[よしのと!] よしのとラーメン

祐巳「ごきげんよう。私の名前は福沢祐巳です。紅薔薇のつぼみ(ロサ・キネンシス・アン・ブゥトン)の妹(プティ・スール)です」
よしの「ごきげんよう、よしのです! えーと、ロサ……。……ロサフェティダ!」
祐巳「なにーっ! いきなり二階級特進?!」
よしの「あたぼうよ! でこちんうちとってげこくじょーする!」
祐巳「いや違うから……。よしのさんはロサ・フェティダ・アン・ブゥトンのプティ・スールでしょ。ちゃんと肩書き覚えないと」
よしの「あいさつもらくじゃないなー」
?「こんにちはー」
よしの「きゃくじんだ。てーちょーにおもてましする!」

よしの「あらあら、しまこさんじゃありませんか」
志摩子「よしのさん。ごきげんよう」
よしの「どうぞおあがり? おまかいですが」
志摩子「お魔界……? なんとも物騒な薔薇の館ね」
よしの「しまこがきなすった!」
祐巳「ごきげんよう、志摩子さん」
志摩子「ごきげんよう」
よしの「まーあれだ、そのへんてきとーにすわっとけ?」
祐巳「ちょっ、それ全然客をもてなす態度じゃないよ!」
志摩子「ありがとう、よしのさん。お言葉に甘えさせてもらうわ」
祐巳「志摩子さんも甘えちゃうんだ?」
よしの「はいっ(タンッ)」
志摩子「あら……これは水かしら?」
よしの「ティーでございます(ポチャッ)」
祐巳「あわーー! ぬる水に直接ティーバッグぶちこんじゃったよこの人!」
志摩子「これはこれは。いただきます……ごくごく」
祐巳「こっちの人も飲んじゃってるし! しかも口で『ごくごく』なんて絶対言わないから!」
志摩子「……結構なお点前でございます」
よしの「おそまつさまでござる!」
祐巳「す、すごい。なんかコミュニケーションが成立してる……」

 

祐巳「志摩子さんは、お手伝いとして薔薇の館に来ているんだよね」
志摩子「ええ。薔薇さま方にお願いされて」
祐巳「正式な山百合会の一員にはならないの? たとえば……白薔薇さまの妹になるとか」
志摩子「……まさか。私なんか」
よしの「しまこ! つづきやろー!」
志摩子「おもてなしごっこの? ええいいわよ」
よしの「ごちゅうもんはきまりましたか?」
志摩子「そうね。ではラーメンをくださいな」
よしの「かしこました。オーダー! ヤナギイー!」
祐巳「……なぜに王将?」

よしの「うーん、どこだ……」
聖「よしのちゃん、どうかした? 何か探し物?」
よしの「せいー、このいえラーメンあるか?」
聖「ラーメンはないわね。でもどうして? サロンにお客さんいるの?」
よしの「しまこのごちゅうもんー」
聖「えっ! 志摩子って、あの藤堂志摩子のこと?!」
よしの「ど、どうしたせい! すごいくいつきだぞ」
聖「そうか、志摩子が……」

 

よしの「ラーメンはばらのやかたにありません」
志摩子「おかえりなさい。……あったらむしろ怖いけれど」
聖「ハアーイ、私の子羊ちゃんたち! 奇遇ね! お元気してる?」
よしの「なんだせい? しらじらしいあいさつだな」
聖「しーっ! 偶然ってことにしてるんだから黙ってて」
志摩子「ご、ごきげんよう、……白薔薇さま」
祐巳「あれ? 志摩子さん顔赤いけど、どうしたの?」
志摩子「ええっ。な、何でもないわ……もじもじ」
よしの「なるほどなー。そういうことかー」
聖「ところで……、さっき誰かラーメン注文しなかった?」
志摩子「……私です。すみません、ほんの冗談で……」
聖「だからさ、今から食べに行かない? ラーメンって聞いたら急に食べたくなっちゃって」
祐巳「本当ですか? 私たちみんな一緒に?」
聖「もちろん。全員まとめて私にまかせなさい」
よしの「おいおい、きょうなんかのひか? なんかのひなのか?!」
聖「……決戦当日。フッ、今日こそ落としてみせるわ」
祐巳「では、他の人も呼んできますね。紅薔薇さまと黄薔薇さまとお姉さま」
聖「残念! 食券が四枚しかないんだな、これが。だから四人で行こう」

 

