よしの「Ｚｚｚｚ……」
令「Ｚｚｚｚ……」
よしの「……はっ。あさだ！ ……ここはどこだ？」
令「むにゃむにゃ……よしのぉ……」
よしの「！ れーちゃん！」
令「おぶっ！」
よしの「れーちゃんのへやだ！」
よしの「ごちそうさまでした！（←？）」
令「……もう、朝からマウントポジションとるの勘弁してよね、よしの」
よしの「くはーっ！ おきぬけのれーちゃんもそそるな！」
令「あなたそんなこと言って、ゆうべも夜這いかけに来たんじゃないの……。そうそう、今日から正式に山百合会のメンバーとして薔薇の館に行くから、そのつもりでね」
よしの「うん！」
令「いっつも返事はいいんだから……。お姉さま方に会ったらきちんと挨拶しなさいね。とくに、紅薔薇姉妹の長姉（グラン・スール）は薔薇さまの一人だから、くれぐれも失礼のないように」
よしの「どっちだ？ すけすけレースのほうか？ めくるほうか？」
令「え……？ い、いや、上に二人、上級生がいたでしょ。上のお姉さまのほう」
よしの「おによめみたいなぎょーそーなの」
令「鬼嫁って……昨日の祥子のこと？ そっちじゃないほうね」
よしの「こじゅーとのほうか！」
令「合ってるけどその言いかたは違う……ていうか言ったら殺されるから」
よしの「ごきげんようれーちゃん！」
令「私には挨拶いらないでしょ。まだ家から出てもいないし……」
令「私は剣道部の朝練に行くから、先に薔薇の館で待っていて」
よしの「おう！」
令「すぐ戻るからね」
よしの「ここがばらのやかたかー。たのもー！ ……かってにあがるぞー？ だれもいないのかー？ いないならかえるぞー？」
ガチャン、ガチャガチャガチャ……。
よしの「……あれ？ あかない……どあこわれた……。れーちゃーん！ あかなくなったー！」
令「はっ！ 今よしのの声が聞こえたような……。やっぱり引き返そう！」
よしの「れーちゃーん……。お？ まどあいてる。んしょっ、よっ、……たーっ！ す、すっげー！」
令「よしのー！ 何かあったの？ すぐ行くからね！」
ガチャガチャガチャ……。
令「って、薔薇の館の扉が開かない？！ ドアノブが壊れたのかな。……ん？ 一階の窓が開いてる。ということは、よしのはこの窓から外に出たってこと？」
生徒たち「ごきげんよう、紅薔薇のつぼみ！」
祥子「ごきげんよう。今日もいい天気ね」
生徒たち「きゃー！ 祥子さまにご挨拶返していただいたわ！」
祥子「ふふ、かわいいものね。さて、薔薇の館に寄って行こうかしら」
令「くっ……よいしょ、もうちょい……」
祥子「なっ、なんで窓から入ろうとしてるのーー？！ ……っと、いけないいけない。ここで騒ぎを大きくしたら、生徒たちに慕われるつぼみの威厳が台無しだわ。そっとしておいてあげましょう……」
よしの「なんだー？ ひとがいっぱいいる」
三奈子「おはようございます！ 新聞部です！ リリアンかわら版、新入生歓迎号を配布中です。薔薇さま情報ももりだくさん！ さあさあどうぞ！」
よしの「リリアンかわらばん……？ ばらさまじょうほう……」
祥子「ごきげんよう、よしのちゃん」
よしの「あ！ きのうのおねーさま！ ……の、しろレースのほう」
祥子「えええっ？！ 下着でインプットされちゃってるの私？」
よしの「すけすけだしな！」
祥子「だから違うから……。ちゃんと名前を覚えなさい。私は祥子」
よしの「さちこ？」
祥子「そう。祥子（しょうこ）と書いて、さ・ち・こって読むの」
よしの「ぜってーよまねー！」
祥子「……！」
よしの「まーいいや。ごきげんよう！ さちこ！」
祥子「なっ！ 堂々と上級生を呼び捨てとは大した度胸だこと。……でももう何でもいいわ。下着の柄で呼ばれるくらいなら」
よしの「さちこ、ここおして！」
祥子「ここって、よしのちゃんのタイの結び目？ 押せばいいの？ はい」
よしの「『うほっ！ レースのしろだー！』」
祥子「再生ボタンかい！ しかもなんてとこ再生してんの！！」
三奈子「あーら祥子さん？ また何か大スクープのようなものが聞こえてきたけれど？」
祥子「うっ、またしても厄介なのに嗅ぎつけられたわ……」
よしの「さちこ！ リリアンかわらばんにネタていきょうして！」
祥子「なにぃ！ そ、そんなことのためにわざわざ三奈子さんをおびき出すなんて……！」
三奈子「へえ、祥子さん自ら情報をくださるなんて珍しいじゃない。とくと聞かせてもらうわ」
祥子「その、ええっと……。あ、この子、山百合会に新しく入った、黄薔薇のつぼみの妹、島津よしのですわ」
よしの「ごきげんよう！ よしのだよ！」
三奈子「ごきげんよう。よしのさんね、よろしく。……フフッ、今年の山百合会からは一段と目が離せなくなりそうね。それではまた」
よしの「じゃーまたな！」
祥子「あなた気楽でいいわね……」
祥子「よしのちゃん？ 新聞部には関わっちゃだめよ。張りつかれたら最後、学園内でのプライバシーなんてなくなると思いなさい」
