茉莉「こ…こんにちは」
アナ「わあ…! 茉莉さん、その帽子かわいいですわーっ」
茉莉「前にみうちゃんにもらった帽子なんだけど、ひさしぶりにかぶってみたの」
千佳「うんうん、やっぱり似合ってるよ!」
茉莉「そ…そうかなぁ。でもおうちの中に入ったから取らないと…」
伸恵「とるな!!」
茉莉「ひえっ…」
伸恵「かわいいんだからずっとかぶっててよー。ねえお願い、茉莉ちゃん」
千佳「あのさ…おねえちゃんは茉莉ちゃんの何なの?」
茉莉「うん…おねえちゃんのお願いなら…。にゃ、にゃーっ」
伸恵「くはぁっ…! あたしがオオカミだったらこんな子絶対襲ってるよ…」
美羽「…なに二人で盛り上がってんのさ」
茉莉「ひっ…。み、みうちゃん…」
伸恵「…見ての通り、茉莉ちゃんを愛でてるんだよ。てめえには関係ねー」
美羽「茉莉ちゃんなんかよりあたしのほうがかわいいよ? このウサミミで…どうだァーッ!」
千佳「……。いや正直微妙…」
伸恵「美羽はツインテールだからバランス悪いんだよ」
アナ「そもそも登場のしかたがかわいらしくありませんわ」
美羽「んなっ…。言いたい放題言いやがって…」
伸恵「…っていうか、ウサミミだったらアナちゃんが似合うんじゃない? ちょっと貸せ」
美羽「あっ…!」
千佳「ほんとだ…! アナちゃんもかわいいよ」
茉莉「うんうん! 本物のうさぎさんみたい…!」
アナ「え…そうですかぁ? なんだか照れますわ」
伸恵「やっぱりあたしの目に狂いはなかった…! あぁ、どっちもかわいいなぁ…」
美羽「うぐぐぐ…返せーっ!」
アナ「きゃっ」
伸恵「おい何すんだ! 人がせっかく…」
美羽「見たいテレビあるから」
伸恵「…あっそう。勝手に見りゃいいじゃねーか」
美羽「みんながうるさくしてると気が散るの! 出てってよー!」
伸恵「はあ? ここちぃの部屋だろ? てめえに何の権利があって…」
美羽「いいから出てけ!!」
伸恵「なっ!」
伸恵「美羽のやつ…、今日はやけに不機嫌だったな…。ま、あたしの知ったこっちゃないけど。どうせ明日になりゃ忘れてんだろ。んじゃおやすみー…っと」
???「…きて。起きて…!」
伸恵「んぁ…? 誰だ…ちぃか? うるさいなぁ、いつまで寝てようとあたしの…」
美羽「とっとと起きんしゃーい!(バチーン)」
伸恵「いてェ?! …ていうか美羽? ここ…ちぃの部屋か? 自分の部屋で寝てたのになんで…」
美羽「あたしも…、目が覚めたらこの部屋にいて、隣でおねえちゃんがおなか出して寝てたの」
伸恵「…よけいなこと言わんでいい。んで、ちぃは?」
美羽「いない。…ちぃちゃんだけじゃなくて誰もいなかった」
伸恵「(この暗くて薄気味悪い感じ…まさかシュール空間か?)」
美羽「おねえちゃん…、あんまし驚いてないね」
伸恵「いやかなり驚いてるって。…とくに、おまえがいることにな」
美羽「あたし?」
伸恵「美羽…、アナちゃん見なかった?」
美羽「ううん。なんで?」
伸恵「…や、何でもねぇ」
伸恵「…さたけまで消えてる。どうなってるんだ…」
美羽「ケータイも全然つながんないよぉー」
伸恵「ふぅーっ…こんなときに慌ててもしょうがねぇしな。…CCレモン飲むか?」
美羽「いらない」
伸恵「…そーかよ」
美羽「あたし、ちょっとそこらへん探索してくる! おねえちゃんはここにいて!」
伸恵「あっ、おい…! ったく、じっとしてらんねーやつだな」
アナ「…お待たせしました。遅くなってごめんなさい」
伸恵「ああアナちゃん、そろそろ来るころだと思…って違う?! ベッカムじゃない? 金色に光る…ロナウジーニョ?! どうなってんの?」
アナ「それも込みでお話させてください」
アナ「これは異常事態です、おねえさま。おねえさまと美羽さんの存在が、こちらの世界から消えてしまいましたわ」
伸恵「…いや、あたし的にはそのロナウジーニョのほうが気になるんだけど。じゃあここは? あたしらが今いるここは何なんだ…?」