よしの「ラーメン♪ ラーメン♪ らららららー♪」
祐巳「よしのさん、ご機嫌だね」
よしの「いくぞ! ひで!」
祐巳「ひで?! ひでって誰?」
よしの「ゆみ、よくみろ! しまこはもっとごきげんだぞ」
祐巳「えっ、志摩子さんが? いつもと変わらないように見えるけど」
志摩子「……祐巳さん、どうかしたの?」
祐巳「う、ううん! 何でもない」
志摩子「私の顔がラーメンに見えたのかしらね」
祐巳「相変わらず言ってることポケポケだし……本当に機嫌いいのかな」
よしの「せいもとびきりごきげんだぞ?」
聖「アチョー! ホワチャー!」
祐巳「うわ!(ビクッ) 白薔薇さまのノリも、ある意味いつも通りだし……。うーん、よしのさんが言っていること本当なの?」
よしの「くうか! ぞの!」
祐巳「ぞの?! ぞのも誰?」

 

志摩子「大学のキャンパスには、たしか食堂が二つあるのよね」
祐巳「そうそう、大きい学生食堂と麺食堂。どっちがいいのかな」
聖「そりゃ、ラーメンなんだから麺食堂でしょ。……ほら着いた」
祐巳「へえー。一つの建物に、購買部と喫茶室も入っているんですね」
よしの「とつげきー!」
志摩子「急がなくてもラーメンは逃げないわよ」

よしの「どれだ? どれがラーメンだ?」
祐巳「これ全部ラーメンだよ」
よしの「ぜんぶか! うまそー!」
祐巳「いや、ここに飾ってあるのは見本だから食べられないんだけどね」
志摩子「祐巳さん、よしのさん。あちらよ。行きましょう」
聖「すみませーん、ラーメン四つください。これ食券」
小母さん「はいはい。大鍋の火を落としちゃったから時間かかるけど、いいかい?」
聖「時間は構いませんので。作ってください」
よしの「おばちゃん! おばちゃんがラーメンつくるのか?」
小母さん「そうよー。麺食堂の名物おばさんとは私のことよ」
よしの「じゃああれか? とっきゅーちゅーしか!」
小母さん「特級厨師だよー」
よしの「きゅーてーにょかんか!」
小母さん「宮廷女官だよー」
よしの「まんかんぜんせきか!」
小母さん「満漢全席だよー」
よしの「すっげー! まんかんぜんせきかよー」
祐巳「よしのさん、絶対それ意味わかってないでしょ。小母さんも適当に答えてるし」

 

よしの「しまこー、しまこはなにあじにした?」
志摩子「私はこれよ。豚骨ラーメン」
よしの「とんこつかー。……しまこはやっぱりしろがすきなんだなぁ」
志摩子「え! ち、違うわ。たしかにスープは白いけれど、色で選んだのではなくて、その……」
よしの「おー、あわててるあわててる」

祐巳「じっ……」
よしの「え、えものをねらうたかのめだ……! ゆみはほんきだ!」
祐巳「……! これっ! これをお願いします!」
小母さん「かに玉ラーメンね。あいよー」
聖「かに玉ラーメン?! うそっ、そんなのメニューにあったんだ?」
よしの「あんましだなー。ネタとしてはいまいち」
祐巳「ネタじゃないってば。かに玉の上のあんかけが甘くておいしそうだったから」
よしの「ゆみはあまとーだな!」

聖「私はどれにしよう。志摩子とお揃いで豚骨にしようかなー?」
志摩子「えっ!」
聖「……どうしたの、素っ頓狂な声出して。私が同じの食べるのは迷惑?」
志摩子「いいえ、決してそんなことは。むしろ……その」
聖「と思ったけど、やっぱりオーソドックスに醤油ラーメンで」
志摩子「あ……。は、はい」
聖「どうしたんだろうね、今日の志摩子は。珍しくあたふたして」
よしの「せい……しっててやってるな? じらしのテクニックだな?」
聖「そんなことより。まだ頼んでいないのよしのちゃんだけだよ」
よしの「そ、そうだった。よしのもしょうゆをくださいな!」

よしの「いいちゅうもんしたなー」
聖「志摩子は、私とお揃いじゃなくて残念そうだったけど?」
志摩子「わ、私はべつに、そんなこと……もじもじ」
よしの「よしののしょうゆラーメンとかえてやろうか?」
志摩子「気持ちだけありがたくいただくわ。白……じゃなくて、豚骨が食べたいの」
聖「それと、祐巳ちゃんも軽くすべってたけど?」
祐巳「だからネタじゃありませんって!」

