[むかしのなぞ] 2004/07

2004/07/17

汗も出ない。それほど緊迫した、状況の変遷。

伐採されなくても。土地を奪われなくても。
はじめから、帰る森などすでに失っていた。
気づかなかった。命綱が切れていたこと。
知らずに飛んでいた。飛び降りて落ちていく。
この人生は一方通行。挫折という選択肢はない。
だから進み続けるしかない。茨の道も、暗闇も。
戻りたいなんて、帰りたいなんて思ってはいけない。
安易な逃げ場所は危機感を忘れさせるから。

失った時と人は、どれだけ多く、また重いものかと。
時間をかけて築いたものを、壊すのに時間はかからない。
何もかもを見過ごして、無駄にして、台無しにした。
罪とか後悔で語れる範疇をも越えている。
不吉を描き、破滅を願い、記憶の淵に葬ったところで。
自分の地位も、居場所も、あるいは友も、還らないのに。
重科を背負って生まれただなんて不幸を演じてみせて。
だから。やり直せないなら、みんな消えてしまえ。

希望を抱いて生きたい。絶望が訪れることなんて信じない。
でも、つきまとう影は拭えないから。きっとこれからも。
諦める道を選ぶのではない。これは、諦めた結果としての履行。
頭を悩ませる問題なんて、ぼくを縛るしがらみなんて、今は何もない。
本当は、自分の状態を熟知している。未来を恐れているだけ。
考えるべきことを考えずに、考えなくていいことばかり考えている。
どうして悔いることしかしないのか。今のこと、先のこと、手はあるのに。
本気で望んでなどいないくせに、なぜ孤独でありたがるのか。

他人や現実と向き合うことを、こんなにも面倒くさがっている。

2004/07/18

突き刺さる視線のような、鋭く痛い雨だった。

情けなさに苛立つ。走ってでも引き返さねばならない。
自分には何かができる力があるなんて、慢心していた。
齢を重ね、仕事に勤しみ、多くの経験を積んで。
所詮、たったそれだけのことなのに。
ぼくの中身は、これっぽっちも成長してなんかいない。
まだわからないのか。紙に書いた経歴など無意味だと。
荒筋だけを追った評論に価値などないことを。
不恰好で不細工で不器用で、不完全なものばかりの自分。

ぼくは、ぼくが傷つくことなんて怖れない。
自分自身がどんな目に遭おうが、それで心を病むことはない。
懸念するのは、失うこと。
宣告なんて、いつ突きつけられてもおかしくないから。
だから耳を塞いだり通信を断って逃げ惑う。
そんなだから、一向に同じ状況から抜け出せないのに。
腹を割って自分の未熟さや過ちを見せないことには。
それにも及び腰になって。失態を怖がっている。

なぜうろたえるのか。
なぜ、不必要な壁を張ってしまうのか。
その理由をみなわかっているから、よけいに腹立たしい。
自らを望んで窮地に追い込む不可解さに。
推理小説の伏線のように罠を張り巡らせる周到さに。
現実の世界にシナリオなんてあるはずがないのに。
そこに何らかの結末を誘い込もうとして。愚かなこと。
もはや描かれた生き様。現世と混じる余地はない。

昔は、もっと自分を知りたいと願っていた。
内面の奥底にあるもの。どう考えどう動くか。
謎として君臨する奇異な言動を、呪縛を暴きたかった。
好奇心ではなく自らを扱うため、ぼくを解剖していた。
今はどうだろう。時折目をつぶりたくなる。
わからなくていい。自分の気持ちなんて、思い知りたくない。
汚れすぎているから。自分でも、誰にも、見られてはいけない。
ましてや心の拠所を誰かに求めるなんて。絶対にいけない。

雪が降っているようだった。真冬を思い出した。

2004/07/21

謙虚と謙遜は違う。
見え透いた遠慮なんて嫌らしい。

ぼくは謙虚でありたい。
何も語ることなくただ寡黙に。

2004/07/22

見えない部分にこそ、真実の多くが存在している。

行動に移そうと思えば、何もできないということはないのに。
権限。責任の所在。上層部が決めること。言い逃ればかり。
自分個人の関与や過失なんてどうでもいいことだ。
罪をなすりつけあうだけで、目の前の問題に誰も向き合わない。
結果を、見なければいけないのに。
対話をして、解決の糸口を見出さなければいけないのに。
それをしない。人が動くのを待つだけで、それでいて不平不満は口うるさい。
発言をしない人間に発言力はない。

面倒なことと、頭を抱えたくなる。
難しい問題。時間や労力で簡単に解決できないから、多くの者を惑わす。
一生涯という時間を費やしても、ぼくはぼくのすべてを計れない。
同様に、世界の真理などほんの一握りも得ないだろう。
けれど。自分に関わる人に、何かをもたらすことくらいはできる。
そこで立場を気にして押し黙るのか。それとも主張をぶつけるのか。
壊れることは恐れない。むしろ壊すために、立ち上がるのだから。
無念だったのは、ぼくも同じだから。