アナ「美羽さんが生み出した異空間…いえ異世界ですわ。わたしたちが恐れていたことが現実に起きてしまいました」
伸恵「なんてこった…!」
アナ「どうやらコンサドーレ札幌はJ1復帰をあきらめて、独自のリーグを作ることに決めたみたいです」
伸恵「…っていうかそんな発言しちゃって大丈夫なの?」
アナ「ぐー…」
伸恵「都合が悪くなると急に寝るね…。ねえアナちゃん、美羽がこっちの新しい世界にいるなら、そっちの世界はどうなんの?」
アナ「消えると思いますわ」
伸恵「消えるってそんな…!」
アナ「わたしとしては、もっとおねえさまと洋楽の話をしたかったのですけど…」
伸恵「まあ…小学生で同じ趣味のやつはいないしね。…って、そういやなんであたしだけこっちに来ちゃってるわけ?」
アナ「あら…とっくにお気づきだと思いましたが。美羽さんに選ばれたからです」
伸恵「…前にちぃも同じようなこと言ってたな」
アナ「自分の創造した世界で、美羽さんがただ一人いっしょにいたいと願った人物、それがおねえさまなんです」
伸恵「まじかよ…。あーやだよー、こんな気味わりい世界で美羽と二人っきりなんて…! どうせならアナちゃんと二人っきりがよかったー!」
アナ「心中お察ししますわ」
伸恵「ねえ…何とか元に戻れないの?」
アナ「わたしにはどうにも…。ですが、おねえさまならできるかも」
伸恵「あたしが…? どうやって? あっ…待ってアナちゃん! まだ消えないで!」
アナ「残念ですけど、そろそろ時間みたいですわ。…茉莉さんと千佳さんから伝言を預かっています。茉莉さんからは、あたしのせいです、ごめんなさい。千佳さんからは、プレステの電源を入れるように。では、ごきげんよう…」
伸恵「あ、アナちゃん…! ……。しょうがねえ、とりあえずプレステつけて、…なんだ? なんかドラクエの画面が勝手に…ん?」
さたけ『みえてる?』
伸恵「……? なんでさたけがしゃべってんだ…? いや違うか、これあたしが入力した主人公の名前だ。…でもドラクエの主人公ってセリフあったか?」
さたけ『おねえちゃんとみっちゃんのいる世界と連絡を取る手段が、もうこんなのしか残ってないの。しかも、完全に絶たれるのも時間の問題』
伸恵「…なるほどな。やっぱちぃだったのか」
さたけ『忍者一門はがっかりしてる。忍法復活の可能性がなくなっちゃったから』
伸恵「がっかりって…。ほかにもっと言いかたあんだろ」
さたけ『じゃあ…あわててる気持ち』
伸恵「おまえに期待したあたしがバカだったよ。…忍法って結局何だったんだ?」
さたけ『人間がもともと持ってる能力を極限まで引き出す術。昔の忍者は厳しい修行を積むことでその技を手に入れてたけど、みっちゃんはナチュラルにやってのけた』
伸恵「羞恥心がなけりゃいいのか」
さたけ『…そうかも。けど何とも言えない。それを調べることも、もうできないから』
伸恵「おいおい…! もう会えなくなるみたいな言いかたすんなよ…」
さたけ『おねえちゃんに賭けるから』
伸恵「…何が」
さたけ『二人がこっちに戻ってくること。…みっちゃんはときどきひどいやつだけど、それでもお別れなんてあたしイヤだよ…! みっちゃんが帰ってくるなら臓器あげたっていい!』
伸恵「いや…、それはさすがに考え直したほうがいいんじゃ…」
さたけ『おねえちゃんとも…またいっしょに遊びたいし…』
伸恵「……。どうすりゃいいんだ?」
さたけ『君にお父さんと呼ばれる筋合いはない』
伸恵「呼んでねぇよ! こんなときにバグってる場合か!!」
さたけ『また佐鳴湖に』
伸恵「…えっ? あそこの居酒屋そんな気に入ったの?」
さたけ『memory's memory』
伸恵「って、おい…! …普通のドラクエの画面に戻っちまった。くそっ、いったいどうしろってんだ、アナちゃん、ちぃ…」
美羽「おねえちゃん! なんか出た!」
