[なのはSS] 黒い涙

「はやてちゃん、お話があります」
「どないしたんシャマル……? えらい怖い顔して」
「これ――。寝室のお掃除してたら出てきたんですけど」
「あ……! そっそれは……、――返して!」
「駄目です」
「あうっ。な……なんでそんな意地悪するんや、だいたい人のもん勝手に……」
「私、この世界の法律や倫理はよく知りませんけど……、でもこれくらいはわかります。――この本が未成年者の目に触れさせてはいけないものだってことは」
「……っ。それで……なんや? わたしのこと叱るんか」
「いえっ、別にそんなつもりは……。ですが……どうしてこんなものを?」
「そら、そういうのんに興味ある年頃っちゅーか……」
「思春期……ですか。お気持ちはわかります、でもルールはルールですし大人になるまで我慢して――」
「なれへんよ」
「へっ?」
「大人になんかなれへん。その前にわたしは――」
「な……何言って……」
「自分の体のことやからね、何となくわかってまうんよ。――両脚の麻痺、治るどころか全身に行き渡るんも時間の問題とちゃうかな」
「そんな……っ! 駄目です、簡単に望みを捨てないでください!」
「堪忍なシャマル……。けど何にも寂しいことないよ? みんなと出会えて楽しい思い出も作れた。誰も――闇の書のことも恨んでへんし」
「はやてちゃん……どうしてっ……。まだあきらめるには早すぎます……っ……」
「……。――ほな、ちょう服脱いでくれる?」
「……はい? い、今何て……」
「裸になってーな。……えっちな本見たらあかんのやろ? それやったら代わりにシャマルが教えてくれんとなぁ。大人の体がどんなふうになってるか……大人になれへんわたしに」
「え……っ、いえ、でもそんなこと……」
「聞こえへんかったん? ――脱ぎぃ」
「あのっ、ですが……っ、……」
「……どういうこと? 主の命令が聞けへんの?」
「!! そんなっ……そんな言い方……! 今まではやてちゃん、一度だって私たちに『命令』したことなんてなかったのに……」
「誰のせいや思てんの? ……シャマルがぐずぐずしてるからやろ?! こっちは隠してたもん引っぱり出されて気ぃ立ってるのに……!」
「ひっ――」
「ほら、さっさと済まさんとヴィータたち帰ってくるで? 見つかってもええん?」
「うう……っ。わ、わかりました。脱ぎます……」
「……ふん」

「うっ……。はい、これで……」
「ん……? まだ一枚残ってるようやけど?」
「こっこれだけは……。……ごめんなさいっ、下は許して……」
「――まぁええわ、シャマルのおっぱいも興味あったし。ほなこっち来て、車椅子の横……そうそう。んで膝ついて?」
「は、はい。……こうですか?」
「うん。触るで?」
「あ……はっ」
「どないしたん? 変な息漏らして。……おっきいなぁこれ、っちゅーか重い。両手やったら持ち上がるやろか……?」
「あぁ……っ。そんなっ、挟んだらっ……」
「うわあ……ええなー、めっちゃええわ。柔らかくてすべすべで指が吸いついてく。ずっと遊んでても飽きる気せーへん」
「あ、遊ぶってそんな……っあぁ!」
「お風呂とかでも見とったけど、このおっきさはやっぱりうらやましい……。わたしのまな板とは大違いや」
「そ……それはっ……、ふぁ……はやてちゃんまだ若いから……。く……っあ……、せ、成長したらすぐに大きくなりますよ」
「まー成長なんかする前に死ぬやろけど」
「――っ」
「さて――。ほな次は……吸うで?」
「ええっ? な、何も出ませんよ?」
「……わかってるって。気分だけや、気分だけ。……んっ」
「はあぁ……っ!」
「む……んぐ……あむっ……。っん……ひゃまる、ひもひええ……?」
「んはっあぁ……! はっ、はやてちゃんのお口の中熱くてっ……、ちっちゃな舌が絡みついてきてぇ……っっ!」
「……はふっ。あは……わたしのよだれでべちょべちょやね」
「はぁ、はぁ……。そ、そうですね……ふふっ」
「――赤ちゃんの頃も、こんなふうに母さんのおっぱい吸ってたんやろか。覚えてなんかないけど」
「はやてちゃん……」
「……ごめんなぁ、シャマル。きついこと言うてもーて」
「え……いえっ、私は何とも。ただいつものはやてちゃんらしくなかったから……」
「そっかー。案外余裕なくしてるんかもわからんな。口では寂しないとか覚悟できてるみたいなこと言いながら実際は……」
「――それが当たり前の感情ですよ。お別れは、つらいです」
「……っ、う……うううっ……! ほんまは死にたくなんかない! 嫌やっ、なんでわたしだけ……っ!」
「は、はやてちゃん?!」
「こんな思いするんなら最初っからみんなと出会わんほうがよかった……! 独りぼっちで死んだらなんも悲しいことなかったのに! 闇の書の主になんかならんかったら……っ……う……、うぁ……ああああああっ……」
「はやてちゃん……はやてちゃんっ……、っ……ううう……」