自分の意思で真相を切り拓く努力を、しているだろうか。

2004/07/24

篭の中の鳥。

今日は鎖を解いてやる。
日常という樹海から切り離され、自分の場所へ行けばいい。
鍵。みな世界を開くもの。そして羽ばたくための翼。
何も誇れるものがなくても、自由に外の空気に触れて。
自分自身の感覚を、意識を取り戻して。蓄えて。
篩にかけられて捨てられるだけの存在ではないから。
安い餌で釣られる見くびられた存在ではないから。
ここではない風景をひとつでも多く見ておけ。

声に出して言いたいことなど。
心の底から叫びたいことなど。
あったのかもしれない。
だが、もう忘れてしまった。なくなってしまった。
声を失って、鳴けずにいて、それでも歌って飛び回りたくて。
夢は夢のままなのだろうか。簡単に諦めていいものか。
けれど、実感するたびにうなだれる。羽が重くなる。
自分の居場所を自力で築くことがいかに難しいかということを。

人格を塗り固める、という過失を繰り返しただけなのか。

2004/07/25

杜が笑う。
せせらぎが笑う。
砂利が笑う。
たくし上げた裾が笑う。
小銭が笑う。
蝉が笑う。
汗をかいた額が笑う。
ぼくは胸が苦しい。

2004/07/26

口に出して言った時点で、もはや決意は固まっている。

不思議と、混乱は来さない。
少しずつ使い分けられるようになってきた。
それは同時に、嘘が身に染みてきたということ。
この体は滑り続ける坂道の上。もう元へは戻れない。
立ち止まる場所も余裕も一番失くしているのは自分。
曲がった道でも突き進むようにしか、できていないから。
一直線。半減期まで一直線。
ぼくでないぼくが、じわりじわりと増えていく。

もう若くはない。
若さを言い逃れの手段にできないということ。
自分にとって、今は何もかもがオーバーエイジで。
未熟でいられる特権は、とうに喪失している。
それなのに、自分自身も操れないで。こんなに下手で。
感情を素直に表に出すことさえ、依然警戒していて。
どこへ行くのだろう。
何者にもなりきれない自分は、これからどこへ行くのだろう。

仮に引き止めてほしくて言ったとしても。それは叶わない。

2004/07/29

深く見ようとすればするほど、細かい部分が気になってくる。

自分をこうして情けなく思うこと。
夜はみな寂しい時間。反省を反芻する時間。
笑っているのは仮面。許しているのは欺瞞。
表の人間関係がいくらあろうと、心はつねに孤独。
助けてはくれない。信用してはくれない。
自分が他人に対して無関心であるのと同程度に。
誰も誰にも注目していない。冷たい群衆。
だから思い出す。雨の替わりに涙する。

入れ違ったメールでは会話として成立しない。
コミュニケーションは便利になったのに、こうも易く意識は隔たる。
こういう世界に染まってはいけないと、なぜ思えないのか。
誤解を増幅する機構になど足を踏み入れないで。
不必要なものを持ち歩かないようにして体を軽くして。
踏み切れずにいる。本当は、心のどこかで望みを捨てていない。
宇宙のどこかに投げ込んだ手紙が、波に揺られてたどり着く日を。
だから切り刻む。思い出を消して心に空白を埋める。

除名されたことへの反発なのか。

2004/07/30

自ら屈しなければ、いずれ首を掻かれる。

平常心でなどいられるはずがない。
出遅れたものを、今さら取り戻せるはずなどないのに。
屈託のない笑顔を見るのがつらい。
夢や希望や愛にまみれた歌詞がつらい。
辛辣な世界を、それが現実であることを、知ってしまってからは。
あらゆる言葉が建前で、虚構に思えてならない。
積み上げたものが、そのたびリセットされる。
地獄の底から抜け出す道を築けずにいる。

信じている、なんて嘘。
信じられないから不安になるのだ。
不安だから支配したくなるのだ。
明かしたいこと、訊きたいこと。初めから数えるほどしかない。
必要なのは時間ではないと知って。勿体ぶって持ち越して。
もうこんな、腹の探り合いみたいなことはたくさんなのに。
勝ちも負けもない。わかりあいたい、それだけなのに。
ぼくはまだ一度だって本当の自分の言葉で語ってさえいない。

どんどん手詰まりになって、駒を進められない。

2004/07/31

ここには誰もいない。

悪意はないという顔をして、告白を散りばめる。
心の中をまるごと投影したような宝箱。
醜い醜い宝箱。
外界につながるただ一本の線が伸びているだけ。
生命線であり、導火線にもなりうる。
それ以外にこの暮らしを縛るものはない。
ないのだから、何も聞こえない。何も認知しない。
空気中を翔て降り注ぐ声など。

きっと今日も、誰かの思いを無視して。
すべてを塞いでいる。隠している。心も存在も、欲求も。
似つかわしくないものと決めて、触れることをためらっている。
姿を現すことを、同席することを、無性に心苦しく思う。
遠い声で。大丈夫だから、なんて言ってしまって。
どうして愛を避けるのだろう。
排水口に血を流して捨てるところを見られたくないから?
弱さを突きつめると、どうにも立ち直れなくなる。

腐った野望の臭いだけが、かろうじて生活感を残す。

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