[なのはSS] AIR

「……世知辛いねぇ。古代ベルカのレアスキルなんて聞こえはいいけど、大した役に立つでもない。こんな路上の芸くらいしか……ん?」
「じーっ…」
「やあ可愛いお嬢さん。僕のショー気に入ってくれたかい?」
「ばっちい犬~」
「ありゃりゃ…。手厳しいな」
「わたしに貸して! 治してあげるから」
「あっ、待ってくれ……! 返すんだ、それは大事な猟犬っ…」
「こっちだよーだ! …おーいっ、シャマルさーん!」
「あら。こんにちは、なのはちゃん」
「おや……?」

「クラールヴィント。運んで、癒しの風――」
「……驚いたな。魔力体のヤークトを修復できるなんて。君も古代ベルカの…?」
「守護騎士シャマルです」
「僕はヴェロッサ・アコース。…守護騎士、ということは仕える主が?」
「ええ。二人で暮らしてるんですよ」
「あの子は…?」
「なのはちゃんですか? ……なのはちゃんは、私の友達です」
「シャマルさーん、広域サーチ手伝ってー! 一人じゃ上手くできないよーっ」
「はーい。今行くわね」
「おっと、探索魔法だったら僕だって負けないよ」
「お気楽査察官はどっか行っちゃえ~!」
「なにぃ!」

「…わざわざすみません、ヴェロッサさん」
「いいんだよシャマル。君がたとえ騎士でも、女性を一人で帰らせるなんて僕のポリシーに反するからね」
「まあ……くすっ。――あ、着きました」
「……なんや? おーおかえり。帰ってきたとこか?」
「はい、ただ今戻りました。こちらの方に送ってもらったんです」
「ん…? って……ロッサ?」
「はやて…! 久しぶりだね。そうか、主ってはやてのことだったんだ」
「ヴェロッサさんって、はやてちゃんとお知り合いだったんですか…?」
「そうやー? カリムの弟さんなんよ」
「義理の、だけどね」
「今日はありがとうな、ロッサ。うちのなのはちゃん送ってきてくれて」
「え…?!」
「…………」
「さ、うちに入りぃ、なのはちゃん。晩ご飯できてるよ?」
「…はい……」
「シャマル待ってくれ! 今のは一体……」
「――おやすみなさい」
「…っ」

 

「騎士はやては、ずっと心を病んでいるの」
「…何だって? 義姉さん」
「自分の守護騎士を、殉職した親友だと思い込んでる」
「そうか……それで名前を」
「だけど最近、状況に変化が表れ始めた。――事故の日のこと思い出したんですって。それで現実を受け入れたはやては……、シャマルの記憶も失ってしまった」
「そんな……っ」

「はやてちゃんには、大切な親友がいました。高町…なのはちゃんっていう」
「なのは、って……」
「私たち守護騎士はよく家を留守にして、はやてちゃんに寂しい思いをさせてきました。なのはちゃんは、そんなはやてちゃんの心の隙間を埋めてくれるはずでした。でも…」
「例の事故……だね」
「――今朝、はやてちゃんが私に言ったんです。あなた誰や、って」
「何だって…!」
「……これが、私の夢の終わり。高町なのはとして生きてきた私の、夢の終わりです」
「君は…それでいいのかい?」
「…ヴェロッサさん。私はもう、はやてちゃんのそばにいられなくなってしまいました。吹かない風に意味はあるんでしょうか…?」
「シャマル……」

 

「こんにちは、ヴェロッサさん。お出かけですか?」
「今日、ミッドを離れることにしたんだ。もともと仕事熱心じゃないしね、僕は」
「そんな急に……。寂しくなりますね」
「シャマル。…一緒に来るかい?」
「えっ……」
「君に見せてあげたいんだ、次元世界を。夢なんかじゃない、本当の世界ってものをさ…!」

「……支度、できました」
「よし。じゃあ行こうか」
「ヴェロッサさん…。あの、旅立つ前になのはちゃんに一言だけ……」
「いいからついて来るんだ」
「は…はい」
「……ほら着いたよ」
「ここって……私の家? でっ、でも私もうここには…」
「なのはが言ってたんだ。寂しそうなシャマルさんは見たくない、シャマルさんは夢から覚めないといけない――って」
「なのはちゃんが……」
「……なんや? お客さんか?」
「あっ…ぅ……。……っ…、――はやてちゃん! 私です!」
「……? って…、ぁ……シャマル?!」
「はいっ…! そうです、はやてちゃん!」
「シャマル、シャマルっ…! うぅ……今まで堪忍な…」
「――よかったね、シャマル」

 

「今日は来ないね~、シャマルさん」
「今頃ははやてと一緒にいるはずだよ」
「そっかー。それならわたしも帰らないと!」
「そうだね。なんなら送るよ。…なのはの家はどこだい?」
「――帰る場所は、あるよ」
「……なのは?」
「空にはね、とっても寂しそうな女の子がいるの」
「女の子…? 何の話をして……」
「その子は器として生み出されて、他には何もない。本当のママはいないから、悲しい涙を流すしかない。その子が乗ったゆりかごには、傷ついた真っ赤なロストロギアがあるの。すごく強い魔力を持った、結晶体。それには、いっぱいの魔導師が遺した、いっぱいの魔法が詰まってる」
「……」
「わたしは、それを一粒だけ分けてもらったの。会って、なぐさめたい人がいたから」
「……そうか」
「…わたしは夢のかけら。ここにいるのは、ただの夢…。でもね? すごく楽しかったよ。わたしは……本当のなのはは…、この世で生きつづけていくこと許してもらえなかったけど……!」
「なのは……」
「……ううっ。うっ、う…、うああ……っ」

 

「シグナムたちが転属で家を出ていって、私は途方に暮れていました」
「その頃からかい…? はやてが君をなのはって呼ぶようになったのは」
「ええ。……私がなのはちゃんでいれば、はやてちゃんは笑ってくれましたから。そんなある日――」

『…探して、災厄の根源を……! く……うっ…』
『広域サーチ、上手にできないの? ――クラールヴィント』
『……わあーっ! わたし、なのはって言うの!』
『私は……。私は、シャマル』

「――全ては、私の罪から始まった」
「罪?」
「私がはやてちゃんを一人にしなければ、誰も夢なんか見なくて済んだのに…」
「シャマル…。……そういえば、なのははどこに?」
「えっ…そんな、お別れもまだなのに……!」

「――シャマルさん、ヴェロッサくん。約束しよう? 笑ってバイバイって言って」

「なのはっ!」
「なのはちゃん…! ……言えない、笑ってさよならなんて言えない…! なのはちゃんがいなくなったら、きっとまた笑えなくなる…」
「……夢から覚めても、思い出は残るよ。だからシャマルさんも、ずっと楽しい思い出にして? そして……わたしの分も、はやてちゃんと一緒にいてあげて」
「…っ、なのはちゃんっ……」
「……」
「……あっ?!」
「なのは?」
「ああ…うっ……、…ありがとう、なのはちゃん……」

 

「やあ、シャマル。…また家出かい?」
「いいえ。これが届きまして」
「メール……?」
「本局勤めのヴィータちゃんたちから。…ヴィータちゃんは今、白い防護服の戦技教官と一緒にお仕事しているそうです」
「その戦技教官、まさか名前は……?」
「――。私も驚きましたけど、会ってみることにします」
「そうか、行ってくるといい。――シャマル!」
「はい…?」
「吹かない風にも意味はあるさ! それが、君とはやてを今もつなぐ大切な絆だからね……!」
「……ええ!」

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