よしの「お、おー」
祥子「はあ……令の苦労が思い知らされるわ。って、よしのちゃん、どうして令と一緒じゃないの」
よしの「れーちゃんはあされんだ！」
祥子「えっ、そんなはずないわ。だってさっき」
よしの「よしのがこのまえあたらしいスポーツブラかってやった！」
祥子「そんな内輪トーク聞いていないから……。それよりも、令なら薔薇の館にいたわよ」
よしの「ほんとか？」
祥子「ええ。とりあえず行ってみましょうか」
ガチャガチャ……ガチャリ。ギイ……。
令「や、やっと開けられたわ……。どうしようこれ、何か修理する道具を取って来ないと。どこにあるかな……」
よしの「たのもー！」
祥子「あら、薔薇の館の扉が開けっぱなしだわ。まったく不用心ね」
よしの「あなた、ごはんにする？ おふろにする？」
祥子「って、なぜおもむろに新婚さんごっこを……」
よしの「それともー、た・わ・し？」
祥子「まだ風呂掃除終わってなかったんかい。それよりも、令がいるかどうか見てきてちょうだい」
よしの「れーちゃーん！ どこだー！」
祥子「……どうやらいないみたいね。それにしても令ったら、さっき窓によじ登って何していたのかしら」
よしの「さちこー、こんなのあったー」
祥子「令の書き置き？ どれどれ」
よしのへ
ひとりにさせてごめん
あいしてるよ
祥子「もっと他に書くことはないのかと！！」
よしの「うー……どうしよう」
祥子「……わかったわよ。令が戻るまで、一緒に留守番していましょう」
よしの「うん！」
祥子「よしのちゃん、何しているの？」
よしの「かんじのかきとりー」
祥子「『援助』『交際』……？ 何なの、その不快な単語は」
よしの「さちこもなんかかけ！」
祥子「そうね、私だったら……。はい、書けたわ」
よしの「んー？ さちこはオチつまらないな」
祥子「うそっ？！ ていうかオチ？」
よしの「そうだぞ！ よしのがネタふったら、さちこがオチつけれ！」
祥子「いったい何の話よ……。そういえば、よしのちゃんは令とはどういう関係なのかしら？」
よしの「どうって……えーと……。……さそいうけー」
祥子「ブッ！！ ま、まさかそう来るとは……」
よしの「ポジションはいちおうよしのがした」
祥子「いや一応って。そんな自分が主導権握ってるみたいな言いかた……」
よしの「……。……くー」
祥子「寝ちゃったみたいね。そうだわ、これで帆掛け舟を折って……っと。私はそろそろ教室に行かないと」
ガチャガチャガチャ……。
祥子「えっ、扉が開かないわ！ どうなっているの？！ 壊れていたのかしら。……そうだわ。それでさっき令は窓から入ろうとしたのね。と、いうことは…………」
令「よしの、もう戻ってきてるかな……」
祥子「！！」
令「祥子！ さっきの私と同じことやってるし！」
祥子「ごっ、ごきげんよう……」
令「……う、うん」
祥子「ち、違うの！ 聞いて令！ 怪しいと思うでしょうけど私はただよしのちゃんを連れて薔薇の館に」
令「いや……大体わかるから。ドア壊れてたし」
祥子「それで、その……。スカートが引っかかって出られなくなったの……。手伝ってくれないかしら」
令「いくよ？ せーの……ぐーーっ」
祥子「んんー……っ」
蓉子「……？！」
祥子「あっ！」
蓉子「……」
祥子「お、お姉さま！ 違うんです！ こ、これは……」
蓉子「……プッ」
祥子「！！」
蓉子「あらあら、祐巳ちゃん、ちょうどいいところに！ こっちにいらっしゃーい」
祥子「お姉さま！ どうかそれだけは……！」
祐巳「はーい。……ごきげんよう、紅薔薇さま。何かご用ですか？」
蓉子「とっても面白いものがあるのよ。見てごらんなさい、ほら」
祐巳「！ わあ、お姉さまが窓に足をかけて身を乗り出してる！」
祥子「あわーー、祐巳に見られちゃったーー！」
祐巳「私、祥子さまってもっと堅い人だと思っていたのに。意外な一面ですね」
蓉子「そうでしょう？ スカートもあんなにまくれ上がっちゃって。そこまでしてパンツ担当になりたいのかしら」
祥子「ちょっ、それは誤解！」
祐巳「体を張ったサービス精神、さすがお姉さまです！ 尊敬します！」
蓉子「ですって。いいものを見せてもらったわ祥子。あはははは、あははははは」
祥子「……。ううぅ……」
令「ふう、やっと抜けられた」
祥子「うう……キーーッ！ ああ恥ずかしい！ こんな屈辱ないわ」
令「さ、祥子、ちょっと落ち着いて」
祥子「お姉さまにはバカにされるし、祐巳には面目丸つぶれだし……」
令「えっと、その……。まあ気にしないで！ よくあることだから（テキトーななぐさめ）」
祥子「そ、そうよね（ごまかし）」
令「あは、あは、あはは……」
祥子「これはもう笑うしかないわね。ふふっ……あははは」
よしの「Ｚｚｚｚ……」
なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな
