[こころ] どくしょかんそうぶん

『星の王子さま』(集英社刊)を読んで
4年 まさとし

 ことし2005年、フランスで生まれたこの本の新しい日本語訳があいついで出版されています。私が読んだのもそのうちの一冊です。長年にわたって人々に愛される書物の多くには、時代を越えても変わらない人間の真理がつづられています。星の王子さまも例外ではありません。たんに子ども向けの文学としてだけでなく、現代の大人にもメッセージを投げかけている作品だから、今こうしてふたたび見直されているのだと思います。
 この作品でくり返し使われているキーワードのひとつに、飼い慣らす、というものがあります。人間が植物や動物を飼い慣らすことで、おたがいの存在や関係が特別なものになっていく、ということが述べられています。地球の庭で見つけたたくさんの美しいバラに囲まれても、王子さまの心には何も響いてくるものがありません。そしてキツネの言葉を聞いて思い出すのです。自分の星に残してきた一輪のバラとすごした時間を、そのバラをどれだけ大切に思っていたのかを。
 一見すると、これはごくあたりまえのことを書いているような気がします。草花を育てたり動物を飼えばおのずと愛着がわくものだし、ペットは家族の一員だと言う人もいます。ですがその一方で、このあたりまえのことが忘れられようとしているのが今の世の中だとも言えます。
 ここ数年、ペットに関するさまざまなトラブルが起こって大きな社会問題に発展しています。ペットとして海外から輸入された動物が捨てられて野生化し、人に危害をくわえたり生態系をこわしたりしています。これらはみな無責任な飼い主の責任です。ものめずらしさやブームに乗せられて軽い気持ちで飼いはじめ、飽きたり世話しきれなくなったら捨てるという、命を何とも思っていないような行為があちこちでくり返されています。とても嘆かわしいことです。
 こういうむごいことをする人は、ペットを物としか見ていなくて、飼い慣らすことによって愛情を注いだり関係を深めるというあたりまえの情緒が欠落しているのでしょう。なにもペットの話にかぎりません。物を大切に使うことも、人間対人間の関係だって同じです。自分本位でなく相手の気持ちに立って考えたり、思いやりをもって人や動物に接することができない人がおおぜいいます。王子さまの視点やせりふは、こんな心ない現代社会を暗に非難しているのかもしれません。
 私も子どものころ犬を飼っていました。しかし、あまり大事にしていませんでした。毎日の世話がおっくうで、とくにふんの後始末がいやでした。ほとんどやっかい者あつかいで、散歩に連れて行っても犬を公園の木につないで自分だけ遊んだり、ほえたり言うことを聞かないときは暴力をふるってしまいました。子どものすることとは言えひどいことをしたと思って、今でもずっと悔いています。
 あのころせめてもっと早くこの本に出会えていたら、と考えてみることがあります。面倒に感じもする毎日の世話や日常の触れあいが、実は私と犬との関係にとって大切な時間だったと気づけたかもしれません。そうすればもっと大事にすることができたでしょう。もう私の時間は戻せませんけれど、目に見えない肝心なことを教えてくれるこの本に多くの現代人がふれて、飼い主にかわいがられずに悲しい思いをするペットが少しでも減ることを願ってやみません。

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