[なのはSS] I wish

「――はい。できたよ、ヴィヴィオ」
「わあ……! ありがとうフェイトママ!」
「穴が開いてたところは綿を詰めてから塞いで、糸のほつれも縫い直したからしばらくもつと思うけど…。って、だからそんなに力任せに抱きしめたら……」
「だって~。うさぎさん、また元気になったのうれしいもん…!」
「ふふっ…よかったね。でも大事に扱うんだよ?」
「はーい!」
「フェイトちゃん、お疲れさま。というか裁縫上手だね」
「えっ…。これくらい普通だと思う…けど?」
「……。そっか、そのレベルって普通なんだ……」
「ちょ、ちょっとなのは。そんな全力で落ち込まないで」
「なのはママ、おさいほうは?」
「…うん。ぬいぐるみ、最初は私が繕おうとしたんだけどね? ――ほらこの通り」
「うわ…ばんそーこーいっぱい…」
「ま、漫画みたいだね……。じゃなくて、なのはは自分のことに無頓着すぎ。たとえ小さな傷だって私がどれだけ心配して――」
「なのはママ……だいじょうぶ? けが、いたくない?」
「うん、平気だよ? これくらい別に…」
「ゆび見せて、ママ。いたいのいたいの……」
「え…?」
「とんでけー!」
「あっ……。ありがとう…ヴィヴィオ」
「えへへ~」
「おかげで痛いのなくなったよ。…やっぱりすごいね、ヴィヴィオの魔法は」
「? ヴィヴィオ、まほう使ってないよ?」
「…本当の意味の魔法じゃないよ、なのはが言ったのは。ヴィヴィオの優しさや思いやりが、まるで不思議な魔法の力みたいに伝わってきたってこと。…でしょ?」
「うん。ヴィヴィオが私の手をギュッて握ってくれたとき、触れた指先からあったかい光が流れ込むみたいに……あれっ?」
「どうかしたの?」
「あったかいっていうか…むしろ熱いくらいだったんだけど。…もしかして熱? ヴィヴィオ、ちょっとおでこ見せて」
「…あ。こつん、って…」
「――。んー、やっぱり熱っぽいなぁ。フェイトちゃんどう思う?」
「どれどれ……」
「うあっ…。手がひんやりする」
「…そうだね、確かに。でも微熱じゃないかな」
「だけど、風邪はひき始めが肝心って言うし…。ううん、風邪ならまだしも、もしレリックの影響が残ってたりしたら……どうしよう! 早く病院…、それとも聖王教会? すぐに連れてかないと…!」
「ねえなのは、もう少し冷静に…」
「フェイトちゃん! ヴィヴィオの着替え出して!」
「だから……。なんだか、よりが戻る前よりも過保護になってない? まあ気持ちはわかるけど」

「ヴィヴィオは? 寝た?」
「ううん……。やっと今少し落ち着いた感じ」
「そう。…お医者さんはなんて?」
「……ただの風邪、だって。でも…っ、その割には全然熱下がらないし、ヴィヴィオあんなに辛そうだし…。どうしようフェイトちゃん」
「…うう……ん、ママ~……」
「っ、ヴィヴィオ…! すぐ行くからっ!」
「あっ、なのは…。……やれやれ」