伸恵「ん? …うげっ! あの巨大ゴキブリじゃねえか…!」
美羽「ねえおねえちゃん、あいつメスフィギュアでおびき寄せられるかなぁ?」
伸恵「…知るか」
美羽「メスゴリラなんだけど」
伸恵「だから知るか…! いいから逃げるぞ、美羽!」
美羽「あっ…!」
伸恵「はあっ…はあっ…」
美羽「もーっ、どこまで逃げんのーっ? あたしには、あいつらが悪いやつだって思えないんだけど」
伸恵「んなこと言ったって…。どんどん数増えてるし、あたしん家も美羽ん家もメチャクチャにされちゃってるじゃんか…」
美羽「なんだろ、でも不思議と笑っちゃうよね!」
伸恵「いや笑いごとじゃねえだろ。だいたいどうすんだ? この世界、あたしたちの他に誰もいなそうだし、食う物だってあるかどうか…」
美羽「ニブいなぁおねえちゃんは。誰もいないんだったら…コンビニの商品パクり放題じゃん!」
伸恵「つーか堂々とパクるとか言うな…! …チームECOはいいのか? リーダーが勝手に電撃引退なんてしたらみんな困るだろうが」
美羽「もうどうだっていいよー、あんなの。今のあたしがアイドル以上に輝いてるんだもん!」
伸恵「本当どこまでも身勝手だな、てめえは…美羽! 元の世界に帰りたいと思わねえのか?!」
美羽「えぇえ? 何言ってんの? せっかく面白そうなのに…」
伸恵「たしかにおまえはハチャメチャなやつだけどさ、それでも…あたしら5人、いつもうちに集まって、おまえがバカなことやってみんなして笑ってさ。そんな毎日を、あたしは心の底から楽しいって思ってたんだよ…!」
美羽「あたしは楽しくなんかなかったもんっ!!」
伸恵「なっ…!」
美羽「だってぇ…なんでおねえちゃん、茉莉ちゃんとかアナちゃんばっかりひいきすんのよーっ!」
伸恵「ちょ、ちょっと待て。…世界滅亡の原因あたしかよ」
美羽「あたしのことなんか全然かまってくれないじゃん…」
伸恵「いや、だってあいつら年下だし…ってそういう問題でもねえか」
美羽「もーっ! 今日こそははっきりさせてもらうからね! あたしとアナちゃんどっちが好きなの?!」
伸恵「だから比べるもんじゃ…。ま、まあそりゃアナちゃんかな? 8:2で」
美羽「う…ぐすっ…、うぅあああ…!」
伸恵「なっ?! ま、マジ泣きか? これはマズった…」
伸恵「…なぁ、悪かったよ。そろそろ泣きやんでくれよ…」
美羽「うぅ…だってぇ…、おねえちゃんのバカァ…!」
伸恵「だからジョークだって…。…なぁ美羽」
美羽「……?」
伸恵「あたし、実はツインテール萌えなんだ」
美羽「はぁ? おねえちゃんパッパラパァーじゃないの?」
伸恵「いいから聞け…! 美羽、おまえが茉莉ちゃんやアナちゃんと張り合ったってしょうがねぇんだよ。だって…美羽はいつも通りが一番かわいいんだから!」
美羽「な…」
伸恵「おまえが一番好き…!!」
美羽「……!」
伸恵「…わ、わかったろ? だからいっしょに帰ろうぜ…」
美羽「んー…」
伸恵「なっ…何の真似だ? …まさかチューしろってことか?! ……。くっ、元の世界に戻るためだ、しょうがねぇ……むちゅ」
美羽「ブハッ!! 本当にすんなバカーッ!」
伸恵「どうしたいんだよ!!」
伸恵「…はっ。ゆ…夢?」
美羽「うん、夢。鼻声で言うとゆべ」
伸恵「いや鼻声で言われても…っていうかなんであたしのベッドにいるんだ?!」
美羽「……(腹に枕を入れている)」
伸恵「早いな」
美羽「……(カアアッ)」
伸恵「っていうか何もかも違う」
伸恵「ふわぁ…。結局あれから一睡もできなかったぜ」
美羽「あたしも…最悪だったよぉ。悪夢見ちゃったんだもん。おかげで全然寝れなかったし…」
伸恵「…そりゃ大変だったな。…美羽?」
美羽「ほえ?」
伸恵「今日も似合ってんぞ」
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