ツンデレラ

ツンデレラの姉「ツンデレラ、ちょっといらっしゃい」
ツンデレラ「はいはい、何の用ですかお姉さま」
姉「今宵はお城の舞踏会なのよ? ドレスはできているんでしょうね?」
ツン「……ええ。こちらに」
姉「ふうん……まあまあじゃない。早速着替えるわ」
ツン「はいどうぞ」
姉「って、何をさっきからジロジロ見ているの? 気味悪いわね……」
ツン「いえ、もしサイズが合っていなければすぐお直ししますので、そのために」
姉「そう……それならいいけれど。でも、サイズなら先日きちんと測らせたはずよ?」
ツン「その通りですが……、ウエストが前回お測りしたときより2センチ太くなっていましたので今日はさらに」
姉「お黙りなさい! ま、まったくなんてこと言い出すの……!!」
ツン「事実を申し上げたまでです。体型の維持もできないお姉さまのために」
姉「だからって言っていいことと悪いことがあるでしょう?! 少しは口を慎むことを知らないのかしら、この妹は」
ツン「さあ? 年中口汚いお姉さまに似たのではありませんこと?」
姉「キーッ! いちいち腹の立つ……! ……なんて言い合っている場合ではないわ。サイズはぴったりだったけれど……どうなのツンデレラ? これ似合っているの?」
ツン「ええ、いつ見ても素晴らしいですわ。……私の腕前は」
姉「そんなこと聞いていなくてよ! ちゃんと答えなさい!」
ツン「はい。お姉さまならどんな衣装も似合って……間違えました、馬子にも衣装というやつです」
姉「何ですってー?! ……ははーん、あなたそんなこと言って、本当はひがんでいるんでしょう? 自分は舞踏会に連れて行ってもらえないからって」
ツン「何を勘違いしておいでですの? 頼まれても行きたくありませんわ、舞踏会なんて」
姉「ま、まあ当然よね……! ツンデレラのようなみすぼらしい格好をしていれば」
ツン「お姉さま、そのドレスは誰が仕立てたとお思いですか……? お姉さまのような田舎くさくてがさつな人こそ、声をかける殿方がいるとは思えませんが」
姉「甘いわね。私は王子さまのハートを射止めてみせるわ! そうしたらこんな暮らしともおさらばよ」
ツン「……ばからしい。もっと現実を見たらいかがです?」
姉「フン、好きなだけ言ってなさい。どうせあなたは家で留守番していなければならないのだから。……それじゃあね!」
 バタンッ。

ツン「……。はぁ……」
???「おやおや、どうしたんだい? ため息なんかついて」
ツン「っ?! だ……誰?」
魔女「アタシは通りすがりの魔法使いさ。……おまえさん、その様子だと舞踏会に行けなくて落ちこんでいるようだけど」
ツン「それは……。いえ、舞踏会そのものは別に……」
魔女「それじゃあ、お姉さんかい?」
ツン「なっ!! なな、何を根拠にそんな……」
魔女「見てりゃわかるさ。本当はお姉さんのこと慕っているのに、本人を目の前にするとつい悪態づいてしまう……そんなとこだろう?」
ツン「……っ」
魔女「そんなお姉さんが、もし王子に見初められでもしたら……。それが心配で気が気ではないんだね」
ツン「……。だからと言って、私にはどうすることもできません。舞踏会に出られるようなドレスも持っていないし」
魔女「あっはっはっ……! 何のためにアタシが現れたと思っているんだい? ドレスなら魔法で……そおれっ!」
ツン「きゃっ……!」
 ボワーン。
ツンデレラ(変身)「こっ、これは……。……信じられない、これが……私?」
魔女「ほほう……見違えるようじゃないか。まあ、おまえさんは元がいいからね」
ツン「私が……? そ、そんなでたらめ……」
魔女「自分で気づいていないだけさ。……ほら、舞踏会が始まっちまうよ。外に馬車も出しておいたから、早くお姉さんのところに行ってやりな!」
ツン「は……はいっ! ありがとうございます」
魔女「ただし! 魔法は十二時に解けるからね。それまでに帰ってくるんだよ」

 

王子「みなさん、今夜は宮殿主催の舞踏会にようこそ。素敵な一夜を楽しんでください」
女たち「キャーキャー! 王子さまー! 王子さまー!」
執事「いかがですかな殿下。ここはひとつ、お気に召されたご婦人と一曲踊ってみては……?」
王子「ああ、そのつもりだ。どこかにめぼしい人は……おお! あの娘は実に美しいではないか。誘ってみるとしよう」

