[なのはSS] 初想い(同人版)

「はい、お茶。コップ使い回しになっちゃってごめんね」
「えーよえーよ。そんなん気にする間柄と違うし。……って、めちゃくちゃ湯気立ってる……」
「中が真空になってるから保温性ばっちりだよ?」
「何の宣伝やっちゅーねん……。これは気ぃつけて飲まんと」
「はやてちゃん猫舌だっけ? ふーふーしてあげよっか」
「していらんわ! 子どもとちゃうんやからそれくらい自分で……ふーっ、ふーっ」
「ふふっ」
「そろそろええかな。……熱っ。こ、これはもうちょい冷まさな――、って……すずかちゃん?」
「ん?」
「いや……さっきから視線がめっちゃ気になるんやけど」
「だってはやてちゃん可愛いんだもん! 本物の猫さんみたいで。目がいっちゃうのは不可抗力だよ、不可抗力」
「あんなぁ……。ちゅうか可愛いって歳でもない――ぐあっ」
「……はやてちゃん?」
「自分の言葉に自分でへこんだわ……。けど十代最後の一年やのに六課にべったりで青春らしいこと何もなかった……」
「あはは、でも羨ましいな。わたしはまだ学生だから、お仕事して自立してるはやてちゃんたちがすごく大人に見える」
「ない物ねだりやんな、お互い。……や、すずかちゃんかて大人らしいなってきたと思うけど。少し会わんうちに」
「そうかな……。どの辺が……って目線が胸に!?」
「わーっ! ちゃうっ、誤解やって誤解! 見てたんはそのエプロン姿や。あとポニーテールにしてるんもええなって」
「別に……普通だよ。髪は動きやすいようにまとめてるだけだし、エプロンは服が汚れるといけないから」
「けど、そんな格好してお茶すすってる姿なんかそそるもんがあったで? 大人の色気っちゅーやつ?」
「……そんなことないよ。わたしなんか、全然」
「あれっ? もっと可愛らしい反応を期待してたのに」
「――というかはやてちゃん? それって、わたしが飲んでるときもじろじろ見てたってこと?」
「しまっ……! 墓穴掘ってもーた!」
「そっかー。それじゃはやてちゃんが熱々のお茶全部飲み干すまでずーっと観察しててあげないとね……ふふふ」
「怖ーっ! すずかちゃんの笑顔怖いって!」

「――それはともかく、今日はありがとうな。大学とか忙しいのに掃除手伝いに来てくれて」
「ううん、暇してたから大丈夫」
「自分でも理解不能なんやけどね……。もう戻ってくる予定もない海鳴の家なんて、なんでいつまでも取っとくんか」
「そう? できればこのまま残してほしいって思うけど」
「すずかちゃんが?」
「うん。はやてちゃん家は、わたしにも思い出の場所だから」
「……あー。昔のこととか、覚えててくれてる?」
「当然だよ。最初は一人だけでよく遊びに来てたっけ」
「それでも嬉しかったでー。それまで友達おらんかったから」
「あはは……シャマルさんからもお願いされてたよ。はやてちゃんと仲良くしてあげて、って」
「シャ、シャマルが? あの子なんちゅーお節介な……」
「――もちろん頼まれるまでもなかったけど。会ってすぐ優しい子だってわかったし、本とか好きなものの話もぴったり合ったから、すぐにはやてちゃんのこと好きになったなぁ」
「ブハッ!」
「はやてちゃん!? 大丈夫? お茶まだ熱かった?」
「いや……ちゃうねん。こっちの話やし気にせんといて」
「そう……?」
「あー、いや……。――あんな? すずかちゃん」
「う、うん」
「実はな、わたし……知り合う前からすずかちゃんのこと気になってたんよ。図書館で見かけてたときから」
「え……。というかわたしもそうだけど?」
「うん知ってる。けど、わたしのほうはもっと特別な――」
「……?」
「あの頃は脚の麻痺が一向に治らんで、なんちゅうか諦めモードになってた。何もする気が起きへんかったし、このまま回復せんと死んでもええ、って思てたこともある」
「ッ――」
「そんなとき見かけたんが、白い制服のウェーブ髪の女の子やった。借りてる本もわたしの好きそうなのばっかりやし、学校の話とかも聞いてみたい、って気持ちが強くなって……」
「うん……」
「せやけどこっちは車椅子やし、声掛ける勇気なんかなくて。それでもあの子と話がしたい、チャンスが訪れるまでもう少し頑張ってみよう、生きてみよう――って」
「……はやてちゃん」
「そやから……わたしが今もこうして生きてるんは、すずかちゃんがおったからなんよ。ほんまに感謝してる」
「――。……そんなこと。わたしは何もしてない。はやてちゃんが懸命に生きようとした結果だよ」
「そらまあ……、いや心の支えとかそんな意味でな?」
「人はお互い影響しあって生きてるんだから、そう思いたくなることもあるよ。だったら反対にわたしが今いるのもはやてちゃんのおかげ、っていうのも成り立っちゃうわけだし」
「あはは、敵わんわ。すずかちゃんはほんと奥ゆかしいなぁ」
「だって本当のことだもん。だけど……っ」
「すずかちゃん? ……ってどないしたん?」
「ご、ごめんねっ……。もしはやてちゃんがいなかったらって想像したら急に悲しくな……っう……」
「あちゃー……。泣かすつもりとちゃうかったのに」
「よかったよ……。はやてちゃんが生きててくれて……今もこうしてお話できてっ……、それだけは本当に……っ」
「……うーん。さっきの発言撤回せなならんなぁ」
「ふえっ……? さっきの?」
「大人っぽいとか何とか。――こんな泣き虫さんなんやもん」
「あ……! そっそれははやてちゃんのせいで……!」
「ごめん、ごめんやって……って地味に痛いんですけどー!?」
「ううっ、だってぇ……。軽々しく死ぬとか言うから……」
「それは堪忍やって。あれから一度も考えたことないし、わたしはすずかちゃんの前から消えたりせーへんよ」
「ほんとに……? 信じさせてくれる?」
「はいーっ? し、信じさせるってどないしたら……。――そら、まあ……不安そうにしてる瞳ウルウルなすずかちゃん見てたらなんやムラムラするし、もういろんな意味で慰めてあげたいっちゅう感じやけど、でも成り行きでしてええんか……」
「……。……全部声に出てるよ?」
「しもたー!」
「なんかわざとらしいけど……。何でもいいよ、はやてちゃんのしたいようにして。それに――成り行きでもないと思う」
「……どういうこと?」
「はやてちゃんの気持ちが変わってないなら。今でもわたしのこと、おんなじように思ってくれてる?」
「も、もちろんや! 十年経とうが何しようが、すずかちゃんは一番の恩人やし、親友で、幼馴染で……、そんで……」
「それで?」
「……は、初めて好きになった人……っちゅーか」
「ふふっ。わたしもだよ――。十年前、はやてちゃんが最初」
「……え。ってことは……そ、そうやったん?」
「こっちだってびっくりしたよ……。昔話とか突然だったし」
「しかもお互い意識してるのに言い出せへんとか、十年前とまったく同じことしてる……。わたしも人のこと言えんなぁ」
「案外似た者同士かもね、わたしたち」
「そら言えてまんな。――さて、そんなら遠慮なく……」
「ま……待って! どうしよう、掃除したから体埃っぽいし、汗もかいて……」
「……えっ。いや、あの……わたしチューするつもりやったんやけど。もしかしてすずかちゃん、違うこと考えてた?」
「ぇ……あ……。かっ考えてない全然考えてないっ!」
「そうかそうかー。んふふ」
「ううーっ……。はやてちゃんのスケベ。変態。セクハラ魔」
「なんかわたしがエロいことにされてる!? ――そや、次の掃除のときもまた手伝い来てくれる?」
「うん、もちろんいいけど……どうして?」
「いやー、今この家なんもないし、次までにいろいろ用意しとこう思って。……二人で新しい思い出作るために、な?」
「もうっ、はやてちゃんってば……」
「そんなわけで今日はとりあえず……目つむってくれる?」
「うん――」

(おわり)

初出

2011/09/25 『初想い』

« なのはSS

ソーシャル/購読

X Threads note
RSS Feedly Inoreader

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