[こころ] そしき

 2004年、プロ野球界がたいへんな問題に直面しています。これを書いている時点ではまだ結論は出ていませんが、長年続いた12球団体制が崩れるかもしれないという一大事です。そして、球団代表やオーナーの動きが連日報道されていますが、明るみに出たのは経営陣の強固な態度です。新規参入に名乗りを挙げた企業を無視したり、当の選手からの意見にも耳を傾けなかったり。いかにも古い日本の体質というか、閉じた世界だと強く感じます。こんな状況に置かれても、プロ野球人気は不動だという自信でもあるのでしょうか。こういう事態になる前に、どうしてもっと早く手を打たなかったのかと悔やまれます。リーグや球団ごとの収入に開きがあるなら、まずそれを是正したほうがいいと思いますが。特定の球団に集中している入場料や放映権料とかをもっと分散するとか、あるいはプロ野球機構自体で収入を管理して各球団に分配するとか。そうすることで力の均衡ははかれたはずです。いささか共産主義的かもしれませんが、やはりすべてのチームがちゃんとうまく回ってこそのリーグ運営ですから。でも、こんなのは某球団が了承しないでしょうね。そしてほかの球団はそこの言いなりなんでしょうね。
 こうした組織のありかたを見ていると、ヨーロッパのサッカーリーグに通じるものを感じます。ヨーロッパの主要国はそれぞれサッカーリーグを運営していて、いずれも国民的な人気を得ているわけですが。その内情、とくに経営面ではひどいことになっています。クラブ間の収入の差、すなわち貧富の差が大きいわけです。財力のあるチームは大金をはたいてスター選手をかき集めます。法外な移籍金も年々問題になってきています。かたやそのような経済力のないチームは、選手の補強を思うように行えず、またいい選手を育てても、クラブの存続のために放出せざるを得ないという、これでは戦力の格差も広がるいっぽうです。さらに、リーグ全体の運営や方針に関しても、一部の金持ちチームが発言に強い影響力を持っているため、均衡が崩れる傾向に歯止めをかけることができずにいます。たとえ世界じゅうから注目されるサッカーリーグでも、その経営はけしてうまくいっているとは言えません。プロ野球も、このままではこんな状況に近づいていくことは避けられません。
 いっぽう、日本のJリーグは全体として健全な運営ができているのではないかと思います。その立役者はチェアマンです。Jリーグが発足したとき、川淵チェアマンという人がいましたが、チェアマンっていったい何者だと首をかしげた人も多いでしょう。これが実は、リーグ全体の方向性やチーム間のバランスを考える重要な存在だったわけです。それから、Jリーグにも危機が訪れた時期がありました。開幕からの爆発的な盛り上がりが徐々に冷めはじめ、そのあおりを受けて収入が落ち込みました。とうとう、横浜フリューゲルスが解散・吸収される事態にまでなります。Jリーグや各クラブはこれを反省点とし、経営の健全化に取り組んできました。年俸の高騰を抑え、各地域の自治体・企業、そして地元のファンとのつながりを深め、基盤を強化してきました。試合数がすくないJリーグは、市民やスポンサーからの支援がいかに重要か、早い段階から気づいていたということでしょうか。ファンの意見を大切にしたクリーンなチーム運営、これが支持の定着、ひいては安定した収入のために欠かせないものだったのです。
 プロ野球の人気が落ちてきた理由のひとつに、サッカーを挙げる人もいます。たしかに日本代表戦などは盛り上がりがすさまじく、チケットは即完売、テレビ中継もいつも高視聴率をあげています。ではサッカーはどうしてファンの人気を勝ち得たのか。ひとつはサッカーという球技そのもののシンプルさでしょうか。単純なルール、ひとつのボールを追いかけるひたむきさ、だれが見てもそれとわかるスーパープレー。観客の心をとらえるにはとてもわかりやすいものです。もうひとつは、試合の背景にあるもののわかりやすさ、つまりクラブや組織全体の運営がオープンであるかどうかではないかと思います。ファンが納得して声援や夢を託すに足るチームであるか、そしてリーグであるか。それもきっと重要なことなんじゃないでしょうか。健全性、開示性、そしてファンからの信頼。これは、どのような組織を維持していくにおいても不可欠なものではないかと思います。プロ野球も、企業経営も、あるいは国政も。人気や信頼を回復するために何をすべきか、あらためて考えるべきときなのかもしれません。

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