[なのはSS] upstairs

「――つまり、わたしが『闇の書』の主として、みんなの衣食住の面倒見なあかんっちゅうことやね?」
「え、えっと…、それはちょっと認識がずれてると言いますか……」
「それよりも、我々にページ蒐集の命をお与えください」
「蒐集なんかせんでええ。人様に迷惑かけてまで叶えたい願いなんて、わたしにはないよ」
「へっ…! 欲のねえマスターだな」
「ほな、まず衣食住の『衣』やけど……。あしたみんなの服買うてくるし」
「ご心配には及びません、主はやて。この服で十分です」
「そんなん言うたかて……シグナム、きょう病院でえらい騒ぎになっとったやん…。この世界におるかぎり、この世界の常識にのっとった格好してもらわなあかん」
「それはわかりましたけど、先に騎士甲冑のほうを作っていただけると…」
「図書館にも寄って資料探してくるし、ちょう待ってて? …けど、あくまでもデザインするだけやで。わたしはみんなを戦わせたりせえへんしな?」
「…わが主。その……」
「ああ…ザフィーラやったっけ。その耳と尻尾、わたしはかわええ思うけど、ご近所の人が見たらびっくりするやろね…」
「御意に。では、普段はこの姿になりましょう――」
「……わぁ! 犬になった! かわええやんザフィーラ…!」
「――犬ではなく狼です」
「『衣』はだいたい解決したところで…次は『食』やね。これはわたしにお任せや!」
「はぁ? いらねえよ、あたしら別にメシなんか……!(ぐぅぅぅぅー)」
「……」
「……」
「ヴィータ……おま…」
「……プッ、あはははは…! いやー笑わしてもろたわ、ヴィータ。今日はありあわせの材料やけど、後ですぐに夕ご飯作ったるよー?」
「…クソッ! だ、だからそんなんじゃねえって……」
「まあいいじゃない、ヴィータちゃん」
「けどよ…! このままこのマスターのペースに乗せられっぱなしでいいのか?」
「主が望んでおられるのだ。我々は従うのみ……違うか?」
「みんなどないしたん…? まあ、最後は『住』や。もちろんこの家自由に使うてくれたらええで」
「はあ…。ありがとうございます、はやてちゃ…失礼しました、マスター」
「『はやてちゃん』でええよ? シャマル。…いや、ちょう待って? あかん……どないしよ、部屋が足らんかもしれん」
「別に個室でなくても構いません。我々はどこでも寝られますから」
「どうせ寝るんならちゃんとお布団がええやろ? …でな? 一階にはわたしの部屋しかないんよ。……ヴィータ、いっしょに寝よか?」
「んなっ! バ、バカッ、誰がそんな恥ずいこと……じゃねえ! あんたマスターの威厳ってもんがねえのかよ…!」
「あらへんなぁ。言うても小学三年生相当やし?」
「……主はやて、このような場合は…(ボソッ)」
「おー! そうかそうか。……ほな、闇の書の主として命じます。…ヴィータはわたしといっしょに寝なさい!」
「えええーっ?! …っつーかシグナム! てめえ余計なこと吹き込みやがって…!」
「我は…このリビングで。夜間の警備はお任せを」
「そうか…? なんや悪いなぁ。…けど番犬みたいやし適任やわ!」
「うわぁ…。ザフィーラが完全に犬扱いになってる…」
「あとの部屋は二階にあるけど……、階段しかないし、わたしは見ての通りの脚やから…一回も上がったことないねん」
「ご自宅なのに…ですか?」
「ほんま恥ずかしい話やね…。せやし、部屋とかベッドがいくつあるかもわからへん」
「はやてちゃん……。でしたら、今から昇って確かめに行きませんか?」
「それいいじゃんシャマル! 上に部屋が余ってればあたしもそっちで寝――」
「いーや、命令は覆らへん」
「なんでだよー!」
「では私がお運びしましょう。――失礼します」
「うわっ……?! …わ、わぁー、力持ちやねシグナム」
「主はやてが軽すぎるだけです。…では、いざ階上へ」
「シグナムー、足元気をつけて慎重にねー」
「ズッコケて落とすんじゃねーぞ?」
「わかっている…! 縁起でもないこと抜かすなヴィータは!」
「おお…これがわが家の二階……、って…」
「……うわ、きったねー。埃とかクモの巣ばっか…」
「ま、まあ……何年も放置したらこうなるわね」
「フッ…ならば掃除すればよいだけのこと。みんな、準備はいいな?」

 

「――み、見違えるほどきれいになっとる……」
「まーな。ヴォルケンリッターにかかればざっとこんなもんだ」
「はやてちゃーん! ここに寝室がありますよ。ベッドも二つ」
「ほぉ…ちょうどええね。シグナムとシャマル、相部屋になるけど――ここ使てくれる?」
「了解しました。お気遣い感謝します」
「…なんだ? ベッドの下に写真が落ちているが…」
「写真…? 見せてみなザフィーラ」
「赤ちゃんを抱いてる若い女性と、その隣に若い男性……家族の写真みたいね」
「……父さん、母さん…っ」
「は…はやてちゃん?」
「なんと…! ならば、この男女は他界された主はやてのご両親で、赤ん坊は――」
「うう……こんなところにおったんやね…。今までごめんな、長いこと放ったまんまで……。けど、写真の一枚も残ってへんてずっと思てたけど……これでわたし、ひとりぼっちでも少しは…」

「ひとりぼっちじゃねえだろ?! あ…あたしらがいるじゃんか!」

「…っ、ヴィータ……?」
「ヴィータちゃん…」
「だ、だってさ…! 闇の書の完成もなんも望まねぇマスターなんだ、なんか一個ぐれー願い叶えてやんなきゃ…、あたしらがいる意味だってねえしよ……!」
「その願いが――『家族』、か」
「ふむ…なるほど。いつも主に対して不誠実なヴィータが、たまにはよいことを言うな」
「……たまにとか余計なんだよシグナムは」
「ヴィータ…みんな……、ほんまにありがとうな…。わたし、みんなが目の前に現れたときから…、新しい家族が増えた、いっしょに暮らせたらええなって思ってた……うれしかった…っ」
「…ふふふ。それなら決まりですね! はやてちゃん」
「我々ヴォルケンリッター、騎士の誇りにかけ――いえ、家族として…主はやてをお守りします」
「つーことだ。これからよろしくな、……は、はやて」
「うん、うんっ……! …ヴィータはええ子やし、今度ぬいぐるみ買うたるよ?」
「はあっ?! い、いらねーよぬいぐるみなんか!」

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