[こころ] みもと

 以前のもじばけにつづいて、困ったメールが届いたという話です。といっても、今回は本文はきちんと読めました。問題なのはその中身です。
 私のホームページ上の文書を、学校のレポートの材料にしたいが使ってもいいか、という内容だったのですが、メールに書かれていたのはその用件だけでした。送り主の氏名も学校名も、どのような授業の課題なのかもどこにも記されていません。うっかり書き忘れたという感じには見受けられませんでした。ニックネームのようなものはありましたが、相手を知るうえでなんら参考にならないものです。また、使われているメールアドレスもフリーメールでした。これがもし大学のアカウントなどだったら、多少は信頼できたのですが。きちんとした用件なのに、こんなに不作法なメールを受け取ったのは初めてのことです。
 このようなメールは無視するのが最善の対処法かもしれません。しかし、私がここで返答しないことで、相手の身元も用途もわからないのに自分の文章を勝手に使われるのも気味がわるいです。なのでしかたなく返信しました。せめて名前と学校名を教えてもらわないと許可を出せない、と。ほどなく返事が届いて、それならば私の文書は使わないと伝えてきました。こちらは相手の言葉を信じるしかないので手放しでは喜べませんし、それよりも、けっきょく名乗らずじまいだったのが残念です。文面はていねいだっただけになおさらもったいない。そんなに名前を教えるのがいやだったのでしょうか。
 インターネット上のデータなど無断で持っていく人も多いなかで、このように前もって知らせてきただけでも気が利いていると言えるのかもしれません。ですが、メールの書きかたというよりも人と人とのやりとりとして、この無礼さはあんまりだと感じました。無断使用といっても、インターネット上に限定した用途、つまりいわゆるコピペや直リンはべつにかまわないと思います。またメールの記名についても、インターネット空間内での閉じられた用件、たとえばホームページにリンクを張りたいといった内容ならば、ハンドルネームのみでいいでしょう。ですが、今回は学校のレポートと言ってきています。実社会での活動のために、インターネットの外にデータを持ち出そうとしているわけです。そのような場合は、インターネット上の仮想的なつきあいとしてではなく、実際の身元を明かして話をするというのが筋ではないでしょうか。

 このような問題は、電子メールだから起きたと考えます。同じような承諾を電話や手紙で得るならば、自分から名乗らないなんてことはまず考えられませんから。インターネットや携帯電話でメールを交換することが日常的になっている現状が背景にあります。匿名でのコミュニケーションが当たりまえになり、たくさんの人と簡単に知り合える感覚におちいりがちです。ですので、自分の友だちと話すのと同じような気持ちで、また実社会の一員として活動しているという自覚なしに、見ず知らずの人にメールを書いてしまったのではないでしょうか。直接の責任は学校側や教師にあると思います。授業や研究で学生にインターネットを利用させる際の注意点、人に何かを依頼したりアポを取るときの礼儀、もちろん電子メールの書きかたもふくめて、きちんと指導しなければなりません。いま学校現場では情報教育が始まっているそうですが、その必要性を今回ありありと感じました。
 私は自分のこだわりとして、電子メールを送るときはかならず本名を書き添えるようにしています。それは、相手に自分を信用してもらう、話を聞いてもらうには、まず身元を明かすことが必須だと思うからです。メールはとても不親切な連絡手段です。顔も見せられない、声も聞かせられない、筆跡もわからない。となると、もう自分の名前や所属を明らかにするくらいしかすることがないんですよね。それさえも開示しなかったら、どうやって腹を割って相手と話せるのかと思います。私がそう考えるにいたったきっかけは、ANSoftホームページの永田さんとの出会いです。永田さんはインターネット上でずっと実名で活動しています。その潔さや、本当の意味で裏表を作らない人柄に心ひかれました。人の信頼を得るいちばんのポイントだと思います。ほかにも、オフで会うときにはハンドルネームではなく本名で呼びあいたい、と話す友人もいます。
 そういえば、ネチケットということばを最近はめっきり聞かなくなりました。インターネットや携帯電話が日常のコミュニケーションツールとして定着した今こそ、きっちりとしたマナーを呼びかけることが必要だと思うのですが。手段は異なっても、要は人と人の会話です。パソコンや端末の向こうにいる話し相手に、どうやったら失礼をはたらかないようにできるか、どうやったら自分の用件を聞き入れてもらえるか、そこに立ち返って考えることがまず大切です。

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