 

 

「クソッ!! なんでだ、なんでだよはやてえぇっ……!」
「ご……ごめんなさいみんな! 私っ、守護騎士なのにはやてちゃんとあんなことに……うう……」
「――あまり自分を責めるなシャマル。主はやてが望まれたことだ、我々はただ従うより他ない」
「その『望み』が問題なんだろ?! 自分が大人になれねえって思ってるってことはつまり……!」
「長くは生きられない――。そう悟っておられるということか」
「そんなのあまりにもかわいそうよ! ……ねえっ、何とかならないの? 病院にだってずっと通ってるのに回復の兆しが見られないし……」
「このまま体が弱ってくのを黙って見てるしかねーのかよ……。自分が情けねぇ」
「無論そんなつもりはない。主はやては命に代えてもお守りする。だが方法が――」
「私たちを戦いの駒じゃなく、初めて家族として迎えてくれたマスターなのに……うぅっ……」

「……なあ。あたしらでリンカーコア集めようぜ」

「えっ……! で、でもそれって……」
「貴様正気か?! 恥を知れ、守護騎士の誓いを破るなど……!」
「ぐうっ……!」
「……シグナム! 離してあげて、ヴィータちゃんが苦しそう……!」
「主はやては心優しいお方なのだ……! だから決して他の人間に迷惑をかけてはならぬと――」
「そのせいで自分の体が動かなくなってもいい、命がどうなっちまってもいい――はやてはそういう考え方するやつなんだよ……! 優しいってつまりはそういうことだろうがよぉッ!!」
「……くっ」
「確かに……、闇の書を完成させてあの子が覚醒してくれたらはやてちゃんへの侵蝕は止まるはず」
「ああ。その辺りは若干記憶が曖昧だが――、恐らく間違いないだろうな」
「……シグナムみてーに大人しく言うこと聞くだけが騎士の務めだなんてあたしは思わねー。いや……んなもんハナっから関係ねえ。はやての病気を治して、そしてずっと一緒に暮らすんだ!」
「そのためならベルカの誇りさえ捨てることも構わない……、ってわけね」
「今回ばかりはヴィータに教えられたな……。私もどうやら覚悟を決めねばならぬようだ」
「……んで? どーすんだ? あたしは一人でも行くぜ」
「――待て」
「あんだよザフィーラ……やっと口開いたと思ったら。邪魔すんならまずあんたからブッ潰して……」
「いや――。魔導師を襲ってリンカーコアを蒐集するのは構わん。だが一つだけ……殺すな」
「……ザフィーラの言うとおりだな。もし後で知れたら主はやてが悲しまれる」
「チッ、わかってらーよ。そこは上手くやるさ」
「それじゃみんな……決まりね? 最初は手分けして、この世界に徘徊している魔導師から狙いましょう!」
「おうッ! ――ちょっとだけ嘘つきになっちまうけど、でも全部はやてのためなんだ。だから待っててくれよはやて……!」

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