[なのはSS] マダラ

「なのは……! なのはっ!」
「――。フェイトちゃ……」
「いつまでこんなとこでつっ立ってるつもり?! ……風邪ひくよ、このままだと。早く帰ろう?」
「ん……」
「……って、なのは?」
「どうしよ……、なんだか急に足が震えて……。フェイトちゃんの顔見て安心したからかな」
「大丈夫……? 寒さのせいもあるかもしれない。肩貸すね?」
「触らないでっ!!」
「なッ――」
「……今わたしに触ったら、フェイトちゃんまで汚れちゃう」
「あ……ああ、服のこと? そんなの気にしてる場合じゃないでしょ。というか私ももう雨に濡れちゃってるし」
「違う……違うの。……あのね、わたし、さっき、ここで人を」
「知ってる――。前線部隊から艦船にあった報告、私も聞いてたから」
「そっか……」
「つらかったね……なのは。だけど自分を責める必要なんかない。なのはは任務を果たしただけなんだから」
「……そう、だよね。頭ではわかってるんだけど……。さっきフェイトちゃんが手握ろうとしたとき、反射的に思ったの。わたしはこの手で人の命を――」
「な……のは……」
「砲撃魔法……直撃じゃなかったんだけど、後ろの建物に当たって、犯人は倒れてきた壁の下敷き」
「だ……、だったら別に、なのはが直接……ってわけじゃ」
「崩れた瓦礫に、真っ赤な染みが点々とついて……あのまだら模様が、ずっと目から離れないの。今だって、フェイトちゃんのきれいな顔が返り血浴びたみたいに」
「――ねえ、いいからとりあえず艦(ふね)に戻ろう? 話は後でいくらでも聞くから。嫌なことだってそのうち忘れて――」
「それだと困る……っ」
「え……。困るって何が」
「だって変だよ……。何にも感覚が残ってないなんて」
「感覚?」
「そう。……たとえばナイフで刺したら、感触が手に伝わるじゃない?」
「な、ナイフって……。――それがないから実感わかないってこと?」
「くすっ。ずるいというか――ある意味便利だよね。魔法って」
「ッ……。駄目だよ、管理局員の私たちが魔導を否定するようなこと言ったら――」
「手は汚したのに、何も感じない。――フェイトちゃん知ってた? わたし、陰で『管理局の白い悪魔』って呼ばれてるんだって」
「な……っ。ちょっ、いきなり何言って……」
「隠さなくっていいよ。……今まで聞こえない振りしててくれたんでしょ? 優しいねフェイトちゃんは」
「なんでっ……、なんでそんな棘のある言い方……」
「――これで、晴れてわたしは噂の通り。あんなことしておいて罪の意識もないんだもん……あははっ」
「だったらどうして……っ、どうしてそんな悲痛な顔で笑ってるの? もうやめよう、なのは。これ以上――」
「これでいいんだよね……? 次元世界の平和のためなら、わたしは――悪魔でいいよ」
「もう言わないで……!」
「きゃっ。……くっ、やだ……離してフェイトちゃん……」
「……ほら、こんなに体が冷たくなってる。髪もずぶ濡れだし、だから思考までネガティブになるんだ。今はじっとして――」
「だめ……っ、やっ――嫌だよ、フェイトちゃんにも汚いのがうつっちゃう……。フェイトちゃんまで汚れたらわたし」
「――ばかなこと言わないで」
「あうっ……」
「どこも汚れてなんかないよ……なのはの体も、心も。初めて会ったときと変わらない、真っ白でまっすぐな女の子のまま」
「……っ、ふ……」

「――。……落ち着いた?」
「ぐすっ、……ん。……いつも支えてもらってるね、フェイトちゃんに」
「そんな立派なものじゃないよ……。私が堪えられなかっただけ。自分の言葉で傷ついてくなのはを――私が、見ていられなくなっただけ」
「それでも、ありがと。……けどね? やっぱり反省すべき点はあって」
「……どこに」
「身柄確保を焦って力みすぎたんだと思う。魔力の制御……もっとうまくできてたら、少なくともこんな結末には……」
「そんなの……、わからないよ。誰にも」
「――うちのお父さんね、剣術の使い手で、今はもう稽古してないんだけど」
「ああ――。あの道場で」
「いつか言ってたことがあるの。力のある者は、その力で人を傷つけちゃいけない、人を活かすために使うんだ――って」
「そっか。……うん、何となく士郎さんなら言いそうな気がする」
「わたし……浮かれてた。空戦のエースとか言われて周りからちやほやされて、いい気になってた。まだまだだね」
「そうかな……。なのはが自分の実力に溺れてたようには、とても見えないんだけど」
「――人のこと言えないんじゃない? 自分に厳しいってことにかけては、フェイトちゃんだって」
「うっ。そこを突かれると……」
「でね、魔法の力を誰かのために使いたくて管理局に入って……、いつか自分が命を落とすかも――っていうのは覚悟してたんだけど」
「……なのは! 冗談でもそんなこと言わないで」
「大丈夫だよ。何があっても必ず帰ってくる。――人一倍心配性な親友が待っててくれてるし?」
「そ、それって……。もうっ」
「だけど、人の命までは――。時には守れないこともあるんだって……、そっちの覚悟は足りなかったみたい」
「……わかるよ。救えなかった命……私も何度も立ち会ってるから。いつも後悔ばかりだし、自分の無力さを痛感する」
「あるよね……。わたしが一番最初に関わった事件でも、犠牲者が出てるんだ」
「……そうなんだ? それ、いつ頃の話? 私も知ってる――」
「プレシアさん」
「……ッ」
「あのときわたしは、フェイトちゃんを助けたいっていう思いだけで……。フェイトちゃんの大切な人、助けられなかった」
「待ってっ……! それこそなのはが責任感じるなんて違うっ! そんなのおかしい……!」
「わかってるよ――。だから、わたしはまだまだだっていう話」
「……そう。もっと強くなりたい、ってところ?」
「なりたいし――ならなきゃ。目に焼きついたまだら模様の記憶も……いつか受け入れて、乗り越えらえるように」
「そうだね。……もう大丈夫? 一人で歩ける?」
「うん、平気。――お待たせしました。高町なのは、これより帰艦しますっ」
「ふふっ――了解。執務室にバスルームあるから。戻ったら一緒にあったまろう」
「うんっ。……って、“一緒に”……?」
「あっ……! 今のはちがっ、その、私も寒くなったからついでにってちょっと思っただけで別に変な意味じゃ……!」
「んー? なに慌ててるのかなーフェイトちゃん?」
「ううっ、だから誤解なのに……。どうしてそんな意地悪な顔で笑ってるのー!」

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