[なのはSS] blanc dans noir

「うっ――ぐ……、…っはあ、はあ…」
「どうしたの……? もう立てない?」
「ひ、ひどいよこんな……。わたし聞いてない…」
「…ひどいって何が? 射撃魔法は魔力ダメージのみ、非殺傷設定で物理攻撃不可――そんなルールだなんて誰が決めたの」
「だ…だけどっ…。だからってここまでする……んぶっ!」
「――甘いね。考えが…甘ったれてる。アルフの言ってた通りだ」
「ゲホゲホッ……、う…ううっ…」
「本当はこんなことしたくなかったけど…、君は少し私たちの邪魔をしすぎた。……さあ、渡して。今まで手に入れたロストロギア」
「それは…できない。あれはすごく危険な物で…、時空管理局の人たちが集めてて、だから……だから渡せない…っ」
「そう――。だったら、君の主人思いなインテリジェントデバイスに頼んでみるよ。…君が痛い目に遭えば、またこの前みたいにジュエルシードを差し出してくれるはずだから…」
「だ…ダメだからねレイジングハート! ぜったい渡しちゃ…!」
「ふうん…、意外と強情なんだ。それじゃあ……試してみる? まともに動けないその体でどこまで耐えられるか――」
「え……ぃぎぁあああっ!」
「…どう? 痛い? フォトンランサーを受けて怪我した脚を踏まれるのは」
「あぐぅっ! いっ、いた、そこは…やああぁ……っ!」
「いいね…その悲鳴。そしたら次は…、こんなのどうかな」
「っ…!? ガ…あ――――ッッ」
「声にもならないよね。……バルディッシュに切り刻まれた傷跡に、さらに柄を押しつけられたら」
「…んぃぃぃっ!! イヤっ、痛っ、それだめぇっ、がは…っぐ、そこグリグリしたら…ひぎゃうぁぁっ……!」
「ん…? 傷が開いたかな。君の純白の防護服がじわじわ染まってくのは……ふふっ、思いの外きれいだね…」
「あ……くはぁっ…、ゲホッ…、ひ…いぁ、もうやめ、て……」
「フ……あはっ、あははは…。ひどい顔だよ。苦痛にゆがんで、すっかり怯えて…。それを見下ろすのは――こんな愉快な光景はない」
「じゃあ……な、なんでそんな…哀しい目をしてるの…」
「――ッ!? なっ…知った風な口利かないで」
「わたし…負けちゃったけど、それでも…。お話、聞かせてもらいたい……な。…し、知りたいの、フェイトちゃんの……こと…」
「名前もっ…! 赤の他人に気安く呼ばれる筋合いは――」
「他人なんかじゃ…ないよ、もう。ぐっ…ゴホ……、っと、友達に…っ。なりたいんだ……フェ、フェイトちゃん…と」
「ま…また名前を!」
「フェイトちゃん…っが…、どこから来たのか。フェイトちゃんの…家族は…っ。フェイト…ちゃんは、なんで、ジュエルシードを……」
「…ばないで」
「えっ?」
「馴れ馴れしく名前呼ばないでっ!! そんな何度も何度も…っ、――か、母さんにだってそんな風に呼ばれたことないのに…!」
「母さん――? フェイトちゃん…の、お母さん?」
「…私を呼ぶとき、いつも微妙に視線を逸らされる。声もすごく冷めてて……どこか私を避けてるような。母さんが自らつけてくれたはずなのに――この名前、母さんは好きじゃないのかな…」
「そんな…っ! そんなことないよ…。フェイトちゃんって名前、どんな意味なのかはわからないけど……、わたしは素敵だと思う」
「……。…やっぱり変わった子だね、君は。そこまで名前にこだわる理由はわからないけど、…呼びたければ好きなだけ呼べばいい」
「…! あ…ありがとう! それでねフェイトちゃん、友達に――」
「いいよ。なってあげても。だから……名前、教えてくれるかな」
「うん、うんっ…! わたしの名前は、高町な…がはッ」
「『ながは』っていうんだ? ふーん、……素敵な名前、だね」
「ちっ、ちが…。い…今、デバイスでおなか突かれたから……っ」
「ああ――そうだった? それじゃ、もう一回教えて」
「うう……うん…。わたし、なのぎゃうぅっ!!」
「今度は『なのぎゃう』だって。フッ、ふはは…」
「…ぐ…ふっ、はあっ、はあ……。あぅ……お、お願い、意地悪しないで……。う…うっ…」
「――残念だけど。自分の名前もちゃんと名乗れない子とは、友達になれないな」
「そ……そんな…。ふぇいとちゃ…ん」
「さあ、茶番はおしまい。大人しくジュエルシードを全部渡すか、それともまだ我慢比べを続けるか――」
「……なのはっ! 高町なのは!」
「…?」
「い…言えたよ! わたしの名前っ…、なのはだよ!」
「……聞いてないし。もう時間切れ。――バルディッシュ」
「あ…ひっ――、……みぎゃあああああッ!」
「こんな至近距離で電撃浴びたら、さすがに辛いんじゃない? 早く降参しないと命が…」
「あガッ…くぁ……フェイトちゃん…。と、ともだちに……っ」
「!? ま、まだそんなこと言って…!」
「な、なまえ…呼んで……。ともだ、ち……あぎゃひぃぃっ!」
「し……知らない! 私は全然知らないっ! 友達になる方法も、友達と――名前を呼び合うことも、なんにもっ……!」
「はあはあ…。うう…呼んでみて。最初は…それだけでいいの…」
「っ――。……な…、なの……ごめん」
「え…」
「やっぱり…私にはよくわからない。ここまで君を傷つけておいて、今さら友達だなんて…。だから……ごめんね、…なのは」
「今からだってなれるよ…! ううん、今呼んでくれたもん、わたしのこと…なのは、って! だから、もう友達……友達だよ…っ」
「そう……なのかな。…友達。こんな私でも…、いいの?」
「うん…うん! ううっ…よかったぁ、これでフェイトちゃんと…」
「――ん。ありがとう、なのは。……すぐにお別れだけど」
「えっ――――」

(おわり)

初出

2008/11/09 『Fate to Fate』(R.U.K.A.R.I.R.I)

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