[なのはSS] その声が覚えてる

「兄さん、やっぱりあたしには……」
「こんにちは」
「えっ?」
「あ…、ごめんなさい。驚かせちゃった?」
「いえ…。えっと、あなたは確か……」
「覚えててくれた? この前みんなでキャンプした」
「はい。なのはさんのお友達の方……ですよね」
「すずかです。月村すずか。――ティアナ・ランスターさん。時空管理局機動六課、スターズ分隊所属。そして…フォワード隊のリーダーさん」
「はっ…! よ、よく覚えておいでで。恐縮ですっ」
「やだ、そんなに堅くならないで。私も…そうだな、ティアナちゃんって呼ぶね?」
「はあ……。それで、すずかさんはどうしてここに…?」
「うん。なのはちゃんにね、頼まれたというか。相談されて」
「なのはさん…ですか?」
「教え子に厳しく指導しすぎて落ち込ませちゃった、自分じゃどうフォローしていいかわからない、どうしよう……って」
「あ…それって……」
「…だから私、自分にその子と話をさせて、って言ったの。それで、こっちの世界に転送? だっけ、してもらったんだ」
「そうだったんですか…。それで、なのはさんは……?」
「今アリサちゃんとお話中。…というよりお説教かも? アリサちゃん、カンカンだったから。あんたはもっと人の気持ちを考えなさい! って。ふふっ」
「う、嘘……」
「信じられない?」
「あっ、いえ……すずかさんが嘘をついてるって意味じゃなくて。その、なのはさんが人に悩みを相談したり、まして怒られるなんて全然イメージにないから……」
「幼なじみだしね…ってのもあるけど。隊長さんだもん、人前ではしっかりしないと…っていう部分、あるんじゃないかな」
「そうでしょうか……」
「ティアナちゃんの言うこともわかるよ。…私たちにも、めったに相談事とかしないもん。どんな困難に直面しても、一人きりで抱えて、そして一人で解決しちゃう」
「はい…、それは想像できます。なのはさん、強いですから」
「それって友達にとっては寂しいことなんだけどね……。だから、アリサちゃんも私もすごく驚いた。あんな弱気ななのはちゃん、見るの初めてだったから」
「初めて…? 幼なじみなのにですか?」
「うん…本当だよ。それくらい、今回のことがなのはちゃんにとって特別大きな問題だってこと」
「……ああ。なーんだ、そういうことですか」
「え……? ティアナ…ちゃん?」
「歴戦の英雄、エースオブエースのなのは隊長を困らせてる悩みの種……それがあたしってことですよね! 六課にとってただのお荷物ってことですよね…!」
「…えっ、違う…。誤解だよティアナちゃん、そんな意味じゃ……」
「命令を聞かないから、だから任務からも外される! みんなあたしが邪魔なんだ! あたしなんかいらないんだ…っ!」
「ちがっ…お願い、落ち着いて……」
「もうこんなとこ…六課なんか辞める…! あたしさえ消えればみんな」

「……もうやめて!!」

「ぁ……」
「はあ、はあ……。……ご、ごめんね。大声出して…」
「い…いえ、すみません。今のはあたしが……」
「…よく聞いて。今回の件で、ティアナちゃんつらい思いしたよね…。だけど、なのはちゃんもいっぱい悩んでるし、いっぱい後悔してる。それだけは、どうかわかってあげて」
「は…はい……」
「ティアナちゃんがいらないなんて、なのはちゃんが思うはずないよ…。私にはわかる。真剣に悩んでるのは、それだけティアナちゃんを大事に思ってる証拠」
「…そう……でしょうか」
「……もう一つだけ、教えてあげるね。なのはちゃんからの悩み事の相談は、今回が初めてだったんだけど、お願い事としては二回目なんだ」
「お願い…としては?」
「一回目は小学生のとき。私とアリサちゃんにビデオメールを見せてくれて、そこに映っている女の子と友達になってあげて、って。その子の名前は……フェイト・テスタロッサちゃん」
「フェイト…、ってあのフェイトさん?」
「そうだね。…ご家庭の事情に振り回されてたフェイトちゃんに、もっと友達が必要だって考えたんだと思う」
「それだけフェイトさんを気遣ってた…ってことですよね」
「なのはちゃんの『お願い』って、自分のためじゃなくて、人のため…自分の大切な人のためにしか使わないんだ。私の知ってるかぎり、ね。……そして二回目は、あなた。ティアナちゃん」
「あ……あたし…」
「機動六課と何の関わりもない私たちに助けを求めてまで、ティアナちゃんを元気づけたいって思った。出て行ってほしくないから、ここにいてほしいから…。……それが、なのはちゃんの気持ちだよ」
「…あ…う……、うう…うああっ…!」
「うん……よしよし」
「すずかさん、すずかさん…! あたし怖かった……! なのはさんに見放されたって、誰にも必要とされてないって……ずっと不安で…!」
「そんなことないよ。…私も、ティアナちゃんに辞めてほしくないし」
「…え? すずかさん……も?」
「だって、ティアナちゃんが機動六課にいてくれたから、私はティアナちゃんに会えたんだもん」
「それって……」
「…会いたかったぁ。あのキャンプの夜、初対面のはずなのになぜか初めてって感じがしなくて、それからずっと気になってたの」
「あっ…それあたしもです……! すずかさんのこと、前から知ってるような気がして、でもうまく言えなくて……」
「そうなんだ…? 不思議……こんなことあるんだね」
「そうですね……。すずかさんの声、あったかくて優しくて、なんか懐かしい…。声聞いてたら、イラついてた気持ちがどっかいっちゃいました」
「ティアナちゃんの声もね…、すごく聞き覚えあるような気がする。強さと弱さが入り混じった……だから、こんなふうにギュッてしたくなっちゃう…!」
「わぷっ! むっ胸が……じゃなくて! く、苦しいですよ…もうっ」
「うふふっ。……やっと笑ったね、ティアナちゃん」
「えっ……」
「――私、もう行くね。なのはちゃんと仲直り…できるよね?」
「あ……。はい」
「それじゃ…。お話できて、本当に嬉しかった」
「……す、すずかさん! また…また会えますよね?」
「うん……必ず。私たちがまた別々の世界に生まれて、姿や名前が変わったとしても……。声を聞けばきっと思い出すよ。何度でも…また会える。私はそう信じてる」
「…はいっ! あたしも信じます!」

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