 

聖「おっ、もう出来たみたいだ」
祐巳「時間かかるって言っていたのに、五分しか経っていませんよ」
志摩子「本当ね。普段だったらいったい何秒で出来るのかしら」
聖「まあまあ、話は後にして。早速食べようよ」
祐巳「いただきまーす」
よしの「ずずず……。あかさかのきょしょうをよべ! ほしみっつ!」
志摩子「本当、お世辞抜きでおいしいですね」
聖「そう言ってくれるとおごった甲斐があるな。……って、祐巳ちゃん? 箸が止まってるよ?」
祐巳「は、はい。あの……かに玉の中にグリンピースが入ってて。苦手なもので」
聖「だったら私が食べてあげるよ。えいっ……ぱく」
祐巳「あーっ!」
聖「うわっ。グリンピース食べてあげたのに、どうして大声出すの」
祐巳「だって今、私の食べかけのラーメンに箸を……」
聖「あれ、そういうの気にするんだ? それとも、間接チューになっちゃうから?」
祐巳「かかか間接チューって!(赤面) いきなり変なこと言わないでくださいよ」
聖「赤くなっちゃって、かーあいーい。祐巳ちゃんとなら……直接チューでもいいよ?」
祐巳「わわわわっ! 言いながらなんでこっちに迫ってくるんですか!」
聖「大丈夫大丈夫、祥子には黙っててあげるから。うへ、うへ、うへへへ……」

志摩子「……」
よしの「しまこ? うでふるえてるぞ? ……じぇらしーか?」
志摩子「! な、何の話かしら」
よしの「かくさなくたっていいのに。よしのにはばればれだぞ?」
志摩子「……私の気持ち、察していて?」
よしの「まーな。せいもしまこのことすきなはずだぞ。だからゆうきだせ?」
志摩子「ええ。わかったわ」

志摩子「あ、あのっ、白薔薇さま……っ」
聖「えっ……? 志摩子……何?」
祐巳「た、助かった……。志摩子さん、ナイスインターセプト」
志摩子「その、私も……紅しょうがが苦手なんです。食べてくださいませんか」
よしの「そうな! べにはじゃまものだな!」
志摩子「そういう意味ではなくて……」
聖「そ、そりゃあ……食べてあげてもいいけど。でも、本当に私でいいの……?」
祐巳「あれ? なんだか私のときと反応が違う?」
志摩子「は、はい。どうかお願いします」
聖「志摩子の頼みとあっちゃあ仕方ないなー。ま、それなら遠慮なく。あーーん♪」
志摩子「え――」
祐巳「あはは。そんな大口開けて、エサをねだる雛鳥じゃないんですから」
よしの「どうしたしまこ。はやくせいのくちにべにしょうがいれろ?」
志摩子「そ、そうね。では失礼して……」
聖「(いいよー! カモーン! 志摩子の箸どころか指までしゃぶりつくしたる!)」

蓉子「紅しょうがと言えばこの私!(パクッ)」

聖「!!」
志摩子・祐巳・よしの「――」
蓉子「あら、志摩子ちゃん。まだ紅しょうがあるじゃない。……食べてもいいのよね?」
志摩子「いえっ、これはその……」
蓉子「いただきっ! ガツガツ、ズルズル、グビグビ……。ふうーっ、完食ー」
祐巳「べ、紅しょうがどころか残り全部平らげちゃった……」
聖「……ああああああ!」
蓉子「わっ、びっくりした」
聖「ちょっと蓉子! なんであなたがここにいるの?!」
蓉子「それは聖も同じじゃない。藤堂志摩子までご一緒で、仲のよろしいこと」
聖「くっ……! 志摩子の事になるといつも邪魔してきて! 冗談じゃないわよ!」
蓉子「邪魔なんてとんでもない。……間接キスなんてせこい真似しないで、もっと素直になったら?」
聖「ああやかましい! いったい何様のつもり?! あんた私の親かよ!」
蓉子「まったくね。本当に手のかかる子供だこと!」
よしの「おおー、けんかだけんかだ」
祐巳「ど、どういうこと? 紅薔薇さまは志摩子さんのこと好きだったの?」
よしの「ゆみはげきにぶだな……」

« 09 よしのと任侠   11 よしのときもち »

ソーシャル/購読

X Threads note
RSS Feedly Inoreader

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