姉「うう……、宮殿って豪華すぎて落ち着きませんわね。ツンデレラとのつつましい暮らしに慣れきっているせいだわ。ああ、あの子今頃どうしているかしら……って! なんで私があんな生意気な妹の心配なんか……!」
王子「お嬢さん? 何か困りごとでも?」
姉「えっ? いえ、って……おおお王子さまっ?!」
王子「フフ……驚かせてしまってすまない。おや、間近で見ると本当に清楚で美しい方だ」
姉「わっ私がですかー? そんな、恐縮です……」
王子「その控えめさ……ますます素晴らしい。お嬢さん、よければ私と踊ってくれないだろうか」
姉「はい、喜んで……! ああ、本当に王子さまに誘われるなんて夢のよう……」

ツン「ごめんあそばせーーっ!!」
 ズッシャアアアア!

姉「きゃあっ?! ……な、何なのいったい? いきなり人の間に飛びこんでくるなんて危ないったらない……」
王子「そちらのお嬢さん、お怪我はないかい……?」
ツン「いたたたた……。はい、大丈夫です」
王子「……なんと言うことだ! こちらの方もとびきり可憐ではないか。これほどの美女に二人も出会えるとは、今日はなんたる幸運! そちらのお嬢さんも、どうか私とダンスを……」
ツン「ごめんなさい。他をあたってくださる?」
王子「なにっ……!」
姉「ちょ、ちょっとあなた! どなたか存じないけれど、王子さまの誘いを断るなんて無礼にも程が……」
ツン「だって私、王子なんかより……あなたに興味がありますもの」
姉「……へっ? 私?」
ツン「そうです、お姉……じゃなかった、お嬢さま。一曲ご一緒にいかがですか?」
姉「はあっ? 女同士でダンスなんて、言っている意味が……」
ツン「ふふっ。あなたのような気品あふれる素敵な方と踊れるのは、誰にとっても光栄なこと。男も女もありませんわ」
姉「そ、そこまで褒められると……。あなたも思わず見とれるくらい美人だし……まあ、悪い気はしないけれど」
ツン「では決まりですね……! さあ、ダンスフロアへ参りましょう」
姉「いえ、まだ決めたわけでは……って手を引っ張らないで」
王子「な……何なのだあの二人は……」

 ♪~
姉「……これでよかったのかもしれないわね」
ツン「? どうされましたか?」
姉「私、王子さま目当てで舞踏会に来たのだけれど、よく考えたら殿方と手をつないだこともなくて……。それに、お城の雰囲気にも息が詰まりそう」
ツン「ご自分の暮らしに見合わないことなさるから……」
姉「悔しいけれどその通りね。……不思議。あなたと踊っていると、どこか懐かしい感じがするの」
ツン「……そ、それは奇遇ですね。私もです」
姉「あぁ……昔を思い出すわ。まだ小さい頃、こんなふうに妹にダンスを教えたこととか」
ツン「え……」
姉「昔は純粋で可愛い妹だったのに、ある時期から急に反抗的になって。優しい言葉をかけても、素直に受け取らなかったり逆に毒づいたり……。私も売り言葉に買い言葉で、ついきつくあたってしまって」
ツン「(お、お姉さま……)」
姉「……あっ、ごめんなさいね。突然変な話して」
ツン「いえ……。……その妹さん、本当はあなたのこと好きなんですよ、きっと。ただ自分に正直になれないだけで」
姉「そうかしらね……。本当にそうだったらいいけれど」

 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
ツン「この音は……十二時の鐘?! いけないっ、もう帰らないと……!」
姉「ええっ? ま、待って! せめてお名前を……っ」
ツン「今宵は最高の思い出をありがとうございました。……ごきげんよう」

 

