[なのはSS] ひとくちだけ

「きれい……」
「……ん? きれいって何が? ……ひょっとしてわたし?」
「あ……うん、もちろんなのはも。浴衣とても似合ってるし、髪型も――」
「そりゃ、髪はフェイトちゃんが結ってくれたからねー。絶対バッチリだって」
「はは……それはどうも」
「フェイトちゃんも決まってるよ! 一段と大人っぽい感じ」
「ありがとう。――なのはが髪やってくれたおかげかな?」
「にゃはは……。で? さっきフェイトちゃんは何に見とれてたのかなー?」
「うん、あそこなんだけどね」
「夜店?」
「あの屋台で売ってる……ほら、赤いのがたくさん並んでて、宝石みたいに光ってる」
「……というかりんご飴だけど。食べたことない?」
「あれ食べられるんだ?」
「……っ」
「え、ちょっ……。そんな肩震わせて笑わなくたって……」
「ごめんごめーん。――せっかくお祭りに来たんだし、食べてみたら?」
「う、うん。そうする。……なのはは?」
「んー、わたしはパス。お腹空いてないし」
「一緒に食べたかったのに……。まあ自分のだけ……あっ」
「どうしたの?」
「財布、着替えと一緒になのはの部屋に置きっぱなし……」
「あー。じゃあわたしが買ってきてあげる!」
「ごめん、なのは。後で帰ったら払うから」
「いいっていいって、これくらいわたしが」
「でも悪いよ……」
「真面目だなあフェイトちゃんは。なら体で払ってもらおうっかなー?」
「うんっ。マッサージでも買い物の荷物持ちでも、何だってするよ」
「……もうっ、そういう意味じゃない」
「何か言った? なのは」
「べっつにぃー? 買ってくるね」
「? な、何だろ……急に拗ねたみたいな態度……」

「はいお待たせー」
「ありがとう、なのは。――あ、けっこう大きいんだね」
「リンゴまるまる一個分だもん。さ、開けてみて?」
「うん。輪ゴム外して、袋から出して……っと。わあ……」
「本当……光にかざすときれい。なんかいいね、こういうの。風情があって」
「そうだね――。味のほうは……って、これどうやって食べたらいいのかな」
「飴なんだから、なめるとか?」
「そっか。よし……」
「……どう?」
「うん……。――普通? おいしいけど普通の飴……かな」
「まあそうだよねー。小さい子が食べるようなものだし」
「えっ……。……も、もしかしてこれ食べるのってかなり子どもっぽい?」
「個人的にはアダルトな外見とのギャップがたまりませんが?」
「いやたまりませんがじゃなくて! それなら早く教えてよ……」
「えー。だって屋台見てるフェイトちゃん、目がキラキラしてたから」
「それだって子どもっぽいってことでしょ? もう、なのはってば……」
「まあまあ」
「――じゃあ、待たせるの悪いから残りさっさと食べちゃうね」
「そんな、気にしなくっていいのに。どうぞごゆっくり?」
「はあ……。ぱくっ」
「……」
「ん……」
「……」
「……。あのー……、なのは?」
「なあに?」
「いや……、だってさっきからものすごく視線を感じるんだけど」
「見てるだけだから。気にしないで?」
「いや気になるってば……。あ、やっぱりなのはも食べたくなったとか?」
「ううん。いらない」
「遠慮しなくていいって。一口どう?」
「え……だから別に……」
「それともなのはって、食べかけとか気にするタイプ?」
「気にする……って何のこと?」
「いや、だってこれ間接――ごめん何でもないっ」
「フェイトちゃん? どうかしたの、急に横向いて」
「だ、だから何も……」
「――りんご飴が食べたくて見てたわけじゃないけど?」
「そうなんだ……?」
「うん。フェイトちゃんが食べてるの見てるだけで、なんかおいしそう――って」
「ぶっ!?」
「きゃっ。……もうー、汚いよフェイトちゃーん」
「な、なのはがいきなり変なこと言うから……」
「変なこと……? わたし言った?」
「だからほら、りんご飴がおいしそうっていう意味なのか、それとも――」
「それとも?」
「……やっぱり何でもないっ!」
「フェイトちゃーん? もしもーし? さっきとパターン一緒なんですけどー?」
「ううっ……。今日もなのはにいいようにからかわれてる……」
「むしろ自爆っぽい気がするけど……。――それよりフェイトちゃん」
「う、うん」
「知ってた? りんご飴食べると着色料で舌が真っ赤になるの」
「え……。じゃ、じゃあなのはっ、最初からそれ知ってて私を……!?」
「……だますつもりなんてなかったよ。むしろ一般常識だし」
「うわ……どうしよう、口ゆすいだら落ちるかな? でも水ってどこに……えっとえっと」
「落ち着いてよフェイトちゃん。体に害はないんだから」
「でもこんなの恥ずかしいよ……。というか今、ほんとに赤くなってる?」
「見てあげよっか?」
「うんお願いっ。……べー」

「――!」
「んんんっ!」

 パキッ――
 小さな飴のかけらが口内で砕ける音が、真っ白になった頭の奥に響いて――

「っ……な、なの――んぐっ」
「んっ……ぁむっ……」
「ん、むぅ……、ん……ふ……んぅっ」
「……、っく……。……ふうっ」
「はあっ、はあっ……。――なのは、どうして……っ」
「……。ごめんねフェイトちゃん。怒った?」
「まさか……! というか、最初からこれ狙って……?」
「……そうじゃないんだけど。フェイトちゃんが赤くなった舌をぺろって出した顔見たら……その、ついカッとなって」
「そんな犯罪の動機みたいに……」
「急にね――。やっぱり一口だけ、食べてみたくなったんだ」
「あ……。いや、だからそれはりんご飴を食べたいっていう意味なのかそれとも」
「――ほらフェイトちゃん。花火始まったよ」
「え……? わあっ……大きい」
「きれいだね……。ふふっ、まるでわたしたちを祝福してくれてるみたい」
「祝福って……ちょっ、な……なのは!」
「にははー。……花火が終わるまでこうしてていい?」
「うん――。なのはと一緒に、ずっと見ていたいな」

(おわり)

初出

2011/07/18 こはぐら。

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