「あうぅ……。なのはママいなくなったと思った…」
「ごめんね、お部屋の外でフェイトちゃんとお話してただけ。…もう寂しくないよ、ヴィヴィオがよくなるまでママがそばに」
「来ないで」
「えっ――」
「ママ……来ないで」
「ヴィ、ヴィヴィオ…。なんでそんな……っ」
「来ちゃだめ……、こっちのおへやに。かぜ、うつるから…」
「…って、そ、そういうこと。……もうっ、いい子すぎるよヴィヴィオは…。ママのことなんて気にすることないのに」
「気にするよ…! コホッ…なのはママ、おしごとだいじなのに。みんなを守る、だいじなおしごとなのに…」
「……うん。確かに私は、魔法の力でいろんな人を守りたくて、それでこの仕事に就いたけど。…でも聞いて。一番大事なのは、一番守りたいって思ってるのは……、ヴィヴィオだよ」
「…あ、あうぅ」
「家でかわいい一人娘が――ヴィヴィオが待ってるから、お仕事だって頑張れるんだよ? だから元気になるまで…」
「ヴィヴィオだって……!」
「ん?」
「ヴィヴィオだって…、ママのこと守りたいよ。なのはママにかぜうつすのやだっ……けほけほっ」
「ああもう、無理してしゃべるから…。――ヴィヴィオの言おうとしたこと、わかってるよ。母親だからって肩肘張らないで、守ったり守られたりしながら二人で歩いていこうって、そう決めたんだから」
「うん……」
「…けど、今日は私の番。こんなときくらいうんと甘えてほしいな」
「なのはママ…。ごめんなさい」
「なんで謝るのー? 普段全然手が掛からないんだから、その分の貯金使ってるだけでしょ」
「――それじゃあ、ママ。手…にぎってて」
「手を? これでいい…?」
「いいよ。……これで、ママのまほうつたわってくる?」
「あ――。『痛いの痛いの飛んでけ』のときの話ね。…もちろん伝わるよ。ほんとの魔法じゃなくても、ヴィヴィオが早くよくなるようにって精一杯祈るから…!」
「ママの手…あんしんする。ちょっと元気出たかも…」
「ふふ…、すごい効き目だね。じゃあもっと祈らないと。ヴィヴィオがもっと元気になって、ずっと一緒にいられますように――」
「ヴィヴィオも。なのはママとずっといっしょがいい…」
「ん……きっと叶うよ。ヴィヴィオと私、二人分の魔法で」
「えへへ……っくちゅん!」
「え…? ヴィヴィオ、もしかして寒気する?」
「さむい…けどあつい…。あたまふらふらする……」
「――っ。ヴィ、ヴィヴィオ……、ママとキスしよう?」
「…えっ。え……えええー!」
「ヴィヴィオは私に移したくないって言ってくれたけど、やっぱりこのままじゃヴィヴィオの体が心配だもん。風邪のウィルス、ママと半分こ……ね?」
「でっ、でも……」
「人に移せば軽くなるって言うし。もう手っ取り早く口移しで…」
「……そ、それうそだよ。めいしん、って本に書いてあったもん」
「どこでそんな難しい言葉…。本って、ひょっとして無限書庫? あんまり司書さんたちに迷惑かけちゃいけないって言ってるじゃない」
「だいじょうぶだよ? じゃましなかったらすきに読んでいいって、ユーノくん言ってた」
「こらこら…。年上の人をユーノくんとか言わないの」
「…はぁい」
「――知ってるよ、迷信だってことくらい。それでも、ヴィヴィオを少しでも楽にしてあげたいし、安心させてあげたいの。駄目…?」
「だめじゃない…けど……」
「もしかして…、ちゅーするの恥ずかしい?」
「ふええっ? そ…そうじゃなくて、その…」
「それともママとじゃ嫌? 学校で好きな男の子とかいる?」
「いないよーっ! ……な、なのはママこそいいの?」
「私? なんで?」
「だって……フェイトママやきもちやかない?」
「ママたちのことはいいからっ!! お、おませなこと言わない!」
「にへー。ママ赤くなったー」
「うーっ…。……人をからかう悪い子にはおしおきが必要だね」
「ひえっ……」
「…じっとしてなさい、ヴィヴィオ。――好きだよ…」

「……で、見事に私も風邪ひきました」
「ママ…。おしごとだいじょうぶ?」
「うん。さっきフェイトちゃんが連絡入れてくれたから。…一日ゆっくり休みなさい、だって」
「じゃあ、きょうはずっとなのはママといっしょ…?」
「…と言っても風邪ひきさん同士だけど。――ヴィヴィオと一緒にいたいってお願いしたのが、こんな形で叶うなんてね」
「ヴィヴィオも……ちょっとだけうれしい」
「ふふっ…。けど、風邪はしっかり治さないと。一緒にいっぱい寝て、早くよくなろうね」
「うんっ…!」

« なのはSS

ソーシャル/購読

X Threads note
RSS Feedly Inoreader

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