 コンコン、コンコン。
姉「あら、お客さまかしら。はーい」
執事「失礼するぞよ。城からの使いの者じゃ」
姉「お城……王子さまの?」
執事「左様。昨夜の舞踏会に突如現れた、このガラスの靴の持ち主を探しておっての。お嬢さんもちょっと履いてみてくれんか」
姉「いえ……明らかに私のではありませんし。……あっ、この靴! もしかしてあの方の……?!」
執事「ご存じですかな?」
姉「ええ、私と踊った女の方。私も行方を知りたいのですけれど……」
執事「なんと! そうであったか、お嬢さんがもう一人の……! 実はその二人組を探しておったのじゃよ。それで……こちらの家には他にご婦人は?」
姉「妹がおりますが、舞踏会には行っていませんわ」
執事「とりあえず呼んでくれんかの。靴を履かせてみればわかることじゃて」
姉「はあ……。ツンデレラー、玄関までいらっしゃい」
ツンデレラ「ああもう何ですか! 休む暇もないほど雑用押しつけておいて、今度は急に呼びつけるなんて」
姉「いいから。ちょっとこの靴履いてごらんなさい」
ツン「こ、これって……。……ええ、わかりましたわ」
執事「……おお! 足がぴったり入った! ついに見つけたぞよ」
姉「そんな……嘘でしょう?」
ツン「……」
姉「答えなさい! 本当にあなたなの? 私とダンスを踊ったのはツンデレラだったの……?」
ツン「……そうです、お姉さま。隠していてすみませんでした」
姉「!! あなたって子は……っ!」
ツン「……っ!」

 ……ぎゅっ。
ツン「……えっ? お、お姉さまが私を……?! いつものようにお叱りにならないのですか?」
姉「いつものようには余計よ……。ツンデレラがあの方だったなんて、そんなこと秘密にされたら誰だって怒るわ。けれど、それ以上に嬉しかったから」
ツン「何がです……?」
姉「あら? ツンデレラ、自分で言ったこと覚えていないの? 『妹さんはあなたのこと好きだ』って」
ツン「あ……! そ、それは……ええと……。わ、私そんなこと言いまして?」
姉「もう……こんなときまで素直じゃないんだから。でももういいわ、また昔のように仲のよい姉妹に戻りましょう?」
ツン「……。はい」
執事「いやはや、実の姉妹であったか。ならば話は早い。二人とも、城まで来てくれんかの。殿下がお待ちかねぞよ」
姉「王子さまが? まさか、私たちのどちらかを妃にと……?」
ツン「そんなっ……! 私とお姉さまはこの家で二人で暮らしていくんです! 王子と結婚なんか……」
執事「ほっほっほっ、それは誤解じゃて。……もう一度、二人のダンスを披露していただきたいのじゃ」
ツン「え? ダンスを……?」
執事「二人の美女が仲睦まじく手を取りあい、優雅に舞うさまに殿下はいたく感動されての。今後も踊り手として城に呼びたいと言っておられる。いかがかな?」
姉「ダンスをお見せするだけでよろしいんですのね? ということは、二人の生活は……」
執事「もちろん今まで通り。報酬もはずむゆえ、不自由なく暮らすがよい」
ツン「やった……! そういうことなら喜んで!」
姉「そうと決まったら早速練習よ! ツンデレラ、ワルツのステップは覚えていて?」
ツン「はいお姉さま!」

 

姉「はあ……。今宵も晩餐会のゲストに招かれるなんて。なんだか落ち着かない生活になってしまったわね」
ツン「あら、いいじゃありませんか。きらびやかな宮殿の間で思いきり踊れて、私は楽しいですわよ。……はい、髪型のセット終わりました」
姉「……ん、今日もバッチリね。いつもありがとう、ツンデレラ」
ツン「なっ……! お、お姉さまに感謝されるようなことは何もしていませんわ。髪が乱れていれば妹の私まで恥をかくから……ただそれだけで……」
姉「まあ、強がっちゃって。本当は私の髪を結うの好きなくせに。……鏡越しにあなたの緩んだ頬が見えていたけれど?」
ツン「う、嘘です嘘ですっ! べつに……指通りがよくてフワフワで砂糖菓子みたいないい匂いのするお姉さまの髪なんか全然まったくこれっぽっちも……!」
姉「フフッ……わかったわ、そういうことにしてあげる。……ツンデレラ?」
ツン「はい?」
姉「素直じゃないあなたも可愛いわよ」
ツン「!! う……ううぅーっ。あの……私、今までとは別の意味でいじめられてません……?」
姉「さあ、何のことかしらね? おほほほほ」
ツン「そんなぁっ! は、はぐらかさないでください……お姉さまの意地悪ーっ!」

 

更新履歴

2009/06/08 書き直し(バージョン2)
2005/11/09 公開(バージョン1)

ソーシャル/購読

このブログを検索

コメント

ブログ アーカイブ