くしてあげてね」
よしの「なかよくしてるよ?」
静「仕事のお手伝いもしてね」
よしの「てつだいしてるよ?」
祥子「今のが聞き捨てならないのは私だけですか……!」

蓉子「よしのちゃん、私に用があったんじゃないの?」
よしの「マリアさい! よーこはなー、よしのになー、ミサしてくれたからなー、おみどうのミサをなー、みせてあげるの!」
蓉子「え……えっと。つまり、明日一緒にマリア祭に行きたいってこと?」
よしの「うん!」
蓉子「残念。明日は聖たちと一緒に回る約束をしているから」
よしの「……あれ? よしの、よーこにマリアさいみてもらいたいの!」
蓉子「だから、聖と一緒に見てくるから大丈夫よ」
よしの「……。それならよかった! あんしんだ!」
蓉子「ええ」
聖「祥子は? 一緒に行ってあげたら?」
祥子「私もクラスメイトと約束していますの。祐巳はどうかしら」
祐巳「私ですか? 志摩子さんと回る予定ですけど……」
祥子「ああ、志摩子は敬虔なクリスチャンだから、見所たくさん押さえていそう」
聖「でも、それほど信心深くない祐巳ちゃんにはついて行けないんじゃない?」
祐巳「そうですよね……。ねえ静さま、どう思います?」
蓉子「そこでなぜ静さんに聞くのかと!」
よしの「かにーな! マリアさいはすごいぞ!」
 ぐるぐるぐる……ぶんぶんぶん……ぴょんぴょん……スタッ。
よしの「だぞ?」
静「まあ、素晴らしいわ。祐巳さん、よしのさんと行ったらいいと思うわ」
祐巳「そうですよね! やった!」
蓉子「いや、さっきのは何?」
祐巳「よしのさん、志摩子さんも呼んでいい?」
よしの「よぶがいい! みんなでみる! たのしみなー」

 

江利子「……! 本当ね? 本当に蓉子なのね?」
よしの「よーこマリアさいいくって。よしのあんしんしたー」
江利子「おおお! 明日はどんなタイの結び方で行こうかなー」
令「結び方って……。そんな何種類もあるんですか」

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