[なぞ] 2010/02/19

すべてを捨てて無我夢中で走り抜けた後に残ったものは、すべてを失ったという事実だけだった。

奇妙な関係が始まった。と思ったら、いつしか切れていた。
突然の出会いに、いつだって慌ててばかりで。あたふたしてばかりで。何もさらけ出せないまま。
舞い上がっていた自分が恥ずかしくなる。物語なんて始まりはしないのに、気づけば夢想に溺れて。
こんなことばかりだから、と結果には驚かなくても、それでもそのたびに不甲斐なさが情けなくなる。
いつだってそう。だから最初から期待していない。期待してはいけないと、自然に思うようになった。
ひとりの人間としてまともに相手なんてしてもらえないのだと。まともに目も見られないような人間は。
怠慢だろうと独善的だろうと何であろうと、言い訳をつけて広げた風呂敷を自分で畳んでしまっている。
どうあっても孤立する性格なのだから、と。

正義感を持ちすぎるな、と諭されて育った少年時代。
わざわざそんなことを言われなければならないくらいに、暴力的なまでの正義を振りかざしていた。
誰かにとっての正義は別の誰かにとっての悪だと。万人にとっての正義なんて存在しないのだと。
今はもちろん知っている。わかっているのに、自分の思い通りにならない社会にいちいち憤っている。
なぜオプティマイズされていないのか。なぜバグが発生するのか。なぜ物事を俯瞰できないのか。
不条理から目を背けたり、最初から無視したりしては、こんな世の中に誰がしたのかと嘆いている。
「オタクは誰にも迷惑かけていないのになんで嫌われるの?」と言っているようなものであって。
事の本質をまるで見ていない証拠だ。すなわち、自分こそが正義という名の悪を撒き散らす癌である。

自分が不幸な人間だと思い込んで、決めつけて、だから幸せそうな他人を僻む、なんて最低の思想。
本当ならば自分自身の心臓に突き刺してやらねばならない言葉。
きっと、自分だけの世界で完結してしまっていて、人の心を覗こうとしないからそんな敵意を抱く。
家族や身近な友人がいない人ほど犯罪に走りやすいとも聞くし。
手の中に世界があるなんて思っていない。世界とつながっているなんて実感には程遠い。自負もない。
いや、ろくに操れてもいない現状。雲の向こうを垣間見る窓すら。
空にたゆたう無数のリング。つながって絡まりあって鎖となり、やがて肝心なものを覆い隠すだろう。
それに手が届かないことが、ただ純粋にもどかしいんだ。

なぜそんなに必死なのか。なぜ毎日追われているのか。ここから抜け出せないと、思っているのか。
知ってしまったから。この先に何もないこと。どれだけ邁進して努力を積み重ねても、何にもならないこと。
留守から戻ってきたあの日。見知らぬ光景を目撃して浦島太郎な自分を思い知らされたあの日に。
いや、そんな過ぎたことにいつまでも執着している自分が本当に矮小に思えて。それこそが悔しい。
軌道修正なんて図らなければよかった。何かを得るために自分を捨てるなんてこと、懲りたはずなのに。
だから、もう自分の信条しかすがれるものがなくて。そしてさらに対立を深めていく一辺倒なのだろう。
倫理だの勤勉性だのと理由を並べて、あれも駄目これも駄目と封殺して、自ら築いた城壁に窒息して。
ぼくはぼくをどうプロデュースしたいのか、どうプレゼンしたいのか。わからなくなってしまった。

何かを追い求めて必死に手を伸ばした先に掴んだものは、何も掴めないという諦念だけなのか。

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