[松岡ミウの憂鬱] 松岡ミウの憂鬱I

 サンタクロースをいつまで信じていたかなんていうのはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでもいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんのことを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが茉莉ちゃんは今でも完全に信じきっている。

美羽「なに一人でブツブツ言ってんの? おねえちゃん」
伸恵「…うるさいな」
美羽「あたしめっちゃ体やわらかいねん!」
伸恵「おめぇもうるせえよ。何なんだいきなり…」
千佳「体やわらかいとなんかいいことあんの?」
美羽「床に落ちた消しゴム拾うときも、…こうやって」
千佳「しゃがめよ」
美羽「なんたって広小のカモシカって呼ばれてるからね!」
伸恵「それ…足が速いやつの呼び名だろ」
美羽「…オホン。ただの人間に興味はありません。この中に忍者、ハリポテ、ミニストップ派、ベッカムがいたらあたしのところに来んしゃい。以上!」
伸恵「……」
千佳「……」
伸恵「…ここ、つっこむとこ?」
美羽「(…つっこめよ!)」
千佳「(つっこまない)」
伸恵「えらいバカがここにいた…」
美羽「誰が美人か!」
伸恵「ほらやっぱりバカだ」
千佳「……(ブルブル)」
伸恵「…何やってんだちぃ。今のがツボにはまったのか?」

 

伸恵「こないだのアレ、どこまでがギャグだったんだ?」
美羽「こないだのアレって何さ」
伸恵「いや、忍者がどうとか…」
美羽「おねえちゃん忍者なの?」
伸恵「…違うに決まってんだろ」
美羽「なんだよー。じゃあ期待させないでよー」
伸恵「美羽こそどうなんだ。…曜日で服が違うのは変わり身の術か?」
美羽「……。いつ気づいたの?」
伸恵「いや何となく…」
美羽「あたしめっちゃかわいいねん!」
伸恵「…ッ!」
美羽「ぴぎゃっ!! …もー、ひどいよー。鼻かんだティッシュぶつけるなんて」
伸恵「いやすまん、ちょっと殺意が…。っつーか、よくそんなに服持ってんな」
美羽「うん。アナちゃんのも混じってる」
伸恵「パクってくんな! …ったく、何がしたいんだおまえ」
美羽「おねえちゃん…あたしアイドルになれるかなぁ?」
伸恵「なれ」

美羽「ライダーキック!!」
伸恵「違う! …ってめぇ、いきなり何しやがんだ!」
美羽「なりたいんならなればいいんじゃん!」
伸恵「…何の話だ」
美羽「アイドルだよぉアイドル。おねえちゃんも手伝ってくれるよね?」
伸恵「何であたしが美羽の思いつきに協力してやんなきゃなんねーんだ?」
美羽「ということでよろしくね! あたしはメンバー集めるから!」
伸恵「おい人の話を…、…っつーかメンバー?!」

美羽「とりあえず、ここをあたしたちの楽屋にしまーす!」
伸恵「楽屋って何だ…?」
美羽「もー、アイドルって言ったら楽屋でしょー? そういうイメージなの!」
伸恵「それはわかったけどさ…、ちぃの部屋だろ、ここ」
千佳「ちょっとー…。宿題やってんだからちょっと静かにしてくれる?」
美羽「はい、これで新たなメンバーが加わりました」
伸恵「いや…今のどう見ても了承してねぇだろ…。なあちぃ、おまえ美羽が言い出した変なアイドルグループに入れられようとしてるぞ。いいのか?」
千佳「いい」
伸恵「たぶんものすごく迷惑かかると思うぞ?」
千佳「別に」
伸恵「…美羽がなんかプリン食ってるぞ」
千佳「どうぞ。……。…って何してんだみっちゃん! それあたしのプリンだろ!」
伸恵「おお…そんなパターンもあるのか」
千佳「わーんっ! 後で食べようと思ってたのにーっ!」
美羽「大丈夫…おいしかったよ!」
千佳「なぐったろか!!」

 

