[なのはSS] ミートボール

「失礼します。食事を持ってきました」
「ああ、すまない……、っておまえ…!」
「はい、私です」
「い、いや、なぜおまえがこんな場所に……」
「特別に係を替わってもらったんです。…シグナム、あなたに会いたくて」
「…ほう。テスタロッサも物好きだな。私は勾留中の身だぞ」
「はやてと別室で事情を聞かれるだけじゃないですか。それに何日もかからないと聞きましたが」
「そうかもしれんが……。フッ、まあよい。冷めないうちに食べるとしよう」
「ええ、どうぞ」
「……テスタロッサも何か食べるか?」
「え…? いえ、私はもう済ませてきましたし…」
「まあそう言うな。せめて一つだけ……ほれ、ミートボールだ」
「な…! ちょっとシグナム、子ども扱いしてるんですか?」
「実際子どもではないか。というか好きなのだろう?」
「そっ、それは……、まあ…それなりに」
「なら問題なかろう。口を開けろ、テスタロッサ」
「は…はい。……あーん」
「ほら。…どうだ?」
「もぐもぐ……。はいっ、おいしいです」
「っておい、ソースが垂れているではないか。しょうがないやつだ…。じっとしていろ、今拭ってやる」
「あっ…指で……」
「まったく…、そういうところは歳相応なんだがな」
「…何がです?」
「いや、魔導師として私に立ち向かってきたテスタロッサは、今とはまるで別人だったと思ってな」
「そ、それは……。きっとシグナムを止めるのに必死だっただけで…」
「だが実力も大したものだ。まず目の輝きが違う。今まで対峙した魔導師の中で、それほど凛とした眼差しを向けてくる者はいなかった」
「そうですか…?」
「ああ、よい目をしている。…そうだ、もう一度よく見せてくれるか?」
「えっ…。あ、はい、構いませんが…」
「…ああ、これだ。この澄んだ赤い瞳。あどけない顔立ちの中にあって、静かに燃える闘志を感じさせる。実に美しい……」
「あの……シグナム? そんなに見つめられると…、その、恥ずかしいです…」
「何を照れる必要がある…? 誰も見ていないというのに」
「そ、それがかえって変な雰囲気になるというか……。あうぅ…」
「……。変な雰囲気とは……こういうことかっ!」
「きゃっ! いたた…。…えっ、シ、シグナム!? どうして覆い被さってくるんですか……!」
「……悪く思うなよテスタロッサ」
「ど…どうしたんですか!? こんなの何かの間違い……冗談ですよねシグナム…?」
「冗談なものか…! だが…どうせ言ったところで理解してはもらえぬ」
「……それでも聞かせてください。そのために…シグナムとわかり合いたくてここに来たんですから」
「そうだったな……。いや、実際のところ自分でもよくわからんのだ。この感情が何であるのか…」
「感情……?」
「騎士としておまえの力は認めているし、もっと剣を交えて技を磨き合いたい、という願望は当然ある。だが…それだけでは説明できない別の何か……」
「シグナム、それって――」
「…おまえが初めてなのだ、テスタロッサ。あれほど本気でぶつかり合ったのは。戦いを通じてあんなにも心通わせたのは……!」
「それは…、私だってそうです。シグナムという強い騎士に出会えて…本当によかった。ですから、元の生活に戻ったらまた何度でも勝負を……」
「違う! そうではない! テスタロッサを思うと、その瞳に見つめられると、私は何も考えられなくなる。どうにかしてしまいそうになるのだ…!」
「どうにかって…。そ、そういうのはやっぱりちょっと……」
「…駄目だ、もう辛抱ならん……!」
「きゃあ…っ! や、やめっ、離してください…!」
「おっと…抵抗しない方がいいぞ。暴れて服が破れでもしたら、困るのはおまえの方ではないか…? 人に見つかったら言い訳が立たんだろう」
「そんな……っ…」
「……大人しくしていろ。それが身のためだ」
「ううっ…。シ…シグナム……、お願いです、こんなことやめて…」
「恨むのなら自分を恨め。私に情けなどかけるからこうなるのだ……」
「う……わ、私のせい……?」
「ああ、……そういうことだ。案ずるな、すぐによくなる」
「……。シ、シグナム…」
「何だ? 何度言おうともうやめる気は――」
「いいえ……。その、せめて…乱暴にはしないでくださいね……」
「……! なっ…、それではテスタロッサ、受け入れるというのか…?」
「…ん。こんなこと怖いですけど……、でもその、シグナムのこと……信じてますから」
「おまえ……」
「それに…。シグナムがこういう気分になってしまったのは、私に責任が……」
「馬鹿者…! そんなもの嘘に決まっているだろう。真に受けるなどお人好しにも程がある…」
「え……? そうなんですか?」
「……最低だな、私は。テスタロッサの純粋さや優しさにつけ入って…甘えていただけだ。おまえなら最終的に許してくれるとあて込んで強引に迫って、な」
「シグナム……。誇り高いあなたが自分を責めるなんて似合いませんよ」
「よせ…! 慰めなどかえって惨めだ」
「……私は嬉しかったです。シグナムがありのままの気持ちをぶつけて来てくれて。そして……私を求めてくれて。…まあやり方は荒っぽかったですが」
「それについては反省している……」
「こういうことには今は応えられませんけど、それでも私たち…、きっといい関係を築いていけそうな気がします。再会できるの、待ってますから」
「ああ……。その、今日はすまなかったな」
「平気です。誰にも言いませんからご心配なく」
「テスタロッサ……」
「……と思ったけど、この部屋って監視カメラついてるんですよね~」
「しまっ…!!」

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