美羽「お待たせーっ! 今日は新メンバーを連れてきましたー!」
茉莉「こ…ここどこぉ? なんであたし連れてこられたのぉ…?」
伸恵「…美羽、茉莉ちゃんにメガネ返してあげなさい。なんも見えてないじゃんか」
美羽「はいよー(←鼻メガネ)」
茉莉「これじゃないよみうちゃんー」
伸恵「おーい、こっちだよ茉莉ちゃん」
茉莉「え…えっと…(ふにふに) あっ、おねえちゃん」
伸恵「…いちいち胸触らんとわからんのか。…で? おまえはこの茉莉ちゃんをどこから拉致ってきたんだ?」
美羽「拉致なんかしてないもん! おねえちゃん家の前にいたんだよーっ」
伸恵「じゃあもともとうちに遊びに来ようとしてたんじゃないか…」
美羽「うん。さたけの写メ見せて『おねえちゃんが犬になっちゃった』って言ったら飛んできた」
伸恵「てめえ…。茉莉ちゃんも簡単に信じるんじゃありません」
茉莉「だってぇ…」

伸恵「…にしても、なんで茉莉ちゃんなんだ? アイドルって柄じゃないだろ」
美羽「わかってないなぁ、おねえちゃんは。だって茉莉ちゃんは…えいっ!」
茉莉「キャーッ! めくらないでぇぇ!」
美羽「…この通り、全然スキだらけなんだよ? アイドルって言ったらお色気だし…ほれほれ~」
茉莉「ちょ…ちょっとみうちゃん! やめてってば…!」
伸恵「おい美羽、いい加減にしろ。茉莉ちゃん嫌がってんじゃんか」
美羽「だってめくり放題なんだよ? おねえちゃんもめくってみる?」
伸恵「いやあたしは…。……。…まあ、ちょっとだけ」
千佳「何がちょっとだけだコラーッ!」
伸恵「うおぅ! …なんだちぃ、いたのか」
茉莉「ちかちゃん…。わかった…あたしもアイドルグループに入る」
伸恵「あれっ、乗るの? 美羽の単なる思いつきだよ? グループ名もなんも決まってない…」
美羽「それなら心配なく! グループ名なら決めてあるから! 本当は今思いついたんだけど」
伸恵「…どっちだよ。あんま気乗りしねぇけど、それじゃ言ってみろ」

美羽「うん! その名も…チームECO!」

千佳「チームECO…? それってなんかの略?」
美羽「えっとね…、エキゾチック、センター、おもち」
伸恵「いや訳わからんし」
美羽「それじゃあ…。エターナル、コーナー、…おもち」
伸恵「どっちもたいして変わんねぇよ」
茉莉「でもなんでエコなの…?」
美羽「流行に乗ってるからね!(ビッ) モッタイナーイ!」
伸恵「そういや、もったいないって言葉、日本にしかないらしいな」
千佳「ふーん…。みっちゃん、ベルギーでは何て言うの?」
美羽「ベ、ベルギー? ……メイター!」
千佳「……(ブルブル)」
伸恵「何やってんだおまえら…。ちぃも笑わせようとすんな」

 

茉莉「おねえちゃん、あのね…」
伸恵「なになに…帽子がほしいの? それじゃ街に買いに行こっか」
美羽「あ、買い物行くの? あたしも行くー」
伸恵「3人…ちぃも入れると4人か。なんとかバイクに乗れるか?」
千佳「いやバスで行けよ…」
茉莉「ま、待って…! あのぉ…」
伸恵「…あー、まず帽子を買いに外に出るのが恥ずかしいのか。おい美羽、おまえ帽子とかいっぱい持ってんだろ。なんか貸してやれ」
美羽「ラジャーッ」

伸恵「…つくづく思うけど、なんであいつこんなの持ってんだ?」
千佳「わー、かわいいね茉莉ちゃん!」
茉莉「そ、そうかなぁ…えへへ」
伸恵「ネコミミ帽子にしっぽまであるし…。…ねぇ茉莉ちゃん、ちょっと語尾にニャーってつけてしゃべってくれる?」
茉莉「えっと…、こ、こうかにゃ?」
伸恵「……(ちゅどーん)」
千佳「おねえちゃん…、タバコの灰落ちてる…」
伸恵「と…とにかく! これで茉莉ちゃんの恥ずかしさ対策もバッチリだし、買い物も安心だね」
美羽「まあぶっちゃけその格好のほうが恥ずかしいけどね」
伸恵「な!!」
千佳「そ…そういえばさっきから周りの視線が…」
茉莉「ひええぇっ…?! そ、そんなぁ…!」
美羽「おうおう! 見せつけてくれるじゃねえか。彼女、俺と遊ばない?」
茉莉「ひいっ! お…おねえちゃん、助けてにゃ…!」
伸恵「…ごめん、茉莉ちゃん。正直たまりません」

茉莉「ううぅ…。恥ずかしかったよぉ…」
伸恵「…あー、その、なんだ。いちいち美羽の悪ノリにつきあうことないんだよ?」
茉莉「ううん、平気…。おねえちゃんもいるんだよね?」
伸恵「まあ…。美羽があたしん家に上がりこんで来てるだけだしな」
茉莉「もしかしたら、これがこの舞台設定上の必然なのかなぁ…」
伸恵「…え…、何言って…」
茉莉「それにちかちゃんがいるのも気になるし…」
伸恵「? ちぃが何…?」

 

美羽「あとは謎の日本語外人もほしいとこだよね!」
伸恵「謎の…っていうか、何だそれ? そんなやついんのか?」
美羽「うん! 今朝会ったんだけど、外人なのに日本語しゃべってたんだよ? こっちは英語であいさつしたのに。でもあいさつしたら突然倒れこんで…」
伸恵「わけわかんねぇな、そいつ」
美羽「でしょー?」
千佳「ただいまーっ」
茉莉「ねえねえおねえちゃん、この子、今日あたしのクラスに転校してきた…」
アナ「……」
美羽「あ、朝の日本語外人」
アナ「だ!!」
伸恵「えっ…」
アナ「…?」
伸恵「これあたしのーっ!」
アナ「キャーッ!」
千佳「ちょっとおねえちゃん?! もしかして酔っぱらってるの?」
茉莉「はわわっ…空き缶がいっぱい転がって…」
アナ「どこで道をまちがえてしまったのかしら…」

美羽「というわけで、期待の即戦力、アナちゃんです!」
アナ「…はい? 何のことです?」
美羽「いやー、これでやっと5人そろったね~」
伸恵「おい待て。今日来たばっかのアナちゃんが事情わかるわけないだろ。…って、5人ってことはあたしも入ってたのか?!」
美羽「あー…そっか、おねえちゃんは違うよね。あたしたちにとって、友達っていうよりボスって感じだし」
伸恵「ボスっておい…ん? メールだ」

『>あんたにとってあたしって何?
 なんだろ…ボスって感じ?』

美羽「…あれ? なんかいきなり気だるい感じになっちゃったよ?」
伸恵「いいんだいいんだ、どうせあたしには友達なんていないんだ…」
アナ「あの…入るのはべつにいいんですが…。何をするグループなんですか?」
伸恵「え? そういやまだ聞いてなかったなぁ。…美羽、突然アイドルグループ作るとか言い出しといて、結局何がやりたいんだ?」
美羽「よく聞いてくれたねおねえちゃん…! それじゃー発表します、チームECO結成の目的は…忍者やハリポテやベッカムとコラボしていっしょにモノボケすること!」
茉莉「…っ!」
千佳「……」
アナ「……」
伸恵「…ほら見ろ。おまえがつまんねぇこと言うからみんな固まっちまったじゃねーか。そもそもモノボケってアイドルのやるオーソドックスなことじゃない…」
アナ「さすが美羽さんですわ」
伸恵「えっ何が?」
アナ「いいですわ、やりましょう。みなさん、あらためましてよろしくお願いします」
伸恵「あっ、ああ…よろしく…」

千佳「バイバーイ! また明日ね~」
伸恵「ふう…やっとみんな帰ったか。騒がしい一日だったな」
千佳「…ねえ、おねえちゃん。こないだ貸したドラクエ、進んでる?」
伸恵「いや、ぼちぼちだけど…。もう返せってか?」
千佳「ううん、返さなくていい。今日やって」
伸恵「なんで…」
千佳「いいから。今日必ず」
伸恵「…わあったよ。ったく、何なんだ…」

« 松岡ミウの憂鬱   02 松岡ミウの憂鬱II »

ソーシャル/購読

X Threads note
RSS Feedly Inoreader

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